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25 風魔法とイヤガラセ


 2階層


 “野生児” の剣技が冴えわたる。


 《 “男子、三日会わざれば(かつ)(もく)して見よ”・・・三国志だったかな?・・・女子はどーなんだ?》


 俺とメイが前衛を張り、コボルトのリーダーらしい魔物に “水風船” で呼吸を妨げ、統率を失った雑魚を切っていく。


 固い毛皮を豆腐のように切り裂く膂力と、乱れない剣筋が見事だ。


 「お疲れ~ メイすごいね~」

 「お疲れ。先輩達に比べたら、どうってことないよ。」

 「お疲れ様です。お二人ともご立派でした。」


 きゃいきゃいと歩みを進め、ボス部屋に向かう。




 ボス部屋の前はさらに賑やかだった。


 どうやら人の気配を感じて、二階層のコボルト達が集結した感じだ。


 筋骨隆々な髭面が、襲い来る鉤爪を躱し、隙あらば噛みつこうとするコボルの口へ剣を突き立てる。

 あれは痛そうだ。


 「おい!扉が開いたぞ!次のチームは何処だ!!」

 「俺達だ!すまん!任せる!」

 「さっさと行け!」


 押し込むようにチームを中に入れ、扉を閉める。


 「次のチームは扉を固めとけ!アイツらすぐ終わらせるぞ!!」

 「たぁく!ボス部屋前くらい休ませろってんだ!!」

 「グダグダ言う前にさっさと片付けろ! 怪我人は下がれ!!」


 《 博愛主義だねぇ~ こりゃ強くもなるわ。ソリアン様も意地が悪い・・・》


 ぼんやり見てたらスズネが耳打ちしてきた。


 「後方から増援が来るようです。」

 「数は15くらい?」


 「さらに後ろから来てるわね。10・・・20くらいかな?」

 メイさんの気配察知が鋭くなってる?


 「このままじゃ全滅か。仲間外れもヤだし、手伝おう。」

 「賛成。」


 俺達は踵を返し、増援部隊を迎え撃った。






 「いや~ 儲け儲け♪」

 元ブラックOLが御機嫌だw


 増援部隊を一通り片付けた俺達が “ボス部屋前” に戻ってみると、疲弊した冒険者達が思い思いに休んでいた。


 3チームくらいか?


 怪我人もいるようだ。


 「傷口、ちょっと見せて」

 一番、傷が深そうな冒険者に歩み寄る。



 「何だ小僧・・・あ。いや。領主の息子か・・・酔狂なガキがいるって聞いたが。」


 「その酔狂なガキです。治癒魔法が使えるので怪我人治しますよ。」


 「そりゃありがてぇ。仲間に自慢できるぜ。酒場で小娘が 『勇者』に助けてもらったって散々自慢してたからな。」


 《・・・あの娘か~》


 「誰が『勇者』などと言ってるんですかね?」

 俺は少々深い傷に “ミドルヒール” を当てながら聞いた。


 「おうよ。王都のあちこちでウワサになってるぜ。アストラス領の『勇者』のガキが教会に殴り込んで不正を暴いたあげくに、教皇を “魔物の森” に吹き飛ばしたってな。本当か?」


 《 陛下・・・にゃろ~》


 「当たらずとも遠からず・・・ってトコロですかね。王都には呼ばれたから参上しただけで・・・成り行き上そのように見えてしまったのかもしれませんね。」


 《 あんな別嬪さんがヤラかしました~ なんて言いズラいべ w》


 「へっ おっかねぇガキだな。」


 「・・・こんなところですかね。」

 俺は治った傷口を確かめた。少し出血が多かったかな?


 「この後も探索進めますか? オススメはしませんが?」

 「いや、今日はもう帰るぜ。本当は “腕試し” に来たようなもんだからよ。『勇者のダンジョン』ってのかどの程度のモンかってよ。俺等にゃまだ早すぎたって思い知ったぜ。」


 《 勇者のダンジョン・・・》


 一瞬気が遠くなるのを感じたのは、勘弁して欲しい。


 「ボス部屋の扉、開いたみたいよ?どうするの?」

 メイが、開いたボス部屋の中を覗きながら聞いてきた。


 「俺達はいいや、先に行ってくれ。」

 「俺らも棄権する。お先にどうぞ。」


 「じゃ。お先に失礼します。」

 立ち去り際に、棄権した冒険者たちに “エリアヒール” を掛けた俺は、ボス部屋に突入した。


 間際に

 「おお~!」

 「勇者の祝福だ!!」


 などと不穏な声が聞こえた気がしたが・・・


 気のせいだ・・・そうに違いない!







