33 婚約
翌日。
侯爵はサニエル領の残党を徹底的に排除すべく、1日かけて領内を捜索するようだ。
俺は俺で、アルアス男爵の案内で領の検問所の強化に向かう。
正直。2キロ程度の壁をチラホラと建てたところで、どうにかなるなど誰も思っていないだろう。
コケ脅し。
今は、それで十分だ。
サニエル男爵邸を出発する前に、男爵から金貨の入った袋を渡された。
100枚くらいか?
「あのような立派な外壁を作っていただきながら、この程度しかご用意できず・・・」
男爵は消え入りそうな声だ。
侯爵を見ると。黙って頷いていた。
「では、ありがたく。」
袋から一枚だけ金貨を出し、ポケットにしまった。
「サニエル子息に、僕から依頼があります。」
「は・・・はい!何なりと!」
「避難民は開拓地で一から出直すことになります。しばらくは困窮する事になるでしょう。このお金で彼らを助けてあげていただけませんか?」
残りの金を差し出した。
しばし呆然とした子息が、慌てて頭を下げた。
「は! 身命を掛けまして!!」
《 いや、命かけてもらっても、男爵が困るんだがw⦆
侯爵も満足そうだし、いいかw
てか、頭ガシガシするのヤメテくれませんかね?
ノーミソ軽くシェイクされてるんですが?
「よろしくお願いします。」
ぱっかぱっかと馬車が進む。
今日もいい天気だ。
手綱を握る俺の尻も快調だ。
「しかし、よいのですか? グレイ殿。」
御機嫌に御者をする俺の隣を、愛馬に乗るアルアス男爵が話しかけて来た。
ん?
俺だって御者ぐらいできるよ?
ノワール任せだけどww
「何がです?」
「グレイ殿は『魔王』を倒すべく、ダンジョンにて修行中だと聞いております。このような事に時間を割いてよろしいものかと思いましてな。」
《 あ~そっちw》
「まあ、確かに言われればその通りなんですが、昨夜お話したように『魔族』は『笑顔』が苦手なようです。」
「サラフィナ神の啓示でしたな」
「そうですね。ですので、ドンダリデ子爵のような指導者が増えると、また『魔族』がちょっかい出してくるかもしれません。そうなると僕も修行どころでは無くなるかもしれませんね。それに・・・」
「それに?」
「僕は『笑顔』が大好きですからw」
ニッコリにこちゃんw
「・・・左様ですか・・・」
男爵がニヒルに笑った。
ほんとニヒルだな!
惚れるぞw
「ドンダリデ子爵とはどういう方なのでしょう?」
気になったので聞いてみた・
「先代のドンダリデ領主は、名君と噂されるほど徳の高いお方でしたが、早くに御病気で亡くなられましてな。若くして現代の領主が引き継いだのですが、あまり良い噂が聞かれず・・・」
《 あ~楽な方にイっちゃったクチね。》
「侯爵閣下に同行された文官様達は、既にドンダリデ領に?」
「いや、万一のことも考えて明日から、侯爵と共にドンダリデ領に入ると聞いております。」
「・・・そうですか・・・」
《 子爵邸ひっくり返す勢いで調べるんだろうな~・・・おっかねw》
「どうかされましたか?」
「いえ、子爵が少しだけ可哀想だなとw」
「ふ・・・お優しいですな。」
《 だからニヒルなんだってばw》
検問所へ向かう途中に雑木林がある。
「そういえばナルスキュール殿に忠告されましてな、この辺りで最近ウルフが出たという報告があるようです。」
「群れですか?厄介ですね。」
いるね~ 気配察知が反応してる。
デカいのもいるか?
