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46 砂漠とそれぞれの思惑


 「マジ・・・」

 「マジですか・・・」

 「何だココは・・・」

 「・・・・」

 「・・・にゃ・・・」


 51階層に降り立った俺達は、呆気に取られていた。



 灼熱の砂漠・・・

 砂塵が舞う酷暑のフィールド。



 環境そのものが俺達を殺しにかかってくる。



 いやまあ・・・

 想定しなかったワケじゃない。



 けどね・・・



 『疑似太陽』さん。

 近くないかえ?



 「一旦避難(シェルター)しよう。装備整えないと干上がっちゃうよ。」

 じりじりと肌を刺す光が、生半可な覚悟では生き抜けないと(さと)しているようだ。


 「そうだな。この暑さは尋常じゃない。」

 エロスさんの耳が垂れてるんだがww


 「・・・魔物の気配はないようですが・・・」

 目を細め、周囲を警戒していたスズネが不審げに首を傾げる。


 「土の中だよ。日差しが強すぎるなら潜ればいいからね。」


 「ワーム?」

 野生児君。多分正解w


 「だろうね。潜れるならアリジゴクみたいなのもいるかも・・・」

 「厄介だな・・・」


 そそくさと避難し、想定していた砂漠用の装備を引っ張り出す。


 「まさか本当に使うコトになるとはな・・・」

 ただ広い一枚布をしげしげと見つめながら、メルロスが呟く。


 「ダンジョンだからね。ナンでもアリさ」

 「水足りる?」

 

 「一人樽一個でも心許ないけど、容器がたりないね。各自アイテムボックスに用意しといて、あとガマンしないで小まめに水分取るように・・・イザとなったらココに逃げればいいから。」


 「「「了解」」」



 初めてのフィールドなので、互いの装備を入念にチェック。


 「・・・サングラス欲しいな・・・」

 「サングラスとは?」

 「色の付いたガラス? 目を保護するための小型のアイテムって言えば分かるかな?」


 「あ~ね。昔のヒトどうしてたっけ?」

  「ターバンとかでひたすら顔と目の周りを隠してた気がするな。とにかく地面の乱反射でも視力を失いやすいから、気を付けないと・・・」


 《 ノワールに頼んだらどうですか?》


 「ああ。影魔法か。その手があった。」


 「いい手があるかい?」

 「まね。とにかく移動しなくちゃ始まらない。試してみよう。」


 装備を整えて外に出る。

 相変わらず「疑似太陽」が近い。


 「人が住める環境じゃないな。」

 メルロスの正直な感想だ。


 「だね。でも外の似たような環境にもヒトが住んでたりするんだよ。」

 「本当か?信じられんな。」


 「いずれ行ってみるといいさ。ヒトはキミが思っているよりタフな生き物だってことが身に染みると思うよ。」

 「そうか?興味深いな。」


 「とりあえず、ノワール。頼める?」

 「にゃ。」


 影から出たノワールが魔法を展開。

 巨大な傘のような幕が張られた。


 「おお、これはいいな。」

 「直射日光が当たらないだけでも(おん)の字だわ。」

 「ノワールの魔力は大丈夫ですか?」


 「基本、ノワールは僕の魔力を利用してるからね。この程度の規模なら大した影響はないよ。」

 「ノワールさまさまね。」

 「闇の神獣にこういう使い方があるとはな。」


 「にゃ。」

 心なしか、胸を張ってらっしゃる。

 元は俺の魔力なんだがねw




 砂を踏みしめて歩く。

 とかく足を取られやすい。


 「遭難した気分ね。ラクダでもいないかしら。」

 「ラクダ? どういう生き物だい?」

 「砂漠のような、水の少ない場所でも生き延びることに特化した馬のような生物だよ。荷物を運んだり、人を乗せたりして共存してるかな?」


 「結界出せないの?」

 「影魔法使ってるからね。魔物がいない確証があるなら、歩きやすくしてみても良いけど・・・戦闘時の魔力は残しておきたいね。」

 「そっか。」


 「・・・来ます!」

 スズネが警戒を促した。


 「動かないで!結界張るよ!!」


 いきなり、ブラックアウトした。




 「みんな、生きてる?」

 「無事だ。真っ暗だな。『ライト』」

 メルロスの魔法が周囲を照らす。


 結界がゴリゴリと音を立てて削られてる。

 球形に結界を張ってて良かった。


 食道だか胃だかの蠕動運動で結界を潰しにかかっているようだが、その程度じゃビクともしない。


 いい気分じゃないがな。



 「お~ 何が起きた?」

 野生児君。分からんかね?


