72 決闘が折檻?
一泊して町を出ると、スズネさんが馬車を持って来てくれた。
それはそれで有難い。
経費節約になるし、『バギー』にしろ『空中走行』にしろ目立つからね。
ぱっかぱっかと揺られる中、メル・メイコンビは馬の歩調をあわせてジョギング。
「乗んないの?」
「ちょっちね。」
カフェでの ”スズネさんの一撃” が効いてらっしゃるようだww
《 乙女心というヤツですねw》
コクウさんが楽しそうだ。
ま。育ち盛りだし、暴飲暴食しなきゃいいんだがねw
《 『シェルター』で調整しますかw》
いや、放っておこう。
自分の体調管理くらいはさせないとね。
《 マスターは財布の管理をしっかりしないとw》
さらっと “追い打ち” 掛けてきやがったよ。
町を出て北へ一日半。
普通なら『キャラバン』を組むべき距離を、のほほんと進んだ。
“はぐれ” のワイバーンと “肉” の確保が狙いだ。
『盗賊さん』が小銭を持って来てくれると、さらに嬉しいw
不謹慎と思うなかれ、『剣と魔法のファンタジー』世界では常識なのだよw
《 説得力のない “言い訳” ですねw》
コクウさんが煩い。
指定された村は、何ら変哲もない村だった。
どこにでもある、ともすれば見過ごされそうな村。
「あ。おい!いらしたぞ!」
早々に第一村人に発見され、鍬を担いだ第二村人が奥に駆け出した。
「ご無沙汰しております。」
第一村人がスズネさんに話しかけた。
「お久しぶりですね。おばば様はお元気ですか?」
スズネさんの問い掛けに、第一村人は興奮したように頷いた。
「はい!今回のために “お里” から出向いてきております!」
促されるままに村の裏口の “雑木林” へと案内された。
『森あるところに魔物あり』と言われるが、この雑木林は良く管理されているらしい。
魔物の気配は無く、代わりに大小のヒトの気配がある。
《 グレイ君。100人くらいか?》
歩きながら、メルさんが念話を送ってきた。
《 もう少しいそうだね。気配を隠してるから分り辛いけど・・・》
《 奇襲?》
メイさんの念話だ。
《 そうじゃないことを祈るよ。彼らにとって僕は希少な “お得意様” のはずだからw》
イジメたら『アイテムボックス』作ってやんないんだからねww
《 今回は私の祖母も来ているようです。その分、警戒も厳重なのでしょう。》
スズネさんが、何でもないように答えてきた。
さらっと重大な事を言ってません?
《 スズネの祖母って、幹部の一人?》
警戒を強くするほどの大物ですかい?
《 まあ、そうですね。東国では将軍家の末裔とか・・・》
んま!
しょーぐん家!?
将軍家って海に出るの??
《 センパイって “お姫様” !?》
《 ほうほう。スズネ君は ”王族の血を引く者” だったのかい?》
メル・メイコンビの念話が賑やかになった。
《 王族とはまたちょっと違いますね。こちらで言うなら『公爵』あたりでしょうか?》
いや、普通に “衝撃の事実” なんだが・・・
そんな事とは露知らず、“あ~んなコト” や “こ~んなコト” をしてたんだが・・・
これが『走馬灯』というヤツか?
《 ふふ・・・責任取ってくださいね♪》
スズネさん。楽しい?
軽く眩暈を覚えつつ、雑木林を抜けた。
小学校の校庭くらいの空き地に、和風っぽい平屋建ての家がぽつんと立っていた。
瓦屋根が懐かしい。
地下か・・・そこそこ広い。
《 マスターの記憶にある『忍者屋敷』ですね。》
コクウさんも興味があるようだ。
うん、本物だとすると『エンターテイメントとしての忍者屋敷』より遥かに “エグイ仕掛け” が満載だろうな。
スズネさん絡みじゃなきゃ、すぐさま踵を返している所だ。
玄関では、割烹着姿の女性が出迎えてくれた。
「うっハ~ まんまじゃん♪」
メイさんが無邪気に喜んでいる。
「こちらです。」
四方からの姿のない視線に晒されつつ案内されたのは、20坪はあろうかという広々とした畳敷きの応接室だった。
《 マスターの理想的な空間ですねw》
前世において。
大学の合気道部に所属していた俺は、広い畳敷きの道場が気に入っていた。
講義が終わると速攻で道場へ行き、一人で掃除を済ませて誰も居ない道場のど真ん中で大の字になって寝ていたものだ。
余計なものが無い空間を独り占めする贅沢。微かな “い草” の香りがお気に入りだったんだよな。
並べられた座布団に座ると、おいしそうな茶菓子と温かい日本茶が出てきた。
⦅ メルとメイはダイエット中だろ。食べちゃダメだよ。⦆
⦅ なんと!?⦆
⦅ え~~~!⦆
四の五の言ってくるが、完全無視w
俺だけが出されたお茶と茶菓子を楽しんでいると、襖が開いて大勢の人が入って来た。
真ん中には腰の曲がった御老体。
その両脇には揃いの割烹着を着た侍女らしき女性が二人。両脇を抱えるように静々と歩いている。
さらに、その隣には偉丈夫な若者。
鑑定 : しず。79歳。レベル38。スズネの祖母。健康体。変装術。人肌に似せた仮面。鎖帷子。苦無など暗器多数。
この世界では長寿だな!
