夜の街の嘘
「私たちにできることなんて
結局見回りくらいなんですね」
「そうですね
これで問題が未然に防げるといいんですけど」
深夜の街の中心部を見回る
スーツ姿の男性と服装は大人しめであるが
派手なメイクの女性
カップルに見えなくもない男女2人は
赤原学園の教師である
「去年は年配の先生と一緒だったんで
何かあったらどうしようって
不安だったんですよ
三浦先生は若いですし
安心です」
「ぼ、僕ですか?
安藤先生にそう言ってもらえるのは光栄ですが
何かあっても対処できるかどうか…」
「大丈夫ですよ!
2-Fで鍛えられてるでしょ?」
「どうですかね…」
三浦の自信のなさは的中し
数人の高校生らしき人々に
声をかけるが
なめられてばかりだった
それどころか
教師であることを信じてもらえない始末だ
「僕なんてこんなものですよ」
「三浦先生
しっかりしてくださいよ」
1時を過ぎた頃
2人の携帯に着信があった
連絡を聞くと
2人は急いで教えられた場所へ向かった
到着したのは警察署
そしてそこにいたのは…
「篠原さん…」
椅子に座ったまま三浦と安藤の方を見た鈴
その表情には全く変化がない
隣にいた女性の警察官が
2人に説明する
それによると
歩いていた鈴に絡んだ
酔っぱらいの中年男性4人組
鈴の腕を掴みどこかへ連れて行こうと
強引に引っ張る
その時
何者かが酔っぱらい4人に
殴りかかり
動けなくなるまでボコボコにして
鈴を助けたらしい
「篠原さんには
その4人に危害を加えた人の
手がかりを聞いていたんです
ですが、覚えていないようで」
「暗くてあまり見えませんでした」
ただ淡々と答える
表情からも声色からも
被害にあった人間っぽさを感じられない
警察官も鈴を不気味に思ったようだ
「そう…
4人とも反省していて
2度と繰り返さないといっていますが
深夜の徘徊はしないように
注意してください
今日はもう
帰ってもらって大丈夫ですよ」
「気を付けます」
警察官はさっさと会話を切り上げると
その場を去って行った
「篠原さんが無事でよかった
でも、何でこんな時間に出歩いてたんですか?」
「考え事しながら歩いてたら
いつの間にかこんな時間になってました」
なんとも怪しい理由だと思ったが
2人ともそれ以上は問い詰めなかった
「本当に注意が必要よ
今回は何もなかったから良かったけど…」
「大丈夫です
自分の命は守れますから」
「また…
自分が危なくなったら
相手を殺すとか言いたいの?
言っとくけど
人はそんな簡単には死なないわよ!」
静かな署内に
安藤の高い声が反芻する
それとは対照的に
やはり淡々と鈴は告げる
「人間なんて簡単に死にますよ」
「し、篠原さん…」
三浦は困ったような目をし、
安藤は言葉に詰まった
鈴の言葉は嫌な重みがある
そんな気がしたのだ
その時廊下の奥からもう1人現れる
真っ黒なスーツに身を包み
どこか裏の世界を感じさせる雰囲気の男性
高校2年生の父親として
よく見かけるくらいの年齢だ
その男性は3人がいる所で止まり
少し恐れている様子の教師2人を見た
「すいませんね
迷惑かけて
…行くぞ」
三浦と安藤から視線を移し
短く鈴にそう言った
その声に反応した鈴は
男性の方を見ると
既に歩き始めたその背中に
僅かながら殺気を携えた表情を見せた
「じゃあ、帰ります」
抑揚のない声で2人にそう伝えると
鈴は男性の後についていった
鈴が帰ったため
三浦と安藤も警察署から出ることになった
「篠原さん、あのまま帰して良かったんでしょうか
あの男性、何か怪しいかんじがしたんですけど」
「僕もそう思います
でも、篠原さんがついていったんだし…
そこを拒否してくれれば
僕達も何か手を打てたかもしれないですけど」
「そうですね…」
肩を落とす安藤に三浦は
落ち着いた声で言った
「大丈夫です
篠原さんとは学校でも会えますし
また、話を聞いてみましょう」
いつもなら三浦が安藤に励まされるのだが
今は立場が逆になっている
三浦が安藤に
安心ですと言われ
頼られていると感じたからかもしれない
「あれ?
今の倉沢君じゃなかったですか?」
暗くてはっきりとは見えなかったが
裏路地に入っていく人の姿が
自分のクラスの生徒に見えた
「は?
何言ってるんですか?
倉沢君がこんな時間に出歩いてる訳ないじゃないですか
行きますよ!」
「で、ですよね」
頼りになる男、三浦孝之を長く続けることもできず
あっという間に立場はもとに戻り
安藤に歩くように促される




