35 僕っ娘な先代巫女
少し寝ていたようだ。
白米の甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
腹の虫がヘビーロックを奏でていた。
ギシギシする身体を起こし、馬車を下りる。
「もう大丈夫ですか?」
スズネが心配そうだ。
「うん。大分いいよ。」
凝り固まった筋肉を、少しずつ解す。
《 チャクラ・・・フル稼働してるな・・・ただいま準備中ってかw》
結界は、まだ生きている。
ココで野宿しても問題なさそうだ。
「エルフっ娘は?」
「ここにおる。」
背後から声が聞こえた。
「おっと失礼。元気そうだね。」
「おかげでな。あのような ”奇跡” が拝めるとは、予想だにしなかった。」
「無我夢中だったけどね。良くなって何より。」
「で、何を望む?」
「ごはん。」
そこはズッコケようよw
メイはコケてるよ?
「・・・揶揄っているのか?」
「別に? 期待してないしw」
呆れられた?
オッドアイが綺麗だね♪
「手足の調子はどう?」
「・・・問題ない。生まれ変わったように快調そのものだ。」
「んじゃ、ご飯食べようよ。お腹空いた。」
今日のメニューは
白飯。豆腐とワカメ入りの味噌汁。納豆。ほうれん草とゴマのお浸し。沢庵。カツオのたたき。
すべての食材に感謝。
俺のアドバイスに、喜んでノってくれた “草“ に感謝w
贅沢の極み。
「いただきます♪」
久しぶりの銀シャリだ。
箸がすすむなw
「いつもこんな物。食べてるのか?」
エルフっ娘がスプーンとお椀を両手に、不思議そうに食材を眺めている。
「このメンバーの時だけね。気に入らないならパンとスープも用意できるけど?」
そのメシ寄こせw
「いや。旨い。気に入った。」
残念ww
「冷めないうちにどうぞ♪」
「こういうの “異世界ハーレム” ってんだろうねぇw」
翌朝。
ゆっくり朝食を楽しんだ後、ポックポックと馬車を操りながら呟いてみた。
「美女と美少女とエルフに囲まれた貴族っ子?」
そういう流れになるのか。
「ど定番すぎて気付かなんだわ。」
イザ自分がそういう環境に陥ると、気付かないもんだ。
「よね~。私がヒロインとか・・・ないわ~」
元ブラックOLだもんねw
「“野性味”溢れるヒロインちゃん。『ショートソード』辞めて『巨大ハルバート』とか『特性ウォーハンマー』とかに鞍替えしてみる?」
「やーよ。なにが悲しゅ~て、んなクソ重い武器振り回さなきゃならないのよ。」
ド正論ww
「絵面的にはアリ? ギャップ萌えってヤツw」
「ハリセン作ってくれない? 引っ叩いであげる。」
「剣と魔法のシリアスな世界で、大喜利展開しないで欲しいな。サラフィナ様が大笑いするよ。」
「見られてんの?」
「時々ね。むしろ盗聴?」
「大した趣味ね。」
「気になるのサ。『魔族』の動向やら、ヒトの生存確率やら・・・」
「自分で何とかすればいいのに。」
「影響が大きすぎるよ。くしゃみで “天変地異” なんて笑えない。」
「不便よね。」
「どうだろうね。けっこうニコニコと仕事してるみたいだけど?」
「ワーカージャンキー?」
「ヒドい言われようだね。否定できないけどw」
で、俺が失敗すれば “馬車馬の刑” と・・・・マジ笑えん・・・
「なんぞ気になる言葉が出て来たな。『サラフィナ様』とは『光の神』のことか?」
御者する俺の背に、のしっと乗っかって来たのはエルフっ娘か。
うん。
楽しくないw
「知ってるの?」
「その程度のことはな。これでもあそこに売られる前は教会で “巫女” やってたからな。」
《 あ~らまぁ! “巫女” ひ~ろった♪》
「で?『坊ちゃま』とやら。『光の神』とよく会うのか?」
「時々ね。啓示受けてるよ。」
胸を押して付けているつもりカナ?
「ほ~。その若さで大したもんだな。」
「内緒にしてくれると嬉しいな。」
やっぱり、楽しくないw
「隠しているのか?」
「一部の人間は知ってるけど・・・教会連中が大挙して来るとイロイロ面倒でね。」
グリグリしないで欲しいんだが?
需要があると勘違いしてんのかね?