レベル高ぇし!!
おまけに『鑑定くん』が優秀になってらっしゃるw
《 アップデート成功ですねw》
何してるのかな? コクウさんは??
ヨタヨタと最奥の座布団に座った『しずさん』。
その隣に “偉丈夫くん“ が、どっかと胡坐をかいた。
それを見届けると他の重鎮らしい人達も、次々と腰を下ろす。
見た目は若々しい御仁ばかりだが、ほぼ40~50代か。全員、暗器持ちっと。
“鑑定持ち” もいるな。
奇妙な顔をしているのは、俺の『鑑定』が阻害されているからか?
レベル差が大きいと『偽装』していても “よく見えない” からなw
それにつけても “偉丈夫くん” は殺気が強いね~
鑑定 : 左衛門。23歳。レベル28。中位の“草”。スズネの元婚約者。楔帷子。暗器多数。残念な子。
いや『残念な子』って・・・アップデート失敗してない?
《 いえ。何度もチェックしましたからw》
コクウさん。笑ってるし・・・
「久しぶりだね。スズネ」
『しずさん』が口を開いた。
よく出来た仮面だ。
口の動きに合わせて、顔の皺も自然な感じで動いている。
『鑑定くん』がなければ、見た目通りの “御老体” と騙されるところだ。
「おばば様も、お元気そうで・・・」
スズネが静かに答えた。
「そこの坊やかい?『勇者』っていうのは?」
「はい。グレイ・アストラス様です。アストラス家の次男で・・・婚約者です。」
「うそだ!そんなガキに何ができる!」
『左衛門くん』が叫んだ。 声でっかw
「お黙り。いまスズネと話してるんだよ。スズネ。本当かい?」
『しずさん』の目が、険を帯びた、
「はい。」
スズネさんが短く答え、その目をまっすぐに見返す。
「コイツとの “婚約” はどうするんだい?」
「親同士が勝手に決めたことです。私は了承していません。」
スズネさんの声色は冷たかった。
「スズネ!!」
『左衛門くん』が、再び叫ぶ。
「さっきから煩いよ。また性根叩き直してほしいのかい?」
『しずさん』が『左衛門くん』を睨んだ。
あ~ららw
縮こまっちゃってww
トラウマかなwww
気持ちは解らないでもないwwww
「ふ~。親同士が決めた空約束とはいえ、そう簡単に反故できるものではないよ。それに見合う代償はあるのかい?」
「私の全ての『特許権』を・・・」
室内がざわついた。
スズネの特許って『カート』と『板バネ式」と『ドレッシング』と『石鹸』だっけ?
どれも “売れ筋” だから、『草』としては願ったり叶ったりだろう。
「『姫』の特許権を!?」
「とんでもない額だぞ!」
「あっさり手放すというのか!?」
「外野がうるさいね。スズネはそれでいいのかい?」
『しずさん』は冷静だ。
「それで、ご納得いただけるなら・・・」
「そうかい・・・『勇者』の坊や。あんたはどうなんだい?」
『しずさん』の鋭い視線が、俺に向いた。
『左衛門くん⦆の殺気が一段上がった。
こりゃ一筋縄では難しいか・・・
「僕に話しかけてるの?」
俺は敢えて挑発的に聞いた。
「坊や以外に誰がおる。」
「失礼。僕と話をしたいなら、まず、食べ物に薬を混ぜないことだね。」
俺はカラになった和菓子を指差した。
重鎮の一人と『左衛門』、あと割烹着のオネーサンの一人が動揺したが、すべて無視。
「・・・毒か・・・」
『しずさん』が静かに口を開いた。
「いや。多分、遅効性の “しびれ薬” の類じゃないかな?せっかくの『甘味』が台無しだし、職人さんに失礼だよ。」
「・・・毒は効かん・・・と言いたいのか?」
「昔、って程でもないけど、父が伯爵になりたての頃に『淫靡のロザリー』とかいう盗賊に ”痛い目” に遭いそうになったからね。今じゃこの程度なら効きもしないけど、味がね・・・」
嘘です。
『詐欺師スキル』です。
『異常状態無効化スキル』も一枚噛んでます。
イロイロゴメンナサイ。
「く・・・くっくっくっ・・・ぶわっはっはっはっは!」
『しずさん』の豪快な笑いw
笑いすぎて、いろいろバレてるんだがww
「流石は『勇者』と言うべきか。“二番煎じ” は通じぬか。」
『しずさん』楽しい?
