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41 壁 その2 ~視点イロイロ~

視点がコロコロ変わりますが、あしからずw


 「ようこそおいで下さいました『勇者』様!!よもやこのサニエル領を最初に選んでくださるとは! 初代サニエル領主から数えて14代。このナルスキュール・サニエル。御先祖の霊に胸を張って報告できますぞ! もとよりこの地は肥沃な土地として王都の覚えも良く、周囲の領からも一目置かれるほどであったのですが、原因不明の疫病やら湖の枯渇やらが続きましてな。それでもご先祖様が歯を食いしばってこの地を立て直そうと・・・」


 《 ・・・これも一つの才能だな・・・》


 先祖の土地を守り切る。

 ただそれだけの矜持を胸に、歴代領主の残した財産と記録を頭に叩き込んできたのだろう。

 “安っぽい誇り” や “口だけの肩書” でマネできるものではない。


 「父上!グレイ様が戸惑っております!屋敷へご案内を!!」

 おお!トリアデ子息? 言うようになったねぇw


 「いえ、ご心配なく。この周辺の土地の歴史書は読んだことがあります。初代サニエル男爵のご活躍も存じております。たしかコニキ山に住み着いたドラゴン討伐に参加され、勲章を受理されたとか・・・」


 ソリアン様が活躍した時代だったな。

 興味があったんで調べてみたんだよね。

 よもや湖の枯渇もソリアン様が?・・・やりそうだなww


 「おお!左様でございます!!『勇者』様の御記憶に残っているとは!このナルスキュール・サニエル!初代様に代わり御礼申し上げますぞ!そもそもコニキ山に住み着いたドラゴンはそのあまりの狂暴性から国をあげての討伐対象となり、その・・・」


 「父上!いい加減にしてください!! グレイ様、お疲れでしょう。歓待の用意ができておりますので、こちらへどうぞ。」


 「トリアデ様。お心遣い大変感謝申し上げます。しかしながら事態は急を要します。打ち合わせの後すぐに現地に向かいたいのですが、お判りいただけませんか?」


 「あ・・・そう・・・そうでしたね。早急に壁を作らねば被害が出る一方でした。では応接室へどうぞ。この辺りの地図をご用意いたします。」


 「助かります。サニエル男爵。初代や御先祖様のご活躍については、また今度ゆっくりとお聞かせ願いますか?」


 「勿論です!この地を守り抜いた我がサニエル家の歴史をじっくりとご覧ください!!」


 ふんすふんすと鼻息荒い男爵の後をついていく。


 メイさん、メルロスさん。

 そんな目で見ないで欲しい。

 他にどう言えっちゅうんじゃい!?




 応接室で広げられた地図を見る。


 こうしてみると、ドンダリデ領はホント広いな。

 この土地すべてに魔石バラまいたんかね?

 ・・・現実的じゃないな。


 広範囲ではあろうけど、限定的に使ったんだろう。

 例えば前年度の農作量を参考にしながら・・・とか・・・


 かといって適当に壁を作るのも危険すぎるか。


 余った土地は周囲の貴族の取り合いになるし、その土地が豊作になるとは限らない。

 魔力過多の地が伝染病のように広がったら、さらに厄介だ。

 結局、全周囲を隔離するのが安全か・・・


 ・・・メンドクセエ・・・・


 「ここが我が領になります。」

 トリアデ子息が地図の一点を指差した。




 他国はどうか知らないが、この国の境界って曖昧なんだよな。

 山や谷があればその稜線が境界になり、川があればそこが領地の堺になる。


 隣り合う領地の主の仲が良ければ、なあなあで済む問題でも、代が変われば考え方も変わる。


 しれっと領民を送り込んで土地を占領したり、難癖付けて強奪しようとしたり、果てはコネを使って、王都の保管庫にある権利書を書き換えたり・・・涙ぐましいというか、阿呆な削りあいというか・・・いや、やめとこ・・・