「それもそうだな。あいつらニコニコ笑いながら平気で嘘つくからな。」
「全部が全部そうだとは言えないけど、やたら拝まれるのは気持ち悪いしね。」
「同感だ。わかった内緒にしといてやる。これで貸し借りなしだな。」
「やっすい貸し借りね。」
メイが呆れてる。
俺も呆れてる。
スズネと変わって欲しいw
「それでいいよ。キミの故郷はどこ?」
「知らん。物心付いた時から教会に居たからな。」
「それはそれは・・・寂しくなかった?」
「それが普通だったからな。外の世界を見るのも初めてだ。」
籠の鳥だったか?
悲壮感が漂ってないだけマシか・・・
「同族のエルフに会いたくない?」
「どうだろうな・・・会ったとしても、何を話せばいい?」
「・・・だよね~」
今日も快晴だ。
エルフっ娘は眩しそうに、外を眺めてる。
そろそろ離れて欲しいんだがw
スズネさん?
オチツコウ。
「そういえば名前聞いてなかったね。」
「そうだな。だがそういう時は自分から名乗るものじゃないのか?『坊ちゃま』」
「そか。僕はグレイ。グレイ・アストラス。隣にいるのはメイ。後ろに控えてるのがスズネ。よろしく。」
「グレイ・アストラス・・・貴族だな。メイにスズネか。僕は『フィーネ』と呼ばれていた。本名は知らん。」
「フィーネは “僕っ娘” キャラかぁ」
メイが面白がってる。
イジリすぎるなよw
「なんだ?ソレは?」
「男の子みたいな喋り方する女の子?みたいな感じ?」
「なんか失礼だな。これでも君達より遥かに年上だぞ。年上は敬うものだろう。」
「ちなみに幾つ?」
《 おっと女性に年を聞くのは・・・俺じゃないからセーフかw》
「今年六十九か? 来年の春で七十になる。」
フィーネの呟きに、俺とメイは顔を見合わせ、ぷっと吹いた。
「僕っ娘同級生~追加されました~♪」
メイさんノってるねw
《 それ禁句だってばw》
「む!何が可笑しい?」
フィーネが少しむくれたようだ。
「内緒にしとくよ。借りを作りたくないしね。」
「む~。」
「『む~』入りま~す♪」
メイさんノリノリw
やめなさいってw
少し賑やかになった馬車での旅は、なかなかに楽しかった。
三日目
ようやく、アストラス領の検問所が見えて来た。
途中。
珍しいことに『コカトリス』と遭遇したが、俺の『水風船』とメイの斬撃で食材になった。
市場の怪しい鶏肉じゃない。
前世ぶりの『親子丼』。
メイが泣いてたねw
そんなこんなで、メイとフィーネも大分打ち解けて、今では荷台の上でオセロに興じている。
「久しぶりの我が家だね~」
手綱を握る俺の声が、少し上ずっている。
「懐かしい気がします。」
隣に座るスズネも、どこか嬉しそうだ。
「帰ったら、ひとしきりイジられるんだろうな~ 末っ子の宿命か。」
「仲の良い御家族ですからね。」
「いがみ合うより遥かにいい関係だけどね。また着せ替え人形かな~」
「それはもうないと思います。坊ちゃまの背が伸びたので、サイズが合わないかと。」
「そうなの?嬉しいね。そのうちスズネに届くかな?」
「私は・・・今のままでも・・・」
長い行列に並ぶ間に、イチャコラムーブを楽しむ。
一人旅を夢見ていたが、こういうのも悪くない。
背後霊のような二人の冷たい視線を感じるが、何するものぞw
馬に蹴られて死んじゃうよ?
のほほんと現状を楽しんでいると・・・
「!! グレイ様! こんなところで何をしてらっしゃるんです!? オイ!グレイ様がお帰りになられたぞ!! 早馬を出せ!!」
「あ・・・ちょ!・・・まって!」
まるで待ち構えていたかのように、ダカダカと走り去る伝令。
《 あっら~・・・そっか、俺アストラス領のユーメー人(貴族の子)だった・・・》
「流石は貴族だな。手際がいい」
フィーネがのしっと、背中に乗っかって来た。
ちゃんと食べてる?