「スズネ。『ウォーグ』かな?」
“ウォーグ” または “ワーグ“ はウルフを何倍もデカくしたヤツだ。
巨狼族とも言われる魔物である。
頭が良く、コミュニケーション力が高い。
ウルフの群れを作ったり、ゴブリンやオークを背に乗せて戦うこともある。
この “ウォーグ” は群れを作ってる様だ。
「そのようですね。野良かもしれません。」
動きが軽そうだもんな。
「メイ行く?」
「ほ~い。」
“野生児” が嬉々として飛び降りた。
「ノワール。サポートよろしく。」
「にゃ!」
少女とネコマタのコンビが瞬く間に雑木林に消えた。
「よいのですか?」
アルアス男爵が驚いている。
「大丈夫ですよ。ここ数日、大人しくしてましたからね。遊び相手に丁度いいかもしれません。」
「遊び相手・・・ですか・・・」
そういう顔にもなるわなww
「あの娘は強いですよ?近接戦闘では僕でも敵いませんしw」
俺は。馬車を止めて杖を手にした。
「頭を潰せば、群れは散ってしまうでしょう。警戒しておきましょうか。」
馬車の前に立ち、気配を探る。
群れの気配がどんどん小さくなっていくな。
張り切ってるね~
そしてついに、“ウォーグ” の気配も消えた。
“収納” したかな?
「いや~ひっさしぶりに動いたわ~」
呑気な声が聞こえて来た。
「小遣い稼ぎできた?」
「ばっちり♪」
さすが元ブラックOLw
「いやはや。流石はグレイ殿の従者ですな。」
男爵が引いてるんだがw
「一緒にダンジョンに潜ってますからね、頼りになる仲間です。」
見かけは美少女なんだよな・・・見かけは・・・
「なんか失礼なコト考えてない?」
「気のせいだよ。出発しよう。」
くわばらクワバラww
進めるだけ進み、途中の小さな町で一泊。
「そういえばアルアス領は果物が有名でしたね。」
食事を共にする男爵に聞いてみた。
「そうですな。アストラス伯爵が発表された新農法のおかげで、領民共々うれしい悲鳴をあげております。」
忙しそうでナニヨリw
「干しブドウなんかも作っているのですか?」
「そうですな。余ったブドウなどは干しブドウにしておくと冒険者などに喜ばれますからな。それがどうかされましたか?」
「ちょっとした発見があったのですが、お聞きになります?小遣い稼ぎくらいにはなるかもしれませんよ?」
「ほう・・・」
商売人だねぇ。
俺はレーズン酵母の瓶とパン生地を見せ、侯爵や、兵士たちの変化を説明した。
「ほう。つまり我が領の干しブドウで能力が上がると申されるか。」
「時間限定で10分の1程度の能力上昇ですが、副作用もないようです。戦闘や訓練時に使うと兵士の実力の底上げが狙えるのではと考えています。市場で何気なく買った干しブドウなので、産地は不明ですが、試してみる価値はあると思うのですが・・・一枚噛んでみます?」
デビルスマイル~
自分で言ってちゃ世話ないがww
「良いでしょう。グレイ殿の申されることだ。期待いたしましょう。」
俺達はがっしりと握手した。
二日後
アルアスとドンダリデの検問所にようやくたどり着いた俺達は、さっそく壁の作成に取り掛かった。
「・・・見事なものですな。」
さしものアルアス男爵も、俺のバカげた魔力に関心しきりだ。
兵士の皆さん?
