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24 王宮の思惑


 帰宅して10日目。


 俺達はようやく ”不毛の地” へと向かうべく馬車に乗り込んだ。


 「ヒドい10日間だった・・・」

 メイがげんなりしたように呟く。


 まあ、仕方あるまい。


 ”シバ〇隊” が『いいオモチャを見つけた!』とばかりに、()わる()わる ”野生児” をシバき回していたのだ。


 怒りに任せてダンジョン3階層を単独突破してレベルが23に達したとしても、まだ5歳児。


 経験豊富?な ”シバ〇隊” からすれば『元気な子供』なのだろう。


 手が空けば、ひょいと襟首捕まえて「ちょっとメイちゃん借りま~す。」と、木刀片手に森へと消えていく始末だ。


 能力開放がアダになったなw


 万が一のこともあるので、常にノワールを付けていたが・・・




 「しかし、オセロのデモンストレーションがこれほど上手くいくとは思いませんでした。」

 同席するセルア会長はホックホクのようだ。


 「それだけ娯楽に飢えてたんでしょうね。増産の方はどうですか?」


 俺は何やらブツブツと呟く ”野生児” を放置し、御機嫌な ”守銭奴” に話題を振った。


 「相変わらず木材は足りてませんが、輸送費は少々嵩張っても他所から取り入れることを計画しています。メイさんが言うには ”アストラス領” と並行して ”王都” でも販売した方が良いと・・・」


 「・・・反対はしません。むしろ ”売り時” だと思います。人の噂は早いですからね。ですが ”品質管理” には、くれぐれも気を使ってください。」


 「承知しております。」

 商会長は深々と頭を下げた。





 「メイ。そろそろ機嫌直したら?」


 相変わらず俯いて独り言を呟く ”野生児” に言葉を掛けた。

 なんやのん?この娘?


 「解ってるわよ。センパイ達に教えてもらったこと思い出してたの!」


 《 おっと!こりゃ失礼w》


 「メイちゃんは教えたことをすぐ覚えるから、皆張り切ってましたもんね。」


 スズネは微笑まし気に ”野生児” を眺めている。

 君もガッチリ仕込んでたもんねw


 「モテモテだね。羨ましいよw」


 「うっさい!こんなモテ(かた)やだ!!」

 贅沢なやっちゃw


 「それにしてもメイさんの発想・・・というか知識量には驚かされるばかりです。どこで見つけて来たのですか?」


 優秀な人材。

 セルア商会長が興味持つのも無理はないがね。


 「出身地は不明です。本人によると、生まれて間もないころ盗賊に襲われて村人全員が犠牲になったとか・・・見つけたのはスラム街です。」


 嘘は言ってない。


 「・・・そうですか・・・勿体ない・・・」


 目に見えて意気消沈したようだ。


 《 誰かスカウトしたかったんかねw でもメイはあげないヨw》





 「ところで『カート』という新商品が出回っているのはご存じですか?」


 おっと、話題作りにソッチに行ったかw


 「はい。知っています。荷運びに便利だとか・・・」


 「そうなんです!いや、アレは画期的な発明ですね!両側の車輪の軸を別々に稼働させるなんて!今まで両手に持つか背負って運ぶしかなかった荷物が片手で楽々運べるようになるんですよ!知り合いの商会が自慢してましたが、あれは羨ましい!ぜひウチで契約して欲しかった!」


 《 気持ちは解るからツバ飛ばさないで~》


 《 スズネさん?小鼻膨らんでますが?》


 「それほどの発明だったんですか?」

 詐欺師がんばれ~


 「それほどです!聞けば二輪馬車にも応用できるとか・・・そうなれば今まで以上に小回りが利いて荷運びが楽になります!流通に革命が起きますよ!!」


 「へー すごいですね~」


 《 そこまでの発想は無かった・・・ショックアブソーバー付きの馬車なんて作ったらエライことになりそうだなw》


 「いや~どこの誰が発明したのか存じませんが、ぜひ ”お知り合い” になりたいものです。商業ギルドに問い合わせても ”守秘義務” の一点張りでしたからね。ご存じないですか?」


 「・・・申し訳ありません。」


 《 ソコで小鼻膨らましてるヤツですw》


 「・・・そうですか。」 

 再び意気消沈。


 忙しそうでナニヨリw


 「まあ、ウチには『ビート粉末』もありますし『水車小屋』建設も順調なようです。『オセロ』もやり様によっては売れると思いますよ? むしろ心配なのは ”大手の商会” からの圧力です。何か言って来てませんか?」


