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55 『ミノさん』の災難とアダマンタイト


 「マリア。ちょっといいか?」


 学園の昼休み。


 食堂で待ち構えていたサルカス・アストラスは、複数の友人と侍女と共に席に着いた妹に声を掛けた。


 本来ならマナー違反になるが、兄弟間においてはその限りではない。


 「お兄様?・・・皆様ごめんなさい。ちょっと席を外します。ローラ。わたしはいつものセットメニューで・・・」


 優雅に席を立ち、軽く頭を下げる。

 上位貴族のマナーもすっかり板についてきたようだ。



 「話は聞いた。本当にお前がヤったのか?」

 回りくどい言い回しはせず、単刀直入に問いかける。


 「先日の騒ぎの件ですね。申し訳ございません、配慮が足りず・・・」

 目を伏せ、静かに謝罪する。


 「それはいい・・・グレイか?」

 核心だけを穏やかに問いかけた。


 「・・・はい・・・ダンジョンの49階層で掘り出したそうです。」

 敢えてスズネの名は出さない。


 サルカスとグレイの兄弟間の仲は悪くない。

 弟の名を出しても大した問題にはならないだろうと踏んだのだ。


 「アイツめ・・・まあいい・・・で?・・・どうするつもりだ?」


 大地を抉る程の魔法だ。

 その気になれば “魔法省” に売り込むことも可能だろう。


 もちろん “卒園” が最低条件にはなるだろうが、二人の『傍付メイド』は言わば “学園のOB” だ。

 これ以上心強いアドバイザーは望めないだろう・


 妹自身も決して頭が悪いほうではない。

 そのことは重々承知しているはずだ。


 「どうもしませんわ。アレは封印しましたもの。」


 「封印? どういうことだ?」


 「そのままの意味です。アレを使うには私の “魔力コントロール” が未熟だと思い知らされましたもの。一歩間違えれば、メイサやローラまで巻き込みかねませんわ。もっともっと練習してアレを使いこなせるようになることが、当面の目標ですわ。」


 にっこりと微笑む。

 母親譲りの微笑みだ。


 「そうか・・・ならいい・・・励めよ。」

 「はい。ありがとうございます。」




                     ◆◆




 『神器』と『魔剣』のセットプレー。


 いや、これで『ミノさん』に勝てなかったら俺 ソッコーで帰るわw



 51階ボス部屋。



 俺とメイさんはセコンドに回り、スズネさんとメルさんのコンビで『ミノタウロス』を相手取ることにした。


 気合は十分。


 咆哮を上げ、巨剣を正眼に構える『ミノさん』


 相変わらず堂にいった構えだ、


 正面をメルさんが陣取り、ススネさんが脇から攻める。


 「今度は前のようにはいかんぞ。」


 おお!

 メルさんから某時代劇のセリフが聞けるとは!?


 「昭和ねぇw」

 「長寿種だしねww」


 振り下ろされる巨剣を紙一重で躱し、懐に飛び込む。

 いいタイミングだ。


 右手首に刃を当て、切った。


 『月状骨』と『尺骨の茎状突起』付近の僅かな隙間に刃が滑り込む。


 「お見事。」

 これで『ミノさん』の右手の機能の半分が奪われた。


 否が応でもメルさんに “ヘイト” が集まる。


 「私もいるのですが?」

 手首の痛みに気が逸れた隙に、足元に潜り込んだスズネさんが左足首を切断。


 さすが『神器』ww


 たまらず膝をついた『ミノさん』の身体を駆け上り、頸動脈に深く『魔剣』を突き入れる。


 派手な出血。



 「さすがだね。」

 魔石を残して消滅した『ミノさん』を尻目に二人を称えた。


 「アイテムのおかげだな、」

 「そうですね。」


 「それも含めて二人の実力だよ。安心して見ていられたからね。」


 これならさらに下層に潜っても問題なさそうだ。



 「ねえ、私は?」

 いましたね “問題児” がw


 「それなんだけどね~」

 俺は天井を振り仰いだ。


 前にも見たな・・・この天井・・・


 「アダマンタイト・・・だったか? あれで何か作れないのかい?」


 「そうしたいのはヤマヤマだけど・・・『魔力』と『素材』がね・・・」


 「素材?」


 「どうせなら “良い物” 作りたいじゃない? 『神器』や『魔剣』に負けないモノをさ・・・」


 「ふ~ん・・・期待していいんだ。」

 メイさんの御機嫌が直ったようだw


 《 『素材』なら揃ってません?》

 コクウさんの意外な “横槍(よこやり)


 《 そうだっけ?》


 《 シェルタールームに放りっぱなしの宝箱。ワームにも消化できない(すぐ)れものですよ?》


 がびょん!

