28 誘拐の失敗
アントラの町はサニエル領にある。
領主の “ナルスキュール・サニエル男爵” は農地改革に力を入れ、“ポーション農法” や“魔石農法” の噂を聞くや真っ先に飛び付き、率先して開拓を進めた人でもある。
アルアス男爵と仲が良く、果物の産地であるアルアス領との交易も盛んなようだ。
ノワールの分体経由で父からの返事を受け取った俺は、ゴトゴトと揺れる馬車の中で、荷物を枕に寝ころんでいた。
《 鉄バネで足回りにクッション作ったら・・・なんてったっけ?・・・重ね板ばね?・・・だっけ?》
鍛冶と言えば ”ドワーフさん” だが、人族の鍛冶師もいる。
ドワーフと言えば剣や盾、鎧といった武具が主体だが、人族の鍛冶屋はどちらかと言えば。鋤、鍬、鍋、包丁といった農具や生活用品で生計を立てているようだ。
水車小屋や風車小屋にも鉄棒やバネを使っているが、人族の鍛冶師に制作してもらった。
いやサ。
“人種差別” じゃなくてサ。
“ドワーフさん” って『こだわり』がすんごいのサ。
躍起んなって一級品作ろうとするからサ。
もんのすごく時間が掛かんのサ。
腕は良いのにサ。
大工さんとの連携が取れないのサ。
コッチはサッサと済ませたいのにサw。
《 いかん・・・愚痴になってしまった・・・』
ともあれ “長細い板状のモノ” だから、“ドワーフさん” に頼んでみるのも良いかもしれない。
《 “とっちゃん” ・・・作ってくれるかな?》
トリコネア・トラハス・トアギタス・サネア・・・通称:とっちゃん
アストラス領のドビシャスに住む “ドワーフさん”
寿限無みたいに長いので、皆 “とっちゃん” とか “とっつぁん” と呼んでいる。
人当たりは良いんだが、鍛冶に対する情熱がハンパなく、実験小屋制作スタッフから外された一人だ。
「なに考えてんの?」
隣で寝ころぶ野生児が聞いてきた。
「馬車の足回り何とかなんないかな~って。」
「ああ、クッションね。油圧シリンダーでも作る?」
「いや、無理っしょ? 構造複雑だし、オイルどっから持ってくんの?」
「んじゃ、どーすんのさ?」
言い方キツかったかな?
少しむくれたようだ。
「単純に “板バネ式” はどう?」
「ああ~トラックの足回りみたいな?」
「後付けできるようなヤツだと、いちいち馬車の買い替えなんかしなくてもすむでしょ? “とっちゃん” に作ってもらえるかな~」
「死ぬほど “お酒” もってけば?」
「いや、死なれちゃ困るけど・・・頼むだけ頼んでみるかな? オセロの売上、どう?」
「順調。仲間に入れてくれるの?」
「スズネと連名でね。アントラの町に着いたら、少し多めに鉱石と材木仕入れといてくれる?」
「りょ~かい~♪」
サニエル領の検問所は混んでいた。
さすが交易が盛んなだけある。
長い列に並び、しれっと人頭税を払う。
商業ギルドのカードを使えば無料で入れるのだが、ドンダリデ子息の “やらかし” で目を付けられているだろう現在、あえて “足が付く行為” は避けておきたい。
大した額じゃないしな。
「スズネ。町に着いたらドンダリデの動向調べて欲しいんだけど。」
「畏まりました。。」
「さむそん?だっけ? 捕まったのバレてると思う?」
ワザとかね? “野生児” 君w
「サムデソンねw 襲ってきた “八人” は検問所に引き渡したんだっけ?」
俺は手綱を握るスズネに話を振った。
「そうですね。アルアス領側の検問所に引き渡しましたが、ドンダリデにも情報は流れてると思った方が良いでしょう。」
「だよね~ 流石にサルムンド侯爵や国王陛下にも、すでに知られてるとは思ってないだろうけど、ウチにちょっかい掛けて来るかもね。」
「もう王様に知られてるよ~ って教えてやれば?」
「僕なら、その時点で親子の縁切って証拠隠滅に奔走するかな?子息の余罪の追及するとか言ってたし・・・時間稼がないとね。」
「それもそっか。」
納得してくれたようだ。
「子爵家が伯爵家に “ちょっかい” 掛けて来るでしょうか?」
スズネが首を傾げる。
「ほんの数日前まで子爵家だったからね~。ちゃんと情報が行き届いてれば二の足を踏むだろうけど?」
スズネも納得したようだ。
検問所からアントラの町までは馬車で二日の距離だ。
途中、いくつかの商隊が固まって休憩する場所がある。
当然のように商隊ごとに冒険者チームが護衛しているが、トラブルに巻き込むつもりはないので、あえて距離を取って野宿した。
朝になり、ゆっくりと身体を解して朝食の準備。
商隊はやり過ごす。
別に意味はない。
炊き立て御飯と温かい味噌汁。沢庵と鮭の切り身。
“草” から仕入れた食材が、俺とメイを歓喜させたのは三年前。
今やすっかりチームの定番メニューだ。
ほっかほかの贅沢は『アイテムボックス』があってこそ。
ならばゆっくり食べたいではないかw
「お外で御飯。贅沢よね~」
メイさんご満悦♪
「グレイ様には感謝しかありません。」
気に入ってくれたようで何よりw
「結局、何もなかったね~」
ドンダリデ子爵の情報が遅いのか?
