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48 準備と作戦



 タートルネックの白シャツとステテコスタイルの二人の少女が、対戦している。


 とはいうものの・・・


 近接戦闘では実力差があるので “じゃれあい” みたいなものだ。


 「どう?動いた感じは?」

 「ん~ ちょっとゴワゴワして動きにくい感じがするかな?肩周りが邪魔っていうか・・・」


 「重ね着するからもっと動き(にく)くなるしね・・・いっそ『ツナギ』にしようか?」

 「ダボっとした感じの?・・・そうね。下着も重ねればいいし・・・すぐできそう?」


 「『ツナギ』とは何でしょう?」

 「シャツとズボンを一枚布で作るんだよ。少しカッコ悪いけど腰や肩回りが楽なんだ。動きやすさを重視した作業着だね。」


 現物が目も前にいるからイメージしやすい。


 父から貰った大量の「アラクネの糸」をふんだんに使い、伸縮性のある『ツナギ』を作ってみた。

 領内でアラクネの巣を見つけ、兵を引き連れて討伐したらしい。


 やるな父上w


 ファスナーなどという “便利グッズ” がないのでボタン式になるが、まあ仕方あるまい。


 「おお~ ストレッチタイプだ♪ ちょっと着替えて来るね。」

 メイが嬉々として屋敷に戻る。


 「ボクはこれでも十分だと思うがな。ちょっと動いただけでも汗ぐっしょりだ。」

 メルロスが顔を手でパタパタと仰ぎながらぼやいた。


 「ヨーデル王国は気温差が(ゆる)いからね。本格的な冬を体験するとそんな悠長な事言ってられないよ?」

 「まるで体験したことがあるような物言いだな。そろそろ教えてくれても良いんじゃないのかい?イロイロと・・・」


 「また今度ねw メイが戻って来たみたいだ。」

 「もう!?」


 「ただいま~ さ、もう一回戦やるよ!」

 「ひえ~~~!」


 昭和の悲鳴だなw




                     ◆◆




 「御呼び立てして申し訳ございません。」

 ドンビシャス冒険者ギルドの応接室。

 ギルドマスターのコッカスが、深々と頭を下げた。


 50階層および51階層の情報を『報告書』と言う形でまとめて受付に渡したところ、2階にある部屋に呼ばれたのだ。



 「いえ、こちらこそ日頃からお世話になっていますので、お気になさらず。」

 対面に座る少年がニッコリと微笑む。


 落ち着いた態度だ。

 貴族然とした肩肘の張った物腰ではない。

 ごく自然に、風格漂う所作だ。


 《 ・・・3年前とは大違いだな・・・》


 「で、今日はどう言ったご用件で?」


 「はい。50階層。51階層の情報を提供していただき有難く存じます。それを踏まえ、王都のギルド本部に打診したところ、グレイ様のチームには特例として冒険者資格を与えるべきと通知が来たので、お知らせしたく・・・」


 「おお! 特例ですか!?」


 先ほどの風格がウソのように消え、喜色満面の子供らしい笑顔になった。


 「嬉しいですね。成人するまでは資格がもらえないものと思っていましたから。王都の皆さんには感謝すべきですね。」


 「そのお言葉だけで王都のギルド本部も報われます。で、ギルドカードですが・・・」


 コッカスはB級のカードを4枚、丁寧に並べた。


 「チーム全員の登録はすませてあります。ギルドの口座も開き、先日買取らせていただいた魔石の代金も振り込んでおきました。」


 先ほどまで無邪気にはしゃいでいた少年が、不思議そうに自身の名前が書かれているカードを手に取った。


 知らず、コッカスの背に冷や汗が浮かんでいた。


 「グレイ様。特例とは言え、貴方様やチームの皆様のほとんどは未成年と言うこともあり・・・それ以上のクラスを望まれる気持ちも分かりますが・・・。」


 「いえ、逆です。」


 「は?」


 「いきなりB級からですか? 僕はG級からでも構わないのですが?」


 「とんでもありません! Aクラスのクランでさえ30階層止まりなのに、グレイ様のチームは既に51階層を攻略してるんですよ?それでG級なんて与えた日にゃ、世界中の冒険者にケンカ売ってるようなモンです!」


 「・・・そういうものですか?」


 「そういうものです。」


 しばしカードを見つめた少年は、微笑みを浮かべながらカードを懐に仕舞った。


 「解りました、ありがたく頂戴いたします。王都のギルドの皆様に宜しくお伝えください。」


 「承知しました。それで、今回帰還されたのは魔石の販売で?」


 「まあ。それもありますが、51階層は砂漠のフィールドで、さらに潜るとなると装備に不安が出てきましたので準備の為にもどってきました。それにフィールドボスが手強い相手でしたので、何回かインターバルしようかと・・・」


