40 壁
「えー・・・・ナニコレ?」
無事『不毛の地』の屋敷、通称『勇者屋敷』に帰り着いた俺の第一声である。
ずらりと並んだ王族・貴族用の馬車。
屋敷を管理している執事(セバス選抜候補)のロデムが、俺の後ろから声を掛けてきた。
「御父上様からの伝言で『すまない。たいした力になれなかった。』とのことです。」
《 あ~・・・さいですか・・・》
まあ上級貴族とは言え、所詮は底辺の伯爵家。
『王族』やら『公爵』やら『侯爵』の肩書に勝てる道理がないw
「すごいね。何台あるの?」
俺の問いかけに、ロダリは表情を崩すことなく答える。
「王家が7台。エイトラディス公爵家が4台。ドアトリス侯爵家が3台。サンデラ侯爵家から2台。アストラス家が1台。計17台となっております。どの家からも工賃を払うと仰せつかっております。」
感情を押し殺した事務的な答え。
こう言う所はセバスの教育の賜物だよな。
「サンデラ侯爵家からも?ウチと仲良かったっけ?」
「はい。なんでもドンダリデの件で借りができたとかで、最近ではサルムンド侯爵様とも懇意にされていると噂されております。」
どっからその情報仕入れたか聞いていい?
侯爵家の情報だよ?
「・・・まあ・・・分ったよ。お金払ってれるってんならヤるよ。ミスリルやら魔石やら使うけど?」
「すでに手配済みです。」
「アリガト。」
さすがセバスの選抜候補w
だが優先すべきは姉様の誕生日会だ。
これを逃すと後々がメンドウ・・・もとい “後顧の憂い” に繋がりかねない。
「ロデム。僕の衣装用意できてる?」
「問題なく。」
流石ww
「馬車の件は『誕生会』が終わってからやるよ。父上に早馬を・・・」
「すでに出しております。」
ロデム合格www
時間は前後するが・・・
「陽がまぶし~ね~」
久しぶりに本物の日差しを浴びながら『冒険者ギルド』に訪れた俺達を待っていたのは、受付嬢の慌てふためく声と、ギルドに屯っていた冒険者達の騒めきだった。
「おい!生きてやがったぞ!!」
「まじか!何階まで潜ってやがったんだ!?」
ま~ね~w
2か月も音信不通じゃ、そうなるかww
誕生会の知らせがなきゃ、あと数カ月は潜っていたかもねwww
気分は『浦島太郎』だよwwww
「あの・・・グレイ様。ギルドマスターが是非お目に掛かりたいと・・・」
だよね~wwwww
「うん。それについては・・・」
「必要ありません。」
俺の言葉を遮ったのは、スズネだった。
「坊ちゃまは『お家の大事』があるので、攻略中のダンジョンから “やむを得ず” 帰還なされたのです。優先されるべきはそちらであり、それ以外は全て『些事』です。お伺いいたしますが、ギルドマスターの用事とは “各階層のマップと報告” でしょうか?」
背筋をピンと伸ばしたスズネが、真っすぐに受付嬢を見る。
視線をまともに受けた受付嬢の顔が真っ青だ。
「は・・・はい。そのように申し使って・・・おります。」
「では、これを・・・」
消え入りそうな受付嬢の目の前に、紙の束を置いた。
「こ・・・これは・・・」
「20階層からのマップと出現した魔物の種類と能力を記した報告書です。詳細については私達が報告いたします。よろしいですね?」
「は・・・はい!」
いつのまに・・・恐れ入った・・・
「坊ちゃま。私達は後ほど参ります。まずはお屋敷へお戻りください。」
「流石だよ。僕には思いつきもしなかった。任せるよ。」
不出来な貴族子息には出来過ぎた婚約者だ。
念話が聞こえたのか、優しく微笑まれた。
「このくらいしか “お役” に立てませんので・・・」
十分すぎるw
・・・にしても『お家の大事』ってww
上級貴族ともなれば、ただの『誕生会』もそうなるのかwww
俺は悠々とギルドを退出し、不毛の地の屋敷へノテノテと歩いた。
馬車を使えと言うなかれw
思い付きもせなんだよww
◆◆
ってなわけで、なんとか『誕生会』が始まる前に実家に到着したのだが・・・
・・・馬車多くね?
“成人の儀” ならともかく、ただの “お誕生会” だぞ?
屋敷に入るのか?
「グレイ!」
目いっぱい “おめかし” したマリア姉が、俺の姿を見つけるや否や飛び付いてきたのには驚いた。
こんな風に抱きしめられたのは、初めてじゃないか?
いつもなら “冷ややか” ともとれる態度で、お土産をせびってくるのに?
