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59 壁 その5



 とある酒場。

 店の片隅の席で、二人の冒険者風の男達が声を押し殺して話していた。

 外国語ではあるが、聞きようによっては酷い訛りのようにも聞こえる。


 「おい。ところで聞いたか?『姫』がとうとう結婚相手を見つけたらしい。」

 一人の男が、話しかけた。


 「まじか!相手は誰だ!?」

 もう一人の男が、傾けるエールの手を止めた。


 「『アストラスの勇者』だってよ。」

 「アストラスって・・・まだガキじゃねぇか!」


 「そのガキがよ。『神剣』を『姫』に差し出したらしい。」

 「『神・・・』!」

 言いかける男の口を、慌てて塞ぐ。


 「馬鹿!声がでけぇ!」

 「・・・すまん・・・まじか・・・」


 「他にも『マジックアイテム』とかも献上されたらしいが・・・」

 「・・・まじか・・・」


 「『お里』が大混乱してるってよ。」

 「・・・まじか・・・」


 「おまえそればっかだな・・・・って・・・泣いてんのか・・・」

 「・・・大好きだったのに・・・」


 「・・・飲もう・・・」




 「・・・ったく・・・あの娘も、どんだけ “迷惑” かけりゃ気が済むんだい?」

 ドンビシャスの町のはずれの酒場。

 白髪の女が、エールをグイっと煽った。


 「そういうな。“見返り” は大きいではないか。」

 向かいの席に座る老人が、愛用の杖に顎を乗せながら呟いた。


 「そうだな。30階層より下の魔石など、そう簡単に手に入るものではない。加えて『神剣』の所有者となるなど、東国でもそうはいまいよ。」

 白衣とエプロン姿の男が、壁に寄りかかったまま同意した。


 「んなこたぁ解ってんだよ!おかげでコッチはどんだけ肝を冷やしたことか・・・“お里” は何て言ってるんだい?」


 「真偽を確かめる為に何人か派遣するそうだ、元婚約者も来るらしい。」


 「・・・だろうね・・・あの娘のレベルも知らせたろう?」

 「勿論だが、納得はすまいよ。」


 「もう(ひと)悶着(もんちゃく)は避けられないか・・・罪な娘だよ、全く・・・」




                   ◆◆




 「遅いぞグレイ!」

 デランテ領の領主館には、サルムンド侯爵がフル装備のまま、応接室でワインを傾けていた。


 まあ、今にも死にそうな “お馬さん” 達やら ドアトリス家の紋章付けた“兵士さん” 達が敷地内でヘタリ込んでたしねw

 余りに可哀想だから『エリア・ハイヒール』掛けといたけどww


 「申し訳ございません。サルムンド閣下。お早いお着きですね。」

 まずは無難な挨拶。


 「うむ。たまたま近くで『サイクロプス』が暴れとるという報告があってな。行ってみると『イェティ』と縄張り争いしとってな。二匹相手に討伐したところよ!『魔族』ほどではなかったが、良いヒマ潰しにはなったわ!」


 『サイクロプス』と『イェティ』ワンセットで “ヒマ潰し” っすか・・・


 《 この方も大概ですねww》

 コクウさんに一票。


 デランテ領主さんらしいオッチャンが、青い顔して愛想笑いしとるw


 「初めましてトモスエラ・デランテ伯爵閣下。ホウレイ・アストラスが次男のグレイ・アストラスと言います。以後、お見知りおきを。」

 とりあえずは領主(?)への挨拶かな?

 手土産はないがw


 「う・・・うむ。大義である。」


 素っ気ないね~


 「サルムンド閣下。壁の作成についてはもう?」

 「うむ。了承は得ておるが、範囲が広がりそうじゃ。」


 「・・・と、申しますと?」

 「汚染が広がっとる。デランテとドンダリデ領の境界から東に向かってな。丁度『リッチ』が出現した場所じゃ」


 「『リッチ』が?倒されたのですか?」

 「うむ。まだ “低級” だったのでな。じゃがデランテの『嫡男』が戦死しよった。」



 ああ、そういえば・・・



 「そうでしたか・・・デランテ閣下。この度は御愁傷様でございます。さぞかし優秀な御方だと存じ上げます。」


 「うむ・・・良い。大義である・・・」


 ?

 このオッチャン大丈夫かい?

 さっきから俺達見て怯えとるが?


 鑑定。

 あらら?

 この人『オーラ』が見えてはるん?


