70 ダル―の慟哭と国王の願い
ダル―には夢があった。
それは、恋人であるユーナと『魔都』の外に出ることだ。
『魔都』には、単純で明快なルールがある。
「力こそすべて」
「出世したければ、『魔王城』を目指せ」
力のある者は『魔王城』の近くに住み、それ以外は、何らかの “産業” で生計を立てていた。
ダル―は『王都のスラム街』で生まれた。
親の顔は知らない。
物心がつく前から “虐げられる” 側だった。
ユーナもそうだ。
いつしか出会い、二人で協力して生き残った。
『言葉』を覚え『ルール』を知った。
『魔都』を出るには金が要る。
幸い、行き倒れた娼婦の遺体から金貨が出てきた。
足の裏の皮の下に縫い付けてあったのだ。
二人は『兵士』に志願することにした。
訓練は過酷を極めたが、飯と寝床、それと僅かな給金が手に入った。
そうこうしているうちに、二人は『十人兵長』に呼ばれた。
「二人、欠員が出たからよ。お前ら入れや。」
ダル―とユーナは喜んだ。
『十人兵』は『訓練兵』や『雑兵』よりも立場が上である。
給金も上がる。
同じ班には配属されなかったが、頑張ろうと誓い合った。
数日後には、国境を越えた。
「・・・で、グランパス帝国に入ったのだな。」
両の手足を縛られたダル―を見下ろしながら、サルムンド侯爵が補足した。
念のために結界で囲ってはいるがね。
ノワールは俺の頭の上で寛いでるしw
「何人殺した。」
コアック子息が聞いた。
没収した『ロングソード』は手入れがされず錆びていたが、赤黒く変色した血がへばりついていた。
「知らん。」
ダル―は端的に答えた。
周囲を囲む『兵士さん』達から、殺気が漏れた。
「知ってることは話した。遺体を返せ。」
ダル―の要求は単純だった。
「遺体を返した後は、どうするつもりだ。」
侯爵が聞いた。
「ここに用はない。『魔国』に戻って、静かに暮らすさ。」
自嘲気味に答えた。
「他国とはいえ、お主は無垢な人間を何人も殺した。その報いを受けようとは思わぬか?」
「報い? 弱い方が悪い。強ければ生き残る。それだけだ。」
周囲の殺気が膨らんだ。
皆、落ち着こう。
「ダルー。その理屈だと、死んだユーナが悪者になるけど?」
「違う!!」
おっと?
瘴気が濃くなったな。
「アイツは優しいヤツだ!優しすぎるくらいにな。俺が一緒にいて、守ってやるべきだったんだ。」
よほど惚れてたんかね?
それとも拗らせただけか?
「知ってるか! なんの “後ろ盾” もない新兵は『おもちゃ』にされるんだ! 男も女もない! 昼も夜も! 雑兵や訓練兵共にいい様に使い潰されるんだ! それでもアイツは笑ってたんだ! 旨い飯が食えるってな!皆が飽きれば安心して寝れるってな!!」
瘴気がさらに濃くなった。
身体が膨らんでないか?