息子が他所の領で “やんちゃ” してたのを知らないのか?
はたまた証拠隠滅に奔走してるのか?
「気になる?」
「少しね。それより御飯だ。」
そう。
飯がまずくなる話題は、今だけ棚に上げておこう。
しっかりと味わい、食後の “煎り茶” と呼ばれる “煎茶” を啜る。
呑気の極みと笑わば笑え!
今この瞬間が “しあわせサマだ~”
「そろそろ行かないと日が暮れちゃうよ?」
「ここにゴクラクがある~」
「ワケわかんないこと言ってないで、さっさと立つ!」
「メイのいじわる~」
現実がツライのよ・・・
この日の朝の御者は俺からだ。
馬車の手綱を握るのは生まれて初めてだが、それはそれ、心強い味方がいる。
陰から出て来たノワールが、“お馬さん” の前に立ち「にゃ!」と一鳴き。
首を垂れる “お馬さん” の背に乗っかり、てしてしと前足で叩く。
ブルルと一鳴きして、ゆっくりと歩き出す。
“お馬さん” も心なしか嬉しそうだ。
「にゃ!」で通じるネコとウマ。
人間関係もこんな単純ならいいのにねw
トラブルの予兆は、いつも突然やってくる。
昼過ぎ、のほほんと魔導書を紐解いて眺めていると・・・
「・・・見られてるね~」
「殺気はないようですが・・・」
「ヒマしてたのよね~」
メイさん?
「もうじきアントラに着くころかな?襲うなら今?」
「・・・ですね。動き出したようです。」
「あたし行く!」
「殺しちゃダメだよ?」
「は~い。」
5人・・・いや、奥にもう一人いる?
手練れさんかな?
「ノワール、奥の一人ヨロシク。」
「にゃ!」
三年前と違い、ノワールも今や立派なチームメンバーだ。
ダンジョンに潜ると積極的に前に出て罠を嗅ぎ分け、戦闘では影から影へと敵を翻弄し、隙あらば『シャドーランス』や『シャドーウィップ』で戦力を削ぐ。
そんじょそこらの “暗殺者” よりも “暗殺者” してるのがウチの娘だ。
頼りになりますw
メイの “ヒマ潰し” に付き合ってくれた5人と、ノワールの影魔法で昏倒された1人。
「腕怪我してる?」
メイの二の腕に小さい傷があった。
「毒塗ってあったみたいね」
「大丈夫?」
「ヘーキ。『耐毒スキル』持ってるし」
さすが “野生児” w
それはさておき・・・
手練れさん?
『杖』持ってはんの?。
魔法使いか・・・甘い匂い?