「姉様。遅くなって申し訳ございません。」
「全くだ。あまり心配を掛けさせるんじゃない。」
おっと?
サルカス兄もか?
なんかスマンねw
「ご無沙汰してます兄様。お元気そうで。」
「2カ月もダンジョンに潜りっぱなしな弟に言われてもな・・・無事で何よりだ。」
「ありがとうございます。」
「グレイ。お土産は?」
デスヨネ~
「ローヤルゼリーを持ってきました。後ほど調理してもらいましょう。」
「やた!」
お~いつもの姉様だwww
「マリア。はしたないですよ。今夜は貴方が主賓なのですから、しっかりしないと。」
ゆっくりと歩いてきたのは、アストラス家の当主である父と母だ。
「ご心配をおかけしました。」
「手紙は受け取っていたので、大丈夫ですよ。むしろ私達を忘れてしまっているのではないかと不安でしたがw」
母上ジョークがシュールだ。
「転んでも僕はアストラス家の次男ですよ。」
「そうであって欲しいものだな。」
父上ジョークもシュール。
「さ、お客様がお待ちです。準備を急ぎましょう。」
母に誘われ、俺達は会場へと足を向けた。
◆◆
パーティーは大盛況に終わった。
陞爵し立ての伯爵家にこれほど人が集まるとは・・・
通い始めた学園の “御友人” も多数参加し、名前と顔が俺の脳内キャパを軽く凌駕していたのには参った。
『創造魔法の仮想人格』が慌てふためいて『記憶フォルダ』を作成していたのは笑えたけどなw
ご苦労さんww
今度ちゃんとした名前を考えようwww
サルムンド侯爵はじめとするサニエル男爵、トリアデ子息、トリアンテ男爵、アーロン子息が出席していたのは嬉しかった。
「良い顔になったな。」
ガシガシと頭を撫でてくる侯爵が、柔和な笑顔で声を掛けてきた。
「そうですか?ありがとうございます。」
「ダンジョンでは上級冒険者どもを尻目に、未踏破の階層を攻略しとるそうだな。」
「お耳が早いですね。」
「グレイ様のご活躍のお噂は我が領の冒険者ギルドへも届いています。8階層の異変も何なく解決し、破竹の勢いで攻略を進めているとか・・・」
サニエル男爵が興奮したように付け加えた。
「教会でも大騒ぎになっているようです。本来、神の啓示を授かる神子様が『勇者』として修行に身を投じるなどと・・・一度は解体の憂き目にあった聖規軍が再編成されるよう、王都に申請中だとの噂も流れています。」
そう補足するのはトリアンテ男爵だ。
「それはまた、迷惑な話ですね。」
俺は正直に答えた。
「ほう・・・迷惑か。」
愉快そうに侯爵が俺を見た。
「そうですね。少なくともダンジョンに関しては・・・あそこはソリアン様が修行の為に用意してくださった場です。心身ともに強くなるべきは僕自身であり。聖規軍ではありません。聖規軍の存在は否定しませんし、ダンジョンに入るのも拒みませんが、目的を履き違えないで頂きたいものです。」
「くくく・・・そうよな。」
侯爵がガシガシと撫でる手を止めてくれない。
禿げそうなんだがww
「まあよい。そのあたりは陛下も重々承知しておられる。そう簡単に認可は下りぬだろうよ。ところで壁の件。許可が下りたぞ。」
「そうですか?早いですね。」
少なくとも半年以上はかかると思ってたんだが・・・
「反対しとるヤツ等もいるがな。そういった領地の壁は『あえて作らなくても良い』そうだ。『むしろアンデッドどもを誘導してやるのも面白い』ともな。実に良い顔しておったw」
「いやいやいや、それ泣くのは領民なんですが?」
なんつ~こと言い出すんだ!?
ウチのお偉方は!
「既に “触れ” は出しておる。特に反対派の領民へは『命惜しくば逃げよ』とな。逃げた領民は『難民』として救済措置が取られるように手配しとる。」
エグイことするな脳筋王様・・・
「お主が税収を上げたからな。このような強引な手が打てるのよ。」
半分は俺のせいでしたww
「分かりました。すでに『サラフィナ神』様からの御許可も頂いております。早速、取り掛からせていただきます。」
「おお!」
「サラフィナ神様からもご援助頂けると!」
トリアンテ男爵とサニエル男爵が歓喜の声を上げた。
「壁と結界で『ドンダリデ領』を覆ってしまえば問題ないとおっしゃっていましたので・・・」
「うむ。サラフィナ神のお墨付きか。了解した。」
ガシガシと撫でる手が止まない。
禿げるってば!!!