 「ワームに飲み込まれましたね。結界のおかげで助かったようですが・・・」

 スズネさん冷静w


 「いきなりゲームオーバーとはね・・・」

 「ゲームオーバーとは?」

 「普通なら死んでる状況・・・かな?」

 「呑気ね~ コンティニューするんでしょ?」

 「当然!『ウィンド・カッター』」


 ワームさんの口腔内だか食道だか胃袋だか知らないが、きっちり穴を開けて、結界ごと転がり出る。


 「わっわっわ!結界~!解いて~~~!」

 コロコロと転がる結界に悲鳴が上がった。


 「まだだよ!ちょっと我慢!・・・わ!!」

 またブラックアウト・・・やっぱり・・・



 「あたたた・・・またゲームオーバー?」

 「だね~ 二度あることは三度あるってね。」

 「いたた・・・ワームの腹の中の方が落ち着くとはね。とんだ皮肉だ。」


 「どうしましょう。このままだと地中深くに潜られてしまいそうですが・・・」

 「ん~・・・ちょっと手を変えるか。少し派手にいくよ。『ウィンド・カッター!』」


 今度は全方位を切り刻み、肉片を『ストリーム』で砂ごと巻き上げた。

 風魔法の小爆破だ。


 「・・・景気よく吹き飛ばしたな。」

 「ワームの住処(すみか)みたいだからね。血の匂いと音で寄って来るかな?」


 「撒き餌ね・・・あ、あそこらへん、盛り上がってない?」

 「・・・多いですね。」


 砂の山がうにょうにょと動いている。

 案の定、共食いショーの始まりだ。


 「少し間引きしておこう。行ける?暑いから短期決戦だよ!」


 「うっし!」

 「望むところ!」

 「俺も出る!スズネ!ノワール!サポートよろしく!」




                    ◆◆




 アストラス家。

 執務室。


 「グレイからの手紙ですか?」

 「そのようだ。」


 ノワールが咥えて来た手紙を受け取り、封を開く。

 今日はミレイが執務室にいる。


 昨日の “茶会” で狩猟を生業とする者の妻が、人の形をした蜘蛛のような魔物の影を見たという。


 アラクネか?


 そういえば以前も、グレイがドンダリデ領に行く際も小型のアラクネに出くわしたらしい。

 少し警備を増やすか・・・



 「私にも見せていただけませんか?」


 私の様子が気になったのだろう。

 ミレイが小首を傾げて聞いてきた。


 「ああ、すまん。少し考え事をしていた。先に読んでくれ。」

 「珍しいですね。では、失礼して・・・」


 読み進めるミレイの顔が、見る見る青ざめる。


 「何があった。」


 「その・・・50階層を突破したらしいのですが・・・」


 「どうした?」


 「あの、50階層のフィールドの生態系に異変があったらしく・・・大量の大型の『G』が・・・」


 「なに!?」


 「無事、焼き払って突破したらしいのですが・・・ドンダリデの壁の大きさって・・・どのくらいでしょう?」


 「この屋敷の2階くらいの大きさ・・・ミレイ!?」


 どうやら気を失ったようだ。


 私は妻を抱きかかえ、自室のベッドへと運んだ。

 手紙の内容が、ミレイにはキツ過ぎたか。


 迂闊だった。


 ミレイの手から滑り落ちた手紙を読む。


 ・・・みんな無事に突破できたようだ。

 フィールドの森を焼き払う形になったが、翌日には何事もなかったように、元に戻っていたらしい。


 不思議なものだ。


 51階層は、酷暑の砂漠地帯か。

 森の装備のままじゃ危険すぎるな。


 ・・・結界を張ったチーム丸ごと飲み込まれただと!?


