31 称号無き勇者と代理勇者
サニエル男爵邸ではサニエル男爵の他、トリアンテ男爵までもが出迎えてくれた。
両男爵とも鎧を纏い、剣とハルバートを携えている。
「サルムンド侯爵閣下。このような場所へおいで下さりまして、このナルスキュール・サニエル。感謝の極みでございます!」
「うむ。サニエル卿。健壮か。」
「はい。おかげさまで妻も子供達も変わりなく。」
「それは重畳。アルアス。数日ぶりだな。度々騒がせてすまぬ。」
「何をおっしゃいます。それだけ閣下が我々を気にかけてくれているということ。これ以上の名誉はございませぬ。」
「うむ。二人とも手紙は見たな。異論はあるか?」
「ございません。むしろ良い機会でございます。ドンダリデめには少々お灸を据えねばならぬと思っていたところでございます。」
「そうか。陛下の許可は得てある。周辺の領主にも、怪しきものは構わず引っ捕らえよと手紙を出しておる。共に残党狩りを楽しもうぞ!」
え?・・・楽しむの?
「このグレイが、ドンダリデとの検問所を強固にするらしい。グレイ頼んだぞ。」
え??・・・強固? ・・・てか 仲間外れ??
「不満そうだな。」
侯爵はニヤリと笑った。
「お主の実力は認める。まともに戦えば儂の兵などものともせぬだろう。だが、おぬしはまだ爵位を持たぬ成人前の子供。ここは我々に任せよ。お主にもしものことがあったら、儂がミレイに責められるでな。」
《 ずりぃ言い方だなw》
「畏まりました。御武運をお祈りいたしております。」
颯爽と馬に跨り、だかだかと駆けて行く。
《 意地張らなくて良かった。おれ馬に乗れないんだったわw》
早々に諦め、荷馬車に向かう。
「あ・・・あの・・・」
気が付くと、トリアデ・サニエル子息が所在無げに立っていた。
見ると鎧を纏ってない。
ショートソードを腰に下げているが、重そうだ。
「? トリアデ様? 置いて行かれますよ?」
「い・・・いえ・・・父上に道案内を命じられまして・・・」
《 あらま!ハブられたんね・・・お気の毒さまw》
《 酒臭い放蕩息子は連れて行けんわな・・・流石にw》
「道は分かります。屋敷で御父上の帰りを待たれてはいかがでしょうか?」
サニエル男爵の気持ちは素直に嬉しいが、レベル10にも満たない子息はちょっとなぁ・・・
「い・・・いえ・・・万が一にも残党を取り逃がしたときに、一番安全な場所は『勇者』様のお傍しかないと・・・父上が・・・」
・・・さいですか・・・
「分かりました。では道案内をお願いいたします。ただし、僕は『称号』は持ってますが御覧の通り年端の行かぬ子供です。御自分の身は出来るだけ自分で守るようにお願いします。」
やれやれ、サニエル男爵も人が悪い・・・
何か言い掛ける子息を無視し、俺はスタスタと荷馬車へ歩みを進めた。
◆◆
「ひぃ!あああああああああ!」
二匹のゴブリン相手に、大の大人が悲鳴を上げる。
器用なことに、目を閉じて剣を振り回すうちに一匹を倒してしまっていた。
残りの二匹のゴブリンは警戒し、距離を取っている。
いやサ。
ぱっかぱっかとノンビリ検問所に向かってたらサ
“三匹のゴブリンさん” が寄ってきたからサ。
「ここサニエル領なんでヨロシク~♪」って押し出してやったらサ。
愉快な踊り始めちゃってサ。
危なくて近寄れなくてサ。
ど~しようもないジャ~ン♪
「放っといていいの?」
「アレじゃあね~?バテたら交代しようか。」
《 こりゃ一雨来そうだなぁ》
おっと、子息が躓いたようだ。
ここぞとばかりに、二匹のゴブリンが襲い掛かるが・・・
ノワールの “シャドーランス” が串刺しにして、こと無きを得た。
「ノワール。ありがとう。」
子息の影から出て来たネコマタに礼を言って、近付く。
尻餅をついて可愛そうなくらいカタカタと震える跡取りが、ノワールを見ていた。
「い・・・いいい・・・いま。影が・・・」
「この娘。神獣です。ノワールと言います。可愛いでしょ?」
「し。ししsss・・・」
《 会話にならんのだがw》