◆◆
「こうして話すのも久しぶりだな。」
屋敷の書斎。
父と二人きりで話すのも久しぶりだ。
「ご心配をおかけいたしております。」
「よい。手紙は読んでいるからな。疲れてはおらぬか?」
「はい、十分に余裕を持って攻略を進めていますので。」
「そうか。無理はするなよ。ところで、壁の許可が下りたと聞いたが?」
「はい。被害が大きくなる前に、明日からにでも取り掛かろうと考えています。」
「そうか・・・苦労をかけるな。」
「問題ありません。むしろ楽しんでますよ。」
「・・・楽しんでるのか?」
「ドンダリデ領周囲には、まだ行ったことがない領地がありますので。」
「む。そうか。」
「お土産を楽しみにしててください。」
「宝石とローヤルゼリーは置いていくのか?」
「僕が持ってても “宝の持ち腐れ” なので、領の運営に役立てていただければ・・・ただし・・・」
「なんだ。」
「ローヤルゼリーは、貴族間でウワサされてるほどの効能はないようです。健康には良いと思いますが “金貨の雨が降る” ほどではないかと・・・」
「・・・そうか。解かった。」
「ところで気になったのですが、兄様と姉様には婚約者は?」
「まだだ。サルカスには意中の娘がいるようだがな。」
「揶揄いがいがありそうなネタですね。」
「あまり弄ってやるな。ヘソを曲げられたら “白い結婚” になりかねん。」
白い結婚・・・子孫を残すだけの愛情のない政略結婚だ。
「おっと失敬w」
「なんならお前にも紹介するか? 結構いるぞ?『勇者』の肩書に惹かれる者達が。」
「勘弁してください。」
「だろうなw・・・まあよい。出発は明日か?」
「はい。急いだほうが良いと思われますので。」
「うむ。気をつけてな。」
「ありがとうございます。」
◆◆
翌朝。
先に領地に戻ったトリアンテ男爵とサニエル男爵の後を追うように出発した。
移動手段は荷馬車だ。
もちろん “足回り” は快適に改造してある。
輩はスズネ、メイ、メルロスの “いつものメンバー” だ。
「もちょっと休んでからでもイイじゃん!」
休む間もない出立なので、メイがご立腹だ。
「こういうのは早めに終わらせないとね。被害が大きくなってからじゃ目も当てられない。」
「そうだな。アンデッドはアンデッドを生む。いずれ終息が期待できる流行病よりタチが悪い。隔離が早ければそれに越したことはない。」
メルロスさん冷静だね。
「まずはトリアンテとサニエルを目指しますか?」
御者のスズネが聞いてきた。
「そうだね。作りかけの壁を繋いでしまおう。先触れは・・・必要ないかw」
「そうですね。もうご存知でしょうし・・・」
だね。
他領へのアピールにもなるし、さっさと作ってしまおう。
道中
はぐれのオークだの小型のアルケニーだのに遭遇したが、いつものことである。
「アルケニーとは、珍し~ね~。」
手にした糸を弄りながら、誰とはなしに呟いてみた。
魔力の通りは悪くないが、普段使用のジャイアントハンティングスパイダーの糸の方が馴染んでる気がする。
非常用かな?
「条件が整えば出現すると書かれた文献もある。どういう条件かは書かれてなかったようだがな。」
と、返してきたのはエロフ君の豆知識だ。
条件・・・ねぇ
「魔力溜まり・・・澱みって言うんだっけ? あと廃屋があるとか?」
「うむ。ウワサに聞いたことあるな。廃屋にはアルケニーが住み着きやすいとか?」
魔物の生態は、まだよく解かっていないもんな。
「この辺りに廃屋は無いはずですが?」
まだアストラスの領内だからね。
父が “強い魔物が出現しやすい環境” を放置しておくはずがない。
「父に手紙出しとこうか。念のため・・・あっと、馬車の件もあったんだ。ロデムに知らせなきゃ。」
昼寝したいな~~~
その頃
「被害の状況はどうだ。」
サニエル男爵は帰ってくるなり、領内の警備を一手に担っているダースに状況を聞いた。
ダースは元農夫だが、恵まれた体躯と運動神経を買われ、若い頃から警備兵としてサニエル家に仕えている。
太い首と同様に鍛え上げた二の腕は見るものを圧倒するが、見た目に反した穏やかな眼差しは兵士の信頼を集めていた。
「はい。いくつかの村に被害と目撃情報を受けています。壁はまだ出来ないんですか?」
ダースは眉間のシワを深くしながら答えた。
「国王陛下の許可は下りた。間もなく『勇者』様ご一行が壁を作りに来るはずだ。無礼のないように警備担当のものに伝えておけ。」