 ・・・そら恐いかも・・・


 「サルムンド閣下。ならば尚更、長居は無用です。領民の為にも・・・」


 「まてい!まてまてまて~い!」

 応接室の扉が勢い良く放たれ、重そうな鎧を纏った複数の男達が入って来た。


 次男坊の登場でヤンス。


 「サルムンド侯爵閣下!ここは我らデランテ家の地!いかに閣下といえど勝手は許されませぬぞ!」

 「・・・ほう?」

 「馬鹿!ダブイレ!控えぬか!!」


 「いいえ引きませぬ。これ以上悪評が広まれば我らがデランテ家が舐められます!ここはこの『ダブイレ・デランテ』が全て解決して見せましょうぞ!!」


 デカいフラグ立てよったなぁw


 《 スケさんカクさん!ヤっておしまいww》

 コクウさんの絶妙な合いの手w

 誰がスケさんやねんww


 「ダブイレとやら、領主の決断を覆すというのか?」


 侯爵が楽しそうだ。

 こういうゴタゴタが好きなんかね~


 「お任せを!私の部下には優秀な神聖魔法の使い手がいます!私自身も “魔法剣士” としてフレト先生のもとで研鑽を重ねておりますれば!そこな『エセ勇者』など一刀のもとに切り伏せて見せましょうぞ!!」


 《 『エセ勇者』=俺? わわわ!皆!殺気抑えて!!!》


 女性陣が恐すぎる。

 ドッキドキだな。

 こんなトコで暴れないでくれよ~



 「ほう。グレイは偽物か?」

 弱冠一名楽しんでらっしゃる・・・

 ヤメテケレ~



 「左様です!どのようなイカサマかは存じませぬが、こんな小僧がたった一人でドンダリデ領を覆うほどの壁を作れるはずがございません!このダブイレがイカサマ師の正体を暴いて進ぜましょう!!」


 《 俺、イカサマ師に昇格した件・・・皆、落ち着こう。》


 「・・・だそうだ。グレイ。どうする?」


 楽しい?



 「あ~。ダブイレ殿。一言よろしいでしょうか?」

 「なんだ?」


 「壁の制作は “王令” でもあるのですが・・・」

 「そ・・・そんなことは知っておる!だが “強制” ではないはずだ!!」


 「はい。しかしながらサルムンド閣下がおっしゃるには、 “汚染” はデランテ領の東に広がっているとのこと・・・このまま汚染が広がれば近隣の領地にまで御迷惑が掛かるのでは?」


 「な・・・何を言うか!私の部下がその程度の汚染を浄化できぬというのか!」


 ありゃ?

 汚染の根本原因が解ってらっしゃらない?


 「出来る出来ないの問題ではなく、また新たな『リッチ』を呼び覚ますことになるのではないでしょうか?そうなると面目も立たないのでは?」


 「バカな!低俗な『リッチ』など、わが剣のサビにしてくれる!さてはキサマ、そうやって他の領主から金を巻き上げていたな!?」


 なんでそうなる?

 ってか、カラッカラの『リッチ』切っても錆びないと思うけど?


 《 マスターに一票w》

 一票いただきましたw


 「アストラス家の名誉の為に言っておきますが、この件に関して、我が家は一銭たりとも頂いていませんが?」


 むしろ『大金貨』放出しちゃったもんな~

 いまさらかw


 「ウソを吐くな!我がデランテ家のような立国以来の由緒正しい上位貴族ならともかく、キサマのような新興貴族が金を欲しがらぬワケがなかろう!吐け!!どのようなイカサマをした!!」


 前世の知識を利用して・・・てのもイカサマか?

 《 詐欺師ではあるんですけどね~》


 コクウさん?

 《 失礼ww》


 「あ~サルムンド閣下、デランテ閣下。どうやらダブイレ殿は、僕を試したいようです。お庭をお借りしても?」


 いっちゃん手っ取り早い解決法w


 《 面倒臭くなりましたかw》

 そうとも言うww


 「おもしろい!イカサマ師に引導を渡してやろう!!」

 「構いませんが・・・脛当て、外れかかってますよ?」

 「なに!?」


 ハイ、下向いたね♪

 一本ww


 《 さすがイカサマ師w》

 いいえ、詐欺師ですww



 ガチャガチャと結び直している間に、庭に出る。


 「メイ。ハリセン貸して?」

 「いいけど?遊ぶの?」

 「ちょっと揺らすだけ。そこら辺の『木の棒』でも良いけど、危ないからね。」


 レベル的には、俺も “英雄の領域” を卒業しちゃってるからね~

 次男坊のレベル相手じゃ “遊ぶ” のは難しいかな?


 「いつでもどうぞ。」


 ガチャガチャと出てきた何某(なにがし)君の額には、青筋が立っていた。


 ?

