60 壁 その6 ホウリム領の災難
ナパーム。
コクウの力を借りたとはいえ、相変わらず “規格外” だな。
『インフェルノ』等といった上級魔法とは違い、効果範囲がアホほど広い。
戦術の幅も広がるってもんだ。
使い道は限られるがなw
恐れをなして逃げた『ハウンド・ドッグ』は追わない。
《 生態系とかいうヤツですか?》
「そゆこと。そのまま森に帰ってくれればいいんだけど。」
ポーションを取り出して一口。
まだ魔力に余裕があるとはいえ、スズネ達が傍にいない今は、小まめに補給しておいた方が良いだろう。
《 “不浄な魂” の使い道ですね。救われる日は来るのでしょうか?》
「それこそ “神のみぞ知る” ってやつさ・・・どした?急にシリアスになって?」
《 私はいつでもシリアスですよ?》
「・・・ツッコミが欲しいのかな?」
《 失礼な!》
「ゴメンてw」
どうやら向こうの戦闘も終わったようだ。
ポーションを片手に歩いて帰る。
糸を伸ばして魔物の回収にも余念がない。
走ってもいいんだがね。
“疲れました” って “演出” も必要なのさ。
程よいところで休みたいしねww
《 そう言う所が “詐欺師” ですねw》
「ほっといてくれる?」
「閣下。ご無事で。」
「うむ。お主も良くやってくれた。凄まじい魔法だな。」
「無我夢中でした。もう一人の『魔族』は?」
侯爵が顎で示した先に、巨体が転がっていた。
お顔が背中を向いてらっしゃる。
ガチンコで殺っちゃったんだ・・・
サラフィナ様ぁ。
『勇者の称号』、付け間違えてません?
「閣下。『魔物』と『魔族』の遺体は?」
「問題ない。アイテムボックスに余裕があるからな。魔法省が喜ぶだろうて・・・お主の相手をしたヤツはどうした?」
「あ~アレはノワールが食べちゃったんで、魔石しか・・・」
本当は、どうなったのか判らないんだよな。
終わったら魔石しか咥えて出て来ないし・・・
「食ったのか・・・流石は『神獣』と言うべきか・・・」
『魔神』とガチンコする “英雄さん” が呆れてらっしゃるw
「ともあれ急ぎましょう。今回のヤツらは “計画性” を持っていたように思えます。何をしでかすにせよ。一刻も早く『壁』を完成させた方がよろしいかと存じます。」
「そうだな。所々で含みのある言い方もしとったしな。魔力は大丈夫か?」
「移動しながらでも回復させます。」
「そうか。頼りにしとるぞ。」
「お任せを。」
再びダカダカと馬を走らせる。
何気に『エリアヒール』で回復させているので、みんな元気一杯だ。
尻と後頭部に薄く結界を張った俺も、悩みが解消されて元気だ。
《 最初からそうすればよかったのにw》
コクウさんが一言多い。
壁の切れ目の周囲は、汚染が酷くなっていた。
止むを得ず大きく迂回して壁を繋ぐことになったが、これは致し方ない。
やり方は前回と一緒。
“兵士さん” に数百メートルごとに並んでもらい、壁を作る『インターバル』
馬上でラクしながら作れないこともないけどね。
『土魔法』と『水魔法』と『結界』の並列使用は、大地に足が付いてた方が魔力の通りがいい。
必然、スタートダッシュの繰り返しになる。
「大丈夫なのか?」
「身体強化使ってるので平気です。それより、方向を間違えないようにお願いします。日が暮れる前に出来るだけ進めてしまいましょう。」
「うむ。皆解ってるな?」
「「「「「は!」」」」」
数時間後。
日が傾いてきたところで、テントを張った。
食糧、水、簡易寝袋と、侯爵のアイテムボックスが大活躍だ。
特大のテントにテーブルを置き、地図を広げる。
「もはや『アイテムボックス』がなければ素早い移動は考えられぬな。重ね重ね感謝ずるぞ。」
「お役に立てれば幸いです。今はどのあたりでしょう?」
「ココだな。あと半分ちょっと、というところか・・・明日中にはいけそうか?」
「問題なく・・・」
『魔族』だの『魔物』だのが、ちょっかい出さなきゃね。
もう邪魔すんなよ~
「ところで、ホウレイからは、もう話を聞いたか?」
「・・・婚約のことでしょうか?」
「そうだ。陛下も思い切った決断をしたものだ。」
「フェルナ様もご一緒だと伺いましたが・・・」
「そうだな。お二方とも “覚悟” はできているようだ。」
「どういった経緯でそういう話になったのか、お伺いしても?」
サルムンド侯爵は聞いた全てを話してくれた。
いやまさか『魔族』との『全面戦争』を視野に入れてるとはね・・・
「そうならないように “動いて” いるつもりでしたが・・・」
「解っておる。じゃが陛下も、お主一人に全てを背負わせる気はないようだ。」
「ですが・・・」
「まあ聞け。お主は、ヨーデル王国に生まれ、この地で育った。つまり正真正銘の国民だ。ならばお主はこの国を守る義務があると同時に、幸せになる権利もある・・・違うか?」
「・・・おっしゃる通りです。」
「たとえお主がアストラスの名を捨てようとも、国民である以上、その安寧を願い、責務を負うのが我々の仕事よ。」
「ノブレス・オブリージュ・・・ですか・・・」
「まさしくその通り。」
くそぅ・・・どいつもこいつも、俺の涙腺を破壊しに来やがる・・・
「・・・それと婚約の話とが、繋がらないのですが・・・」
