37 愉快な馬車と説教
目の前に馬車がある。
貴族が乗る馬車だ。
家族が乗れるような少し大きなめの馬車。
先日まで下級貴族だったアストラス家は一頭引きか二頭引きが原則だが、上級貴族の仲間入りした現在、四頭引きが許されている。
なので、外聞を考えるなら新しい馬車を購入するのが定番だが・・・
「・・・う~ん・・・」
《 なにを悩んでらっしゃるんです?》
スズネの念話だ。
婚約したときに渡した指輪が『マジックアイテム』で、話さなくても会話ができるようになった。
メイとメルロスは母の『茶会』に呼ばれている。
いまごろ町の奥方様に混じって、茶菓子を貪っているころだろう。
《 父上は新しい馬車を購入するつもりらしいけど、基本構造は同じなんだよな。おそらくサルムンド侯爵が乗る馬車も・・・》
《 荷馬車と同じように『重ね板バネ』を?》
《 足回りはね。取り外しできないけど・・・中も少しイジってみるか・・・》
《 楽しそうですね。》
《 命のやり取りしなくていいしね。すごく楽しいよ。》
俺は馬車に乗り込み、『アイテムボックス』と同じ要領で結界を張り、『空間魔法』で内部を拡張してみた。
《 うお! いきなり空気が薄くなった!? 解除!》
《 大丈夫ですか!?》
《 大丈夫。ちょっとビックリしたけどw》
「 気を付けて下さい!」
怒られたw
その後も、試行錯誤して内部の空間をイジリ倒す。
手に入れた希少なミスリルと魔石を利用して、緊急時の結界が張れるようにした。
『茶会』が終わり、満足そうなメイと、げんなりしたメルロスが戻る頃には、屋敷の居間と同程度の広さを持った “愉快な馬車” が出来ていた。
早速、書斎にいた父を引っ張り出し、セバス、スズネ。メイ、メルロス、で試乗。
《 いやだから、なんでセバスが居んの?》
「・・・とんでもない馬車だな・・・」
父が呆れ顔だw
「サルムンド侯爵閣下に命じられたので、このようにしてみました。」
思うに、侯爵は “閉所恐怖症” 気味じゃないかな?
あの図体だ。
窮屈な思いをしてるんだろうw
ま、この手の『空間操作』は半分趣味みたいなモンだがw
「閣下が・・・陛下に自慢しそうだな。」
「僕としては勘弁して欲しいところですが・・・」
まぁ、するだろうねw
んで、『特注馬車』の大量発注の予感しかしない・・・
「閣下もそう無茶は言うまい・・・が、どうする?王都に行くのか?」
「ダンジョン攻略を勧めたいので “不毛の地” の屋敷に預かって、合い間に制作するという条件でなら・・・」
「分かった。そのように伝えよう。この馬車はこのまま使っても良いのか?」
「どうぞ。『飛び地』の視察用に改造したしたので、使ってください。」
「助かる。」
視察へはサルカス兄も連れて行くらしい。
いずれは『飛び地』の管理を任せるつもりだろう。
親子とは言え “野郎二人” が狭い馬車に揺られるのも、なかなかにツライだろうからなw
せいぜい活用して欲しいものだ。
◆◆
「さて。」
所変わって、俺は今ドンビシャスの教会の祭壇に立っている。
教会本部の依頼を受け、どうしても俺の話を聞きたいという酔狂な連中が王宮に圧力をかけたらしい。
『伝道者』などというフザけた称号の影響か、時々自分でも思いがけないことを口走ることがあるから始末に負えない。
放っておくと本当にダンジョンに突撃しそうな連中が、会堂にわんさと押し寄せている。
暇なのか?
