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32 兼業

 翌朝


 出発前にサニエル男爵にガッシと両手を握られた。

 何事!?


 「グレイ様!息子をどうか宜しくお願いいたします!」


 ・・・はい?・・・


 「グレイよ。昨日、ナルスキュールの息子に何か言うたか?」

 サルムンド侯爵、面白がってません?


 「え~と、ゴブリンが出て来たので、退治してもらって・・・あ~・・・」


 思い出した。

 ガラにもなく説教したんだっけ・・・


 「すみません。余計なことを・・・」

 うあ~・・・やっちまった・・・


 「とんでもございません!あの放蕩息子が私に頭を下げて来たんです!今まで済まなかったと・・・私は・・・私は・・・」


 泣かんでくれ~

 いい歳こいたオッチャンの涙なんぞ、誰得だよ~


 「よ・・・よかったですね男爵様・・・」

 ほかにどう言えと?


 「父上!」

 ナイスなタイミングで出てきましたな “放蕩息子さん”

 顔真っ赤ですよいw


 「何をしてるんです!侯爵閣下がお待ちではないですか!早く出立して下さい!!」


 「おお!そうだった!閣下申し訳ございません。つい高ぶってしまいまして。」


 「よい。グレイよ。何を話したのか、後で聞かせよw 行くぞ!」


 《 うあ~やめてケロ~ こっちゃまだ6歳だぞ!恥ずか死するぞ!!》


 一人悶える俺を “野生児” が冷たく言い放つ。


 「ほら!馬車来たよ。さっさと乗んなさい!」


 ひどい・・・




 当然のように馬車に乗り込む子息が、ニッコニコだ。


 「グレイ様。天国とはどのような所でしょう?」


 《 え~~ナニこの人・・・》


 「トリアデ様。僕は宗教改革を起こすつもりはありません。そういう事は、教会でお聞きになられた方がよろしいかと存じます。」


 「教会ヘは何度か足を運びました。しかし納得が行かないのです。ヒトが何のために生まれ、生きているのか。神父に尋ねても、はぐらかされるばかりで。」


 《 商売神父か~~》


 「えっと、分かりました。差し障りのない程度にお話しますが、侯爵閣下に、昨日の話をしろとも命じられています。仕事から帰ったらで宜しいですか?」


 「はい!ぜひ!!」


 《 野郎のキラッキラ目がウザイ~~~ 陛下~ナ ニシテハルン?》


 その時、俺の影から出て来たノワールが、頭に乗ってテシテシと叩いた。


 大きくなったので少し重いんだが?


 ぴろ~ん♪


 なんじゃい??

 ステータスを開く。


 「・・・はあ!?・・・」

 思わず声を上げた。


 「ど・・・どうされました!?」


 「あ・・・いや、大変失礼しました。何でもありません・・・何か来ましたね。」


 「坊ちゃま。ビッグボアのようです。親子連れですね。」


 「夕食だな。メイ、スズネ。トリアデ様をサポート。僕は大きいほうを・・・トリアデ様、出番ですよ♪」

 「え?え?・・・えええええ!?」


 《 スマンなデカイの。夕飯ついでに “八つ当たり” させてケロ♪》





 「うん。丸々して旨そうだ。アッチは・・・」

 2階建ての家ほどもあるビッグボアの傷口から。水魔法と空間魔法で血抜きをする。


 その気になればブラックホールも作れそうだが・・・・しないよ?

 俺まで巻き込まれそうなんだもん。


 おっかないってw


 スズネ達は・・・

 うまいこと足の健を切って行動不能にしたようだ。


 子息がへっぴり腰で(とど)めを刺している。


 昼前に現地に着けば、兵士さん達にもご馳走できるな。

 パン足りるかな?



 「お疲れ様です。頑張りましたね。」

 労いの言葉を掛けてみる。


 昨日よりは、だいぶん良い。

 目を閉じて剣を振り回すほど、危ないことはないからなw


 「あ・・・ありがとう・・・ございます・・・」

 疲れたかね?

