26 魔神対策とチートなポーチ
陞爵の儀から数日後
グレイがアストラス領のダンジョンへと戻った後、伯爵となったホウレイ・アストラスは再び王宮へと呼び出された。
本当はさっさと帰ってしまいたかったのだが、飛び地とはいえ新領地を与えられ、その手続きに少々手間取っていた。
9歳になったサスカスは押し寄せる見合いの手紙に閉口し、母ミレイと妹のマリアを連れだって数名の私兵と共に買い物に出かけている。
母と共に出かけるマリアの胸には黒猫が抱かれていた。
ノワールの分体である。
「ホウレイ伯爵、非公式の場だ。楽にするがよい。」
いつぞやの応接室に通され、出された紅茶の香りを楽しんでいると、反対側の扉が開いてベルトナラキウス国王が入って来た。
臣下の礼を取ろうとするホウレイを手で制し、どっかと椅子に座る。
疲れが見える。
背後に立つノルグナー公爵の顔色も優れないようだ。
《 グレイ・・・やり過ぎだ・・・》
「サルカスだったか?今日は息子と一緒ではないのだな。」
応接室に居るのが伯爵一人だったのが意外だったらしい。
通常『我が子をヨロシク』とばかりに連れ回すものだが・・・
「自分は爵位を持ってないからと、街に遊びに出ております。」
ホウレイは苦笑交じりに答えた。
押し寄せる見合いの手紙に音を上げたとは言えない。
「む・・・そうか・・・」
「いますぐ呼び戻しましょうや?」
「いや・・・良い。たまには羽も伸ばしたかろう。」
「失礼ながら、アヤツが大人しく羽を畳んでいるところなど、ここ久しく見たことありませんが。」
3年前『ビート』を発見し『水車小屋』を設計した弟に刺激されたのか、『風車小屋』の設計に没頭し、見事『実験機』を作り上げた。
セバスの報告によると、設計時における細々としたアドバイスはグレイによるものらしいが、それでも手柄は手柄。
実験機はゼンマイ仕掛けになっておりレバーの操作一つで井戸の水を汲み上げ、領民に喜ばれている。
学園に通う現在も勉学や剣術に打ち込む傍ら、小屋の改良を模索しているようだ。
「・・・そうか。」
「ところで、ここ数年の税収の上がり具合は目を瞠るものがあります。得にアストラス家は『ビート粉末』『マッチ』『水車小屋』『風車小屋』の特許をもち、大変潤っているようですね。」
ノルグナー公爵は事務的に話を繋いだ。
「微々たるものではございますが・・・」
「謙遜せずとも良い。領地が富めば領民も潤う。市井の者も笑顔が絶えぬ領地だとウワサされておるようだな。」
「恐悦至極に存じます。」
素直に頭を下げた。
ウワサとは言え、国王の耳に入る程とは栄誉な事だ。
土産話が出来たと喜ぶべきだろう。
「それでお聞きしたいのは、アストラス家が開発した新しい農法。『ポーション農法』と『魔石農法』でしたか・・・特許申請をされてないようですが?」
《 なるほど・・・それが本題か・・・》
ホウレイは気を引き締めた。
『ポーション農法』も『魔石農法』も、どちらも廃棄処分されるモノを肥料とする新農法だ、
二つ同時に出したのは、価格の高騰を抑えるため。
現状、使用期限を過ぎたポーションも魔力が尽きた魔石も、僅かだが ”売値” が付いている。
当然だろう。
だが、売れるからと言って無暗に値上げされるのは本末転倒といえる。
その辺の塩梅は ”商人ギルド” と ”冒険者ギルド” の腕の見せ所でもあるのだが・・・
また、領地ごとの土の状態によっては選択肢があった方がいいという理由もある。
地域によっては ”焼き畑” をするようであるが、無理強いはしない。
あくまで『ボランティア』なので、新農法を試すか否かはすべて自己責任。
衝突することもない。