「戦争だからな。常に最悪の事態を考えるべきじゃろう。結論として、お主の傍に置いておくのが一番安全だと判断されたようだ。」
「『魔王』や『魔神』に突撃かます阿呆の傍に置いておけと?」
「本物の阿呆なら “いの一番” に逃げ出すじゃろうよ。それはそれで構わぬ。『王族の血』が途絶えねばな。」
「・・・責任重大ですね・・・」
「儂も準備を始めておる。」
「お話は聞きました。後継者を特訓中とか・・・」
「まだダンジョンの30階層程度の実力だがな、お主が成人になる頃には “間に合う” だろうよ。」
「後継者も災難ですね。」
「お主に比べたら、まだまだよ。せめて “陛下の盾” くらいには。なってもらわんとな。」
「つくづくアストラス家に生まれて良かったと思います。」
「言いよるw」
ふと、祖父のことが気になった。
父が言うには若くして他界したようだが、話をしたらこんな感じになるのだろうか?
少し残念に思った。
「解りました。では、今度は僕の近況報告を・・・」
「なんだ?」
今度は侯爵が顎を外す番だぜw
「こんばんは。いい夜ですね。」
侯爵のテントを退出した俺は、のほほんと見張りの兵士さんに声を掛けた。
「グレイ様?お休みになられないのですか?」
「ああ、閣下がしばらく一人にして欲しいようなので・・・」
「すぐテントを用意したします、」
「お気になさらず。自前のがありますのでw」
ま、ショックだわな。
『メイド』と『元巫女』と『奴隷勇者』が、すでに婚約者だなんてね。
おまけに三人そろって51階層攻略済みときたもんだ。
そんじょそこらの “美少女” が裸足で逃げだす『強者』揃いだぜw
毎晩襲われてる (同衾)けどなww
《 結局、全部話しちゃったか。》
メイさんの念話か・・・結構な距離だが・・・
《 そうだね。聞いてた?》
《 聞こえてたよ。ちょうど “小周転法” をしていた頃だしな。》
メルさんもか、さすが元巫女w
《 “陛下の覚悟” 聞いちゃったからね、こっちも話しておくべきでしょ?》
《 まだ “彼女達” の覚悟を聞いていませんが?》
スズネさんの気持ちが痛いほどわかる。
《 そのためにも一度会っておかないとね。》
久しぶりの満天の夜空に感動を覚えていた。
翌日。
早朝から作業を開始。
サクサクと “壁” を作り、夕方頃には完成した。
デランテ領のかなりの範囲を削ることになったが、仕方あるまい。
《 自業自得ですねw》
コクウさんが辛辣だ。
待機していた別動隊と合流して、最寄りの村の空き地を借りた。
せっかくなので俺も『肉』と『酒』を放出。
村人を巻き込んだ宴会になった。
たまにはいいだろうw
「しかし魂消たぞ。てっきり “一人きり” だと思っておったが・・・」
侯爵がエールを傾けながらぼやいた。
「僕もそのつもりでした。全てが終わったら “気ままな一人旅” をと考えていたのですが・・・」
成り行きがね~
《 優柔不断とも言いますねw》
言葉もない・・・
「共に行くのか・・・」
「うち一人は『勇者』ですからね・・・」
そう考えると、メイさんが少し気の毒に思える。
《 気にしなくていいよ。老後資金貯めてるしw》
《 ボク達もいるからな、サポートは任せてくれ。》
勝つ気マンマンだしw
「彼女達は “生死を分かつ仲間” です。加えて言うなら、確実な “勝利を得る” ために行動を共にしてくれています。ならば、その “責” を負うべきかと・・・」
「・・・そうか・・・」
「坊ちゃ~ん。んなトコでくっちゃべってネエで、一緒に飲みましょうや~」
ナイスなタイミングで酒臭い『村人A』登場♪
「あ、こら!その御方は・・・」
「いいですよw 肉食べましょう!肉!!」
俺は促されるままに、輪の中に入った。
《 ボクにも酒よこせ~!》などという “幻聴” がするが、きっと気のせいだw
翌朝。
「次はホウリムか。」
見送られながら村を発った俺達は、ダカダカと馬車を走らせた。
まあ、数人の “病気持ち” やら “怪我人” の治療に手を貸したのはご愛敬だ。
ついでに “布教活動のマネゴト” をしてサラフィナ様も御機嫌だったしw
「 “壁” は出来ていると、伺っておりますが?」
「うむ。だが、お主の『壁』のように強固な結界は張られてないようだ。寄って来る『アンデッド』の駆除に “時間と金” を奪われておるらしいな。」
「 “神聖魔法の使い手” が疲弊しているとか?」
「もともと『神聖魔法』を使える者が少ないからな。『結界』を張ろうにも膨大な金がかかる。そういう意味では、お主の力は “強大かつお手軽” なわけだがw」
お手軽って・・・言いきっちゃったよ。
《 言い得て妙ですねww》
コクウさん。うるさし。
「でも何もないよりはマシです。頑丈な作りなら結界を張るだけで済みそうですから。」
「・・・であると良いがな・・・」
などと高を括っていた日もありました・・・
つい二日前の俺です。
《 さもありなんw》
「・・・やはりな・・・」
小高い丘から見下ろす俺達は、溜息を吐いた。
黒壁の切れ目からは、石を積み上げただけの壁が続いていた。
しかも壊れとる・・・
壊れた壁から『アンデッド』がコンニチワしとるし・・・
戦っているのは “ホウリム領の兵士さん” 達か?