「急ぎましょう。この分だと検問所に着く前に日が暮れてしまいます。」
「こここ・・・腰が・・・」
仕方ないので、結界を使って立たせた。
「ひぃ~~~~~!!」
《 なるほど・・・こりゃ難儀するわ・・・》
首から下を糸と結界で覆い、強引に馬車に乗せる。
乱暴と言うなかれ。
ここには女子供しかおらんのよw
「メイ。少し急ごう。雨が降りそうだ。」
「遊んでるからよ。」
「ゴメンて。」
少し早くなった馬車の中で、子息に声を掛ける。
「おめでとうございます。ゴブリンを倒しましたね。」
「ご・・・ごぶりん・・・俺が・・・」
震えが止まらない。
いい加減危ないから剣を放してほしいんだが・・・
「そうですよ。無我夢中だったようで憶えてないかもしれませんが、急所を突いて倒しましたよ。」
「俺が・・・」
「間違いありません。しっかり見てましたからね。次は目を開けて、落ち着いて倒しましょう。」
「わ・・・わかった・・・」
「剣、手放せますか?」
子息は思い出したように、右手を見た。
指先が白くなるほど握り締めて、動かないようだ。
「深呼吸して、力を抜いて下さい。左手を使って。親指から一本ずつ指を開いていきましょうか。」
苦労して指を引き剥がし、ようやく剣を手放した。
ま、最初はこんなもんかw
「お・・おまえ・・グレイ・・さまは・・・へいきなの・・・なんですか・・・・」
「普通にグレイで構いませんよ。年下ですし・・・僕も最初は似たようなもんでした。」
「ほ~?。」
メイ君。黙らっしゃい!
「誰だって、生き物を殺すのは怖いものです。ですが、怖いからと言って魔物を放置すると、領民が死にます。」
「りょう・・・みん。」
「はい。魔物のほとんどは人を食べますからね。ゴブリンもそうです。」
「そうなの・・・か?」
「そうですよ。奴らは木の実や雑草も食べますが、弱い女子供も食べますよ。」
「女子供も・・・か・・・」
「はい。ですから僕たち貴族は、領民を守る義務があるんです。そのために小さい頃から剣を取り、地理や歴史を学び、貴族とは何たるかを学ぶんです。」
「だが、俺は・・・」
「関係ありません。」
「な!?」
「あなたはトリアデ・サニエル。ナルスキュール・サニエル男爵の嫡男です。あなたはそのために生まれて来たんですよ。」
「ど・・・どういうことだ。」
「人は死んだらどうなるか、ご存じですか?」
「い・・・いや・・・」
「人は死んだら、天国か地獄に行きます。例外もありますが、ごく少数です。さて、死んだ人の魂が天国に行った場合、その人は天国で心を綺麗さっぱりと洗い流した後、再びこの世に降りてきます。これを転生輪廻といいます。」
「てんしょう・・・りんね?」
「はい。人は何度も何度も繰り返し生まれ変わって、新たな人生を歩むようになっているんです。」
「・・・何のために?」
震えが止まったか。
これからだね~w
「強くなる為ですよ。神に近づくためと言い換えても良いかもしれませんね。」
「神に・・・」
「そのために天国に戻った心には特権が与えられるんです。」
「特権とは?」
「生まれ変わるべき相手。自分の両親を選べるという特権です。」
「偶然じゃないのか。」
「神様がそんないい加減な仕事をするワけないじゃないですか。ちゃんと記録を付けて、帰って来た心を採点してますよ?もちろん赤点は地獄で反省してもらいますけどねw」
「神・・・神は存在するのか。」
「ちゃんといますよ。この国に国王陛下が居るように、天国にも我々を管理する責任者としての神が存在します。」
「・・・証明できるのか?」
「神を試せと言いますか?天罰落ちますよw・・・ま、嘘か本当かは死んだら分かります。それより、トリアデ・サニエル。あなたは天国から、このサニエル領の領主を選んで生まれて来たことの方が重要です。」
「重要・・・」
「神様を理解したいのでしょう?ならば、自分が何のために生まれて来たのかを知ること。これが一番の近道ですよ?」
「何のために・・・。」