念のために傷口に解毒の軟膏と包帯を巻くメイドに聞いてみた。
「スズネ。”催淫系の魔法使い” っているの?」
「はい。特殊な香で幻覚を見せたり、目で人を操る術を持っているようです。」
「薄着だね~ カゼ引きそう。」
「体臭で、男を惑わせる者もいますね。」
「それはそれはw」
『フェロモン使い』ねw
“美魔女さん”ではア~りませんかww
搾り取られそうwww
「目がや~らし!」
メイさん失礼だな。
「ん~ 念のために瞼と口縫っておこうか・・・ちょっと勿体ないけど。」
おっと!本音がw
「やっぱヤラしいじゃん。」
ゴメンてw
さて、人気のない所まで引き摺って行って結界張って一人づつ尋問。
弱冠一名。
毒を仕込んだ “含み針” を吹こうとしたが・・・残念。
俺の杖で引っ叩かれただけだった。
“異常状態無効スキル” で毒は効かないが、目を狙われるとね・・・
歯の1、2本は勘弁してもらおう。
5人すべての尋問を終え、情報を統合すると・・・
「闇ギルドねぇ。」
「“あるある” ね.」
「王都周辺は “梟” が牛耳ってましたが、強硬派と共に力を削がれましたからね。勢い付いたんじゃないでしょうか。“梟” ほどではないですが組織としては大きいほうです。まあ一枚岩ではありませんが・・・」
裏社会も弱肉強食っとw
「んで、俺を誘拐?誘惑?洗脳?してサムデソンを取り返そうと・・・ついでに
“山賊騒ぎ” も無かったことにしようと・・・」
「なかなかの悪知恵ですね。」
「証人が増えただけだけどね。」
俺は目と口を縫われてムームー鳴いてる魔法使いに話しかけた。
「痛い思いしたくないなら素直に答えてね?ハイなら一回頷いて。いいえなら首を横に振ってね?」
こくりと頷く。
「おねーさんは “淫靡のロザリー” で間違いない?」
こくり。
「僕を誘拐して、連れ去った先で洗脳するつもりだった?」
こくり。
「雇い主はドンダリデ子爵?」
返事なし。
糸がギリっと締まった。
「意地張ると手足が無くなるよ? おねーさんが死んでもあと5人いるし・・・もう一度聞く。ウソつかないでね? 雇い主はドンダリデ子爵かな?」
痛みに震えながら何度も頷いた。
「面倒だけと連れて行こうか。」
多少怪我してるが、許容範囲だろう。
メイを傷付けた時のように、毒など使ってない。
出血しすぎないようにヒールもかけた。
馬車に放り込むので “どこぞの子息” みたく。空腹にムチ打つわけでもない。
果てしなく善良な貴族の子供だろう。
この世界基準ではw
アントラの町は、すぐそこだ。
◆◆
「お父様、グレイからお手紙が来ております。」
朝
書斎の戸を開けた愛娘が、黒猫を抱いて入って来た。
そろそろ入室前にノックして、所在を確認するという基本マナーを身に付けて欲しいものだが、本人はあまり気にしていないらしい。
「グレイから?どうやって?」
「シャネリーが運んできてくれました。」
愛おしそうに抱いた黒猫の背を撫でる。
シャネリーとはグレイが契約した『神獣ノワール』の分体のことだ。
なるほど “役に立つ” とは言っていたが、こういう事か。
手紙を受け取り、読む。
思わず溜息が出た。
「ミリアス、サルカスとミレイを居間に呼んでくれ。」
私は王都の屋敷の管理を任せている執事に声を掛けた。
「お父様?グレイは何と?」
マリアが心配げに訪ねて来た。
「そう心配しなくても良い。アイツは我々が思っている以上に太々しいヤツだ。・・・行こう。サルカスやミレイにも説明する。」
荷造りを終えた私達は、まず、冒険者ギルドを訪ねた。
万一のことを考えると、連れて来た私兵だけでは心許ない。
腕の立つ冒険者が欲しいところだ。
幸いにも 『金糸鳥』という冒険者チームがアストラス領のダンジョンに向かう所らしい。
聞けばグレイのダンジョン初日の案内役を務めたとか。
「世話になる。」
「お気になさらず。我々にとっても “渡りに船” でしたから。」
アストラス領までのルートを確認。
ドンダリテ領を避け、サニエル領・アントラの町を経由するルートだ。
「・・・何かありましたか?」
「・・・ちょっとな・・・アントラの町で息子と合流する予定だ。礼は弾む」
「・・・解りました。」
