47 階層攻略と増えた指輪と酒
51階層の攻略を始めて2週間。
俺達はやっと、それらしい建築物を見つけた。
「まさかフィールドのど真ん中にあるとはね~」
出口があるだろうと見当をつけて、北側の陰に沿って延々と歩いたあの日々は・・・
飛んでみろって?
冗談でしょ。
焼け死ぬって・・・・
まあ。
飛んだけどな・・・十日ぐらい歩き回った末に・・・
「盲点だったな。てっきり入り口のの反対側にあるものだと思っていたよ。」
エロフ君も呆れ顔だ。
「やっと出れますね」
さしものスズネさんもホッとしたようだ。
「もうアチ~のヤダ~」
野生児君・・・同感w
パルテノン神殿のような建物は、吹きすさぶ砂に埋もれることなく堂々とそびえ立っている。
大理石のような石積みの、まさしく白亜の神殿のようだ。
「・・・美しいな・・・」
「そうね。」
「アレは、女神像でしょうか。」
入口らしい柱に、両腕を上げ天井を支えるポーズを取っている、妙に艶めかしい巨大像が目に入った。
「どうだろうね? 僕は『サラフィナ様』と『闇の女神様』としか会ったことないから・・・」
「『闇の女神様』は大人の女性ではないのか?」
メルロスが興味津々だ。
「いや、僕が会ったときは子供の姿だったね。神様だからどんな姿にもなれると思うけど?」
「とにかく入ろうよ。干上がっちゃうよ。」
「だね。ノワール。罠はない?」
「にゃ」
「ここからボス戦だな。気を引き締めて行こう。」
きりりと顔を引き締めているが、耳は垂れたままのエロフが宣う。
ノワールを先頭に、ゆっくりと入り口に足を踏み入れた。
「おっと?」
「・・・予想外」
「大きいですね」
ボス部屋入口の反対側。
おそらく下の階に続くであろう最奥の扉の前に、巨大なミノタウロスが鎮座していた。
その脇には、これまたバカでかい両手剣が床に刺さっている。
「剣か・・・気を付けて、このボス頭良いよ。」
「なんで?」
「棍棒なら振り回すだけで良いけど、剣を使うには修練が必要でしょ。間合いや戦略にも長けてないと、自分を傷付けかねないし・・・」
「散って、各自攻撃だな。フレンドリーファイヤーに気を付けよう。」
「的を一つに絞らせないようにしないと・・・」
「正面は俺が受け持つ。攻撃は効率的に・・・ノワール!サポートよろしく!」
ゆっくりと立ち上がったミノタウロスが雄叫びを上げた。
あ~うるさい!
欲求不満かね『ミノさん(仮称)』やw
呆れるくらい巨大な剣を引き抜き、両手で構える。
堂々とした出で立ちだ。
《 予想通り、かなりのヤリ手ですね。マスター》
「隙見て『空間斬』でぶった切る。コクウ準備しといて。」
《 了解。短期決戦ですね。》
まずは正面から飛び込んでみる。
振り上げが早い。
巨剣が風切り音と共に振り下ろされた。
球形結界。
ザゴン!という音と共に、結界ごと床にめり込んだ。
「やば!」
結界は無事だが、めり込んだのは予想外だ。
迂闊に飛び出すと、いいマトにしかならない。
「なにやってんのよ!」
野生児が『ミノさん』の足元に飛び込んだ。
アキレス腱狙いだ。
するりと身を引いて、踏みつぶそうと足を上げる。
「コッチだ!」
エロフの『ウインド・カッター』が目を狙う。
器用に巨剣を翻し、剣の腹で受け流した。
背後に回ったスズネが、柱を利用して宙を飛んだ。
仕込み杖が首元を狙う。
屈み込んでやり過ごした『ミノさん』の肘が、スズネを襲う。
咄嗟に身をよじった。
「ぐ!」
直撃は避けたものの、その衝撃は並じゃない。
防いだ杖が砕け、壁への直撃は避けたものの、かなりのダメージだ。
俺はその隙に、床から脱出し、改めて正面から突っ込んだ。
「ノワール!」
ミノタウロスの足元から無数のシャドーランスが伸びた。
ふわりと飛んで、何事もなかったかのように降り立つ。
《 コイツ、牛のくせに身が軽い。しかも視野が広いな。さすが草食動物w》
《 笑ってる場合じゃありませんよ。マスター。5連撃準備完了。》
「うっし!」
再び両手で構える『ミノさん』が振りかぶった。
剣先が斜め。
“袈裟切り”か。
再びエロフの『ウインド・カッター』
今度は避けない。
俺狙いか。
いや。
器用に頭を振って、角で受けやがった。
便利だなw
だが視線がぶれた。
「も~らい♪」
アイテムボックスに常備していた『巨岩』を落とす。
奇しくも『ミノさん』と同サイズ。
驚いて迫りくる巨岩を両手で支える『ミノさん』。
受け止めやがったよ・・・
「追加どうぞw」
二個目が落ちた。
これには耐えきれなかったようだ。
「ぶお!」
と、一鳴きするとと共に、かろうじて横に逃げた。
ここで抜剣。
「5連撃!」
《 まんまやんw》
うっさいっての!