「あなたは弱い。それはあなたが一番よく知ってるハズです、ではなぜ弱いのか・・・考えたことはありますか?」
「それは・・・俺が父上に反発して・・・」
「そうですね。それは誰にでもあることです。父親が偉大だと尚更です。ですが反発する精神は弱さとは違います。」
「どういうことだ?」
「反発というのは、偉大な父という壁に立ち向かう心を指します。これは弱さとは言えない。本当の弱さとは甘えですよ。」
「・・・甘え・・・」
「そうです。国に甘え、父に甘え、母に甘え、立場に甘え、領民に甘え、お酒に甘え、女性に甘え、甘える自分に甘える。心当たりがありますか?」
「・・・・」
「その甘えを捨てきった先に『勇者』という称号があります。」
「『勇者』?」
「『勇者』とは勇ましい者の称号です。勇ましいとは弱い人間と言う立場にありながら恐怖や甘えを乗り越えて『魔王』に立ち向かう心を持った者を指し示します。勝ち負けは別としてね。」
「別なのか。」
「『勇者』は、前世においてその称号を与えられるにふさわしい働きをした者に対し、神から与えられる称号です。ですが、称号の有無は大した問題ではありません。」
「違うのか。」
分からんかね~
「ナルスキュール・サニエル男爵は『勇者』と呼んでもいいと僕は思っています。」
「父が?」
「家族を持ち、領地を運営し、領民を支え、外敵に立ち向かう。『勇者』の称号を持つ僕には到底マネできないことです。」
「それは貴方が『魔王』に立ち向かうという役目があるから・・・」
「『勇者』だって人間ですよ?ましてや僕はまだ6歳の子供です。」
「あ・・・」
「トリアデ・サニエル。あなたは残念ながら今世では『勇者』の称号は得られないでしょう。しかし、あなたの父上のように『称号無き勇者』にはなれますよ。」
「『称号無き勇者』・・・」
「言ったでしょう?僕は貴方の父上のようになれないと・・・『勇者』に認められたんです。これは不名誉なことですか?」
「・・・」
「あ・・・降ってきましたね・・・」
《 雨の中の土木作業・・・前世は『重機』滑って地獄だったな~》
やな思い出だ。
検問所に着く頃には、結構な勢いで降っていた。
検問所は基本木造で、その両脇には石壁が乱暴に積み上げられているだけだ。
ちょっと回り道すれば、いくらでも擦り抜けられそうだ。
子息を屋根のある検問所に預け、外に出る。
「風邪を召されてしまいます。」
スズネが心配してくれるが。問題ない。
“異常状態無効化” スキルは伊達じゃないさw
俺の背丈と同じくらいの石壁を眺めながら、イメージをする。
《 土壁にするか。高さ10メートル、奥行5メートル。斜面を付けて台形にしよう。長さは有効射程範囲ギリギリまで攻めてみるか・・・監視台と階段と倉庫と排水口も付けて・・・ああ、仮眠室と取調室と牢屋は・・・別枠で作るか・・・》
「スズネ。マナポーションどのくらい残ってる?」
「20本程度なら。」
「メイは?」
「同じくらいかな?今作るの?」
「検問所はココだけじゃないからね。さっさと終わらせて、男爵邸で暖かいスープを御馳走してもらおうw」
結界でイメージを固め、内部を水抜きした土で満たす。
分子レベルで結合させ・・・固く・・・硬く・・・どこまで硬くできる?
漆黒の土壁ができた。
長さは18?・・・20メートル弱くらいか?
「すっご・・・」
「すごい・・・」
同感w
「なんだ・・・これは・・・」
知らぬ間に背後に突っ立っているサニエル子息に気付いた。
「サニエル様? 中で休んでていいですよ?」
「い・・・いや。出来れば見せて欲しいのだが・・・」
「構いませんが。寒いので風邪ひかないように気を付けて下さいね。」
「・・・解った。」
さて、んじゃ子息は放っといて続きをやりますか。
同じ作業を延々と繰り返す。
いつの間にか雨が止み、夕方になる頃には、片側1km、全長2km の黒々とした壁ができた。
・・・やりすぎた・・・かな?
子息が呆然と眺めてる。
気持ちは判るw
「なんだ?・・・これは・・・」
?・・・同じセリフ? さっき聞いたぞ?