「アレはグレイの啓示によるもので、損得抜きで広く伝えて欲しいということでしたので敢えて特許申請はせず、知り合いの領主を巻き込んで開発したものです。」
「ほう。良い心掛けだな。おかげで他領も大いに栄えておる。皆感謝しておったぞ。」
「愚息も喜びます。」
「そのグレイ君ですが、今日もダンジョンに?」
「は。今は “不毛の地” のダンジョンの浅層から中層にかけて攻略を進めているようです。」
「一度潜れば中々出て来られぬのだったか・・・心配ではないのか?」
「心配・・・今は数カ月に一度帰ってくる程度ですが、笑顔が増えているようですな。」
「笑顔が増える・・・とは・・・」
「攻略中に新商品を思いついたから手を貸してほしいと・・・成功すればさらに国が富むとも言っておりましたな。」
「・・・それは・・・嫌味か・・・」
恫喝にも似た威圧。
ホウレイは平然と受け流した。
《 だから、怒らせる相手を間違えたんですよ。陛下・・・》
「国が富むのに嫌味などございましょうや?」
「・・・やはり、怒っているのですね?」
ノルグナー公爵は、なんとも言えない表情だ。
「はて?何のことでしょう?新しい農法に特許申請を出さなかったことでしょうか?・・・それとも、秘密裏に進めるはずの『勇者』の正体をバラされたことでしょうか?」
「やはりソッチか~」
大袈裟に仰け反るベルトナラキウス国王に、少しだけ同情するホウレイであった。
《 グレイよ。これが効果覿面という奴か・・・》
「あの気が遠くなるような書類の束・・・まだ増えるのですか・・・」
もう勘弁してくれと心の声が聞こえるようだ。
「ただいま長兄のサルカスがグレイの設計を元に、さらに進化させた商品を作成中ですが?」
風車の実験機を完成させたサルカスに喜んだグレイが新型の農機具の設計図面を見せると、奪い取るように大工に持ちかけて議論を重ねている。
在学中に農機具の実験機を完成させ、特許を取りたいらしい。
「もうよい!儂が悪かった!勘弁してくれ!この通り!!」
堪らず頭を下げるベルトナラキウス国王。
《 グレイも連れてくれば良かったか?》
ホウレイは、ニコニコと領地に戻る我が子を引き留めなかったことを悔いた。
「愚息に伝えておきます。ところでノルグナー閣下。我が領に学校を設けることは可能でしょうや?」
話題を変える。
あまり引き摺って相手の心証を悪くするわけにもいかない。
「学校・・・ですか?・・・学園ではなく?」
ノルグナー公爵が聞き返した。
「愚息が言うには、市井の中にも天才的な発想を持った子供が大勢いるとか。それらに文字や計算を教えることで5年10年後の更なる国の発展が期待できるのではないかと言っておりましてな。」
「未来の話か・・・」
国王は下げた頭を上げて、呟いた。
少しは安堵したようだ。
「我々の寿命など短いものです。後世の為に自慢できるものの一つや二つ残しておいても、バチは当たらぬだろうとも言っておりましたな。また、更なる国の発展と繁栄は魔神対策になるとも・・・」
『魔神』の言葉で、場が引き締まった。
日々の激務で忘れがちになっているが、アストラス領の次男は、『魔族』『魔王』『魔神』に対抗すべく修練を重ねる存在である。
幼子に国の未来という重責を背負わせねばならないという、罪悪感が頭をよぎった。
「詳しく話せ。」
ホウレイは再び姿勢を正した。
「愚息が言うには、魔族の頂点に立つのが『魔神』であり、本来は『神々の一柱』であったそうです。」
その言葉にに公爵は頷いた。
「それについては『原初の経典』にも記載されております。創造神様の計画に異を唱え、地獄に落とされたとも・・・」