 2階ボス部屋は “コボルト30匹” でした。


 《 くじ運悪いな~》


 嘆きつつも淡々と処理する。





「もうコボルトはお腹いっぱいだよ~」

 “野生児” が嘆く。


《 コボルト喰ったのかw》


 「せっかくだから一休みしていこうか。」

 魔石を拾い終わった俺は、シートを広げた。


 「さんせ~ 甘いモノ欲し~」

 「お茶煎れますね。」

 スズネがいそいそと茶器を並べる。


 「しっかし、ボス部屋前っていつもあんな感じかな?」


 まるで通勤ラッシュだ。

 殺意があるだけ、さらにタチが悪い。


 「今回はたまたまだと思います。他のダンジョンでも『ボス部屋前に集結するべからず』は常識ですし・・・」


 「ダンジョンのルールに明るくなかったってこと?」

 「そうでしょうね。初心者にはありがちですから。」

 「なるほど、でも順番を守って他のチームを先に行かせたのは良いね。」


 「はい。ああいうチームは信用出来るかもしれませんね。」

 「強さ云々は別にして、そういう冒険者とは仲良くしておきたいね~」

 「そうですね。」



 「ところでメイ。魔法使わなかったね。」


 「あ~ 忘れてた。」

 「特攻精神は否定しないけど “引き出し” は多いほうが楽に戦えるよ?」

 「でも魔法って意識的に使ったこと何て、あまりないんだよね~」


 《 苦手意識? でもチョイチョイ使ってる様だが??》


 「風魔法は使ったことない?」

 「あれはイメージね。スタートダッシュの補助とかの・・・」


 《 自分を吹き飛ばしてんのか・・・まんま野生児ね・・・》


 「どうする?その気があるなら教えるけど?」

 「やる!」


 《 ()る気スイッチ ON!ww》


 「スズネ。明日はダンジョン攻略は休み。代わりに人気のない所へ行くよ。」

 「(かしこ)まりました。」





 “不毛の地”は広く、小高い山が多い。


 文献によると、遥か遠い時代に巨大な帝国があり、その中心である帝都が現在の “不毛の地” であるらしい。

 なんでも2代目か3代目当たりの帝王が調子こいて天にも昇るような巨大な塔を建てようとして神の怒りを買ったとか・・・まんま “バベルの塔” やん!?


 破壊の規模がエグイけど・・・



 ダンジョン周辺の開発中の町を出て、少し走る。


 小高い山の裏に入ると。まるで別世界だ。


 「アメリカ西部の荒野ね~ 写真でしか見たことないけど。」

 「ここと似た感じのトコロが向こうの世界にもあったって話ね。行ったことはないけど風景を紙に移す魔道具があってね、その絵とよく似ているんだよ。」


 質問を先読みして、スズネに説明した。



 「さて、ちゃっちゃとヤってしまおうか。昨日渡した “風の魔法陣” 憶えた?」

 「あの、私もするんですか?」


 「するよ?スズネは生活魔法使えるでしょ?なら資質はあるはずだよ。諦めずにやって見よう。」

 ってか、スズネの“ウォッシュ&ドライ” が “クリーン” に進化してるんだが?


 自覚ないのか?




 それから昼の時間になるまで、初級風魔法だけを重点的に練習した。




 「だ~~~も~~~だめ~~~!」

 メイが大の字になって地面に寝そべる。

 スズネは顔色が悪い。


 《 すごいな二人とも。朝から5時間近く・・・休憩しながらでも風魔法連続ブッパしよった・・・》



 メイとスズネの風魔法の威力は段違いだ。

 資質の差もあるだろうが、メイは真面目にチャクラを回してたようで、スズネに比べて威力が俺の初級風魔法に近い。


 だが目を(みは)るべきはスズネの方だろう。


 最初は “そよ風” 程度の “エアボール” が、回数を重ねるごとに威力を増し、早々に風魔法のスキルを獲得した。

 ここまでくれば、詠唱と強いイメージでゴブリンを吹き飛ばせるくらいは出来るだろう。


 「スズネおめでとう。風魔法スキル獲得したね。」


 「そ・・・そうですか?」


 魔力枯渇寸前で息も絶え絶えだ。


 「まだ実践には難しいだろうけど、練習重ねれば無詠唱でも発動できるようになると思うよ。今は辛いけど、ポーションは飲まない方がいい。自然回復に任せた方がMP増えやすいしね。」