両の手足と首を狙って空間ごと切る。
さすがにコレは防げまいよw
おっと流石の反応速度。
『ミノさん』が咄嗟に飛び退こうとしたので、狙いが外れて胸元からバッサリ切れた。
「うあ~ スプラッタ~」
《 ・・・中身飛び出しちゃいましたね。》
冷静だなキミ。
ともあれ、勝ちは勝ちだ。
「お疲れ~ 手強かったね~」
巨岩を受け止めたのは少し焦ったが・・・予備あってヨカッタw
「呑気なこと言ってないで、スズネ先輩は?」
メイが『ミノさん』の残骸から目を離さず、聞いてきた。
うん。良い心掛けだ。
「問題ありません。」
しれっと近付いて来るスズネさん。
「ものすごい音で壁に激突したように見えたが?」
エロフ君のオッドアイが零れんばかりに開いていた。
だよね。
指輪の力でダメージ軽減なんてバラしたら、欲しがるだろうな~
どうしよ。
《 作ってあげればよろしいのでは? これからはもっと過酷な状況に追い込まれないとも限りませんし・・・》
コクウさん。簡単に言うけどね・・・
「コレのおかげです。」
スズネが指輪を掲げた。
「あ~・・・」
「それ、マジックアイテムかい?」
バラしちゃったよ・・・
メイは知ってるが、メルロスは興味津々だ。
「坊ちゃまに作っていただいたアイテムです。おかげで命拾いしました。」
「「・・・ほ~~~~・・・」」
ほ~らね~
「あのサイズでこの効果・・・ボクたちには作ってくれないのかい?」
「いいよ。どうせアタシは御主人様の奴隷だもん。使い捨ての駒でしかないからね。」
じと~~~~~
視線が痛い!
痛いってば!!
「はあ、分かったよ。とりあえずダンジョンを出て、屋敷に帰ろう。そこで作るよ。」
「やた!・・・って、屋敷に帰るの?」
野生児とエロフがそろって首を傾げた。
「『ミノさん』強かったからね。チームの強化にもう少し付き合ってもらおう。それに・・・」
「それに・・・なんだ?」
「フィールドの環境がハンパなかったろ? 多分、ここより下の階層には“酷寒のフィールド” とかもあるハズだよ。となると、今の装備じゃ心許ない。」
「極寒フィールド・・・寒いって事か。冬着じゃ間に合わないってことかい。」
「手足の凍傷じゃすまないだろうね。手袋や靴下を何枚も重ねて、体形が分からなくなるくらい重ね着しても怪しいもんだよ。」
「そんなにか・・・確かに対策は必要だな。」
「そういうことで、一旦帰る。寒さ対策については少し考えがあるから、準備をしっかり整えてから出直そう。」
「さすがリーダー。」
いつからリーダーになった!?
「お、宝箱発見!」
やたらデカい魔石を回収しに行った野生児が、目敏く見つけたようだ。
「ミミック?」
「・・・大丈夫。開けていいよ。」
「なに入ってるかな~♪」
出て来たのは、大量のミスリルだった。
「一財産はあるな。」
「一生遊んで暮らせる?」
「魔石もそうだけど、一気に放出したら相場がひっくり返るよ。逆に老後貧乏になるかも。」
「夢のない話ね~ もっと贅沢したら?」
「十分贅沢だよ。僕は静かで慎ましやかな生活を夢見てるだけさ。」
「51階層でその台詞は寝言にしか聞こえないが?。」
なんですと!?