 「いんたー・・・ばる・・・とは?」


 「失礼。繰り返すという意味です。確実にレベルを上げるには強い相手と何度も対戦するのが最善だと考えていますので。」


 「何度も・・・ですか・・・」


 「何度もです。今回勝てたのは運が良かったせいもありますのでね。いったん戻って1階層から “やり直し” です。今度は実力で倒して見せますよ。」


 「・・・なるほど・・・しかし良いのですか?そのような貴重な情報を我々に話して?」


 「構いませんよ。冒険者全体のレベルが上がれば、『魔族対策』になりますので・・・僕の『称号』の特異性はご存じでしょう?」


 「・・・そうでしたな。」


 「『魔王』や『魔神』を倒すのは『勇者』の役目ですが、『魔族』までとなると現実的ではありません。優秀な冒険者がその役割を担ってくれるならそれに越したことはありませんよ。」


 「おっしゃられる通りです。その旨もしっかりと王都に打診しておきます。」


 「よろしくお願いします。」



 帰り際。

 ついてとばかりに魔石を放出したが、倉庫に入りきらず、コッカスがまた頭を抱えることになった。




                    ◆◆




 {グレイが帰還したみたいだな。}

 アストラス家の書斎で、ホウレイは手紙を読みながら呟いた。


 「お早いですな。何かありましたか?」


 セバスが紅茶を注ぎながら聞いてきた。

 シナモンの粉を一つまみ加えるのも忘れない。


 ホウレイがアラクネの巣を討伐し、大量の糸をグレイに送ったが、そのお返しとばかり『ダンジョン産のシナモンの原木』を、これまた大量に送って来たのだ。


『ダンジョン産のシナモン』は市場では高値で取引される。

 血色がよくなり、美容効果も高いと貴族や薬師の業界では常に品薄状態だ。

 取引されるのは外皮だけだが、中皮と芯は(まき)として使える。



 それが、地下倉庫をほぼ埋め尽くすほど送られてきたのだ。

 ミレイはことのほか喜んだが、手紙には「まだ四分の一程度ですが・・・」と書かれていた。


 あとこの量3倍・・・


 「・・・ですので、父上と母上のアイテムバックの容量の空き具合はいかがでしょう?差し支えなければ残りも送らせていただきます・・・・」とも書いてあった。


 もちろん承諾した。

 時間停止機能の付いたポーチなら十分すぎるほどの余裕がある。


 ノワールの『影収納』で送られてきた、全ての原木をポーチに収納したのが昨日。



 今日また、ノワールが手紙を運んできた。


 「・・・いや、全員無事に帰還できたそうだ。51階層のボスが強敵だったらしい。実力を付ける為にインターバルをするそうだ。」

 「インターバル・・・繰り返し・・・ですか。坊ちゃまらしいですな。」


 「ほう。特例でB級冒険者の資格も貰えたらしい・・・ふふ・・・商業ギルドに素材が流れるのを嫌がったか・・・」

 「ギルドも『商売』ですからな。むしろ “遅きに失した” と言わざるを得ませんな。」


 「そう言うな。冒険者ギルドの規定にも意味はあるんだ。そう簡単に冒険者資格を与えていたら死亡率が跳ね上がる。むしろ良く決断したと言うべきだろう。」


 「失礼しました。」


 「今回は帰らずに装備を整えたら、また潜るそうだ・・・ふふ・・・マリアへの『お土産』はもう少し待ってくれだと?」

 「お誕生会のプレゼントは大層な人気でしたからな。」


 「マリアのやつ。『勇者』を顎で使いよる。」


 くっくと含み笑いを堪え、ホウレイは手紙を大事に引き出しに閉まった。




                     ◆◆




 冒険者ギルドの応接室を退出し、足取りも軽く1階に降りると『金糸鳥』のメンバーに声を掛けられた。


 「ご無沙汰してます。アッサムさん、ゼアルさん、リビットさん、リサさん、コゼスさん。」


 全員の名前を憶えていたのが意外だったらしい。

 それぞれが目を丸くしていた。


 「久しぶりだな。グレイの坊ちゃん。聞いたぞ。冒険者資格を貰ったそうだな。」

 相変わらずの仏頂面でアッサムが聞いてきた。


 「はい。おかげさまで。これでやっと奥のテーブルで小さくならずに済みそうです。」


 「小さく?いや逆に目立ってたと思うがな」

 ゼアルが揶揄(からか)うように腰を折ってきた。


 「そうですか?ずっと部外者だったので、目立たないようにしてたつもりですが・・・」