 「ああ、それはご心配なく。アストラス領は『勇者』様の ”御誕生” の地。『ビート粉末』も『水車』も『オセロ』も『マッチ』も、国王陛下の憶えも良いグレイ様が ”サラフィナ神” より『啓示』を受けて降ろされた『奇跡』の遺物の再現だとウワサされております。おいそれとは手出しはできませんよ。」


 《 なんかエライことになっとる・・・》


 ちょっと意識が飛びかけた・・・。


 「それは・・・大袈裟と言うか・・・言い過ぎなのでは?」


 「そんなことはございません!現にこれから向かう ”不毛の地” での工場建設にしても王都の役所ではすんなりと許可が下りましたし、かの地へ出張に来ている御役人様たちも、いつもなら ”御心(おこころ)付け” を渡さなければならないところを、アストラス家が絡んでると分かるや否や(がん)として拒絶されるほどでした。よほど天罰が恐いのでしょう。」


 「そ・・・そうですか・・・それは何より・・・」


 ナニシテクレトンネンオウサマ・・・・


 ・・・帰りたい・・・







 俺の願いも空しく、馬車は順調に ”不毛の地” へと到着した。

 

 この10日間で、かつては ”不毛” とされていたダンジョン周辺の地が、すっかり町の様相を呈している。


 「お~ 早いですね。すっかりドンビシャスの町並みじゃないですか。」


 俺は食い入るように窓から町の様相を見ていた。


 まるでゴールドラッシュのような雰囲気だ。


 王都の貴族街のような上品さはなく、様々な人種の冒険者と鍛冶屋、装備店が立ち並ぶ、荒々しさに溢れた町だ。


 《 どっかに ”ジョン・ウ〇イン” みたいなの転がってないかなw》



 「話によると深層に行くほど珍しい ”お宝” が出てきているようです。毎回 1階層から潜らなければならないという制約はありますが、国中の冒険者が集まる勢いだとか・・・」


 《 ソリアン様大盤振る舞いだね~ 変動後が恐いけど・・・》


 「へ~ どんな “お宝” ?」

 メイ復活w

 “お宝” が起爆剤になったかw


 「それが “良く分からない” とか・・・マジックアイテムや宝石が出てくる時もありますが、古代文明の遺跡に出てくるような形の金属も出て来るようです。ドワーフ達も見たことのない金属らしいのですが・・・」