顎外さないでね~
中身は水の “なんちゃってマナポーション” で喉を潤しつつ、ひょいひょいと壁を繋いでいく。
「ふ~、こんなもんでしょうか?」
コケ脅しの壁を作るのも一苦労だ。
これでドンダリデ子爵がまたバカやらかすようなら、本気で隔離考えようかねw
「お見事です。流石は侯爵閣下が養子に欲しがられるだけはありますな。」
お?侯爵め、愚痴ったなw
「ありがとうございます。ですが今は “まだ道半ば” の半端者ですので、御遠慮させていただいております。」
「惜しいですな。“お役目” があるとも伺いました。御父上もさぞかし残念がっておるでしょうな。」
「領地には優秀な兄がいますので、私は自由にさせていただいておりますよ?」
「聞いております。娘も学園に行っておりますでな。なんでも学園きっての秀才だとか。」
「身内としては嬉しい評価ですね。今度兄に会ったら、揶揄ってやりましょうw」
「ほどほどにw 今日は我が家にお泊り下さい。精一杯のおもてなしをさせていただきます。」
「感謝いたします。では遠慮なく。」
手厚い歓迎を受けた俺は、夕食時にレーズン酵母パンを焼いてもらい、試食してもらった。
「・・・これは!」
お!ギリ10%向上か・・・イイ感じだね。
「他の果物ではどうか分かりませんが、レーズン酵母に限っては、体感できる程度の能力上昇が認められますね。公爵閣下に試食していただいた時には模擬戦に引っ張り出されてヒドイ目に合いましたがw」
「なるほど・・・これは時間限定ですか。」
「おっしゃりたいことは解りますが。いつまでもその状態が続くと、身体に障りが出る可能性も否定できません。訓練前とかで感覚を慣らしておく必要があるかと・・・」
「分かります。しかも、パンも驚くほど柔らかく旨いときてる。このような発見を何故私に?」
「ここアルアス領が果物の産地で有名ですし。男爵ご自身がサルムンド侯爵閣下の戦場仲間であると聞いています。僕の狙いは『魔族』対策です。」
「『魔族』対策・・・ですか。」
「僕の喧嘩相手は『魔王』であり、組織のトップです。全ての『魔族』を殲滅するのは現実的ではありません。」
「なるほど、『魔族』は我々に任せるということですな。」
「荷が重いと思いますか?」
「とんでもない。むしろ我々を頼り、信頼していただけるなど光栄の至り。お任せください。」
「ありがとうございます。大変でしょうが可能な限り量産し、使用方法と共に全国に広めていただくと有難いと思います。」
「分かりました。」
俺達は再び、固い握手を交わした。
「ねえ、いいの?レーズン酵母の発見渡しちゃって?」
部屋に案内された俺達だが、“傍付きメイド” として同じ部屋にいるメイが、ベッドで足をブラブラさせながら聞いてきた。
結界を張ってるから、少々騒いでも音漏れしないだろう。
空間魔法で部屋作れないかな?
「適材適所さ。アストラス領はブドウ栽培はしてないからね。」
「特許申請すれば?もう一儲けできるのに。」
「儲かるようなら私塾作ってもらうようにお願いできないかなって、思ってるよ。」
「欲がないのね~老後心配じゃないの?」
「メイに養ってもらうからいいさw」
「や~よ!じいさまのおしめ交換しながら老後を過ごすなんて。」
「キミより若いよ?」
「うっさいわね2つなんて誤差よ、誤差!」
やいのやいのと会話を楽しむのも、数日ぶりだ。
他の貴族の前では憚れるもんな。
「スズネ?どうしたの?」
「センパイ?」
「いえ・・・なんでもありません、」
・・・あ~ 察し・・・
「メイ。君はもうお休みなさいだね。」
「? なんで?」
「スズネと大事な話があるからさ。お休み。」
「なにハブろうとしてんのさ。分かった。やーらしぃこと考えてんでしょ。」
《 デビルスマイル~w》
「いいから部屋に戻りな?自分の立場、忘れた訳じゃないでしょ?」
「・・・は~い・・・」
渋々と部屋を出る “野生児” を見送って、結界を張り直す。
「スズネ。そこ座って?・・・アストラスに戻る?」
「え?」
「キミが『傍付きメイド』になって三年だね。能力も開花してるし、属性魔法も使えるようになった。単純に戦闘力だけなら『英雄』の領域に足を踏み込んだと断言していいと思う。まだ伸びる可能性はあるけど、代償が大きすぎるんじゃないかな?」
「・・・代償・・・ですか?」
