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34 ドンダリデ領と魔導書


 ドンダリデの屋敷は半壊していた。


 屋敷の周囲には、大小のテントが立てられ、兵士が周囲を警戒している。


 負傷者もいるようだ。


 「グレイ・アストラス!アストラス伯爵の次男です!サルムンド侯爵閣下はご無事でしょうか!?」


 「あ。グレイ様。大丈夫ですよ。公爵閣下はテントでお休みになられてます。ご案内します。」

 兵士の一人が案内してくれた。




 「おお!来たか、グレイよ。」

 魔道鎧を纏った侯爵が、優雅に紅茶を飲んでいた。


 《 呑気(のんき)に茶ぁシバいてるよ・・・この人・・・》


 「閣下、ご無事で・・・この惨状は・・・」

 「うむ。調査の途中で『魔族』の奴らが乗り込んできての、なかなか手強い奴等だったが、追い返してやったわい!」

 豪快に笑う。

 久しぶりの戦闘で、高ぶってるんだろう。


 「複数の『魔族』ですか。よくご無事で。」

 「うむ。アイテムボックスが無ければ、危なかったのう。グレイ。感謝するぞ。」


 「お役に立てて何よりです。屋敷の半壊も奴らが?」

 「うむ。暴れるだけ暴れよってな。この有様じゃ。」


 「閣下。子爵様は・・・」

 「瓦礫(がれき)の中じゃ。生きてはいまいの・・・」



 周囲に『魔族』の気配はない。

 メイも首を振っている。


 「調査は・・・というより、子爵の御家族は?」

 「うむ。無事じゃ。王都に居る。」

 家族が残っただけマシか・・・


 「閣下。ドンダリデ領内に長く居ることはお勧めできません。先ほど農地の土を見ましたが、魔力が濃すぎて話にならないようです。アンデッドも出ていますし『魔族』が寄って来たのも、そのせいかと思われます。人体にどのような影響が出るか・・・」


 「そうじゃの。この数日で、文官共の体調も(かんば)しくないようだしの。負傷者もおる。資料を集められるだけ集めて、ドンダリデを出た方が良いか。」

 「負傷者は僕が何とかします。帰還の準備を。」

 「うむ。任せる。」




 負傷者は少なかった。

 死者が出なかったのは、訓練の賜物だろう。


 ほぼミドルヒールで直ったが、出血が多く動かせない者もいる。

 「じき僕の荷馬車が来ます。そちらで運びましょう。」



 テントから出ると、数人の兵士が何かを囲んでいた。


 《 負傷者? まだいたか。》


 「怪我人ですか・・・!?」


 女の子?