 「わかり・・・ました・・・」


 「私は~?」

 メイが感想を聞きたいらしい。


 「・・・元気じゃんw」

 「それだけかい!」


 「解ってるって。毎日頑張ってたんだね。威力がスゴイことになってるのがわかる。使いこなしたら戦術の幅が一気に広がるね。頼りにしてる。」

 「エヘヘ~ お腹空いた~」


 《 現金なやっちゃw》


 俺はシートを広げた。




 昼食を食べ、家に戻る。

 スズネとメイを休ませ、神像を取り出した。




 白い世界。


 「や、お疲れさん。」

 「お疲れ様です。見てましたか?」


 「まあね。メイ君の成長速度もなかなかのもんだね。」

 「そうですね。俺より早いかもしれません。」


 「何か気になることでも?」

 「スズネが風魔法のスキルを獲得しました。早すぎません?」


 「ああ、それね。君の影響だろう。」

 「俺の?」


 「向こうの世界でもあるだろ?霊能者の近くに居続けたら自分も霊能力に目覚めたってやつ・・・」

 「ああ、そういう・・・」


 「別に害はないから気にしなくていいよ?むしろ “スイッチ“ が入ったんじゃない?」

 「 ”引き出し” 増やしても問題ないと?」


 「そうだね。むしろ興味あるかな?」

 「コッチの人間の ”限界突破” に? 趣味悪くないですか?」


 「そう? ソリアン君が喜ぶと思うけど?」

 「・・・そういうモンですかね?」


 「そういうモンだよw」

 「サラフィナ様、実はけっこうヒマだったりして?」


 「キミを深く知るために向こうの情報を集めてるだけだよ?」

 「俺は俺でしかないですよ?」


 「それだよ。それが不思議なんだ。」

 「?」


 「解らないかい?じゃあ宿題だ。がんばれw」

 「? それだけ?」


 「じゃねw」





 《・・・ナニこの尻切れトンボな会話・・・?》


 もやもやするが、仕方がない。

 俺は再度目を閉じ、小周転法に集中した。



                     ◆◆



 アストラス家。


 「セバス。手紙を受け取ったか?」


 ホウレイ・アストラスは買い替えたばかりの新しい机に一通の手紙が置かれていることに気付いた。

 通常、新しい書類や手紙に関しては、執事が確認し、領主に直接手渡すことになっている。


 手紙に仕込まれる毒もあるからだ。


 表面には見覚えのある字で “グレイ・アストラス” の名が書かれている。



 「いえ。本日はまだ受け取ってませんが?」

 「あいつ、新しい魔法でも開発したか・・・」


 ホウレイは躊躇なく手紙を手に取り、封を開けた。


 「旦那様!」

 「よい。」



 便箋を開き、読み進める。


 やがて・・・

 「・・・ぷぅ・・・くっくっくっ・・・」


 破顔したホウレイが、こらえきれぬとばかりに便箋を顔に当てた。


 「何か愉快な事でも書かれてあったので?」

 「ああ、愉快・・・というか・・・とんでもない事を考えよる。よほど頭に来たらしい・・・」


 「どういうことでしょう?」

 「・・・どうやら王宮はグレイが『勇者』の称号持ちであることを(うわさ)で流したようだ。ついでに “不毛の地” のダンジョン周辺も『勇者のダンジョン』『勇者の泉』『勇者屋敷』などと迷惑極まりない二つ名が付いたようだな。」


 「それはまた・・・」


 「おそらく国は公表こそしないが、ウワサを流すことで民衆の期待感を煽り、国内に縛っておきたいのだろうと予測しておる。あまりに頭に来たんで、合法的な “イヤガラセ” するから手を貸せと言ってきおった。」


 「いやがらせ・・・ですか・・・どのような?」


 「国を富ませることで、国王陛下の仕事を増やしたいらしい。」


 そこまで言うと、ホウレイは再び破顔した。



 「・・・たく、我が子ながら豪胆極まりない・・・セバス、ミレイを呼んで来い。あとローラとメイサもだ。実家に儲け話があるとな。あとオッズに頼んでプランターを用意してもらえ。出来るだけ沢山だ。グレイがまた新しい実験を始めるらしい。」


 セバスが退出した後、ホウレイは窓から天を仰ぎ見た。


 「いやがらせ・・・か・・・とんでもない奴を怒らせてしまいましたな、国王陛下・・・。」




                   ◆◆




 3年後。


 ヨーデル王国はこれまでにない大豊作を迎え、王宮への税収は稀にみない額になった。


 ヨーデル王国の税は金銭に限られたものではない。

 特に下級貴族と称される家からは、商人の往来が少なく、思うように換金できない村も多いため物納による支払いが多い。

 そのため数多くの荷馬車が王都に押し寄せることになるのだが、王宮が管理する倉庫はいつになく余裕がない状態だった。


 当然のように、国王とノルグナー公爵の机には書類が山積みされ、血の気が引いた顔を引きつらせる毎日を送ることになる。


 税を預かる部署も同様ににてんてこまいであり、倒れる者もいた。



 不審に思った国王が調査させた結果、アストラス家が発端であることが解り、王令で無理矢理『伯爵』へ『陞爵(しょうしゃく)』させるという暴挙に出たが、王妃を含む高位貴族の誰からも反対の声が上がらず、むしろ「今更か!」と囁かれる始末。


 『陞爵(しょうしゃく)の儀』を受けるホウレイを、満面の笑顔で見守るグレイに怖気が走る国王であった。



王国で暴れる「3歳幼児」。

楽しすぎて長々と書いてしまったw

累計ページビューが、やっと1000PVを越えました。

あざっすww


次回更新 4月1日 エイプリールフールw

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