 「いや、坊ちゃんがギルドにいる時はいつも同じ席が空いてたろ?ありゃ他の連中が気を利かせて開けてたんだぜ?」

 コゼスが呆れたように溜息を吐いた。


 「そうですか?かえって気を使わせてしまっていたようですね。御助言感謝します。」


 「肩っ苦しいなぁ。もう同じ冒険者だから気ぃ使わなくていいんだよ。で?何級になったよ?D級くらいか?」

 リビットが楽し気に聞いてきた。


 「奇しくもB級です。皆さんと同じですねw」


 「「「「「・・・は?・・・」」」」」


 《 www いい顔ですね。保存しました♪》

 《 コクウさんや、んなことに容量使わなくてもイイって。》

 《 失礼♪》


 「B級って・・・試験は?」

 「貴族だからか?カネか??」

 「いや待って、グレイ君って “デビルスマイル” の賞金稼ぎ・・・」

 「「「「ああ~~~」」」」


 なにその納得顔?


 「試験? 何か試験が必要だったんですか?」


 「いや、ほらさ。普通D級からC級にランプアップするときによ。試験があるんだ。盗賊だの山賊だのの退治やら捕縛やらの実践だな。」

 「C級からは商人の護衛任務なんかの依頼もあるからな。魔物の他にもヒトも殺さにゃならん。」

 「その点、坊ちゃんは文句なしの合格ね。盗賊の根城を根絶やしにして『賞金首』をひっ捕まえてきたんだもの。」


 今度は俺が「あ~」という番だった。


 「別に意図したワケじゃなかったんですけどね・・・おかげで変な二つ名まで付いちゃったし・・・」

 「二つ名で呼ばれるのは名誉なことだぜ。絡まれにくくなるしなw」


 「それにしても『デビルスマイル』って・・・」

 マジ凹むんだが・・・


 「まあイイじゃない。51階層まで行ったんでしょ?悔しいけど実力はあるんだし。お祝いに一杯おごらせてよ。」


 「おいおい、坊ちゃんは未成年だぞ?」


 「お気持ちだけ頂きます・・・あ。そうだ。果汁頂くついでに相談に乗っていただけませんか?もしかしたらもっと下の階層を狙えるようになるかもしれませんよ?」


 「「「「「・・・ほう?・・・」」」」」


 目が本気(マジ)モードw




 俺と金糸鳥のメンバーはギルドの個室を借りることにした。

 メンバー同士の打ち合わせや、聞かれては不味い話などに使われる部屋らしい。


 『シェルタールーム』を持ってる俺達には必要ないがなw

 風呂もあるしww



 俺は果汁をチビチビと飲みながら、作戦の概要を話した。


 「・・・つまり、一つのチームがボス部屋前に陣取って囮になるのね。」


 「そうです。30階より下の階層でもそうでしたが、ボス部屋前でもたついてると魔物が集まってくるんですよね。それはつまり、その階層の魔物達は “ボス部屋” を守りたいんじゃないかと思うんです。」


 「なるほど・・・それでチームが(おとり)になり、他のチームが背後から急襲すれば楽に倒せる・・・と・・・」


 「戦闘中であっても、自分の大将が危険な目に会ってたら気が散ると思いません?」


 「そうだな・・・少なくとも目の前の敵に集中できなくなる・・・か・・・」


 「けどよ、(おとり)のチームがボス部屋に入っちまったらどうすんだ?」


 「ボス部屋に入る順番をあらかじめ決めておいた方がいいでしょうね。階層の魔物は引っ切り無しに生まれてくることはないようです。一度全滅させると、復活するのに最低一晩は掛るみたいですね。」


 「全滅って・・・やったことあるのか?」


 「まあ、止むを得ず・・・しかし翌日には何もなかったかのように復活してましたし・・・」


 「階層全滅って、スケールが違うわね。けどやってみる価値はあるんじゃない?」


 「協力していただけるなら、僕達も金糸鳥のチームに加わります。ちなみに、皆さんは何階まで行けましたか?」


 「前回はクランのメンバーに臨時で入ったからな。とりあえずは30階層まで行ったことになってるが、俺達の実力じゃないな。」


 「Aクラスのクランでしたっけ?」


 「Aクラスつっても、全員がA級ってわけじゃないのよ。最前線の数人とか、B級でも上位の実力者が主戦力ね。」


 「俺達は欠員が出た場合の緊急要員。早い話が “オマケ” みたいなモンさ。実際あまり戦闘がなかったしな。」


 クランが帰還したときはボロボロだったと聞いていたが・・・

 

 首脳陣は阿呆なのか?