 俺何かしたっけ?


 《 恥ずかしかったのでは?》

 ウブだね~


 「キサマ!それはなんだ!?」

 手にした俺の獲物が気になるようだ。


 「これですか?『ハリセン』といいます。ドンビシャスの冒険者ギルドで売ってますよ?」


 「バカにしおって!後悔するなよ!!」


 後悔?

 してるよ??

 なんで、こんなアホの相手せにゃならんのってね。


 魔法剣士だっけ?

 ナニするつもりか知らんが、先手は譲るよ・・・


 抜剣しながら『呪文』か・・・厠二病全開だな。


 ・・・せめて無詠唱でやれよ・・・長い・・・

 中級の火魔法だろうけど・・・


 やっぱり先にイっちゃっていいかな?

 かな?


 「・・・疾く!出でませい!!イーフリート!!」


 おお!

 剣が燃えとる!


 「見たか!これが私とフレト先生とで編み出した大魔法!覚悟せよ!!」


 うん。

 すごいね。

 MPの減り方が・・・ハリセン必要??


 ぼんやり立ってると、シビレを切らしたのか何某(なにがし)君が喚きだした。

 

 名前・・・何ってたっけ?


 《 ダブイレですよ・・・興味ないでしょうけどw》

 コクウさんサンキュー♪


 「ダブイレ殿。すみません。見事な魔法に見惚れていました。もう一度お願いできますか?」


 MPもうじきエンプティ♪

 汗びっしょり・・・なんだが?


 「!・・・うが~!」


 やけっぱちか?

 右袈裟切りを “転換” で躱して腕を抑える。


 久しぶりの合気〇だな。

 怪我しないように剣を奪う。

 地に伏せる頃には気を失っていた。


 アホらしい・・・

 せっかくなので首元をハリセンでピシャリ!


 「一本・・・ですかね。」


 「うむ。デランテ。文句ないな?」

 「はい・・・ご随意に・・・」


 諦め早いなw




 ダカダカと走る “お馬さん”


 荷馬車と女性陣は、先にホウレイ領に向かうらしい。

 追い越すかもしれんがw


 俺は侯爵のただ広い特注馬車で、サルムンド侯爵と打ち合わせだ。

 ってか、何気に “執事さん“ やら “メイドさん” がおるんだが・・・


 戦場に連れてくの?



 巨大なテーブルに広げた地図。

 流石に侯爵家だけあって、精密だ。


 「本来なら。ここから・・・ここまでだな。だが現状を(かんが)みれば、この一帯も囲んだ方が良いかもしれん。」


 「現地を見なければ断言できませんが・・・例えば閣下。戦場で膝下を毒にやられた場合、どのように処置されますか?」


 「毒か・・・種類によるが、最悪、膝から切り落とすか・・・」

 「そうですね。“毒に侵されていないかもしれない部分” を含めて処置した方が、助かる可能性は大きいかと・・・」


 「う~む。ならば、ここら一帯もか・・・デランテの泣き顔が目に浮かぶわ。」

 「『ご随意に』とおっしゃっていたので、覚悟の上では?」


 「言質か・・・お主もワルよなw」

 お代官様も大概でwww


 「領民の安全が最優先ですので・・・悪評は覚悟の上です。」

  「くく・・・良い。陛下には儂から言っておこう。思う存分やれ。」


 クレームは侯爵が受付けっと・・・そりゃ楽だw

 父上に伝えとこうww



 途中、休みを取りながら、一昼夜かけてドンダリデ領に近づく。

 『エリア・ハイヒール』が大活躍だw


 結構な速さで進むうちに、嫌な気配が濃くなってきた。


 「むう!ドンダリデの領界までかなりあるが・・・」

 「浸食が早いようですね。馬車を置いていきませんか?非戦闘員にはキツイかもしれません。」

 「そうだな。オイ!」



 俺と侯爵。あと古参の “兵士さん” は。各個に騎乗して進むことになった。

 比較的若い “兵士さん” と “非戦闘員” は “安全地帯” を遠回りしながら、最寄りの村や町に、警告を促す。


 身体の小さい俺は、侯爵の馬の前に乗るんだが・・・


 めっちゃケツが痛い!

 魔道鎧の胸板が後頭部に当たる!!

 上も下も痛いんだってば!!!

 タスケテケロ~~~~~


 程よくヘロヘロになったところで、探知に反応があった。


 「閣下!前方に魔族!!」

 舌噛みそう・・・


 「おう!」

 馬の速度が上がった。


 いや止まんないの!?


 魔族だよ?

 なに張り切っっちゃってんの??


 「ふはははは!久しぶりよな!!」

 戦闘民族かい!