「冒険者らしい人影は・・・いませんね。」
「勝てぬ戦には乗らぬだろうよ。彼奴等も馬鹿ではないからな。」
ゴモットモ・・・
「さで、どうする?グレイ。」
面白がってません?
「とりあえず、これ以上の汚染を食い止める為に壁を作って繋げましょう。その後で ホウリム側の “汚染区域” を隔離。壁を二重にするというのはいかがでしょう?」
二度手間だがな・・・他に思いつかん・・・
「それが良かろうな。」
「ホウリム領主は『子爵』様でしたか?」
「うむ。ウワサではホウレイと名が似とるというだけで、よく比べられていたようだ。そのせいかお主の父を目の敵にしとるとか・・・」
ナニその意味不明な八つ当たりは?
返答に困る俺を、侯爵が楽しそうに笑った。
「気にするでない。所詮その程度の男よ・・・兵達も体力の限界のようだ。皆準備は良いな!」
「「「「「は!」」」」」
「わわ!ちょ!ま!!」
慌てて『エリアヒール』!
“お馬さん” 疲れとるがな!!
ポツネンと残される俺と馬車。
「参りましょう、グレイ様。閣下自らが “露払い” をして下さるようです。」
執事が慇懃に頭を下げてくれた。
「え~と・・・ホウリム卿の御許可は?」
「たかが子爵。事後報告でよろしいかと・・・」
・・・さいですか・・・
サルムンド侯爵一行の突撃により、戦況は容易くひっくり返った。
今にも倒れそうな “兵士さん” には “お手製” の回復ポーションを配る。
少々強めだが、薬師希望のメルさんと作ったポーションは、ダンジョンの冒険者で効果は実証済みだったりする。
常用しなけりゃ問題なかろう・
調子ぶっこいて大量に作ったからな~w
丁度いいっちゃ丁度いいww
死ぬなよ~www
邪魔者がいなくなったところで、壁を作る。
石壁の隙間に “魔力を通した土” を潜り込ませ、水気を抜いて “固く” “硬く“・・・
積み重ねただけの石が邪魔だが、苦労して作った壁を壊すのも気が引ける。
土台を少し頑丈にしとくか・・・
《 そこまで気を使わなくても・・・》
自己満足だからいいの!
おっと?
デカい『エメラルド原石』が混じってまんがな・・・
母上と姉上の “お土産” ゲットだぜ!
ナイショなw
《 ・・・マスター・・・》
デランテ程のペースではないが、壁は順調に伸びていった。
所々で出てくる “お土産” は、俺と侯爵の “特別報酬” にしていいだろう。
どっから運んできたのか、後で聞きだしてやろうw
侯爵権限でww
黒壁は、数時間で繋がった。
隣領とはいえ、ドンダリデとの境界が短かったからな。
むしろホウリム領内への浸食が酷く、東と北側の領堺を越えているようだ。
これはちょっとな~
「北はともかく、東は不味いな。」
「どなたの領地で?」
「サンデラ。コラスターの飛び地よ。ちょっと前に “梟” なる裏組織を叩いた時に、繋がりのある貴族らの領地を没収してな。我々が一時的に分け合って管理しておる。」
サンデラ侯爵は強硬派だったか?
「ちなみに北の領地はどなたが?」
「儂じゃ。元はナルテ伯爵領だったがな・・・」
両侯爵の管理地に挟まれたホウリム領・・・悪夢だ・・・
「コラスターに手紙を書くか。事後報告になるがな。」
「ホウリム卿が哀れですね。」
「こればかりは致し方あるまい。飛び地とはいえ、侯爵領に “禍の種” を撒いたからには、それ相応の責任が問われるだろうな。」
ホウリム子爵に合掌・・・
次回更新 8月5日(水曜日)