 だからまあ、要所に立ててある標識を頼りに移動するのが常なんだが・・・


 「こうしてみると。北と東側の一部がドンダリデ領と隣接してますね。ここに壁を伸ばしましょうか。」


 「そうですね。幸い、この地域は所々に森があり、魔物も出ます。土地の質も良くなく、開拓は進んでいません。壁を立てるには問題ないかと。」


 「分かりました。早速出ましょう。検問所の壁を伸ばすような形で作ります。問題ありませんか?」


 「はい。私と、周囲の地理に詳しい者がご案内します。」






 ~警備隊長ダースの視点~


 ダースは戸惑っていた。


 『勇者』の話は聞いていた。


 とんでもない魔力を持った子供だと、部下たちが興奮して報告してきたのを憶えている。


 その従者たちも、とんでもない美人だとも・・・


 「ダースさんですね。よろしくお願いします。」


 自分の背丈の半分程度の子供が、にっこりと微笑んでいた。


 皮鎧の冒険者風の出で立ちだが、その佇まいと清潔感が “貴族の子供” であることを示していた。


 「こちらこそ、よろしくお願いいたします。グレイ様」

 『勇者』と呼ばれるのは、あまり嬉しくないらしいとも報告を受けていたので、あえて名前で呼んでみる。



 「ご存じだとは思いますが、ドンダリデ領の隔離を国王陛下から命じられております。すでに被害が出ているようですが現状を教えていただけますか?」


 実に冷静だ。


 「は!被害にあった村に関しては、領主様より事前通告と警戒が呼びかけられていましたので、損害は軽微と言えます。襲われた者達の家族も素早く非難して無事との報告を受けています。」


 これは僥倖とも言える。

 事前の通告と警戒がなければ、村の一つや二つ、一晩で消滅していただろう。

 そうなれば被害の拡大を防ぐのは、もはや無理と言うほかない。


 「分かりました。被害にあわれた方々のご冥福をお祈りいたします・・・ではさっそく向かいましょう。まずは検問所の壁を延長するような感じで壁の制作に取り掛かります。」


 見かけは幼い子供だが、その言動は立派な大人だ。

 トテトテと荷馬車に向かう。


 貴族が乗る馬車ではない、

 商人が使う幌馬車(ほろばしゃ)でもない。

 農作業や荷運びに使われるような、ちょっと風変わりな荷馬車だ。


 それになんだ?

 いつの間にか馬の背に黒猫が乗っているが?

 尻尾が二本・・・魔獣なのか?


 ・・・というか・・・俺の乗る馬が落ち着かない?

 怖がっているのか?


 「グレイ様。相変わらず馬には?」


 トリアデ様が声を掛けた。

 馬に乗れないのか?


 「ははは、コッチの方が楽なのでw 交代で御者もできますしw」


 御者? 貴族の子が?


 「乗馬の練習とかはされないのですか?」


 「いずれしようとは考えていますが、この子がまだ現役なのでw」


 現役?

 ただの荷を引く馬だぞ?

 毛並みは良いが、御機嫌を取るような相手か?


 「あの、グレイ様。ドンダリデ領との境界は結構な距離になりますが・・・そのような軽装では・・・」

 思い切って聞いてみた。


 イロイロ疑問はあるが、いくらなんでも荷台にある荷物が少なすぎる。

 (ほろ)どころか身を守る武器も魔法の杖も見当たらない。

 あるのはカタカタと鳴る樽一個と、二つの木箱のみだ。

 中身はカラか?