《 なにがどうしてこうなった・・・》
頭を抱えたくなるような現状に辟易しながらも、伯爵子息らしくニッコリと微笑む。
《 ソリアン様降りて来てくんないかなぁ・・・》
《 コールセンター欲しいなぁ・・・》
「皆様、わざわざ遠くからお忙しいところをお集まりくださり、感謝いたします。」
これぞ『多重思考』の無駄使いw
「そのようななことはございません!」
フランネ神父が声を上げた。
《 ってか、何で最前列に座ってんの?》
「神子様・・・失礼、『勇者』様の御話しを聞けるなど、この身に余る光栄でしかありません!グレイ様の御声が聞けるのであれば、たとえ地の果てまでもこの身を投じる所存です!」
《 だから胡散臭いって言われるんだがな~w》
「そう簡単に命を投げ出されても困るのですが・・・とりあえず、そのあたりの話から始めましょうか・・・ここに集まられている皆様のほとんどは教会関係者だと言う事なので少々立ち入った話になりますが・・・僕も全てを知っている訳ではないので、ご容赦いただけると幸いに思います。キリの良い所で質問を受け付けます。」
一息ついた。
サラフィナ様~ど~なってもシランヨ・・・
「まず、ヒトは死んだらどうなるかと言うと、『天国』や『地獄』へ行くということになりますが、その前段階があります。」
《 お釈迦様のように、すんなり天上界に行けると思うなよww》
「つまり、一般の人は心の臓が止まった状態でも、約一日程度は『魂』は『肉体』と繋がっていることがよくあります。この繋がりを『霊糸線』といいます。見えない細い糸で繋がっている状態だと思ってください・・・ですので、死んだ直後の肉体が傷付いたりすると、その『痛み』は『魂』へ届きます。『魂』が『痛い』と感じてしまうんですね。」
「『魂』が傷ついてしまうんですか?」
「いいえ。死んだ肉体の情報が流れていくだけなので『魂』そのものは傷付いたりしませんが、パニックにはなるでしょうね。」
「では、どうすればいいんでしょう?」
《 あれぇ?質問はキリの良い所でっていったよね? ま、いいけど・・・》
「『喪に服す』という言葉があります。亡くなった方の親族が一定期間祝い事などを控えることを指しますが、その中に『肉体』と『魂』を繋ぐ『霊子線』が切れるまで傍にいて『魂』の安寧を願うという意味合いも含まれます。」
「アンデッドになるのは何故でしょう?」
「宗教的知識が不足していたり、強い執着や未練が残ってたりするとなりやすいようですし、レイスが乗っ取ったりする場合もあるようです。」
「元の肉体に戻れないのでしょうか?」
「ごくわずかな確率ですが、戻れることもあるようです。しかし、亡くなったと思われていた人が埋葬寸前に生き返ったりしても、アンデッドと間違えられる場合が多いと聞きます。」
「見分け方はあるのでしょうか?」
「難しいですね。たとえば悪魔や、知能の高い悪霊が乗り移ってしまった場合、故人の生前の記憶を読み取って、本人らしく振舞うこともできるようですので、徳の高い人、あるいは正しい修行を積んだ霊能者でないと見分けるのは難しいと思います。悪魔やアンデッドに関しては、神職である皆様の方が詳しいでしょう。」
「霊糸線・・・でしたか?その糸が切れた魂はどうなるのでしょう?」
俺は天井を見上げた。
どこまで話して良いものか・・・・ままよ。
「霊子線の話をする前に『守護霊』の話をしましょう。その方が解りやすいと思うので。」
「守護霊?」
「守護霊とは、天上界から皆様一人一人を見守るべく降りて来ている霊人のことを指し示します。つまり、『魂の兄弟』である皆様一人一人を悪霊から守ったり、道を示したりする役目を担った霊のことです。」
「レイスとは違うのですか?」
「レイスは人に害を与える者。守護霊とは真反対な性質ですね。」
「御先祖様や先人たちの御霊と関係があるのでしょうか?」
「肉体的な関係性は薄いと思っていただいて構いません。むしろ『心』の繋がりがあるかどうかが重要でしょう。」
「心の繋がり・・・とは?」
「皆様は仕事柄、沢山のヒトに会うでしょう?その中にも “この人は苦手だな” とか “どこかで会ったことがある” とか “傍にいるだけで楽しい” とかいう思いをしたことはありませんか? そういう時は『前世』だったり『天上界』で関係性を持ってたりする場合があります。守護霊はそういった方が選ばれる場合が多いようです。」
「守護霊の役割とは何でしょう?」