 また、“マリオネット” したげようかw


 「検問所の兵士さん達への手土産ができましたね。早く血抜きを済ませて運びましょう。」

 「ど・・・どうやって・・・」

 「僕は “アイテムボックス” 持ちなので、このくらいなら何とかなります。急ぎましょう。」


 さっさと血抜きして収納。

 小さいほうが肉質が良さそうだから、侯爵達の晩飯だな。


 ミンサー欲しいな~

 作るか。


 「メイ。ミンサー作るから、また鉱石を買い足しといて。」

 「あ、いいね~。りょうかい~」


 メイさんノリノリだねw


 「ミンサーとは何でしょう。」

 当然の疑問だね。スズネさんw


 「料理器具だよ。“とっちゃん” 驚かせてやろうw」


 鉄を曲げたり伸ばしたり・・・悩むだろうな~w




 昨日の雨で、多少ぬかるんではいるが支障はない。


 「スズネ。着いたら昼食の準備お願い。メイは酵母使ってパンの生地作り頼むよ。」

 「は~い。」


 昨日の今日で壁作りの要領は分かった。

 イメージも固まっている。

 着いたら、ちゃっちゃと作ってしまおう。





 昼食は大好評だった。


 そら美女と美少女が作った肉と野菜たっぷりのスープとパンだ。

 行列もできるわなw


 ドレッシングも欲し~な~

 今度チャレンジしてみるか。

 サラダ油あるかな?


 とりとめもないことを考えながら、手早く壁を作る。


 「・・・すごいですね。」

 子息が関心しきりだ。


 「昨日、散々作りましたからね。」

 「それでもすごいです。昨日は結局マナポーションを呑まなかったでしょう?」


 「あ~あれは内密に願います。土木工事に駆り出されるのは本意ではないのでw」

 「それもそうですね。分かりました。」


 作業は順調に進み、陽が少し傾くころには終了した。


 「さ、帰りましょうか。せっかく良質な肉が手に入ったのです。侯爵閣下に食べていただかなくてはw」

 むしろ俺が食いたいんだけどねww


 今から帰れば夕食に十分間に合う。

 パンを出して戦闘訓練は御免蒙りたいので止めておくが、肉は食っておきたい。


 いそいそと馬車に乗って、帰った。





 夕飯の肉はうまかった。

 ボアの親子など滅多に出会えないからな。

 サニエル家の料理長も喜んでたしw


 赤ワインの一杯でも欲しいところだ。

 子供なのが悔やまれるw


 「今日のお肉は美味しかったですね。トリアデ様が頑張ってくれましたからね。では、もう日も暮れたので、僕はお先に失礼して・・・」


 「まてぃ!」

 がっしと襟首を掴まれた。


 《 ダメかw⦆


 「見え透いた小芝居はやめよ。昨日、ナルスキュールの(せがれ)に何を言ったか、聞かせてもらうぞ。」

 侯爵、怖いって。


 「え~と。陛下やノルグナー公爵と御一緒におられた時の宗教の話をしただけですが、繰り返しになりますが?」


 「聞いた。生まれ変わりの話だな。その話をしたのか?」


 「本来は僕の役目ではないのですが・・・“原初の経典”に書いてありませんでしたか?」


 「うむ。書いておったようだが、ほんの数行で、詳細については書かれてなかったようじゃ。お主は知っておるのか?」


 《・・・なるほど・・・悟りが浅かったか、邪魔が入ったか・・・ってとこか・・・》


 俺は姿勢を正した。


 「侯爵閣下。僕には役目があり、まだ “道半ば” です。宗教的な発言や知識は、本来であれば宗教を生業とする者達に任せるべきだと思いますが、幸運にも “サラフィナ神” 様の啓示を受けることがあります。その中で知り得た知識でよければお話します。」


 「うむ。良い」


 「なんと!サラフィナ神様からの啓示を・・・」


 「『勇者』の称号だけではなく『神子』様でもあったと!?」


 「そんな大それた者じゃありませんよ。“称号” 持ってませんしw」


 《 もっとメンドウなの付いちまったけどな・・・》


 「トリアデ様。紙とペンを用意していただけますか?ゆっくりお話ししますので書き留めておいて欲しいのですが。」


 「は・・・はい!」


 バタバタと部屋に戻り、大量の紙とペンを持って戻って来た。

 多くね?




 注目の的だ。


 前世のプレゼンの時もそうだったが・・・こればかりは慣れないね。


 「コホン。昨日は生まれ変わり。つまり “転生輪廻” のお話をさせていただきました。つまり、ヒト・・・この場合のヒトとは猫人や狼人、ドワーフ、エルフ、魔族など、いわゆる亜人と呼ばれる、全ての生命体を含みます。」


 「魔族もか。」


 「はい。魔族も・・・です。」


 ざわざわと波打つ。


 《 植物や魔物も “輪廻の輪” に含まれるんだが、話がややこしくなりそうだし、説明できる自信がないからな。ここは割愛させてもらおう。》


 俺は話を続けた。


 「ヒトは・・・というより、この世界にある全ての命あるものは必ず死にます。寿命の違いはあろうともです。では、死んだあとはどうなるかと言う問題が出てきます。そこで天国や地獄と言う話になります。」