 右肩と、両足の膝から下が無い。

 傷口も乱暴に布と紐で巻かれただけだ。

 左目にも血の滲んだ薄汚い布を巻かれ、破れた貫頭衣の隙間から傷が見える。


 そして、何より目を引いたのはその尖った耳だ。


 《 “エルフ”・・・ 玩具(おもちゃ)にされたか。》


 上着を脱いで少女の身体を隠した。

 力なく暴れたが、まあそれだけ元気がある証拠だ。


 「大丈夫。助けに来たよ。」

 ハイヒールで傷と体力を回復させ、クリーンで身綺麗にした。。


 「メイ、戸板と着替えを・・・馬車に乗せる。」




 負傷者を馬車に乗せ、侯爵のテントに戻った。

 中は沢山の資料と、金銀や宝石がテーブルに山と積まれていた。


 「準備できたか。だいぶ貯め込んでおったようじゃな。」

 「脱税・・・いや盗賊ですか・・・ご遺体は?」

 「上半分だけはの、放っておくとアンデッドになりかねんから処分じゃな。」


 ふと、テーブルの隅に置かれていた書が目に入った。

 「閣下。コレは?」

 手に取ってみる。

 かなり薄汚れているが、魔導書だ。


 「それか?魔導書のようだが、何も書かれておらん。分かるか?」

 「表紙にも何も書かれてませんね。封印されているのかも・・・」

 「()けるか?」

 「ここでは何とも・・・お預かりしても?」


 「・・・うむ。よかろう。」

 「金銀や宝石は王都へ?」

 「そうじゃの。一旦没収して、避難民への補助金かの?」

 「そうであって欲しいですね。男爵領も大いに助かると思います。各町村への呼びかけはどういたしますか?」


 「すでに始めておる。近隣の領から使者が出ておるはずだ。気になるか。」

 「この地には長く居たくありませんから。避難は早めに終わらせた方が良いかと思います。」

 「そうだの。“不毛の地” が増えるか・・・ドンダリデめ・・・愚かなことを・・・」


 「閣下。進言してもよろしいですか?」

 「よい。話せ。」


 「僕の見立てでは、これから10年くらいはこの状態が続くと思われます。アンデッドなどの不浄な魔物も次々を湧いて出るでしょう。この際ドンダリデ領全体を壁で囲んで隔離するのがよろしいかと思いますが。」


 「ぬ。あの黒い壁でか。」

 「他領の財政を圧迫しなければ、その領で作っていただいても構いませんが?」


 「・・・わかった。この話は一旦持ち帰る。陛下の許可を頂かなければな。お主は帰るか?」

 「そうですね。今回の報酬を頂いて帰りたいと思いますが。」

 「ほう。何か欲しいものがあったか?」

 「エルフの女の子を。」


 「アレか・・・キズものだが?」

 「身体は傷付いても、心は生きてますよ。さっきも抵抗されましたし。」

 「養うのか。ダンジョンはどうする。」


 「勿論、攻略は勧めます。そろそろ中間層への突入も考えてますし。」

 「そうか・・・好きにせよ。物好きな奴よな。」

 「よく言われます。では。」


 外では兵士達が帰りの準備を始めていた。

 大小のテントが(たた)まれ、荷馬車に積まれて行く。

 ドンダリデの屋敷にあった資材だろう。

 馬も無事なようだ。


 半壊した屋敷から木材が運ばれ、組まれて行く。

 その上に、多数の遺体が置かれた。

 従者だ。

 巻き込まれたんだな。


 前世の記憶では、死んだ後も24時間は霊糸線(れいしせん)が遺体と繋がったままだという。

 つまりその間は、遺体が傷つけばその『痛み』は魂にも届くらしい。

 焼かれれば、その苦しみはどれほどのものだろう。


 本来なら家族の元へ持ち帰って手厚く供養すべきなんだろうが、持ち帰った先でアンデッドになられてもな・・・


 《・・・ままならんな・・・》


 次々と火をくべられ、焼かれていく遺体に手を合わせた。

 せめて安らかに・・・




 部隊がゆっくりと動き出した。


 これが平時なら。ドンダリデ侯爵がダカダカと馬を走らせて陛下への報告を急ぐだろう。


 だが今は動けぬ負傷者もいるし、アンデッドも多く徘徊している。

 生者の気配を感じれば、瞬く間に寄って来るだろう。


 「分かっておるな!彼奴等は切るだけ無駄だ!四肢を落とし、頭を潰せ!」


 侯爵の号令で、一塊となって帰還を急ぐ。


 「む! レイス(悪霊)もおるの。厄介な。」

 「僕が対処します。侯爵は スケルトン と ゾンビ を」

 「任せた。」


 レイスは肉体を持たない悪霊だ。

 前世の世界では目に見える悪霊はごく少数だが、こっちの世界の悪霊は魔力の影響もあってか半透明の姿で見える場合が多い。


 生前の姿であったり、昔ながらのシーツを被ったような姿で飛び回るヤツもいる。


 オバQかよ!


 まあ姿形(すがたかたち)はどうあれ、現世に強い執着を持った心無き魂である場合が多い。


 中には天国や地獄と言う概念が理解できなかったり、知識不足のまま死んだり、自分が死んだことさえも理解できなかった者が、心を持ったまま レイス や アンデッド になる者もいるが、話がややこしくなるため説明は控えている。

 どちらにしろ神聖魔法で浄化してしまえば、天界の救援隊(天使)が何とかしてくれるだろう。


 丸投げと言うなかれ!