「ついでに言わせてもらうなら、足腰の弱った御老体はそんな笑い方しないよ。歯並びが見えてしまうし、何より腰に響くからね。」
「くっくっ・・・そうか。留意しよう。」
『しずさん』が潔く『仮面』を剥ぎ取った。
79歳とは思えない、若々しい熟女だ。
ぴしりと背筋を伸ばし、深々と頭を下げた。
「大変失礼いたしました。里の “まとめ役” を務める『しず』と申します。」
声まで若々しく成ってやがる。
「アストラス伯爵家が次男。グレイ・アストラスです。以後お見知りおきを。」
俺も同様に頭を下げる。
“郷に入らば郷に従え” ってやつだ。
「早速ですが『しず』殿、大変申し訳ないが・・・」
「なにか?」
「足を崩してもいいですか?正座はどうも苦手でして・・・」
俺の申し出に、毒気を抜かれたようだ。
「ふふ。どうぞお好きになさってください。いま。“お口直し” をご用意させますので。」
今度は “混ざり物” がないヤツにして欲しいね。
でないと後ろの “なんちゃってグルメ怪獣” が暴れちゃうよ?
料理長が癇癪起こしそうな “混ぜ物和菓子” は “ボッシュート” され、今度こそ “まっさらな和菓子” が並んだ。
旨い。
“なんちゃってグルメコンビ” も満足そうだ。
『左衛門君』の視線が鬱陶しいがなw
場の雰囲気が、やや和んだところで『しずさん』が口火を切った。
「ところで『勇者』殿は、どうやってスズネを見初められましたか?」
話し方も柔らかい。
「グレイでいいですよ。『勇者』呼ばわりは背中が痒くなりますので・・・最初は “利用価値がある” という思いでした。彼女を『師』として “生存術” を学び、侍女として共に過ごしていくうちに惹かれるようになりました。とどめは・・・」
「とどめは?」
「膝枕でしたねw」
これ本当w
「くくく・・・スズネ。とんだ “大物” を釣り上げたね。」
スズネさんが真っ赤になってらっしゃる。
《 保存しました。》
いい仕事しますねぇ。コクウさんw
「認めん!認めないぞ!!スズネは俺のモノだ!!スズネ!こっちに来い!!!」
すっくと立ちあがった『左衛門君』が、声高に宣言した。
「お断りします。」
スズネさんがぴしゃりと突っぱねる。
「嘘だ!スズネは脅されてるに違いない!きっとそうだ!心配するなスズネ!俺はいずれ里の頂点に立つ男だ!そうなれば俺達がきっと守り抜いてやる!」
すまん。『鑑定くん』。
キミの意見は正しかった。
彼は『偉丈夫な妄想癖』君だったよw
大股で近付いた『左衛門くん』が、がっしりとスズネさんの手首を取った。
スズネさんは慌てる様子もなく、座したままくるりと “転回” 。
絵にかいたような “呼吸投げ” を決めた。
そりゃそうだ。
数字上の話になるが、レベル70越えのスズネさんが30にも届かない若造に後れを取るハズもない。
まさしく “赤子の手を捻る” ようなものだ。
このような形で反撃されるとは思いもしなかったのだろう。
受け身を取り損ねた『残念くん』が、背中を強打して悶えている。
哀れな・・・
んで、『しずさん』が頭を抱えてらっしゃるw
「馬鹿だとは思っていたが・・・ここまでとは・・・」
“独り言” 漏れてまっせw
「失礼なことをお聞きしても?」
追い打ちをかける趣味はないが、聞かずにはおれなかった。
「何でしょう。」
「いままで『彼』に “仕事” をさせたことは?」
「恥ずかしながら・・・ありません。ご覧の通りなので・・・」
さもありなん・・・
『決闘』も視野に入れてたんだが・・・こりゃ『折檻』コースだなw
戸板に乗せられた『残念くん』を見送り、新たに差し出された和菓子とお茶を口にする。
「数々の御無礼。まことに申し訳なく存じます。」
『しずさん』が、再度頭を下げた。
「どうかお気になさらず。僕が実害を被ったわけではありませんので。」
てか、責任者として己が非を素直に認め、6歳児に何度も頭をさげるのか。
こりゃ敵に回したら厄介な組織だな。
「恐れ入ります。それにしてもスズネ。あんたも相当腕を上げたね。」
何事もなかったかのように、スズネさんを褒めた。
この切り替えの早さが恐ろしい。
見倣うべきだな。
「ぼっちゃ・・・んん・・・グレイ様のおかげです。」
「ふふ。未来の旦那様を『坊ちゃん』呼ばわりかい? 改めないといけないねぇ」
「・・・はい・・・」
うん。スズネさんはそのままで良いよw
今日はココで一泊することになった。
本来なら “酒宴の席” になるのだが、いかんせん俺は『おこちゃま』だ。
『和食』と『お茶』だけは、腹いっぱい頂いた。
弱冠一名『酒よこせ』と目で訴えていたが・・・知らんなw
おっちゃん「痛いの痛いの~飛んでけ~」
相方 「オツム、大丈夫ですか?」