 「うむ。では、アンデットの類はどうなのだ? 生前の記憶を持つ者もいるようだが?」


 「あれは邪法ですね。生前の記憶の残りカスみたいなものです。」


 「・・・ほう・・・」


 「少し話は逸れてしまいますが、人間にはその肉体の中に魂があります、その魂をコントロールするための心が中心にあると解釈していただいて構いません。」


 「魂の中心に心」


 「魔力や魔法の話になると、すこしややこしくなってしまいますので、この際、省略させていただきますが、分かり易く説明すると。肉体を服、魂を下着。心が裸。つまりその人の本性・・・と言えばいいですかね?アンデッドの正体は心が無くなった魂。心があった時代の記憶を持っただけの抜け殻です。その証拠に、彼らは何か新しいモノを作ったり、研究は続けるが遅々として結果を出せなかったりします。創造ができないんですよ。」


 「そうなのか・・・」


 「神はこの世界の生物に “自由” を与えました。自由であるということは、自らの意思で何かを発見したり、作りだしたりできると同時に、幸せと感じることができるということです。それと同時に “責任” と “結果” も与えられました。」


 「ほう。自由と責任と結果か。」


 「はい。悪いことを、人に迷惑をかける行為には相応の責任を、誰か喜ばせ、幸せにする行為に対しても責任を負わせています。」


 「責任とは?」


 「誰かに迷惑を掛ければ嫌われます。その責任として、この国の法で裁かれることもあるでしょうし、それでも反省しなければ、死んだ後も結果としてその心は地獄へ落とされるでしょう。逆に、人々を笑顔にし、幸せを与える人はその責任として満足感や幸福感を得ることができ、結果としてその功績によって天国の扉が開きやすくなります。」


 容易い事じゃないがねw


 「・・・なるほど。」


 「侯爵閣下は先日、魔族を見かけなくなったとおっしゃってました。その後、サラフィナ様にお伺いしてみたのですが、どうやら “笑顔” が増えたからだそうですよ。」


 「なんと!」


 「政治の本質は、人々を幸せにすること。貴族だからと言って搾取ばかりしてると恨まれるのは当然です。人々を笑顔にする、幸せとはこういうことだと教えること、そう言った幸せの波動が国中に広がれば、魔族は本能的に近付かなくなるようです。」


 「幸せを・・・教える・・・」


 「そう難しい事ではありません。私の母は領民とよくお茶会をしています。」


 「領民と?」


 「はい。世間話をしたり、御主人の愚痴を聞いたり、こうして欲しいという要望を聞いたりして、必要だと思ったことを父に歎願しています。」


 「そんなことを・・・」


 「結構楽しんでるようですよ?招待される奥方様達も、おいしい茶菓子や庭を見て喜んでるようですしw」


 「そうか・・・アヤツにはそういう所があったな・・・」


 「話が大分逸れてしまいました。元に戻しましょう。で、天国に行った心は天国で綺麗に洗浄されたあと、特権を与えられます。」


 「洗浄?」


 「あ~、別に(たらい)でじゃぶじゃぶ洗われるというワケではありません。天国の天使やご先祖様に、お前は以前こういう目標をもって地上に生まれたんだと答え合わせしたり、天国での仕事を割り当てられて・・・早い話が、新居に移って新たな仕事を憶えるようなものです。」


 「仕事?あるのか?」


 「ありますよ。サラフィナ神様も天国で寝こけてるワケじゃありません。常に忙しくしているようです。・・・その話はまた今度にしましょう。話の本質からずれてますので・・・で、特権の話に戻しますが、その特権とは生まれ変わる先を自分で決められる。ということです。」


 「自分で・・・決められる?」


 「はい。例えば、トリアデ様は偶然に生まれたのではなく、天国において『こういう目的をもって生きる』という指標をもって、お母様の胎内に宿ったんです。」


 「目的が・・・」


 「目標と言い換えても良いですね。その記録は天国でキッチリ保管されているはずです。この世で生を終えて、天国に戻ったら、天使やご先祖様と答え合わせが待っているハズですw」


 「わ・・・分からないのですか?その、私の人生の目標というのは・・・」


 「修行を積めば、あるいは・・・が、お勧めはしません。」


 「な・・・なぜ?」


 「目標という言葉にに囚われて、自由が制限されるからです。それでは面白くないでしょう?」


 「面白いって・・・」


 「トリアデ・サニエル子息。貴方には自由があります。お父上の跡を継ぐも良し、さらなる出世を目指すも良し、『勇者』を語って『魔王』討伐を目指すも良し、領地を捨てて別の道を歩むも良し、酒に逃げるも良し、盗賊となり果てて処罰されるも良し。ただし、そうした自由には必ず責任と結果が付いて回るのです。」