 苦情はドンダリデ子爵へどうぞw


 広域指定:ターンアンデッド


 空中に向かって放つ。


 「スズネ!数が多い!マナポーション準備しといて!」

 「はい!」


 《 領の人口ってどれくらいだ? 多くないか? 御先祖様までこの “バカ騒ぎ” に参戦してるとか? 冗談じゃないぞ!?》


 「! 御主人様!『魔族』! 3時の方向!!」

 「閣下!! 結界を張ります! 気を付けて!!」


 空気も通さない強固な結界で、アンデッドを押しやる。

 ほぼ同時に、目もくらむような閃光が視界を塞いだ。


 《!! 魔力砲!?・・・遠距離!? 》


 結界でステップ作り、宙を駆ける。

 ある程度離れてから、再び結界を張り直した。


 短い時間だが “ティータイム”だw


 《 ・・・あれか・・・⦆


 三人の『魔族』を確認。

 結界を並べてダッシュ!


 「ノワール。手を貸して。」

 「にゃ!」

 胸元のポケットの陰から飛び出したネコマタが、地面に降りる。


 《 どっからでも出て来んだなw》

 《 ズボンから出て来たら笑えるんだがww》


 おっと!また撃って来た。

 問答無用ね。

 上等!!!


 そこら中に結界をバラマキ、立体起動で距離を詰める。


 お!

 ノワールが『魔族』の一人を ”影” に引きずり込んだか。


 気を取られている隙に、もう一人を水風船に閉じ込め、さらに結界で圧縮。

 鼻と口から無理矢理 『水』 を押し込んだ。

 たんと召し上がれ♪


 「きさま!」

 「名は聞かんよ。エリア・ハイヒール。」


 二人まとめて “爆散” した。


 《 やっぱり『治癒魔法』には弱いか。サラフィナ様には感謝しかないな。》


 感慨にふける前に、踵を返す。

 部隊を囲んでいるのは『密な結界』だ。

 窒息されても困る。


 《 おろろ・・・何だ!?》


 頭がフラフラする?

 もしかして 『レベル酔い』?


 《 前回の時は無かったんだが・・・二人人まとめてはキツかったか?》


 ノワールが一人相手にしてくれて良かった。

 でないと、この場で ”ひっくり返って” た。


 急いで “足場” を形成し、飛んで帰る。


 ココが王都なら、新たな伝説が生まれるところだw





 アンデッドの数が激減していた。

 レイスの多くも散ったようだ。


 「閣下。結界を解きます。」

 掃討戦の再開だ。





 「ご苦労だった。見事な戦いぶりだったぞ。」

 「ありがとうございます。ノワールのおかげです。」


 スズネから貰った『マナポーション』を煽る。

 『レベル酔い』がポーションで治ることはないが、せっかく用意してもらったんだ。

 “飲まない” という選択肢はないw


 《 にしても・・・見えてたんかい! 結構な距離あったぞ?》


 まあ。

 流石に三人相手だと、能力解析の余裕もないからな。

 向こうも “奇襲” だったし、文句は地獄で言ってくれ。

 聞こえんがなww



 ノワールが三つの魔石を運んで来てくれた。

 ・・・デカいな・・・これは “酔い” もするか・・・


 「これは彼奴等の『魔石』か。どうする?」

 侯爵が聞いてきた。


 「領の封鎖の『証拠』になりますので、国で買い取っていただけませんか?『学校』の運営資金にしたいので。」

 「うむ。よかろう。ギルドで受け取るがよい。」

 「ありがとうございます。」


 再び、隊を組んで進み始めた時、メイが耳打ちしてきた。


 「いいの?オークションに出せば何倍にもなると思うけど?」

 「領の封鎖には反対?」

 「そういうんじゃないけど・・・」

 「構わないよ。もっとスゴイもの手に入れたしw」

 「エルフ?」

 「後でね。」


 《 まさかあんなモノが手に入るとはね・・・サラフィナ様もお人が悪いw》


 荷馬車で寝転がり、ステータスを開く。

 Lv.38 になってた。

 MPも大幅に増え、1万5千を越えている。


 ちなみにノワールの『鑑定』は出来ない。

 『神獣』にレベルはないのか?