 ギルドに注意喚起・・・か・・・

 どうやって対策しろというのだ・・・


 「知らせぬわけにも・・・行くまいな・・・」




                        ◆◆




 「ギルマス。領主様からお手紙です。」


 「・・・分かった。」

 副ギルド長から手紙を受け取り、封を切る。


 「領主様からは何と?」

 「『勇者チーム』は。もう50階層を突破したそうだ・・・」


 「・・・異常な速さですね・・・」

 「ドンダリデの壁みたいな『G』と戦って、丸焼きにしたそうだ・・・」


 「壁って・・・」

 「51階層は “砂漠のフィールド”らしい。とにかく暑くて、チームを丸のみにするワームがわんさか出るから注意喚起しておけとよ・・・」


 「注意喚起って・・・先日Aクラスのクランが30階層から帰還したばかりですよ?水も食料も尽きて、装備もボロボロで帰って来たばかりなのに・・・」


 「『勇者』を俺達と同レベルで考えるなってことか・・・王都のギルドは何か言ってきたか?」


 「特例でB級にするという事です。魔石も可能な限り買い取れと・・・」

 「B級? 他の冒険者にケンカ売ってるのか?」


 「というより、素材が商業ギルドに流れてしまってるのが気に入らないみたいですね。口座も商業ギルドに持ってるようですし。」

 「利益優先か・・・ジジイどもめ・・・」


 「どうします?」

 「どうもこうもない。いつ帰ってきてもいいように準備しとけ。口座も開いてな。この間の素材の買取分を振り込んどけ。」


 「B級のカード・・・受け取ってくれますかね?」

 「受け取ってもらわなきゃ困るのは王都だ。知ったこっちゃない。」


 「投げ遣りですね。」

 「所詮は片田舎のギルドだ。王都には逆らえん。俺が出来ることは、せいぜい揉み手をしながら『勇者チーム』の御機嫌を取るくらいなモノさ」 


 「心中お察しします。」

 「ふん!」




                    ◆◆




 「陛下、コチラを・・・」

 ノルグナー宰相が、冷静に報告書を手渡した。


 「なんだ・・・アストラスのダンジョンの異変解決?」

 「はい。ダンジョンの異変は、全て報告するように義務付けられていますから。」


 「まあ、そうだが・・・50階層で『G』のスタンピードだと!」

 「そのようですね。グレイ君のチームが万事解決したようですが。」


 「・・・フィールドのほとんどを焼き払ったのか・・・目撃者は?」

 「いませんね。現在、他の冒険者チームの最高到達点は30階層止まりですから、目撃者は皆無です。ただ・・・」


 「なんだ?」


 「30階層の突破に成功したAクラスのクランの証言によると、帰還石を使って戻る際に、下の階に通じる階段から異様な衝撃音と焦げた匂いが漂ってきたとか・・・」


 「30階層か・・・証言としては弱いな。証人はいないと言ってもいいだろう。証拠は?」


 「グレイ君の報告によると、翌日には何もなかったようにフィールドが復活してたそうなので、苦しいかと・・・もしあるとすれば・・・」


 「魔石か・・・」

 「はい。相場がひっくりかえるほどの大量かつ、巨大な魔石が出て来るかと。」


 「相場か・・・買い取れるか?」

 「今はまだ何とも・・・現在、51階層を攻略中とのことです。」


 「まだ潜っているのか!?」

 「ダンジョン攻略が『英霊ソリアン』との約束ですので。」


 「・・・そうだったな。」


 「それと教会の(いさか)いが終結したようです。」


 「ほう?随分早かったな。」

 「ダンジョンに潜る前にグレイ君に(さと)されたようですね。新教派が頭を下げに来たと報告がありました。」


 「教会の問題も解決したか・・・つくづく呆れた小僧だ。」

 「今度私の姪っ子を紹介しようかと・・・」


 「まてまて!何でそうなる!?」

 「監視を欠かすなとおっしゃられたのは陛下です。ならば我が姪と一緒になってもらうのが最善かと思いますが?」


 「ちょっと待て!ならオレの三女が丁度いいだろう。俺の目の届く所においとけば・・・」

 「要注意人物を王族に迎えますか?それこそ危険では?やはり私の姪っ子に・・・」


 「いや待て!お前の姪っ子ってアイツだろ?この間の茶会でテーブルひっくり返したヒステリーじゃないのか?」

 「私の姪っ子がヒステリーですと!?可愛い悪戯じゃないですか!いつからそんな度量の狭い陛下に成り下がったんですかね!」


 「なんだとぅ!」


 「何ですか!?」


 不毛な言い争いが廊下に響いていることに気付かぬ両者であった。




                      ◆◆




 ダンジョン前のギルド出張所。

 酒屋 兼 休憩処


 「聞いたかよ。『勇者』チームが50階層突破したってよ。」

 「マジか! ガセじゃねぇか?」


「それがよ。領主んとこのメイドの話を偶然耳にしたヤツがいてよ。定期的にダンジョンから手紙を送ってきてるらしいんだわ。」

 「どうやって。」


 「知らねぇよ。何か特殊な魔法でもつかってんじゃねぇのか? んでよ。その話が王都のギルドにも伝わってよ。特例で冒険者資格を与えるらしいぜ。」


 「冒険者資格か・・・確かまだ6歳か7歳くらいだったか・・・」

 「おうよ。お前、以前助けてもらったとか言ってなかったか?」


 「おう。ボス部屋前で休憩してたらよ。コボルトどもが集まってきやがって乱戦になったんだわ。コリャダメかもしんねぇと覚悟決めたらよ、『勇者』チームが後続のコボルトどもを片付けてくれてよ。おまけに血が止まらねぇ程の足の傷もタダで治療してくれてよ。命拾いしたぜ。おまけにボス部屋の順番譲ったら “勇者の祝福” までしてくれたんだぜ。」


 「ほ~ ボス部屋前で休憩ってのは頂けねぇが、すげぇモンだな。で?その “勇者の祝福” ってナニよ?」


 「おう。ボス部屋に入る前に、こう、両手の平を俺達に向けてよ。パァっと光ったのさ。そしたら・・・急に体の調子が良くなってよ。翌日から快進撃よ。一気に10階層まで行けちまったぜ!」


 「ほえ~大したもんだ。すげぇんだな “勇者の祝福”ってよ。俺もあやかりてぇモンだ。」



次回 6月17日予定


温泉に、また行きたいと思う、今日この頃・・・

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