「毎日毎日・・・死に物狂いで強くなって・・・やっと・・・思いで『十人兵』・・・選ばれ・・・これ・・・って時に・・・」
縄が千切れた。
俺は結界を重ね掛けした。
体中の筋肉が目に見えて膨らみ、皮膚が裂けた。
二本の角が不気味に捻じれていた。
膨らんだ肉体に押されて、結界が軋んだ。
「暴走してます!閣下!!」
「止むを得ん。殺害を許可する!」
「エリアハイヒール!!」
砕けた肉片が残った。
「閣下、下がってください。結界を解きます。」
俺が結界を解くと、内部に籠っていた “どす黒い瘴気” がモワッと立ち上がった。
頭の上の、ノワールの尻尾が総毛立つ。
しばらくの間、空中を漂っていた瘴気は、徐々に拡散して消えた。
ようやく、安堵の息が漏れた。
「本当に “治癒魔法” で粉々になるんだな。」
コアック子息が呟いた。
「グレイだから出来る技よ。他の治癒師ではこうもいかん。」
残った肉片の真ん中に『朱色の魔石』が見て取れた。
水滴のような形をした、キレイな『魔石』だった。
「まるで “慟哭” のような『魔石』ですね。」
「うむ。だが “その罪” は消えまい・・・惜しいな。もう少し情報が取れるかと思ったが・・・」
「『力こそ全て』『出世したければ『魔王城』を目指せ』ですか。『魔族』らしい考え方ですね。」
その考え方だと、『魔国』への侵入はそう難しくはあるまい。
むしろ『魔都』に近づくにつれ、厄介な相手が増えてくるのか。
某漫画の設定そのものだな・・・
・・・行きたくねぇ・・・
2日後。
ようやく王都に到着した。
“お馬さん” たち頑張ったね。
俺の頭も頑張ったよ。
毎回、ガジガジされたもんなw
馬車を下りた途端。
息つく間もなく、両の腕を抱えられるように魔法省の中庭に連れて行かれて『魔族の骨』と『腐った卵』をせがまれた。
あんれ?
普通に ”陛下の顎” を外してやろうと思ってたんだが?
まあ、これはこれで “見もの” ではあったがね。
魔法省お歴々の “百面相” w
血圧上げ過ぎてひっくり返るなよ~www
んで
出すモノ出したら、風呂に放り込まれた。
せわしないねぇ。
ただし、今回は滞在しなくていいようだ。
“三食昼寝付き” はドコいったw
風呂はいいんだが、メイドさん達が寄って集ってゴシゴシしてくんだよな。
一人で出来るよって言っても、聞く耳持たないし・・・
ちょっち・・・いや大分恥ずいんだが・・・
んでまた、正装っと。
「あの。前回のとは違いますね。」
妙に着心地がいいんだが?
「あたりまえです。クレアリス第三王女様の御婚約者様ですからw」
ニッコニコの笑顔で諭されたよ。
いたいけな ”6歳児のスッポンポン” を思う存分鑑賞された挙句に、 “外堀を埋める” という言葉の意味を思い知ることになろうとは・・・
切実に帰りたいと思いつつ、執務室へ案内された。
応接室じゃないんだ・・・
執務室には、陛下とノルグナー公爵、サルムンド侯爵が待ち構えていた。
ん?
思ったより書類の数が少ないようだが?
「ほう。似合ってるではないか。」
陛下がニヒルに笑う。
余裕だね。
「ありがとうございます。陛下もお元気そうで。」
チョイと皮肉。
「まあそうだな。一時期 ”どっかのヤンチャ坊主” のおかげでエライ目にあったが、今は部署を増やしてな。大分落ち着いとる。」
ほう?
「陛下に御迷惑をお掛けするなど、とんでもないヤツが居るものです。そういう不心得者はさっさとトッちめて、見せしめの為に “国外追放” などになさってはいかがでしょう?」
「そうしてやりたいところだがな。それでは周りの者が納得せん。離反する者も多く出よう。ならば逆に “首輪” を付けておく方が良いという結論に達してな。」
そうきたか。
「さらに御迷惑をお掛けすることになりませんか?」
「問題ない。手に負えなければ、さらに部署を増やすまでよ。官司どもは泣くかもしれんがなw」
丸投げかよ!