 よくわからない。




 検問所には、誰一人かけることなく到着した。


 「門を封鎖せよ。許可あるまで誰一人通すな。」

 「は!」


 閉じた門に、結界を張っておいた。

 何もしないよりはマシだろう。


 「儂はこれより、王都に報告に行く。トリアンテ、負傷者を任せても良いか。」

 「はい。お急ぎください。」

 「頼む。行くぞ!」


 《 せっかちさんだねぇ・・・ま、今回は急いだほうがいいかw》


 ダカダカと走り去る一行を見送り、俺はエルフの娘を見た。


 何を話すことも無く、ぼうっとあらぬ方向を見ている。


 「グレイ殿はこれからどうされますかな?」

 アルアス男爵が馬上から聞いてきた。


 「一旦、帰ろうと思います。陛下の御許可が出れば、また壁を作りに来ますよ。」

 「そうですか。せめてもう一晩だけでも思っていたのですが・・・」

 「御心使い感謝いたします。では、一つお願いがあります。」


 「何なりと。」

 「レーズン酵母で特許申請をしていただき、もし財政にゆとりが出るようであれば『私塾』を立ち上げていただけませんか?」


 「ほう。『私塾』ですか。」


 「アストラス領では孤児は教会で引き取っていますが、希望者の子供達には両親の有無に関わらず『学校』で読み書きや計算を教えています。教師は引退した大工や、商人たちで、小遣い稼ぎ程度ですが “弟子” の選抜も兼ねて協力していただいてます。5年10年後の未来の為に。」


 「未来・・・ですか。」


 「面白いですよ。僕が舌を巻くような “柔軟な思考” や “発想力” を持った子達が沢山います。彼らが仕事を持ち、国の為にその能力を発揮する未来・・・楽しくなりませんか?」


 「ふふ・・・そうですな。」


 武装しててもニヒルだな!

 惚れていい?

 婚約者いるけどw


 「では、そろそろ参ります。父上に報告した後、ダンジョンに潜って遅れを取り戻さなければ。」

 「御武運をお祈りいたしております。」


 「ありがとうございます。男爵様もお元気で。」




                  ◆◆




 「おかえりなさいませ。」


 男爵邸に戻ったトリアンテ・アルアス男爵は、先に戻っていた息子たちを見た。


 アーロン・トリアンテ17歳。長男。文武に優れ。跡取りとしては申し分ない。

 ダリア・トリアンテ15歳。次男。少々おちゃらけてはいるが。武においては類まれな才能を持つ。兄を慕い。領民のウケもよい。


 「領内の様子はどうだ。」

 トリアンテは居間にある愛用の椅子に座りながら聞いた。


 「やはり残党が潜んでいたようです。彼奴等の話によれば、ドンダリデはもう終りだと言っておりましたが・・・」

 「そうだな。これから10年は “不毛の地” になるだろう。いまサルムンド侯爵閣下が王都に報告に行き、ドンダリデ領の完全封鎖を国王陛下に進言するとのことだ。」


 「完全封鎖!! そんなにヒドいんですか!?」

 「うむ。アンデッドやレイスがうようよしとった。『魔族』もおったな。」


 「魔族!よくご無事で・・・」

 「『勇者』殿が同行してくれたおかげでな。命拾いしたわ。」


 「『勇者』さま・・・どのような御方で?」

 「見かけは只の子供よ。だが、その天才的な発想と強大な魔力は、我々凡人にはとうていマネできまい。現に、新たな事業の提案もしていただいたしな。」


 「事業の? どのような?」

 「『レーズン酵母』と『私塾』の立ち上げよ。アーロン、ダリア。覚悟しろよ。これから忙しくなるぞ。」




                   ◆◆




 「ん~とぅ」

 馬車の荷台でエルフの娘の様子を見ながら、俺はペンを走らせていた。


 「何やってんのよ?」

 メイが覗き込む。


 「やることが多くてね。メモってた。」


 ①ザッカ・タラギュース → シバく

 ②重ね板バネ → とっちゃん

 ③貴族用 → とっちゃん(サルムンド侯爵閣下、結界付き)(保留)

 ④ミンサー → とっちゃん(保留)

 ⑤魔物除けの香解析 → カレー?