 この際だ。

 「甘え」云々で攻めたことについては黙っててあげるよw


 俺はニッコリと笑った。


 「もう一つお話したことがありましたね。」


 「ほう。言うてみよ。」


 「ナルスキュール・サニエル男爵様。トリアデ様の御父上のことについてです。」


 「うむ。」


 「家族を持ち、領地を運営し、領民を支え、外敵に立ち向かう姿は。僕から見れば立派な『勇者』です。僕は生まれながらに『勇者の称号』を持っていますが、トリアデ様の御父上は『称号無き勇者』だと言いました。『勇者』に認められることは不名誉なことかとも聞きましたね。」


 「くくく・・・がはははは!そうか!『称号無き勇者』か!!ナルスキュール!誇ってよいぞ!サラフィナ神の憶え(あつ)き『勇者』に認められたのだ!これ以上の栄誉はあるまいw」


 お~ 男爵男泣きw

 感動したかね?


 “おひねり” くれてもいいんだよw


 「・・・と、言うようなことを昨日お話しましたかね?若干内容は変わっていますが・・・」


 「うむ。そうか。トリアデ。しっかり記録したか?」


 「は・・・はい!」


 「見せよ。・・・よし!陛下に見せよう。」


 ・・・・は?・・・・


 「え~~~と・・・閣下?いま何と?」

 幻聴であってくれ~~~


 「陛下に見せると言ったのだ。転生輪廻とかいったか・・・新しい情報があったのでな。」


 《 まてまてまてまて~い!》

 《 んな教会に真正面からケンカ売るつもりは、これっぽっちもないんだが!?》


 「閣下?僕は教会とヤリ合うつもりはないので、内密に願えれば・・・」


 「そうか?教会の者どもが喜ぶと思うが?」


 「僕はまだ修行中の身ですよ?新情報が出たからって大挙して押し寄せて来られても困ります!」


 「うむ・・・そうか?」


 《 そうか? じゃね~よ脳筋侯爵!!》


 「もともと、その記録はトリアデ様の後学の為に残したものです。それを安易に取り上げるのは如何なものかと思うのですが?」


 「む!ちゃんと返すつもりであったぞ?」


 「それでもです。トリアデ様が、また迷ったときにいつでも読み返せるように、ここに残しておくべきかと思うのですが?」


 「むう!どうだ?トリアデ・・・?借りて行っても良いか?」


 「はい!グレイ様の御言葉は一語一句この胸に刻んでおります!どうぞ、お持ちください!!」

 

 《 トリアデ~~~~~~!!!》


 ほくほくと懐に仕舞う侯爵。

 調子ブッコいてヤっちまった俺は、今どういう顔してんだ?



 そろりとメイが隣に来て、ご丁寧に日本語で(とど)めを刺してくれた。


 「・・・あほう。」


 ・・・だよね~・・・



                  ◆◆




 白い世界


 「や。お疲れ~」


 「お疲れ様です。じゃないですよ。なんつう『称号』付けちゃってくれてるんですか!」


 「いや~。散々話し合ったんだけどね。結局キミが適任だろうって満場一致で決まっちゃってさw」


 「満場一致って・・・ソリアン様や闇の神様も?」


 「反対しなかったね~」


 「ハリセン作っておきますんで。呼んで来てもらっていいですか?」


 「やめてよ~。あの娘たち怒らせると怖いんだよ?アルマゲドン起こす気かい?」


 「そう思うならソリアン様の権限で何とかしてくださいよ。『勇者』だけでも手に余るのに『伝道者』なんて・・・二足の草鞋に鉛でも仕込むつもりですか?」


 「それいいねw メモっていい?」


 「ご自由に・・・ってマジメな話してるんですが?」


 「キミなら大丈夫だと思うよ?すでに色々ヤってるじゃない?」


 「それで聖職者たちがスキップしながらダンジョンに突撃して来たら、どうするんですか? 阿鼻叫喚の地獄絵図しか想像できないんですが?」


 「そんな悲惨なことにはならないよ。彼らも馬鹿じゃないからね。キミの仕事が、ちょっとだけ増えるぐらいじゃないかな?」


 「6歳で馬車馬になれと・・・グレていいですか?」


 「ははは。大丈夫さ。きっとね。ガンバレ。」




                 ◆◆




 俺の将来が “地獄絵図” になりそうなんだが・・・


 仕方ない。


 メイやスズネには悪いが、この騒動が一段落したら、しばらくダンジョンにこもるか。


 さすがにこの日は “小周天” をする気にはならず、ふて寝した・




スキップしながらダンジョンに突入する聖職者www


次回更新 4月 25日 予定です

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