 『灯台下暮らし』でしたか・・・


 《 魔力大丈夫だっけ?》


 《 『神器』の併用でギリいけるのでは?早めに作ってあげた方が良いと思いますよ? “ヘソを曲げて” ほしくはないのでしょう?》



 「前言撤回。今から作ってみようか。」


 「ホント♪」

 「大丈夫かい?」


 「『神器』使えばね・・・食料とポーションは?」


 「まだ少し余裕があります。」


 「シェルターに入ろう。成功したらしばらく動けなくなるかも・・・回復したら『ミノさん』と再戦してみる?」


 「みる!」


 「『ミノさん』の魔石は置いて行こう。復活してくれればいいけど・・・」


 「前代未聞だな。魔物の復活を望んで『魔石』を置いていくとは・・・」

 メルさんが呆れてらっしゃるw


 ボス部屋の入り口付近に『シェルター』を開け、中に入った。




                    ◆◆




 「何考えてるんだ・・・アイツは・・・」


 アストラル家。


 居間で(くつろ)いでいたホウレイに、ノワールが手紙を運んできた。


 読み進めていくうちに、顔色が見る見る悪くなっていく。


 「旦那様?」

 ミレイが心配げだ・


 「グレイがダンジョンの40階層より下の『魔石』を、大量に献上したらしい。」


 「まあ!」


 「“笑顔” が増えてくれればと、思い付きで送ったそうだ。」


 「素敵ですわ。」


 「だが、これでアイツの “冒険者になる夢” が絶たれてしまうぞ。」


 「問題ありませんわ。」

 ミレイは微笑みながら断言した。


 「どういうことだ?」


 「あの子は既に “冒険者” です。である以上、あの子にとって “爵位” など、ただの “飾り” にすぎませんわ。その気になれば世界のどこへでも行けますわ。」


 「肩書だけの貴族・・・宮廷貴族か・・・いや、そんな器じゃないな・・・」


 「まだお目に掛かったことはございませんが、第三王女様との “お見合い” もあるとお聞きしました。王家は身内に引き入れたいのでしょうけれども、その程度で “あの子の自由” をどうにかできるとは思えませんわ。」