 ⑥ドレッシング → 植物油 → 美肌効果?

 ⑦レーズン酵母パン → アルアス男爵に丸投げ

 ⑧魔導書、エルフ

 ⑨ルーム・転移魔法


 「なにこの保留って?」

 「とっちゃんに押し付けるのは良いけどさ、一度に幾つもってのもどーかな~って思ってさ。」

 

 「 “こだわりのドワーフ” だもんね。お酒のオアシス作ったらやるかもよw」

 「とっちゃんの肝臓を酒浸しにするつもりはないよ。」


 《 酒のオアシスね・・・飲み干してしまうのが想像できてしまうww》


 「とりあえず、カレーと植物油は、すぐにでも欲しいところね。」

 「美肌効果?」


 「そ。女の子の永遠の課題よ。」

 「スズネ。聞いた?一枚噛んでみる?」


 「はい。是非。」

 「んじゃ、クッションとキャスターはセルア商会かな?」


 ”余りもの” 扱いでやんすww


 「商会長の大喜びする顔が目に浮かぶわね。」

 「だね。とっちゃん過労死するかも。」


 「飲み過ぎて死ぬのと過労死と。どっちが幸せかしら?」

 「さあね。僕は断然 “老衰” を選ぶけど。」


 「御主人様に “青春” っていう言葉の意味を教えてあげたいんだけど。」

 「間に合ってますw」


 俺は魔導書を取り出した。


 「それ?サルムンド侯爵から取り上げたヤツ。」

 「人聞き悪い言い方だね。借りたんだよ。返せる自信はないけど。」


 「万引きじゃん。」

 「許可貰ってるから、万引きじゃないよ。」


 「横領?」

 「是が非でも僕を犯罪者にしたいのかね?」


 「面白そうだしw」

 「いい趣味とは言えないね。キミ僕の奴隷だから巻き込まれるよ?」


 「前言撤回させていただきます。」

 「いい娘だね。アメちゃんあげよう♪」


 男爵領で買ったアメを口に放り込む。

 ビート粉末で作った飴らしい。

 キャラメルみたいな味がして、俺もお気に入りだ。


 幸せそうに口をモゴモゴさせている “野生児” を尻目に、魔導書を開く。


 何も書かれていない。

 とりあえず『クリーン』


 お? 反応あり?

 程よく綺麗になった魔導書に魔力を流してみる。


 「げ!!」


 魔草書が “白い光の粒” となって、消えた。


 「どした?」

 メイが覗き込む。


 「魔力流したら消えた」


 「あら~~~ 知~らないっと。」

 薄情な “野生児“ が、そそくさと御者台に逃げた。


 ステータスを開いてみる。


 《 こういう “仕様” になってるのか・・・》


 ステータスに、新たなスキルが追加されていた。


 《 “創造魔法” ・・・ね。こりゃイロイロできるかね♪》


 「何かありましたか?」

 御者を交代したスズネが、心配そうに覗き込んできた。


 「問題ないよ。ちょっと引き出しが増えただけ。」

 「スキルですか?おめでとうございます。」

 「ありがとう。さて・・・」


 アイテムボックスから『アッポ』とコップを一個取り出す。


 『アッポ』とは『apple』。

 つまり『リンゴ』だ。


 風魔法と結界で、ジュースにしてエルフの娘に差し出す。


 この娘の声を、まだ聞いたことがない。


 前歯がない。


 奥歯はかろうじて残っているので噛めないことはないし、話せると思うんだが。


 朝食では、肉や魚を口にしようとはしなかった。

 菜食主義者かね?


 スズネの説明では、人間と同じものが食べられるようだが?