「一言で言えば、皆様一人一人を “見守る” という役割があります。皆様が『天上界』から『この世界』に生まれる前に『目標』を持って生まれてきています。この世に生まれた時点で “忘れてしまう” ことが多いのですが、守護霊は皆様が立てた『目標』を達成させるべく『天上界』から働きかけるような存在です。」
「なぜ、忘れてしまうのでしょう。」
「『人生は一冊の問題集のようなものだ』ということです。『目標』を掲げてその道を邁進することは立派な事です。が、同時に『神様』は僕達に『自由』を与えられました。それは掲げた『目標』以上の働きをするも良し、道を見失って路頭に迷うも良し、この世の全てを『修行』とせよという意味でもあります。」
「修行・・・ですか・・・」
「あまり深く考える必要はありません。要は “どうすれば笑顔が増えるか” を考えることから始めましょうかw」
「笑顔が増えるか・・・ですか?」
「『政治』と『宗教』の共通した役割は、国民を幸せにすることです。自分の欲望や執着の為に “その権力” を利用しようをする者には『天罰』が下ります。例外はありません。」
お~
静かだね~w
「さて、ここで『霊子線』の話に戻るのですが、その人の『霊子線』が切れる前から『守護霊』や『御先祖様の霊』が “お迎え” に来てくれます。『向こうの世界』へエスコートするためですね。しかし、一定期間の猶予も与えられます。」
「猶予とは?」
「『この世』での未練を絶つため・・・とでも言いましょうか? 恩師やお世話になった人や恋人や家族に会いに行ったり、見知らぬ土地に遊びに行ったりすることができるようです。」
「未練を絶つため・・・」
「『あの世』に早く馴染むためには『この世」の『未練』や『執着』は邪魔でしかありませんからw」
「その猶予期間を過ぎればどうなるのでしょう?」
「天上界に戻って “答え合わせ” です。」
「答え合わせ・・・とは?」
「天上界では皆様の行動や考えを逐一記録しています。」
お~
ざわつくね~w
「ち・・・逐一・・・ですか?」
「はい。こうした瞬間も。全てです。」
気持ちは判るw
本当は『アカシックレコード』の話をしてもいいんだけどね・・・これまた話がややこしくなりそうでさw
俺は声が静まるのを待った。
「御先祖様や守護霊に天上界にエスコートされた我々が見るべきものは、まず、『この世』での “一生” です。そして天上界で立てた “目標” が達成できているか否かを、御先祖様やその他の所縁ある霊人たちの前で “答え合わせ” をします。」
「そ・・・その “答え合わせ” にそぐわなかった場合は・・・」
「さあ? 人によりけりですが・・・『地獄』へ『反省行』に行く場合もあるようです。」
「そんな・・・」
「『神様』は我々に『自由』を与えられました。同時に『責任』と『結果』も与えて下さりました。」
俺は続けた。
「僕は “称号持ち” と言われていますが、『称号』通りの人生を過ごすか否かは僕の『自由』です。ですが、それに対する『責任』と『結果』は必ず受けなければなりません。」
「では、私達はどうすればいいのでしょうか?」
「『神様』から四つの『教え』を賜っています。」
ざわつき復活ww
「四つの『教え』とは?」
「『愛』『智』『反省』『発展』の教えです。」
「『愛・智・反省・発展』の教え・・・」
「まず一つずつ紐解いていきましょう。『愛』とはまず、自分を愛する事。同時に自分と同等以上に他人を愛することを示します。これは叱咤激励といった表現も含みます。」
「愛する・・・」
「まず、自分を愛さなければヒトも愛せません。自分の心と行動が “神の意” に即しているか、『天上界で立てた目標』に沿っているかを考えてみるのはいかがでしょう。また、あなたの隣にいる人も同様に “目標” を持って生きていますので、それが明らかに “間違っている” のであれば、話し合ったり叱ったりするのもまた『愛』の表現方法の一つだと思うのです。」
「と・・・盗賊退治もですか?」
「聞く耳を持つ盗賊であればそれもいいでしょうが、僕もそれほどヒマではありませんので、とりあえず捕えて兵士さん達に渡しています。裁くのは僕の仕事じゃありませんので。」
?・・・ナゼザワツク?
「グレイ様は・・・その。盗賊退治としても有名なのでは・・・」
「僕は盗賊を殺したことはありませんよ?」
「「「え?」」」
・・・え?・・・
「その・・・『デビルスマイル』という賞金稼ぎは・・・『勇者』様のことでは・・・?」
おい!
野生児!!
後ろで腹抱えて笑ってんじゃない!!!