「おお!やっとですか!!で、いつ頃おいでに?」
「焦るな。アストラス領からなら数日内に到着されるはずだが、ドンダリデ領は広い。近隣の領との兼ね合いもある。それまで我々で持ちこたえるしかあるまい。」
「むう・・・分かりました。」
「案ずるな。この計画には『サラフィナ神』様も賛同されたという啓示も受けておる。コレは正義の鉄槌である。」
「なんと!!サラフィナ神様の!!!」
「警備の者に伝えよ。役職の前に最寄りの教会で祈りを捧げよとな。我々の働きをサラフィナ神様に見ていただくのだ!」
「はは!!」
◆◆
「サルムンド卿からのお手紙です。」
王都
執務に追われるベルトナラキウス・フォン・ヨーデル国王は手を止め、ノルグナー・エイトラディス公爵の差し出した封書を見た。
「うむ。」
手早く封を割き、中身を確認する。
「卿は何と?」
「問題ないようだ。トップの冒険者を追い抜いて50階層に潜っていたようだが、レベルが上がっても人格に変化がみられる様子はないらしい。周囲の冒険者からも聞き取り調査をしたが、模範的な貴族子息らしい振舞いをしているようだ。」
「ほう。メイの方は何と?」
「生き生きとしているようだな。」
「生き生きと・・・ですか?」
「奴隷らしからぬ振舞い・・・か・・・どうやらグレイは『仲間』として自由にやらせているらしい。」
「・・・ほう。」
「商業ギルドに口座を持たせ、金を貯めさせているようだ。いずれ解放するつもりらしい。」
「犯罪奴隷をですか?」
「我々にとってはな。だが命に背くことはあっても、誰かを殺めたりはしておるまいよ。」
「そうですが・・・」
「この報告書通りなら、グレイはメイをうまく操っているようだ。解放についてはグレイの判断に任せてよかろう。」
「承知いたしました。」
「もう一人の『勇者』はどうしておる?」
「密かに攻略を進めているようです。」
「ほう。『監視』が外れて息を吹き返したか。」
「そのようですね。地上では相変わらず酒と女と博打に精を出しているようですが、ギルドからの報告によると確実に深層を攻略しているとか・・・」
「一人でか。マジックボックスでも手に入れたか?」
「確認は出来ていませんが、おそらく・・・」
「ふん。結局どの『勇者』も “好きにさせておけ”・・・ということか・・・」
「そのようですね・・・ところで教会からは何と?」
「聖騎士団の再建申請か? そこにある。」
「・・・ごみ箱ですか・・・」
「ふん。何がアストラス領の神子の護衛だ!彼奴等の中の一人でも単独で50階層を踏破できる者がいると思うか?」
「まあ、無理でしょうね。」
「足手まといにしかならぬ者共など、修行の邪魔でしかあるまいよ。現実を見ぬ者達の夢物語に付き合うつもりはないわ。」
「辛辣ですね。同意しますが・・・」
「学校とやらの補助金の件はどうなっておる?」
「相変わらず、なしの礫です。どうやらグレイ君が50階層までに手に入れた魔石や宝を実家に置いて来たそうなので、財政的には大変潤っているようですね。」
「無欲は相変わらずか・・・そこらの貴族より金を持っていそうだな。」
「ですが、散財している様子はありません。得た金も領地運営に手堅く使用しているようです。」
「貴族の鑑だな。怒らせると怖いタイプだ。」
「そうですね。ではこのまま静観という形で?」
「そうだな。グレイは今どうしている?」
「マリア壌の誕生会に出席した次の日には、ドンダリデ領の壁の制作に出たようです。」
「早いな。近領の被害状況は?」
「全くないとは言えませんが、急ぐに越したことはないでしょう。アンデッドは厄介ですから。」
「うむ。ソレに関しては教会の者共にも知らせておけ。聖規軍云々ぬかす暇があったらアンデッド対策を急げとな。」
「畏まりました。」
◆◆
「うまうま♡」
メイさんが御機嫌だ。
「この『冷ややっこ』?というのか?旨いな・・・とくにこの『せうゆ 』とショウガとの相性が抜群にいい。」
メルロスさんも御機嫌だw
「お気に召したようで何よりww にしても、よく食材が手に入ったね~」
「各地に同胞がいますので・・・」
スズネさんの評価は控えめだ。
俺としては非常にありがたい組織なんだがねww
見かけたらハグしたいくらいにはwww
周囲を気にせず食事と睡眠ができる『シェルタールーム』は、俺達のチームではすっかり定番になっている。
「シェルター」の意味wwww
ともあれ、明日にはサニエル領に着く。
そしたら早速 “壁作り” だ。