「結婚だよ。」
「!!」
「適齢期でしょ?スズネは美人だし、その気になれば “引く手数多” だと思うよ。父上か母上に頼んで相手を探してもらってもいいし・・・」
「そんな・・・」
「それとも僕と結婚する?」
「!!」
「前世63歳だらかね。女性経験が全く無いわけでもない。記憶が残る弊害かなw」
「・・・」
「メイもそうだね。前世いくつかは聞いてないけど、話を聞く限りじゃ、いまのスズネと同じ年齢くらい?かな?? 聞いたら殴られそうだから聞かないけどw」
「・・・」
「いずれメイは奴隷から解放するよ。そうしたら自由に恋愛を楽しめるだろうしね。その頃には老後の資金も十分に貯まってる・・・かな?」
「・・・よろしいのですか?」
「ん?構わないよ?君の心は君のものだよ。仕事の関係上僕の傍にいるだけで、イヤになったらいつでも・・・」
「そうではなく!・・・坊ちゃまと結婚しても・・・よろしいのかと・・・」
「・・・いいよ。」
「!!」
「ただ、もうちょっと待って欲しいかな? まだ成人前だし、アストラスの名を背負ってるからね。内緒だよ?」
俺はアイテムボックスがら、銀鉱石を出した。
不純物を取り除き、魔力を込める。
込める・・・込める・・・込める・・・込める・・・まだ入るのか・・・
さらに込める・・・目いっぱい・・・
白銀の金属塊が、虹色になった。
《 あれ? ミスリルって青白色じゃなかったっけ??》
《 ま、いいや。》
魔力枯渇で倒れそうだ。
外壁作るより魔力持ってかれたな。
本物のマナポーションを飲み、成型。
願いを込めたマジックアイテムになった。
呆然と見守る “傍付きメイド” の左手を取り、薬指にはめた。
「今は、この程度しかできないけど・・・」
「・・・はい・・・はい!・・・」
左手を胸に掻き抱き、何度も頷いた。
《 どでかいフラグ立てちまったな・・・ま、何とかなるか・・・⦆
泪を流すメイドの頭を抱き、キスを交わす。
「スズネ。一つ呪文を教えてあげる。『我が心は君の為に』・・・覚えた?」
「『我が心は君の為に』」
「離れていても、いつでも傍にいるよって意味だよ。ちょっと恥ずかしいけどねw」
もっとイチャコラしていたいが、廊下の『デバガメ』を放置しておくのも外聞が悪い。
結界を解いて、ドアを開けた。
コッチ見ろ!
「・・・エッチw」
お~ 見る見る顔が真っ赤だよ “野生児君”ww
「な・・・何言ってんのよ!聞こえるワケないじゃない!!」
「煩いから中に入りなさい。教えてあげるよ。」
その後の “野生児” の百面相は、なかなか楽しかったw
翌朝。
アルアス男爵と十数名の兵士達とともにドンダリデ子爵領を目指した。
このままアストラス領に帰っても良いのだが、ドンダリデ領の土地の状態を見ておきたかったのだ。
完成したばかりの検問所を潜り、ドンダリデ領に入る。
ドンダリデ側の抵抗はなかった・・・・というか、誰も居らんのだが?
「誰も居ませんね~」
職務怠慢か?
違和感がすごい・・・
「・・・ですな。」
アルアス男爵も不審に思っているようだ。
しばらく進むと、農地らしい場所が見えて来た。
「うわぁ・・・」
メイの声だ。
「これは、酷い。」
男爵も唸ってる。
見渡す限りの土が干上がり、農作物も枯れ果てていた。
馬車を飛び降りて、土に触ってみる。
鑑定:魔力過多
《・・・こうなるのか・・・》
まるで “不毛の地“ だ。
「何か分かりましたかな?」
「不味いですね。最悪、この領は封鎖が必要になるかも・・・」
俺の言葉に、皆驚きを隠せないでいる。
「急ぎましょう。閣下が心配です。」
予定通りなら。侯爵がドンダリデ領に入って数日は立ってる。
《 ともに行けば良かったか・・・⦆
途中の村には、ゾンビとスケルトンが溢れていた。
「男爵様!生存者の確認を!居なければ一気に焼き払います!」
「心得た!」
乱暴なやり方だが仕方ない。
成仏してくれよ~
轟轟と燃える炎を尻目に、馬車を走らせる。
お馬さん頑張れ!
「男爵様。ドンダリデの御屋敷はまだ遠いですか?」
「この速さなら、あと半日ほどで着くはず。」
「スズネ。馬車は任せた。メイ!行くよ!」
「はいよ!」
俺とメイは馬車を飛び降り、走った。
半日なら、この方が早い。
何か叫ぶ男爵を残して、道沿いに走った。
次回投稿予定日 4月29日です。