 “立ってる者は親でも使え” が信条の俺にはよくわからない。


 「まあ、とりあえず浅層で試してみませんか?コボルトあたりなら、すぐ終わりそうですし、信用できるチームに声を掛けていただいて・・・」


 「そうね。中間の階層を全滅させる実力のチームが一緒なら安心だわ。私は賛成だけど?」

 「俺も賛成だ。やって見る価値はあると思う。」

 「賛成。」

 「俺もだ。」

 「グレップのチームにも声を掛けてみるか。」


 話がまとまったところで俺は再びギルマスに面談を申し込み、今回の計画を伝えた。

 何事にも “保険” は必要だからね。


 石橋は木槌で殴りながら歩くもんさww



 「金糸鳥と一緒に潜るの?」

 何気に『シェルター・ルーム』でくつろいでいたメイが、クッキーを頬張りながら聞いてきた。


 まあ、万が一の為にスズネやメルロスと一緒に “シェルター” に待機させてたんだが・・・それ非常食じゃないのかね?


 「そうだね。ダンジョンの特性を知るためにも一度試しておきたいんだよね、」


 「そうですね。下の階層でもボス部屋に近づくほど魔物が頻繁に出てきますから。階層出口のおよその位置が予測しやすくなりますね。」


 「swんあおうでのごうどうくんげんか」

 オイそこの宇宙人。

 せめて口の中のモノを飲み込んでから話そうかww


 「他のチームの闘い方を見るチャンスだよ。旨く行きそうならさらに下の階に行ってみてもいいかな?」


 「むぐむぐ・・・ゴクン・・・クランで動くのか。楽しみだな。」



 翌朝。


 ギルドは一時的にダンジョンを封鎖することになった。


 俺の提案を受け入れたギルドは、実験的に浅層での俺達の成果を見るためだ。


 「グレイ様の仮説が正しければ、攻略は進めやすくなると思いますが、他のダンジョンでも通用すると考えてらっしゃるのですか?」


 入口に立つギルマスが、横に並ぶ俺に話しかけて来た。


 「古い文献によると、ボス部屋には魔物が寄り付かないダンジョンもあったようです。そういうダンジョンでは “ボス部屋前” は 『休憩所』あるいは『待機所』として利用されていたようですね・・・この違いは何なのかと疑問に思ってたんです。」


 前世の “あるある” だがねw

 詐欺師ガンバww


 「ほう・・・そんなダンジョンもあったんですね。『ボス部屋』に集結するダンジョンと、そうでないダンジョンか・・・面白い。」


 「お宝目当てに少数で突っ込む方法も否定はしませんが、死んでしまっては元も子もないので、まずはダンジョンの特性を知るべきだと思っただけですよ。」


 「いや、感服しました。結果はどうあれ、ダンジョンの死亡率を下げる為に考えて下さっていたとは、流石はグレイ様です。」


 「誉めても何も出ませんよww 皆さん自己紹介が終わったようですね。」


 5人のチームリーダーが、こちらにやって来た。


 「お久しぶりです。坊ちゃん。憶えてますか?」

 筋骨たくましい冒険者が声を掛けてきた。


 「以前、足を怪我されていた方ですね。お元気そうで何よりです。」


 「グレップと言います。時々、ギルドで見かけたりしてたんですか、声を掛けるべきか迷いましてね・・・その節は有難うございました。」


 「グレップさん。お気になさらず。むしろ今回の作戦に参加して下さって感謝いたします。」


 「坊ちゃんが考えたってことですからね。あの時の “借り” はきっちり返さないといけねえと思いましてw」


 「今回の作戦は “ダンジョンの特性を知る” ための作戦なので、まずは安全第一に進めていくつもりです。怪我は僕が治しますので、遠慮なくおっしゃってください。」


 「そりゃありがてぇ。坊ちゃんと一緒なら百人力でさぁ。」


 「アッサムさん。今回のチーム選びの基準は?」


 「最低でもチームで10階層まで行ったことのあるメンバーだな。浅層ならはぐれても単独で戻ってこれるはずだ。」


 「ボス部屋突入の順番は決まりましたか?」


 「最初は俺達『金糸鳥』からだ。下層の入り口でメンバー全員を待つことになっている。」


 「最後は僕達ですね。上手くいけば階層の魔物のほとんどは駆逐されているハズですから、それほど苦労はしないと思います。」


 「中間層まで行ける実力者だからな。心配はしとらんよ。」

 アッサムがニヤリと笑った。


 「結構です。皆さんも無理だと思ったら、各自の判断で帰還してください。最後尾(ケツ持ち)は僕達のチームが引き受けます。帰還をする際、もしくは何らかの異変を感じたら、僕かアッサムさんに報告してください。」


 「「「「「おう!」」」」」



次回更新 6月24日になるのか・・・


 オッチャン「・・・どうしよ・・・」

 

 相方「知らん。」

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