 小さな点が、見る間にヒト型になって見えてきた。


 蟀谷(こめかみ)からぶっとい二本の角。

 巨漢。

 腕も太い。

 力で押すタイプか。


 さらに後ろにもう一人。

 小さいな。

 前に居るヤツがデカいから、余計にそう見える。

 杖持ち。

 魔法使いか。



 「閣下!後ろは魔法使い!俺が相手します!」

 「任せた!」


 結界をバラ撒き、ジャンプ!

 しびれたお尻が解放されて喜んでらっしゃるw


 「ノワール!サポートよろしく!」


 全力疾走しながら、巨漢の魔族の横に可視化した箱型の結界を浮かせた。


 「・・・なんだ?」


 蓋が勢いよく開き、中からバネ付きグローブが飛び出して横っ面を殴る。


 「プレゼントだよん♪」


 51階層の『ミノさん』用ビックリ箱だ。

 上手くいって良かった。

 普通のヒトには使えないからねw


 《 動作確認完了。術式保存しますw》

 コクウさんも気に入ったようだww


 「ぐううぅ!キサマぁ!!」

 「お前の相手は儂じゃ!」

 馬上から振り下ろされた侯爵の剣が、巨漢の角を折った。


 折るのかアレ?

 さすが『魔道鎧』w


 「・・・とんだ悪戯小僧じゃな・・・」

 もう一人の『魔族』が笑っているが・・・


 「もう遅いよ?」

 「何じゃと!?」


 足元の影が “ぽっかり” と口を開き、『魔族』が吸い込まれた。

 影の中は “闇の神獣” のフィールドだ。

 いかに『魔族』とて、手も足も出まいよw


 それにつけても・・・

 俺の出番・・・



 「流石ですな。」

 兵士さんの一人が声を掛けてきた。


 ドンダリデの時もいたっけ?

 主が戦ってるよ?

 手を貸さないのかな?


 「いいんですよ。敵も一人で、力自慢のようですから・・・横合いから ”ちょっかい” 出すと、怒られるのは我々ですw」


 ・・・さもあらん・・・


 いつの間にか納刀して “力比べ” してるし・・・

 実に愉しそうだw



 のほほんと『侯爵vs, 魔族・二大怪獣決戦』を眺めてると、俺の陰からヒョコリと出てきたノワールが、魔石を咥えたまま頭の上に駆け上がってきた。


 頭をてしてしと叩いてくる。

 なにさ?


 んん?


 「警戒!西からアンデッド多数!さらに後方から複数の『ハウンド・ドッグ』!!」


 『ハウンド・ドッグ』は、単体でBクラス。

 群れるとAクラス以上の脅威だ。


 「ふははは!ようやくヅシュツの “術” が成ったか!これで貴様らも終わりよ!」


 侯爵とがっぷり四つを組んだ『魔族』の高笑い。

 さっきのヤツの置き土産らしい。

 面倒なことこの上ない。


 「俺が出ます!皆さんは打ち漏らしを閣下に近づけさせないよう警護を!」


 再び結界をバラ撒き、空を駆ける。


 なるほど・・・

 ゾンビの腐肉を餌に誘い出したか。


 美味しいのかねぇ?


 『アンデッド』の数は200を超えるか。

 ここまで『ハウンド・ドッグ』を引っ張ってくるのに、かなり減った方だろう。


 魔法の有効範囲ギリギリまで “巨大ビックリ箱” を形成。

 さらに神聖魔法を付与。


 「めしあがれ♪」


 景気よく吹き飛ばされる『アンデッド』と『ハウンド・ドッグ』

 浄化された『アンデッド』は、ピクリとも動かない。


 いけるか?


 《 ナパームの方が早くないですか?》

 《 魔物だけならね。『アンデッド』は浄化してやりたいんだけど?》

 《 “優しさ” とかいうヤツですか・・・グローブを板状にしてみては?》

 《 コクウ天才♪》


 『ビックリ箱』を可能な限り増やして、一斉発射。


 ほぼ打ち漏らしなく、キレイに吹き飛んだ。

 成仏してくれよ~


 衝撃でフラついている『ハウンド・ドッグ』は『神剣』で処分。


 相変わらずの切れ味ですなw


 何頭か通り過ぎたが、兵士さん達が何とかするだろう。

 追加で来るか?


 20・・・30くらいの本体か・・・バラけて来るな・・・止むを得ん・・・


 「コクウ!ナパーム!!」

 《 準備(スタンバイ)OK!》


 ええ子やw




次回更新 8月2日 (日曜日)です。


相方はインフルで死んでますw

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