「あ、おかえりなさいませ閣下。」
“残党狩り” 御一行様のご帰還ざんすw
「グレイ様・・・この壁は・・・」
「すみません。サニエル男爵様。加減が判らず、このよう形になってしまいました。作り変えますか?」
「と・・・とんでもない!このような立派な壁を作って下さり、末代までの誇りとなりましょうや!」
「過分なお言葉、ありがたく思います。よろしければもう一つの検問所も・・・あとトリアンテ領の方も同様にしておきたいと思うのですが・・・いかがでしょう?」
俺の提案に、トリアンテ男爵も首肯した。
「ありがたく存じます。ドンダリデめも度肝を抜かれましょう。」
「ありがとうございます。公爵閣下。今日はもう終わりですか?」
「うむ。やはり思った通りいくつかの拠点があったわい。口ほどにもない奴等ばかりじゃったが、彼奴めトリアンテばかりでなく、ここサニエル領も狙っておったようじゃな。」
「欲にはキリがありませんからね。調和を乱すと “しっぺ返し” を食らうことが想像できなかったんでしょうか?」
「・・・だろうな。自分の失敗を棚に上げて、近領の成功を妬んだのであろう。思い知らせねばならんな。」
「トリアンテ男爵様。サニエル男爵様。ドンダリデの領民の避難準備は如何でしょう?」
「問題なく。開拓予定地も定めており、王都からの補助金も出る予定です。」
「そうですか。領民に成り代わり感謝いたします。」
「グレイ様に礼の言葉を頂くなど・・・」
「問題ありません。爵位も持たぬ子供ですのでw」
いやマジ助かったんだってばw
「くくく・・・やめとけナルスキュール。こ奴には口では勝てんぞw」
楽しそうでナニヨリw
てかサニエル男爵を名で呼んどるがな。
結構な “戦場” だったんかね?
捕虜もいなさそうだし・・・着いて行かなくて正解だったか・・・
「それはそうと、お主、魔力は大丈夫か」
「ギリギリですが、大丈夫です。マナポーションもたっぷり残っていますので。」
「うむ。ならば早々に帰るか。明日も早いからな。」
白い世界だ。
随分久しぶりだな。ここに呼ばれるのも・・・
「や、久しぶりw」
「ご無沙汰しています。今日はお時間大丈夫なんですか?」
「まあね。ずいぶん活躍してるみたいだね。」
「マイペースですけどね。『魔族』の出現回数がずいぶん減ったようですが」
「『笑顔』が増えたからね。本能的に避けてるみたいだね。」
「国王陛下に感謝ですね。それはそうと “威圧スキル” ありがとうございます。ちょっと効きすぎる気もしますが・・・」
「彼にはあのくらいしとかないとね。もと『勇者候補』だったし。」
「初耳ですね。『勇者』にはなれなかったんですか?」
「生まれた時点で、キミ同様 “灰色表記” だったね。その後の活躍で称号与えようと思ってたんだけど・・・」
「あ、察し!俺ってザッカ・タラギュースの代理だった?」
「おっとww」
「八つ当たりしていいです?」
「死なない程度にね。このままじゃ彼、地獄へまっしぐらだから。」
「落とすには勿体ない人材ですか?でも “自分を助けるのは自分でしかない”ですよ?蜘蛛の糸じゃないんですから。」
「・・・期待しちゃダメかい?」
「はあ、機会があればお話くらいはします。“坊ちゃん詐欺師” の名に懸けて。」
「wwwwwなにそれwwww・・・期待してるよ。じゃね。」
やれやれ、呼ばれるのは嬉しいが “特大の仕事” を押し付けられるとはね。
「ザッカ・タラギュースが『勇者候補』ねぇ・・・」
彼が真面目にやってれば、俺がこの世界に呼ばれることも無かったかね?
前世の6歳ころって、昭和の時代か・・・鼻くそほじって、気になる女の子のスカートめくって、学校のガラス割って、担任教師にケツが腫れるほど叩かれて・・・な~んにも考えてなかったなぁ・・・
今が楽しくないワケじゃない。
両親に恵まれ、兄弟に恵まれ、従者に恵まれ、上司に恵まれ・・・贅沢過ぎるな。
思えば遠くに来たもんだ・・・って誰のセリフだっけ?
海援〇だっけっか?
ま、いいや。
昔は昔。今は今だ。
ザッカ・タラギュースにどういうお仕置きしてやるか。
当面の目標だな。
楽しみにしてろよザッカ。
“代理勇者” の八つ当たりがどんなもんかw
背中が凍るような怖気が走るザッカ氏w