「そのようですね。つまり。創造神より『神』本来の力と存在意義を奪われ。地獄の最下層に落とされた存在だと・・・」
「それも『経典』に書かれていました。創造神を恨み、『神』の力を取り戻すかのように瘴気を纏い、隙あらば地上の生物を仲間に引き入れ、天上界に反旗を翻すべく暗躍しているとも・・・」
「はい。そしてそのような存在に対抗できるのもまた、我々 “ヒト” という存在らしいのです。」
「・・・勇者・・・ではないのか・・・」
国王は驚き。呟いた。
「勇者は人々に希望を持たせる肩書きにすぎない・・・と言っておりましてな。」
「・・・肩書き・・・」
ノルグナー公爵は3年前の教会での事件を思い出していた。
英霊ソリアンは確かに『称号は肩書にすぎぬ』と言っていたではないか。
ホウレイは淡々と言葉を紡いだ。
「瘴気を纏い、その力を増大させる彼奴等に対抗する手段を我々は持っているそうです。」
「なんと・・・それはどのような?・・・」
「発展と繁栄。身分の差に関係なく、笑顔が溢れる国造りがその一つ。」
ホウレイは手を広げ、指を折った。
「思いやりの精神を広げ、日が落ちた後も安心して外を歩ける環境を作ること。」
さらに指を曲げる。
「学問を広め、経典の教えを真に理解できる人材を多く作ること。」
三本目の指を曲げた。
「教会の教えを見直し、広く反省の場を設けること。以上の四つが『魔神』の力を弱らせる最高の手段だそうです。」
《 『愛・智・反省・発展』だったか?少し順番が狂ったが、まあよかろう。》
どれか一つでも抜きん出ていれば、国の偉業と言えるのではないかとも思えた。
「それで魔神が倒せるのか・・・」
国王は半信半疑だ。
「瘴気は『心の怪我』・・・たしかグレイがサルムンド侯爵閣下にそう教えたはずですが?耳にしておりませんでしたかな?」
「いや・・・聞いた。確かにそう言っておった。」
「怪我を治すのは治癒魔法。これは『神』が “人” に与えたもうた光です。そして、治癒魔法を持たぬ我々が与えられた『奇跡』が『愛』だそうです。」
「・・・愛・・・とは?」
「先ほど申し上げた『思いやりの心』ですな。サラフィナ神様の教えだそうです。」
「思いやりの心・・・それで倒せるのか」
「倒せずとも、弱らせることは出来ると・・・瘴気を持つエサが無くなれば弱るのは自然の摂理だとか・・・宗教の真の目的の一つでもあるそうです。
「・・・そうか・・・」
「『言うは易く行うは難し』ですな・・・この国の問題だけではないゆえに。」
「・・・人類全ての問題・・・か・・・」
重い沈黙が訪れた。
「・・・解りました。学校設立に対する補助金の申請と人員の派遣を・・・」
公爵は雰囲気を変えるべく、強引に話を戻した。
「あ、いりません」
ホウレイの返事は素っ気ない。
「「・・・は?・・・」」
我ながら息子に毒されてるなと思いつつ、ホウレイは笑みを浮かべた。
「すでに愚息が声掛けすることで、引退した大工や木工職人やら商人やら等が手を上げて “私塾” を立ち上げております。この時ばかりは『勇者』の称号を持っててよかったと喜んでおりましてな、彼らの給料や維持費は、これから作る『新商品』やダンジョンから掘り出したアイテムの売却などから捻出するそうです。ですので許可証だけ頂ければ・・・」
「・・・結局・・・書類が増えるのですね・・・」
公爵は自身の執務室の書類の束を思い浮かべた。
帰りたいと、切実に願う。
「微々たるものです。むしろ長兄のサルカスが泣くかもしれませんがw」
「・・・ケンカ売るつもりはなかったのだがな。」
国王は、うんざりしたように呟いた。
「捉え方によるのではないでしょうか。陛下のお気持ちは痛いほどわかりますが・・・」