 「・・・ずいぶんな発言だな・・・不敬だとは思わないのか?」


 「また軟禁なさいますか?」


 「いや・・・俺もそう思う・・・第三王女も大変だな・・・」


 「そうでしょうか? 楽しいかもしれませんよ? 一緒に旅するのも・・・」


 「そうだな・・・ノワール、少し待っててくれ。返事を書く。“見合いの話” も伝えてやらねばな。」




                   ◆◆




 「『とっちゃん』どうだ?」

 「・・・話しにならんな。」


 トリコネア・トラハス・トアギタス・サネア。

 通称『とっちゃん』は、口に含んだ酒をべっと吐き出した。


 他のドワーフ仲間が見たら “私刑(リンチ)” ものの行為だ。

 だが、どうしても喉を通す気にはなれなかった。



 「やっぱ、そうか~」

 セルア商会長は、思わず天を仰いだ。


 大麦を粉砕し、発酵させ、グレイが書いた設計図通りに作った蒸留器で『蒸留酒』を作る。


 それはいい。


 酒精の強い酒は出来た。


 だが、それだけだ。


 肝心な “コク” と “香” がない。


 「やっぱ “寝かせる” しかないかぁ。」

 商会長は深く溜息を吐いた。


 グレイの説明によると “一端(いっぱし)の酒” が出来るまでに3年以上の “熟成期間” が必要らしい。

 樽の中で “寝かせる” ことで、樽のもつ “香” が移り “コク” が出るらしい。

 木の種類を変えることで、イロイロな酒が楽しめるのだとか・・・


 『オセロ』の売り上げは順調だ。

 貴族用に作った大理石のオセロ盤も、手触りの良い高級端材と組み合わせで飛ぶように売れている。


 『マッチ』の売り上げも『オセロ』に迫る勢いだ。

 王都での事故以来、商会への注目度が上がって注文が殺到している。


 『板バネ式馬車』にいたっては “順番待ち” だ。

 『商品と命を運ぶ』という勇者(グレイ)の言いつけを守り、腕のいい“(こだわ)りのドワーフ”に作らせているからだ。

 それでも “注文” は増え続けている。


 友好国への進出も検討段階に入った。

 あとは “王宮への許可” が下りれば、いつでも旅立てる。


 金に困ってるわけではないのだが、商人魂に火が点いていた。



 「あの小僧はどうやって作った?」

 とっちゃんはジョッキに残る酒を見つめながら聞いた。


 工房に戻れば、まだ『グレイから貰った酒』は残っている。

 仕事終わりの “一杯” に欠かせない酒だ。


 だがもう “半分” もない。

 なくなればエールを飲むしかないのだ。


 “あの酒の味” を知ってしまった以上、エールなど “ただの泥臭い水” にしか思えなかった。


 「さぁね。魔法を使ったんじゃないか? 前回 “帰還“ したときには大量の『エール』を購入していったらしいぞ?」


 「エールがアレに化けるのか!? とんでもない小僧だな。」


 「そうだな。だが『とっちゃん』。その言い方は止めた方が良いぞ。仮にも伯爵家の御曹司なんだから・・・」


 「ふん!そのくらいで目くじら立てるようなタマか!あの小僧は、いつまでたっても小僧のままよ!」


 「・・・ま、そうだな・・・『勇者』呼ばわりされるのを嫌ってるしな。」


 「で? 小僧はいつ帰ってくる。」


 「知らんよ。まだ死んではないけどな。」


 「何故分かる。」


 「とっちゃんに注文が入ったからさ。サルカス様の誕生日が近いから『剣』を作って欲しいとさ。ほれ!」


 セルア会長は荷台の布を捲った。


 「・・・ミスリルか・・・酒はどうした。」


 「帰還したら作るそうだよ。楽しみにしてろとさ。どうする?」


 「いいだろう。酒10樽・・・いや20は寄こせ。」


 「欲張るね~ 伝えておくよw」




                     ◆◆




 「アダマンタイト・・・ねぇ・・・」

 黒々とした金属塊に触ってみる。


 不思議な手触りだ。

 金属のような、冷たい手触りではない。

 仄かに熱を持っているような・・・


 架空の金属とされていたものが、ここにある。


 「変な感触ね。」

 「そうだな。生きているようだ。」

 「でも、金属ですね・・・」


 そうなんだよな。

 ココにあるということは “原子” として “存在” してるんだよな


 だが “原子番号” も “原子配列” も判らん『不思議金属』ときたもんだ。


 《 前世の記憶と常識が邪魔ですね。一旦、忘れましょうかw》

 コクウさんが容赦ないw


 《 気軽に言ってくれるねぇ・・・まぁ “不思議ちゃん” 相手だと、そうするしかないんだろうけど・・・》


 《 素直で結構。大丈夫ですよ。私も初めてではありませんしw》

 《 そりゃどうも。前にも作ったことある?》


 《 そうですね。今は行方不明ですが・・・この量なら3本くらいはイケるのでは?》

 《 心強いね。じゃあ父上と兄貴に1本ずつかな? 任せていい?》


 《 お任せを。》


 山盛りの “ワームの魔石” に『宝箱』と『アダマンタイト』を乗せる。


 「なぜに宝箱?」

 メイさんの『クエスチョンマーク』w

 気に入ったんかねww


 「これがグリップになるんだよ。ワームの消化液にも耐えられた素材だからね。魔力の通りも良さそうだしw」


 「なるほど。メイ君の “馬鹿力” にも耐えられると踏んだわけかw」

 「馬鹿力言うなシ! ま、壊れなきゃ何でもいいけど。」


 仲良くてケッコウww


 俺は『神器』を翳して結界を広げ、魔力を注ぎ入れた。




 「やっほ~ 久しぶりぃw」


 あんれ?