わちゃわちゃと一階層にに戻り、ギルドを無視して屋敷に戻った。
報告は後日だ。
「さて、どうすっかな~」
夕飯までの時間。
自室に籠る。
女性陣はシェルタールームで一風呂浴びるようだ。
だから・・・シェルターの意味・・・
ともあれ
指輪の効果は分かった。
ミノタウロスの肘がスズネさんに当たる瞬間。
指輪が結界を作り、防いだ。
壁にぶつかる瞬間も結界が展開。
強い衝撃を受けた後も、直後に『ヒール』を発動していた。
念話でも「ノーダメージ」の返事。
まとめると、
・はぐれても位置情報が判る。
・念話ができる。
・瞬間的に結界が展開できるのは、俺の魔力とリンクしてるから。
・結界と同時に治癒魔法も発動。これも俺の魔力が使われてた。
《 ・・・意外と使えるなw》
《 だからと言ってホイホイ作ってると、マスターの魔力消費量がバカになりませんよ?》
「だよな。しっかり口止めしとかないと。常時魔力不足に悩まされそうだ。『ミノさんの魔石』使える?」
《 そうですね。使用回数制限と言う枷が付きますが、シェルターに戻ったときにマスターが魔力を補充すれば問題ないかと。》
「それでいくか。あとはデザインか・・・」
《 指輪はダメですか?》
「婚約してもないのに? 婚約者はスズネで十分だよ。」
《 あのお二方は、そうは思ってないのでは?》
「・・・」
ダンジョンハーレム・・・あるあるだな・・・
《・・・マスター?》
うんうん悩んでるうちに、女性陣がさっぱりした顔で出て来た。
「ナニ悩んでるんだい?」
「まだ作ってないの?」
俺は指輪の効果を正直に話した。
「・・・というワケで『ミノさんの魔石』を利用するよ。使用回数制限っていう枷がつくけど魔力を補充すれば、また使えるしね。あとはデザインだけど・・・」
「絶対!」
「指輪!!」
のけぞる勢いで被せて来やがったよ。
「お・・・おう?」
「やた!」
「よし!!」
そのガッツポーズは何?
・・・スズネさん?
「あの、何度も話し合ったのですが・・・」
溜息ついてらっしゃる・・・
《 どうやらマスターの婚約者が折れてしまったようですねw》
・・・さいですか・・・
宝箱のミスリルと魔石と数本のポーションを並べ、二つの指輪を作った。
レベルが上がっても、作るのは “スズネさんの指輪と同レベルのモノ” だ。
しかも二つ。
・・・モウヤダ・・・
ポーションでタプタプになった腹を抱える脇で、キャッキャと喜ぶ女子二人。
しっかり薬指に付けてらっしゃる・・・
「お疲れさまでした。」
スズネさんが柔らかく支えてくれた。
「物好きだな。僕のドコがイイんだか・・・」
「ふふ・・・お分かりになりませんか?」
優しく微笑むスズネさんに癒されながら、俺は静かに目を閉じた。
◆◆
「帰って来た!?」
セルア商会長は喜色満面に腰を上げた。
酒だ。
とりあえず酒が欲しい。
アストラス家の『勇者』が考えた『板バネ式キャスター』
小回りが利き、荒れた道での荷物への衝撃も少ない。
乗員の腰と尻への負担も軽減されるので、乗合馬車にも打って付けだ。
しかも足回りは取り外し可能で、一台買えば故障しても修理コストはかなり抑えられる。
従来の荷馬車に比べて少々複雑な構造になるが、ドワーフなら可能だ。
「人命と荷物を乗せる馬車なので『拘りのドワーフさん』に作ってもらうのが正解だと思いますよ。」
『勇者』のあどけない笑顔の一言。
その通りだと思う。
だから彼のアドバイスに則り、各領地のドワーフに “スキマ時間” の部品の作成を頼みに行ったのだが・・・
「・・・いいだろう。作ってやる。だから酒寄こせ。」
これだ。
中には荷馬車に置いていた樽を全て持って行こうとする兵もいたようだ。
「追加の酒が欲しい。大量に・・・」
彼はダンジョン攻略を進める『勇者チーム』の帰還を、首を長くして待っていたのだ。
「グレイ様の屋敷に行く。先触れを出してくれ!」
セルア会長は、いそいそと身支度を始めた。
「お久しぶりです。セルア会長」
巷で呼ばれる『勇者の屋敷』の応接室。