「迂闊だったね・・・兵士さん。馬もう一頭ある?」
「あ・・・はい。緊急用にもう一頭ご用意できますが?」
「スズネ。悪いけどセルア商会長に屋敷まで来るように伝えてくれる?儲け話があるってねw ノワール。商会長の居場所分かる?ナビよろしく。」
「畏まりました。」
「にゃ!」
「少しお待ちいただければ、馬車をご用意できますが・・・」
「コレでいいよ。やっと御者に慣れてきたところだからw このまま屋敷に行くよ。」
列を離れ、ぱっかぱっかと門を通る。
順番待ちの皆さんには申し訳ないが、意固地に並んでると騒ぎが大きくなるばかりなんでね。
ごめんねw
検問所から屋敷までは、少し距離がある。
ま。外敵からの侵略を警戒する意味でも、領界や検問所付近に屋敷を構えるのは得策じゃない。
このペースだと一日くらいは掛るか?
今気づいたんだが・・・スズネの居場所がおよそ判るようになっていた。
スズネも気付いているようだ。
ノワールも?
《 急がなくていいよ。フィーネがいるから、酔わないようにノンビリ行くよ。》
《 分かりました。でも、どうして急に?》
《愛の力w って言いたいトコロだけど、おそらく『指輪』だろうね。『マジックアイテム』だしw》
《 指輪の・・・》
《 いい機会だから、何処まで遠距離通話できるか、試してみようか?》
《 分かりました。浮気はダメですよ?》
《 これじゃあねぇw まだ6歳だしww》
《 そうでしたねw》
《 次いででいいから、市場に寄ってくれる?オリーブって解かるかな?こんなの・・・》
イメージを送ってみた。
届いたようだ。
《 見たことありますね。これが?》
《 その果物の油が美肌効果に・・・やる気出たねww》
《 女ですからw》
《 期待に答えなきゃね。あと、『魔物除けの香』も解析したいから手に入れといてくれる? 愛してる。》
「念話か。」
フィーネさん?
「聞こえた?」
盗み聞きは如何なものでしょうw
「雑音だらけだがな。聞こえないことはない。盗聴対策してないのか?」
「まともな念話は初めてだからね。盗聴対策ってどうやるか知ってる?」
「知っているが、一つ貸しだな。」
「がめついねw “世渡り上手” って言われたことない?」
「なんだそれ? 嫌味か?」
「誉め言葉だよ。あとで教えて?」
「分かった。」
「メイ、オリーブあるみたいだね。油の抽出の仕方知ってる?」
「知ってるよ。前にやったことあるし。」
「オリーブ石鹸は?」
「もち。」
「上等。商会はスズネが知ってるから、そこへ売り込んでね。」
「セルア商会じゃダメ?」
「事情があってね。後で説明するよ。ヨロシク。」
美容関係は女性陣に任せるか。
ガキんちょが出る幕ないしなw
さて・・・
メモを見る。
《 貴族用の足回りね・・・取り外し・・・は無理があるか・・・脱輪したらシャレにならんし、結界は魔石使うか。緊急時のみに展開できるように・・・テントにも使えるか?》
「何見てる・・・ほう、貴族の馬車に、何かするのか?」
「それ念話?」
「おぼろげながらな。こうして触れていると何となく分かる。僕との相性がいいんだろうな。」
「それはそれで、ちょっと恥ずかしいかな? 裸を見られてるみたいで・・・」
《 坊ちゃま?》
「おっと、君の婚約者が怒ってるな。失敬w」
ケタケタと笑いながら、身を放す・
《 マジ勘弁して欲しいんだが・・・》
「婚約のことは、まだ内緒にしててね。面倒なことになるから。」
フィーネがニヤリと笑った。
「貸し二つだな。」
《 やれやれ・・・とんだ “拾い者” だな・・・》
屋敷では、セバスや『ワケありメイド団』の他、セルア会長までが出迎えてくれていた。
到着するや否や、セルア会長を有無を言わせず荷馬車に放り込み『とっちゃん』のもとへ送り出す。
御者はメイだ。
バージョンアップする前の状態に戻してあるし、設計図も持たせた。
後は丸投げだw
「え? え!? えええ~~~!!! なにこれナニコレなにこれ~~~!?」
ナニコレ珍〇景~♪
ユニークな叫び声を見送り、屋敷に入る。
居間には家族が揃っていた。
「今の奇妙な叫び声はセルアか? 何をした?」
父が訝しんでいる。
さっそく俺が何かしたと思っているんだろうな。
正解w
「ちょっと思いついたことがありまして、セルア会長とドワーフにお願いしたところです。」
「トリコネア・トラハス・トアギタス・サネアか。水車や風車の件でかなりヘソを曲げてるようだが?」
「挑戦状ですよ。今回は『とっちゃん』のドワーフ特有の拘りが必要不可欠なのでw」
「ほう。面白そうだな。で? 隣のエルフは何だ?」
「フィーネと言います。ドンダリデの屋敷に囚われていました。」
「フィーネだ。よろしくな。」
仮にも “伯爵” なんだが?