 景色が変わってらっしゃる。


 久々の『サラフィナ様』じゃあないですかい?


 ここ??

 『白い世界』???

 ずいぶん賑やかだが????


 「ふふ~ん♪ ビックリした? キミのおかげだよ。」


 「俺の? 話が見えないんですが?」


 「そうだね。ぶっちゃけた話、実は、この世界は “出来て間がない世界” なんだよ。」


 「間がない? 出来立てホヤホヤ?」


 「そうだね。2000年くらいかな?」


 まだ湯気立ってるじゃねぇですかい!

 大丈夫かいな “この世界”?


 「大丈夫だよ。まだね・・・キミが居るからw」


 「え~・・・まだ話が見えないんですが・・・」


 「順序だてて説明するとね。2000年前。創造神エルサデラ様が “この世界” を初めて作ったときは、まだコッチとアッチの境界線があやふやだったんだ。それで、他の高級心霊とも相談して、僕達が派遣されてきたんだね。」


 「つまり宇宙人? 異邦人(エトランゼ)??」


 「そんな感じかな? 捉え方は人それぞれだけど・・・それで、長い時間を掛けて境界を作ってみたはいいんだけど・・・」


 「あ・・・察し・・・もしかして “あの(もや)” って “魂” ですか?」


 「魂・・・というより、心だね。理解が早くて助かるよ。」


 「それと俺との関係が不明ですが?」


 「キミが説いた “四つの教え” だよw」


 「?・・・あ~ 想念が形を持ったと?」


 「大当たり!キミの “教え” が沢山のヒトの心を打ったからね。ソノ “教え”を実行しようとすると、彼らの『守護霊』も影響を受ける。そうすると “その想念” に感応してこっちの世界も形を持てるのさ。」


 「んな面倒なことせずに、サラフィナ様が作った方が早くないですか?」


 「出来ないこともないけどねw それじゃ “発展” が阻害されちゃうでしょ?この世界はこの世界の住人が作るものだし・・・」


 「自由が阻害されるから手を出さなかったと?」


 「幸い君の元居た世界の “創造神” が ”地上に降臨” してたからね。キミの “四つの教え” も “創造神の教え” の丸パクリでしょ?」


 「そりゃそうですが・・・怒られますよ?」


 「問題ないよ。ちゃんと了解得てるし・・・君が望むなら、元の世界に帰れるようにしてあげるよ。」


 「派遣社員っすか!まあ、いいですけど・・・そこそこ楽しいですし・・・」


 「そこそこかい?贅沢だねw じゃあ。もうちょっと頑張ってもらおうかな?」


 「いやいや、シャレんならないですって!勘弁してください!」


 「そうかい? もう少しゲームとか増やしてくれると嬉しいんだけど?」


 「? ゲームですか? 将棋とか??」


 「卓上ゲームも面白いけどね。国同士の揉め事にゲームを持ち出してみるのもどうかと思ったんだけど?」


 「あ~ サッカーとか、バレーボールとかで優劣を決めるってヤツですか?人攫いを生業にしてる連中が喜びそうなネタですね」


 「ダメかい?」


 「いえ?いいですよ。」


 「おっと?素直だね。どうしたの?」


 「俺が元居た世界の “創造神様の教え” は把握してらっしゃるんでしょう?」


 「そうだね。ああいう機会は滅多にないからね。」


 「じゃあ、ご存じのハズですね。三次元世界は “実験場にすぎない” という事実も・・・」


 「そうだね。よく勉強してるねw」


 「まだ2000年程度の “若い世界” なら、イロイロやってみる価値は十分にあると思いますよ。ゲーム広めてみましょうか?」


 「助かるよ。お礼にメイ君の “武器作り” は僕も手伝うよ。」


 「ありがとうございます・・・ついでにもう一つ質問が・・・」


 「なんだい?」


 「魔物の魂って、地獄の・・・?」


 「大正解w」



・・・さいですか・・・




最寄りの温泉が ”イモ洗い状態” だった件・・・号泣・・・


相方 「ざまぁwww」


次回 7月19日(日曜日)更新予定・・・くそぅ・・・

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