これだから権力者ってのは・・・
ここで、ノルグナー公爵が咳払いをした。
「じゃれ合うのは、そのくらいにしていただいて・・・グレイ君。報告書は読みました。キミ個人の意見を聞きたいのですが?」
「僕の意見ごときが参考になるかどうか・・・正直に言いますと、現状『魔族の国』に侵入するのは、そう難しくないと思います。」
「ほう?」
陛下が目を細めた。
「『力こそ全て』『出世したければ魔王城をめざせ』という言葉を信じるならばの話です。」
『魔王』が存在するか否かは不明だがね。
『魔神」の手下か、もしくは『魔王」自身が ”生まれ変わり” かは別として、存在していたら『帝都』程度の被害じゃ済みそうにない。
サラフィナ様の予言とも、大きく外れるしね。
「つまり、『都市部』に近づくほど強敵が現れると・・・」
ノルグナー公爵の発言に、俺は思考を戻した。
「そう解釈していいと思います。そして、今の僕の実力では、『魔王城』に辿り着けるかどうかは・・・甚だ怪しいですね。」
「・・・まだ力不足だと?」
「圧倒的に。」
正直に答えた。
「ふん。冷静に自分を見ているようだな。いい気になって突撃されたら目も当てられんと思っていたが。」
陛下が皮肉交じりに呟いた。
突撃して欲しかったのかね?
ヤなこったw
何が悲しゅうて ”人類終焉引き金” を率先して引かなならんネン。
「僕はそこらの “やんちゃ坊主” とは一味も二味もちがいますよw」
「ふ!言いよる。ならばその “やんちゃ坊主” には “お仕置き” をせねばなるまいな。」
「はい?」
お仕置きときたか、痛いのはヤなんだが・・・
「クレアリスのことよ。まだ会ってはおるまい?」
「はい。」
クレアリスって第三王女だっけ?
アストラスの実家に居るという話だが??
呆れて帰って来ちゃったとか???
「アヤツの余命は少ない。」
「陛下!」
咎めるノルグナー公爵を、手で制した。
何事かいの?
「よい・・・聞けグレイ。クレアリスは ”正当な血族” ではあるが、生まれつき身体が弱くてな。最近では歩くのも困難になってきておる。」
A●S(筋〇縮性側〇硬化症)か?
「医師やら王宮魔法師、呪術師にも見てもらったが、原因は不明だ・・・だが、彼奴等が口を揃えて言うには、『エリクサー』ならあるいは・・・とな。」
「エリクサー・・・国宝には無いのですか?」
「ある。あるにはあるが・・・」
本数が無いと・・・まあ、そうなるか・・・
「ではダンジョンに?」
もしかしたら有るかもしれないから、探しに行ってちょーよ、ってなわけですね。
「可能性だがな・・・アヤツは頭が良い。それだけに不憫でならん。」
なるほど、第三王女は現状を鑑みて自らを犠牲にすることを選んだが・・・
「やっかいな “お仕置き” ですね。」
「頼まれてくれるか?」
子を思う親の顔とは・・・父上を思い出すな。
「解りました。ただし、条件があります。」
傾いた陽の光を浴びながら、のてのてと城を出る。
馬車を進められたが、辞退した。
スズネさん達が『王都のアストラス邸』にいるしね。
《 計画通りに行きそうですねw》
コクウさんの計画ね。
俺は何も言ってないけど?
《 良い顔をしてたじゃないですかw》
記憶にございません。
《 またまた~w ゲーム流行らせるための “グラウンド” や “体育館” が欲しかったんじゃないですか?》
ま~ね~w
生きて帰って来れたらの話だよ。
《 『魔神討伐』が先ですか。早くダンジョンに戻りましょう。》
“急いては事を仕損じる” ってやつさ。
《 “急がば回れ” ですか?マスターの元の世界は実に興味深いです。》
お気に召して頂いて何より。
『気配探知』には城からの “見張り” が付いて回っているが、まあいい。
王都を出てしまえばコッチのものだし、行く当ては一つしかない。
俺達の機動力、なめんなよw
王都のアストラス邸には、スズネさんが待っていてくれた。
屋敷そのものは『子爵』の時と変わらない。
ま、陞爵したからって見栄張ってやたら大きくしても、使わないんじゃ意味ないしねw
姉上が学園に居るが、寮生活を満喫してるみたいだし。
父上も、当面は “新しい屋敷” を買うつもりはないようだし。
“オエライサン” に何か言われたら考えればいいだろう、という程度か?