持ち主は軽々しく『勇者』呼ばわりされることを望んでないようなので、面と向かって口にしないが、ダンジョンから無事帰還した彼は、風格が増したように見えた。
「ご無沙汰しています。グレイ様。メイさんもお元気そうで。」
後ろに控える少女もにっこりと笑う。
心配してはなかったが、虐待などは受けていなさそうだ。
「ありがとうございます。おかげさまで、五体満足で戻って来ました。で、前置きはこれくらいにして、進捗状況をお聞かせ願いますか?」
セルア会長の背筋が伸びた。
「はい。おかげさまで『オセロ』の売れ行きは順調です。一時は木材の需要に対して供給が間に合わず、輸入した木材の端材から良質なものを選んで販売していましたが、最近になって大量の木材が安値で手に入るようになったので助かっています。」
「あ~・・・そうなったか・・・」
「はい?」
「いや、失礼。コチラの話です。品質保持はしてますか?」
「勿論です。安い類似品も多く出回るようになってきましたが、そちらはすぐ皹が入ったり盤が割れたりして不評を買っているようです。しかし我が商会の商品は一つ一つ丁寧に検査していますので、そういった問題は出ておりません。」
「結構。『マッチ』の販売も順調ですか?」
「そちらも問題なく。特に火を使う分野なので作業中は厳重な管理下で行っています・・・王都で暴発騒ぎがあったことは?」
「いえ? 初耳ですが。何かありましたか?」
「我が商会の製品をマネて、王都でマッチを作ってたようですが、素材に引火して暴発事故を起こしたようです。ちょっとした騒ぎになっていましたね。」
「そうですか。その近くに川などは?」
「いえ、商人区の密集地での事故だったので、いくつかの商会が犠牲になりましたが、死者が出るほどではなかったようです。事故を起こした商会は賠償金などで店を畳まざるを得なくなりましたが。」
「・・・ご愁傷様としか言えないですね。生活を支える商品にしろ、娯楽の商品にしろ、それを作るのはヒトです。従業員が安心安全な仕事ができるような環境を作ってやれば、売れる商品は長く売れます。他国への輸出は考えていますか?」
「はい。すでに手は打ってあります。・・・他国での新たな工場建設の話も出ているのですが・・・」
「お任せします。セルア会長の良いようになさってください。」
「ありがとうございます。」
「それと「板バネ式」の方はどうでしょうか?」
「それが・・・」
セルア会長は、包み隠さず話した・
「・・・でしょうね。『ドワーフさん』は正直だから・・・」
「どうしましょうか。」
グレイは答えず、後ろに執事に顔を向けた。
「地下の倉庫にあるのは?」
「28樽ほどです。」
「全部出しちゃって。セルア会長に持たせてね。セルア会長。まだ量産には程遠いですが、ウチにある分は全て持ち帰っていただいてかまいません。ソレで何とか場を持たせてもらえますか?」
「本当ですか!?感謝いたします!!・・・で、お代の方は・・・」
「そうですね。売り上げが順調で余裕があるなら。僅かずつでも『学校』に寄付して頂ければありがたいのですが。」
「そんなことでよろしければ!」
「商談成立ですね。お酒の製法については、もう少し時間をください。」
「よろこんで!!」
二人は固い握手を交わした。
スキップする勢いで帰る商会長の背中を見守る。
「相変わらず、太っ腹だな。」
メルロスが呆れたように、隣に立っていた。
「酔いどれエルフ対策だよ。夜な夜なこっそり飲んでたでしょ?」
「ぐ!」
「僕と一緒に味見する程度ならまだしも、毎日は見過ごせないね。言ったでしょ?身体に障りが出るって。」
「むう・・・分ったよ。」
「分かってくれて良かったよ。さ、『暖シャツ』の実験を進めよう。」
次回更新は6月21日
おっちゃん「腰が痛い・・・」
相方 「何事ですか?」
おっちゃん「散歩中にね・・・公園で筋トレとストレッチ始めたんだけど・・・」
相方 「あ~、もしかして曲げちゃいけない方向に?」
おっちゃん「・・・何故分かった!?」