 「ご心配なく。アイテムボックスを持っていますので、長旅でも平気です。先導お願いできますか?」


 まるで “近所に遊びに行ってきます” とでも言われているようだ。


 「大丈夫だ。ダース。前回もこんな感じだった。気にせず行こう。」


 まあ、トリアデ様がそういうのであれば・・・





 ~グレイの視点~


 「・・・にしても、静かね~」

 野生児が退屈そうだ。


 メルロスと俺は魔導書を読んでるから気にならなかったが・・・

 てか、メイも魔法使えるんだから勉強すればいいのに・・・


 ・・・が、しかし・・・

 言われてみれば確かに静かだ。


 昨晩もそうだったが、いつもなら街道沿いでも(うるさ)いくらいに虫の音や鳥の鳴き声、どうかすると魔物の唸り声も聞こえてくるはずだが・・・


 《 あ~・・・そゆこと・・・》


 「静かなのはレベルが上がったからだろ。」


 「へ? そうなの?」


 「ダンジョンで暴れまくったからね~ ギルド基準だとスズネなんか “英雄の領域” だしw」


 「へ~ アタシは?」


 「ちっさい魔王?」


 「ちっさ・・・ってか魔王!?」


 「まだ本物には勝てないだろうね。でもそこらの “魔族” とタイマン張れるかも?」


 「ほう。キミは人のレベルが判るのか。」

 おっと失言・・・いまさらか・・・


 「まね。実践ではあまり役に立たないけどw」


 「そうだな。レベルに頼った闘いは底が知れてると聞いたことがある。だが参考くらいにはなるだろう? 特に初対面の相手とは。」


 「そうだね。けどレベルが低いからって(あなど)ってると、“経験” や “引き出し” の多さで容易(たやす)くひっくり返されるからね。あまりアテにはならないよ。」


 ウチの『ワケありメイド軍団』なんか特にねww


 「ふ~ん。そういうものか・・・」


 「そういうことw」


 「んで?レベルと “この静けさ” と、どう関係あんの?」

 野生児が口を(はさ)んできた。


 「恐怖だよ。魔王が道歩いてたら誰だって逃げたくなると思わない?」


 「あ~ って、アタシのせい!?」


 「僕達・・・ねw ちょっと待って。気配隠すアイテム作るから。」


 「初耳だな。そんなアイテムがあるのか?」


 「ま~ね。」

 はぐらかしとこw


 幾つかの魔法円が解析できれば、あとは応用だ。

 アイテムボックスからミスリルを引っ張り出す。


 《 創造魔法ちゃん。ヨロシク・・・早く名前考えろって?・・・失敬w》


 手の中でウニウニと・・・4つのペンダントができた。


 「即席だけど付けてみる?」


 「アリガト・・・別に何も変わらないよ?」


 「気配は薄くなってるよ。メルロスやスズネも付けてみて。」


 「む・・・ほう。こうなるのか・・・」

 エロフ君は何かを感じるようだ。


 「なに?」


 「存在感・・・というのか?周囲に溶け込む感じがするな・・・魔力に影響はなさそうだが・・・」


 「じき慣れるよ。要領が分かればアイテムなしでも出来るようになると思うけど?スズネはどう?」


 「はい。問題なく。」


 「逃げた動物もいずれ戻ってくるだろ。あやうく狩人さん達の食い扶持を無くすとこだった。」


 「そうなったらハリセンものね。」


 「ハリセンものだな。」


 「僕のせい!?」




 ~再びダース視点~


 後ろがにぎやかだ。

 まるで上級貴族がピクニックへ出かけるような、呑気な笑い声が聞こえてくるようだ。


 生き物の気配が感じられない、この恐ろしいくらいの “静けさ” が気にならないのだろうか。


 馬が怯えるので少し距離をとっているのせいか、話の内容が聞き取りにくい。


 レベルがどうこうと言ってた気がするが・・・


 「・・・トリアデ様・・・彼らは・・・」


 「気にしなくていいよ。いつもああいう感じらしい。」


 そうなのか?


 気が付くと、俺の馬も大分落ち着きを取り戻したようだ。

 これなら少しくらい近付いても問題あるまい。


 俺は手綱を少し引き、荷馬車の隣に並んだ。


 「お疲れ様です。何かありましたか?」

 のほほんとした子供が笑顔で話しかけて来る。


 「いえ、ずいぶん賑やかなので大丈夫かなと・・・」


 「問題ないよ。ハリセンの話をしてただけさ。」

 エルフの子供が愉快気に答えた。


 エルフは初めて見るが、なるほど噂通りの美形だ。

 大人になったら、さぞかしモテるだろう


 「は・・・はりせん?」


 「あ~ 子供のオモチャですよ。僕達の間で流行ってるのでw」


 「はあ・・・左様ですか・・・」


 「生き物の気配がないのが、気になる?」

 もう一人の女の子が話しかけてきた。


 うすい栗色の毛が、荷馬車の風にゆるくはためいている。

 将来美人になるであろうその子は、現状を理解しているようだ。


 「そうです。恐ろしいほど静かで・・・」

 思わず本音が出た。


 「大丈夫です。じきもとに戻るハズですよ?」

 男の子・・・グレイ様が笑顔で答えた。


 綺麗な笑顔だ。

 ホントに大丈夫なのか?