ホウレイはそこまで言うと、腰に巻いていたポーチから二つの包装された箱を取り出した。
「・・・それは?」
ポーチの、その内容量からは考えられぬ大きな箱に公爵は一瞬身構える。
「グレイからの献上品です。公に渡すと騒ぎになりますゆえ・・・」
「・・・何だ?」
「こちらは国王陛下に・・・中身はアイテムボックスが付与されたポーチです。」
微細な模様が描かれた包装紙を指し示した。
「「・・・は?・・・」」
ホウレイはやたらゴージャスな包装が施された箱を指して続けた。
「こちらは王妃殿下に。同様にアイテムボックスが付与されたポーチです。お確かめください。」
淡々と、事務的に差し出された箱を見る。
「・・・どういう事だ。」
「包み隠さず説明は致しますが。まずはお確かめください。」
「・・・では失礼して・・・」
公爵は包みを手に取ると包装を開け、中を確認した。
金糸で模様が施され、中央には王国の旗があしらわれている。
異常がないことを確かめ、国王に手渡した。
国王は何も言わず、愛用の大剣をポーチに押し込む。
抵抗なく、するりと入った。
「確かに、アイテムボックスのようだな。」
「性能の説明をしても?」
「よい。」
「まず、そのアイテムボックスの内容量ですが、王城が丸ごと入る程度です。」
「「・・・は?・・・」」
《 なるほど・・・これは面白いな・・・グレイの奴め・・・》
「内容量は、この王城がすっぽりと入る程度です。」
ホウレイは敢えて繰り返した。
「・・・それは聞いた・・・まことか?」
「本当です。さらには時間停止機能が付いています。」
「・・・時間停止・・・」
時間遅延なら聞いたことがある。
事実、数年前にも時間遅延付きアイテムバックがオークションに出品されたと騒がれたばかりだ。
「しかも強固な結界が付与されてますので、グレイが言うには『国王陛下の大剣にも耐えられるようにしてみましたw』とのことです。」
国王はポーチから愛刀を取り出すと、テーブルに置いたポーチに全力で振り下ろした。
ガキィン!!
ポーチに傷はなく、愛刀の刃が毀れた。
愕然と刃を見る。
《 いかんな・・・笑いが零れそうだ・・・》
「では経緯について、お話させていただきます・・・」
◆◆
日が暮れて
ようやく解放されたホウレイは、執事が待つ馬車へと乗り込んだ。
「随分と長い面談でしたな。」
ゴキゴキと首を回す主人を眺めながら、セバスは呟いた。
「うむ。本来ならば栄誉な事だと喜ぶべきだろうがな・・・ミレイ達は帰ったか?」
「はい。多少・・・問題はありましたが、皆様ご無事です。」
セバスの言葉に、緊張が走った。
「何があった?」
「少々、不心得な者たちが後をつけ回しておったようですが “草” が手を回して対処したようです。」
「 “草” が?お前が雇ったのか?」
「いえ、彼らが言うには『グレイ様に大恩あるゆえに手を貸した』と・・・『得られた情報は後で知らせる』とのことです。」
「・・・そうか・・・」
とりあえず、何事もなくて良かったと思うべきか・・・
《 グレイよ。お前の闘い。一筋縄でな行かぬかもな・・・》
とりあえず早急に帰りたいが、明日はミレイが茶会に呼ばれている。
《 荷造りだけでも済ませておくか・・・》
王都はまだ、安全とは言い難い。
《 厄介なものよな・・・》
ホウレイは深く溜息を吐いた。
『愛・智・反省・発展』は「幸福の科学」の教えです。
オッチャン会員なので、ちょいと引っ張り出してみましたw
なんのこっちゃ?と思う人は、全国の支部や精舎を覗いて見てくださいww
強制はしませんよ。
次回更新は 4月4日です。