「え~・・・どのような噂が流れているか存じませんが。僕は『賞金稼ぎ』になった覚えはありませんし、『魔物』と『魔族』以外は殺していませんが?」
「そ・・・そうなのですか?・・・てっきり・・・」
「『神様』は本来、殺し合いを好みません。それが例え『魔族』であってもです。話し合いで解決できるならソレに越したことはないですが、相手が問答無用で殺しに来るなら抵抗するしかないでしょう?」
「では、話し合いで解決できるなら『魔族』を殺さないと・・・」
「そういう選択肢があっても良いと思います。なぜなら『神様』が彼らの存在を許さないのであれば、とっくに『天罰』を与えているのではないでしょうか?」
「そんなことが可能でしょうか?」
「敵対する勢力との『話し合い』において絶対必要条件とは何でしょう?」
「「「?」」」
「敵対勢力と同等、あるいはそれ以上の『脅威』を持つことです。『魔族』の弱点が治癒魔法であることは、みなさんご存知ですね?」
「はい。王宮から、そのような知らせがありました。可能な限り治癒魔法を鍛えよとも・・・」
「この中で治癒魔法が使える方はどのくらいいますか?手を上げてください。」
・・・思ったより少ないな・・・
「もう一つ。生活魔法が使える方はどのくらいいますか?」
約半数が手を上げた。
「本来は『生活魔法』は誰でもが持てるはずですし、『生活魔法』が使えれば『治癒魔法』の獲得も可能なハズですが・・・まあ、良いでしょう・・・実は、もう一つ『魔族』が苦手とするものが判りました。」
「「「!」」」
「『笑顔』です。」
「・・・笑顔・・・」
「『サラフィナ神様』の啓示によると『笑顔』が増えれば『魔族』は本能的に寄り付かなくなるそうです。」
「・・・啓示が・・・」
「これで皆さんは新たな『知識』を得ました。この『知識』をどう生かすかで皆さん一人一人の『智慧』が試されます。」
「試される・・・とは?」
「皆さんが『宗教家』になるために、たくさん勉強をしたのではありませんか?」
「はい。数多くの書を読み、試験に合格しなければ教会で働くことは出来ませんから・・・」
「『智慧』はそういった『知識』の応用編だと思っていただいて結構です。皆様が得た知識を総動員して人々を『幸せ』にすること。『愛』を実践する事。もっと分かり易い表現をするなら『思いやり』を持つことです。」
「・・・思いやり・・・」
「『愛』とは『思いやり』です。よく『愛して欲しい』などと言ってみたり、何かの本に書かれていたりしますが、それは『愛』に対する執着であり、一時的な満足感を得ることは出来ても、永続的な幸福感を感じることは出来ません。本当の『愛』とは貰うものではなく、与えるものです。」
「与えるもの・・・」
「はい。太陽は我々に光を与え、元気にしてくれます。風は種を運び、さわやかさを与えてくれます。水は喉を潤し、涼しさをを与えてくれます。大地は両の足で立ち、生活を支えてくれます。しかも、どれも “対価” を要求しません。与えっぱなしです。これを『愛』と呼ばず、何と呼ぶでしょう?これこそが『創造神』が与えて下さった『愛』と呼べるのではないでしょうか?」
「「「おお!」」」
《 しまった!言い過ぎた!! 俺の信者増やしてど~すんネン!!!》
「つ・・・次に『反省』ですが、教会関係者であるならば、よく『懺悔』や『告白』を耳にすることがあるでしょう。この場合の『反省』とは『過去の自分』を振り返り『神の視点』から『過ち』を認め、同じ『過ち』を犯さないと自分に誓うことです。」
「自分に対して・・・ですか?」
「聖職者とて人間です。むしろ聖職者だからこそ潔白であろうとすべきではないでしょうか? 『反省』は過去の過ちを帳消しにするための作業だと思ってください。くれぐれも同じ過ち、もしくは似たような過ちを繰り返して『反省』したから帳消しになるなどと思わないように注意しなければなりません。でないと『天上界」に戻って大恥をかくのは皆様ご自身ですよ?」
「あの・・・『神の視点』とは・・・」
「「神様」は何故、僕達を『創造』されたのでしょう?」
「経典では神ご自身の似姿を創造されたと・・・」
「それはつまり、『並び立つ同志』が欲しいのではないでしょうか?」
「「「!!」」」
「神様には多くの部下がいます。頼りになる精鋭も。心強い相談役もいるでしょう。彼らもまた『同じ志』を持つ仲間ではありますが、まだ並び立てるほどではありません。何故なら『神様』ご自身もまた『修行』を続けているからです。」
「修行を・・・神は一体何を目指しているのでしょう」
「さならる『幸福』です。」
俺は断言した。
「『神』の『神』たる所以は地上に生きる僕達の幸福です。これは紛れもない事実です。そして『神様』ご自身も『幸福』であり続ける為に僕達に『愛』という力を注ぎ続けているのです。これを『発展の原理』と言います。」
やべぇ・・・危うくパラレルワールドの話に持って行くトコだった・・・
「最後の『発展』とは、『心の発展』を指し示します。つまり『愛・智・反省』の上にあるものであり、僕達の目指すべき『目標』でもあります。これを理解せずして『神の視点』は語れないと思います。なので『神の似姿』である僕達ができることは、過去を振り返り『神様ならどのように解決しただろうか?』と思い続けることだと僕は考えています。」
静まり返っていた。
よし!
ここまで!!
「僕の話は以上です。あとは『原初の経典』からしっかり学んでください。ではこれからダンジョンに潜る準備がありますので。」
逃げるように会堂を脱出。
そのまま、市場へと繰り出した。
多くの呼び止める声がするが・・・聞こえんなww
「スズネ、メイ、食料買い込んでる?」
「はい。」
「もち!」
「メルロス、このままダンジョンに入るよ。覚悟は良い?」
「忙しいな。モチロンだ。」
「上等w」
おっちゃんの独り言
う~ん・・・
出来ることはした。
あとは細々したことをのんびりやるだけだが・・・
メンドイ(汗)
少々、誤字脱字の修正しました。