 「キミがのんびりしすぎてるから、こうなったんじゃないのか。」

 エルフの子がグレイ様を睨んだ。


 「僕一人に責任を押し付ける気?」


 「あら?か弱い女の子を庇ってあげるのが男の子でしょ?」

 栗毛の子が助け舟を出す。


 「か弱い?誰が?」


 スパパーン!


 小気味よい音が、俺の馬を驚かせた。

 勢いよく跳ねようとする背にしがみ付き、どうどうと落ち着かせる。


 「あ!スミマセン! 大丈夫ですか?」

 グレイ様が身を乗り出してきた。


 「だ・・・大丈夫です・・・今のは!?」


 「ハリセンです。音の割に痛みはあまりないんですよ。説明不足でしたね。申し訳ございません。」


 「い・・・いえ、こちらこそ不躾な事を・・・」


 「にしてもヒドイな。前と後ろから同時になんて・・・」

 グレイ様が二人の女の子を睨みつけた。

 怒っているのか?


 「一方向だけだとキミは避けてしまうだろう?」

 「乙女はか弱いものなのよ?そんな常識も知らないの?」


 「か弱い乙女はハリセンでシバいたりしないと思うけど?」


 「サラフィナ様が気に入ってんだからいいじゃない。お祈りみたいなものよ?サービスよ?」


 サラフィナ様?

 サラフィナ神様のことか??


 「祈りとハリセンを同じ土俵に上げないでくれる?聖職者たちが卒倒するよ?」


 「バレなきゃいいのよ。バレなきゃw」


 「と、言っておりますが、メルロスさん。いかがでしょう。」


 「同意だな。バレなきゃいいのさ。」


 「その図々しさのドコが “乙女” というのか教えてくれる?」


 すぱぱーん!!


 おお!今度は左右から!?


 「痛!・・・こんのぉ!」

 「「きゃ~♪」」


 荷馬車の上で、ドタバタと追いかけっこが始まった。



 ホントに・・・・本当にダイジョウブなのか????




 ~トリアデ視点~


 私は変わった・・・いや、変わろうとしている。


 あの日以来、夜の町に繰り出すことを辞め、酒も断った。


 積極的に領の財政を見直し、時間があれば書を読んだり剣を振っている。

 書物といっても、その大半は先人が残した日記や財政の記録だ。


 学園の大図書館の歴史に残るような賢人の書は無く、その量も百分の一にも満たない。


 いまさら悔やんでも後の祭りだ。


 

 ならば今の私に出来ることは何だ。


 先人の考えを読み取り、父の話に耳を傾け、後世に役立てる。

 せめて父の隣に立てるよう、頼られるように自分を鍛えるしかないじゃないか。


 そう思うと、今まで雑音でしかなかった父の言葉が聞き取れるようになった。

 繰り返される先人の話を、記録に(とど)めるようになった。


 父はそれが嬉しいらしい。


 帳簿を引っ張り出し、10年前、5年前の財政を見比べ、その時々の農地や山や森や川の水量の変化を事細かに語った。


 大した記憶力だ。


 これが『称号無き勇者』と言わしめた実力の一片なのか。



 盗賊退治においてはサルムンド侯爵様に片翼を任され、帰り際には家名ではなく名で呼ばれるようになっていた。

 下級貴族ではなく “同胞” として認められたのだ。


 男爵家としてこれほど栄誉なことはあるまい。

 息子として嬉しく、男として悔しかった。


 《 いつか俺も・・・》


 後ろで “子供らしく” はしゃぐ 『勇者』のお役に立てるのなら・・・


 その思いが俺の身を引き締めた。



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