「ただいま~ メイたちは?」
「おかえりなさいませ。メイとメルロスはギルドで汗を流してくるそうです。」
「急激に強くなったからね。訓練場壊さなきゃ良いけどw」
「その程度の分別はあるかと・・・あの・・・“里の者” がお会いしたいと言ってきていますが・・・」
「ああ、 “その件” ね。いいよ。厄介ごとはさっさと済ませよう。」
「では、そのように。」
時間と場所も “向こう” に決めさせる。
相手の土俵で “お話し” するんだ。
いやでも納得させるさ。
最近、身体動かしてないしなw
『レッサードラゴン』をソッコーで ”首チョンパ” した子供のホンキを見せてやろうww
翌朝。
日の出とともに、他の冒険者や商人と共に王都を出る。
入るときは身分証の提示が必須だが、出て行くときは何も言われない。
それはそれでどうかと思うのだが・・・
すんなりと出た俺達は、のほほんと歩いて近くの森に入った。
「付いて来てるね~」
気配探知が反応しとりますw
「走りますか?」
スズネさんが問い掛けてきた。
「いや、飛んで行こう。言い訳しやすいしw」
俺は結界をバラ撒いた。
「早速見失いましたか。」
ノルグナー公爵は溜息を吐いた。
「申し訳なく・・・」
諜報部部長が項を垂れる。
「攻めているのではありません。帝都の件と言い、驚異的な ”移動の速さ” が気になっていたものですから、よもやと思っていたのですが・・・」
「例の、“光りながら走る魔物” ですか?」
「はい。人的被害はほぼなく、しかもその背には ”複数の子供” が乗っていたらしいとも・・・噂ですが・・・」
「ですが、今回は ”空を駆けて行った” との報告が・・・」
「どちらも非常識ですねw まあいいでしょう。ただし ”注意喚起” は引き続きお願いします。被害者が出るようなら、手を打たねばなりませんから。」
「御意。」
程よく撒いたところで『バギー』の出番だ。
「いいの?朝から走らせて?」
メイさんが心配しながらハンドルを握る。
何気に気に入ってらっしゃるw
「いいよ。いずれバレるし。ちょっと面白そうな『おもちゃ』も見つけたし。」
俺はマスクを付けながら答えた。
バレてもいいとは思ってはいるが、自ら名乗り出るつもりはない。
「アレか。あんなものが帝国にあるとはな・・・帝都は知らなかったのか?」
メルさんが呆れたように呟くが・・・最初に見つけたのはキミじゃなかったっけ?
もっとも “デカい置き物” にしか見えなかったようだがw
「多分ね。何より壊れてたし、普通に直せるとも思えないしね。」
『拘りのドワーフさん』なら、ある程度はイケるだろうけど・・・
魔術的な知識がねw
かくいう俺も『コクウさん』がいなけりゃ、手も足も出せんがw
「量産するおつもりですか?」
スズネさんが何気に聞いてきた。
「現状では難しいかな? 王都中にある鉄やミスリルを掻き集めても、せいぜい10~20くらい?それに、『バギー』より遥かに重いから小回りが利かないか・・・改良の余地があるね。」
「そんなんで役に立つの?」
「乗り手の体力が尽きるまで “休憩” の必要がなくなるかな? 侯爵閣下の馬は酷使されてるからね~」
「「「あ~」」」
納得してくれたようだw
おっちゃん「うん♡ だいぶ痛み引いたな。」
相方 「もう痛くなくなったんですか?」
おっちゃん「まだ少しツッパる程度か?『痛み止め』と『肉』をアホほど食ったからw」
相方 「おっちゃんの辞書に Over Dose という言葉は無いんですね。」
おっちゃん「知らんなw」
ポチッ
おっちゃん「あ・・・・」
相方 「今度は何です?」
おっちゃん 「・・・下書き・・・消えた・・・」
相方 「な~~~~にやってんスか!!」
おっちゃん「わ~~~~~! ゴメン!! ごめんって!!!」
グギッ!!!
おっちゃん・相方 「「あ・・・」」