 「飲んで良いよ。」


 俺の言葉に、恐る恐るコップに手を伸ばす。


 生きようとする意志はあるな。

 言葉も理解できるようだ。


 「この娘、どうなさるおつもりですか?」

 「生きようとする意志はあるみたいだからね。仲間の所に戻してあげたいけど?」


 「手足が無いですからね。戻っても “お荷物” になるのではないでしょうか。」

 「全く方法がないことはないよ。受け入れるか否かは、この娘次第だけどね、」


 俺はエルフの娘の前に座った。


 「キミの名は・・・今はいいや。話す気がないみたいだし・・・僕らの言葉を理解出来ているのは分かってる。今の話も聞いていたよね。僕の治療を受けてみる?うまくいけば立って歩けるようになると思うけど?」


 エルフの娘は、俺を見ていた。

 さっきまでメイが櫛で梳いていたおかげで、栗色の髪が淡く輝いているようだ。

 片目だが、モスグリーンの瞳が美しいと思う。

 エルフは美男美女揃いだと言うが、この娘も例外じゃない。


 どうしてこんなヒドいことができるのか。

 つくづく人間の “業の深さ” を思い知る。


 じっと・・・見られてる。

 にらめっこかな?


 「・・・わかった。」

 長い時間をかけて、ようやく口を開いた。


 勝った!

 にらめっこじゃないよ?


 「よかった。やっと声が聞けたよ♪ メイ。適当な所で馬車止めて。人目の付かない所がいい。」

 「ほ~い。」


 のんびり行こう。

 先は長い。


 しばらく馬車を進め。脇道に逸れた。

 野草が茂り、ちょっとした獣道のようになっている。

 あまり道として使われていないようだ。


 程よいところで馬車を止め、結界。

 この程度なら、ボアの突撃程度は止められるだろう。

 蜜に貼りすぎると呼吸に支障が出るからね。


 「んじゃ、始めようか。そこに寝てくれる?痛みはないと思うけど、気分が悪くなったりしたら教えてね。」


 素直に横になってくれた。

 諦めもあるだろうが、とりあえずは受け入れるってことか・・・


 ステータスを開き、創造魔法スキルON

 “パーフェクトヒール”


 前世の学生時代の解〇学の知識を総動員する。

 細かい名称は忘れても、イメージはある。

 冷や汗と脂汗の思い出だ・・・そう簡単には消えんよ・・・


 「スズネ・・・ポーション・・・」

 見る見る魔力が消費されるのが判る。


 そっか ・・・“

 『ヒール』の魔力を浄化して『ミドルヒール』

 その魔力をさらに浄化して『ハイヒール』

 それをさらに浄化・・・『エクストラヒール』


 その中の “光の粒”・・・・


 幾重にも重ねたフィルターから漏れ出た光。

 純粋無垢な ”神の一滴”が 『パーフェクトヒール』


 《 こりゃ難儀するわ・・・⦆


 あっという間に魔力枯渇。


 《 構うか!・・・絞りだせ!》


 MP どころか HP まで削る勢いだ。


 エルフの小さな体が、光り輝いた。


 《 成ったか!?》


 その時、横に控えていたスズネの両手が俺の頬を挟み、無理矢理口付けしてきた。

 マナポーション。


 反射的に飲み込み。咳込んだ。


 「・・・ありがど・・・助かった・・・」


 「無茶しすぎです!!」

 スズネが泣いていた。


 「ゴメン。」


 「ダイジョウブ? 簡単に死なないでよね。私まだ殉死したくないわよ。」

 メイも泣いていた。


 「ごめんて・・・こんなに・・・魔力・・・持って・・・かれるとは・・・予想もできなかった・・・」


 手足の力が入らない。


 『魔族』倒して、レベルが上がったからイけると思ったが、甘かったようだ。


 こんな状態でも、スズネに背中から抱かれ、その柔らかさと温かさにシアワセを感じてしまうのは、煩悩のなせるワザだろうな。


 「顔がスケベだよ。」

 安心したように、メイが揶揄う。


 「あい、シアワセです。」

 ココがオイラの理想郷なのさw



ちょっとだけ ワタワタ と忙しくしております。

少々お時間下さいませw

数日中に投稿予定です。

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