言うだけムダかw
父も気にしてないようだ。
「む・・・フィーネ・・・聞いたことあるな。」
「教会で『巫女』をしていたとか・・・」
「・・・先代巫女さまか!?」
お~ざわつくね~
「お亡くなりになったと聞いていたが・・・」
「いろいろあって、ドンダリデに幽閉されていたようです。」
「そうか・・・閣下はご存じか?」
「いえ、発見したときは裸同然でしたし、フィーネが口を聞いてくれたのも閣下と別れてからでしたので。」
「お伝えせねばな。」
「それは勘弁してくれ。」
フィーネが口を開いた。
「やっと外に出られたんだ。また教会に閉じ込められるのはゴメンだ。」
「しかし・・・」
「僕はグレイに助けられた。その恩を返したいと思う。ダメか?」
フィーネが俺を見た。
すがるような目だ。
「父上。先代巫女は亡くなられたとおっしゃってましたが、それは周知の事実として知れ渡っていますか?」
「・・・そうだな。こんな田舎まで知られているくらいだ。」
「だったら、そのままにしておいては?」
「なぜだ?」
「フィーネの話だと、物心つく前からおよそ70年も教会に閉じ込められ、今回の事件で、やっと外に出られたそうです。父上は耐えられますか?」
「・・・無理だな・・・わかった。止むを得ん。フィーネ殿、名を変える気はありますか?」
「僕の本名は知らない。教会の皆が『フィーネ』と呼ぶから、そうしていただけだ。今更名を変えても問題ない。」
「分かりました。名を変えてもらいましょう。・・・そうだな・・・セルアに頼んで、知り合いの子として預かっていることにするか・・・フィーネ殿。教会に戻りたくなったらいつでも言ってくだされ。」
「感謝する。一つ借りだな。」
「「「・・・え?・・・」」」
ひとまず、フィーネは客人として預かることになった。
マリア姉が興味津々だったからな、良い遊び相手になってくれるだろう。
ついでにマナーも学んでもらえると嬉しいが・・・
無理かw
夕食後。
父の書斎に呼ばれた。
「サルムンド侯爵閣下から手紙をもらった。ドンダリデはかなり不味いことになってる様だな。」
「もう来たんですね?」
早いな。
「うむ。お前の進言で壁を立てると言ってる様だが、反対派がいるようだ。」
「流通に影響が出るからですか?」
「そうだな。危機感が無いと怒っておられているようだ。」
そうだろうな。
主要な流通ルートの一つが潰れるのは、商人にとっては手痛い出費だろう。
ドンダリデ周囲の貴族は喜ぶだろうが、王都の物価は否が応でも上がるだろうな。
国王陛下・・・いや、ノルグナー公爵と官僚さん達の胃が持つかな?
「アストラス領の流通にも影響が出ますからね。父上は反対ですか?」
「いや、お前が良く知ってるだろう。閣下と現地にいたのだからな。反対はせんが、できるのか?」
「少々時間は掛かりますが、不可能ではないと思います。むしろやらないと、被害が広がりそうですし・・・」
「わかった。私も親しい者達に手紙を書いて、協力してもらうように要請しよう。それと、フィーネ殿の件だが、どうするつもりだ。」
「しばらく行動を共にしようかと考えてます。身寄りがないようなので・・・いずれは落ち着ける場所が見つかればいいのですが。」
「エルフのことはエルフが良く知っている。知り合いにいないのか?」
「特殊な環境で育ったようで、周りには人間しかいなかったようですね。そのせいでしょうか、ああいった言葉遣いになってしまったのは・・・」
「そうか・・・まあいい。思うようにやって見ろ。いざとなったらノルグナー公爵の知り合いに丸投げしてみるのも手かもしれんな。」
「同族に丸投げですか・・・環境の変化に対応してくれるなら。それもいいでしょうが・・・考えておきます。」
「しょい込み過ぎて無理はするなよ。」
「分かりました。」
お待たせしました。
っつ~ても、なかなか事態が進行せず、落ち着けるのはGW過ぎてから?
また数日中に投稿できるように頑張りますw