貴族の息子が “やらかした” とは言えんよ。
馬車に戻って出発。
「しかし、グレイもよく ”トラブル” を起こしますね。」
サルカスが溜息交じりに呟いた。
「そうだな、しかし今回は完全にドンダリデの落ち度だ。」
「そうですが。何もわざわざ 乗合馬車 に乗らなくても・・・」
ミレイも呆れている。
「そういうな。おかげで乗客達は無事だったし、攫われた人質も救出できたらしい。」
「グレイが言ってたわ。そういう 話題をを作りやすい人 のことを『とらぶるめーかー』って言うんですって。」
マリアが黒猫の背を撫でながら言ってきた。
「『トラブルメーカー』か・・・言い得て妙だな。」
誰ともなく笑いあった。
グレイが生まれて六年。
アイツが『勇者の称号』持ちであることが発覚して3年。
僅か三年で数多くの特許を獲得し、その恩恵を惜しげもなく周囲にバラまいてきた。
「昼寝でもして過ごしたいんですけどねw」などと抜かしつつ精力的にダンジョンを攻略し続ける子供。
愛を説き、国王陛下にも臆することなく『勝つために生きる・・・』と断言する幼子に、どれほど心動かされたか・・・
『勇者』の称号を捨てられたら、どれほど幸せであっただろうか。
不憫でならぬと思う一方で『これが我が子だ!!』と大声で叫んで自慢してやりたいと思うのは間違っているだろうか・・・
「早くグレイに会いたいですね。」
母であるミレイがポツリと呟く。
「・・・そうだな・・・」
私は心の底から同意した。
◆◆
「捕まっただと!? どう責任取るつもりだ!!」
アイラムサ・ドンダリデ子爵。
ドンダリデ領主はイライラと机を叩いた。
「まあ、少し落ち着いてください。」
机を挟んで立っている男は、ヘラヘラと笑っている。
その所作が気に入らぬとばかりに、アイラムサ・ドンダリデ子爵は再度机と叩いた。
「『鉄の掟』 とか言う盗賊連中が捕まったばかりか、連絡にやったサムデソンまでも行方不明とは!庶子とはいえ、ドンダリデの名が出てくるのは時間の問題だぞ!」
アルアス領の評判を下げるべく 『闇ギルド』の計画に乗ったというのに、これでは本末転倒だ。
「そうはおっしゃいますけどねぇ。」
漢はヘラヘラと笑みを崩さない。
「もともとの “契約” では アルアス領 での “仕事” に口を出さず、全て我々に任せるはずだったのでは?」
そう。
アルアスの特産は『果物』。
王都でも評判だ。
そこで、
アルアスとドンダリデを流通を故意に妨害し、アルアスに恥をかかせる。
焦ったアルアスが盗賊の討伐に乗り出すのを見計らって、拠点を移し、別ルートの流通を妨害。
そうやってアルアスの評判を落とし孤立無援にさせたあと領主を暗殺し、汚職の噂を流し、領地を買収していく予定だった。
「われわれも迷惑してるんですよ。」
男は続けた。
「アルアスの果物は王都でも評判がいい。物流には欠かせないじゃないですか。ソコを利用させてもらうための計画に、あなたの息子さんが水を差した。」
ゆるりと殺気が零れた。
「それは、アイツが勝手にやったことだ。」
気圧され、思わず視線を逸らす。
「・・・ま。それは仕方ありませんな。息子さんがどこで何してるかは存じませんが、別ルートでの計画を進めます。」
男はヘラヘラと話を進めた。
「アルアス=ドンダリデ ルートは放棄するのか。」
「拠点が潰されて。兵士が巡回し始めましたからね、むしろ強引に進めると、部下たちが捕まって『ドンダリデ』の名が表に出やすくなる、」
「『淫靡のロザリー』とか言う奴はどうした!」
子爵がイライラと詰め寄って来た。
「勇者 と一緒ですよ?」
伸びてきた手を払いのけ、男が平然と言ってのけた。
「なにぃ!?」
「ご心配なく。もう手は打ってあります。それではこれでw」
男は返事を待たずに、踵を返した。
「勇者・・・アストラスの次男か・・・くそったれが!」
子爵はやり場のない怒りを落ち着かせようと、乱暴に椅子に座った。
何度か深呼吸をして、やや落ち着いたところでペンを取る。
何はともあれ “寄り親” に報告しなければならない。
いざとなれば何時でもサムデソンの籍を外し、盗賊の罪を『勇者』に擦り付けなければ・・・
次回投稿は 4月11日予定です。