 《 判明。“在庫一掃セール” らしいww》


「そういった『遺跡』?『遺物』?はどうしてるんですか?」

 俺はちょっと興味が湧いて聞いてみた。


 「そうですね。一部は王都に運ばれて国の調査機関が買い取っているようですが、ほとんどは “ガラクタ市” で叩き売りですかね。」




 そうこう言ってる間に、馬車は “オアシス” に着いたようだ。


 オアシス周辺は短いながら草が生い茂り、多くの人が蓋の付いた大きな桶と『カート』を手に、水を汲みに来ていた。


 『カート』大活躍だなw


 「領主様は近く水路を作る予定だそうです。」

 セルア商会長は『カート』を恨めし気に眺めながら呟いた。


 《 ・・・でしょうね・・・》


 オアシスからダンジョンまではそう遠くない。


 国の補助金が出れば、かなり安く作れるだろうし町の発展も期待できる。



 俺が魔法でひょいひょい作ってみても良いんだけどね。


 せっかくの事業計画に水を差すワケにもいかない。


 日焼けしたむくつけき日雇い労働者に恨みを買うことは間違いない。


 ()()()()に囲まれた日にはギャン泣きする自信がある。



 「町の人達はココを “勇者の泉” と呼んでいるようです。」


 《 やめろ~!!!誰だそんなネーミングセンスの欠片もない名前付けたのは!!!!ブッパして家ごと吹き飛ばしてくれる!!!!!》


 「ぷ~!くっくくく~ “勇者の泉” だってサ!」

 メイがしてやったりと覗き込む。


 多分俺は “白目を剥いていた” と思う。


 遠くでスズネが「不敬ですよ!」と叱ってた気がするが・・・


 「・・・言い過ぎなのでは・・・」

 それしか言えなかった・・・


 俺の黒歴史に新たな1ページが刻まれた気分だった。





 オアシスの一角に丈夫そうな外壁が見える。


 気を取り直した俺は、いかにも頑丈そうな外壁に見惚れていた。


 「立派な外壁ですね~」


 「御忠告の通り、土魔法の使い手を雇い予算の許す限り頑丈に作りました。イザという時には避難所としても使えるように冒険者ギルドとも提携を結んでいます。」


 「良いと思います。食料や水の備蓄についてはギルマスとの話し合いで?」


 「はい。大変感謝されました。いくら声を上げても目先の利益を優先させる奴等ばかりだと嘆いておりましたから。」


 《・・・さもありなん・・・》


 俺達は(うなが)されるままに外壁の中へと入った。





 「・・・大きくないですか?」


 まだ骨組みだけだが、明らかに大きな屋敷が居座っていた。


 どう見てもデカすぎる。


 俺と、メイ、スズネの3人では掃除するだけでも、1日で終わりそうにないほどだ。


 セルア商会長は小首を捻った。


 「そうでしょうか?『勇者』様パーティーのお住いなので最低限このくらいは必要だろうと、補助金も頂いておりますが?」


 《 国王陛下あ~~~~~~~!!!!!!!!》


 「完成まで今しばらくかかりそうなので、それまでは大変申し訳ございませんが、こちらにお住い頂ければと・・・」


 セルア商会長が指示したのは、長屋のような家だった。


 建設中の屋敷に比べれば “掘っ立て小屋” のようなものだ。


 「いえ・・・これで十分です・・・」


 飛びそうになる意識を懸命に繋ぎ止め、俺はなんとか声を絞り出した。


 「ちなみに現場と大工たちはこのお屋敷を “勇者屋敷” と呼んでいます。」

 セルア商会長の自慢げな声。


 今度こそ意識が飛んだ・・・







 おいしそうな匂いが鼻腔をくすぐる。


 腹の虫がロックンロールを(かな)でていた。


 《・・・とんでもない悪夢を見ていた気がする。》


 ふらふらと部屋を出る。


 「あら?起きた?ビックリしたよ~ いきなり白目剥いて倒れるんだもの。」

 メイが明るい声で声を掛けてきた。


 「おはよう。ここは?」


 「もう夕飯時です。ここはオアシスの仮の家ですよ?」

 スズネが鍋をテーブルの上に乗せながら答えた。


 悪夢じゃなかったか~


 「ごめん。迷惑かけたね。ちょっと衝撃が強すぎてさ・・・」


 「 “勇者の泉” に “勇者屋敷” だっけ? 衝撃の黒歴史よね~」

 ケタケタと笑う “見習いメイド”


 「不敬ですよ!良い呼び名じゃありませんか!」

 スズネさん。お願いだからヤメテ。


 「まあ。仕方ない。人の口に戸は立てられないからね。収まるのを待つしかないよ。」

 俺は平静を装いながら席に着いた。


 「人の口に・・・とは?」


 「人の口に戸は立てられない・・・世間の評判や(うわさ)は抑えられないという、向こうの世界の(ことわざ)だよ。」


 「人の(うわさ)も75日って言うしね。」


 「それも向こうの世界の(ことわざ)。3か月もしないうちに、ほとんどの(うわさ)(すた)れてしまうっていうね・・・お腹空いた。」


 「どうぞ。本職の料理人には程遠いものですが。」

 スズネは肉の入ったスープを(よそお)った。


 「ありがとう。そういえばセルア商会長は?」


 「御主人様を部屋に運んだあと、商談があるって帰ったよ?」


 「忙しい人だね~ 後でお礼言わなきゃ。」


 《 とんだ醜態(しゅうたい)だな・・・》


 「気にしなくていいんじゃない?こんな小さな家で申し訳ないって恐縮してたし。」


 「それはそれ、これはこれ。礼を欠いたらせっかく築いた人間関係が崩れるよ?」


 「それもそうね。菓子折り持ってく?」


 「僕が持って行くよ。こういう事はきちんとしとかないと。」


 「カシオリとは何でしょう?」


 「お世話になった人に、ちょっとした品やお菓子を上げる風習があるんだ。より良い人間関係を保つためのテクニックだね。」


 「御心付けとは違うのですか?」


 「あれは役人とか貴族とか、立場が上の人間が半強制的に巻き上げるお金だね。向こうの世界では “袖の下” とか言ってたけど・・・」


 「ソデノシタ・・・ああ、そう言えば祖父がそんなことを言ってましたね。」

 スズネの呟きに敏感に反応したのは ”野生児” のほうだった。


 「ねえセンパイ。お米とかお味噌とか醤油とか知ってる?」


 「オコメ?米なら知ってますよ?私の好物ですし・・・」


 「味噌!醤油は!?大豆発酵させて作るヤツ!」


 「ああ~ みそとせうゆですね。知ってます。」


 「手に入るの!?」


 「ええ。少々お時間を頂ければ。」


 《 ナンテコッタ・・・》


 追々、自分で作ろうかと思ってた調味料がこんな身近に転がってたとは・・・


 「スズネ。頼みがある。」

 俺はこれ以上ない真剣な眼差しで “傍付きメイド” を見た。


 アイテムボックスから数枚の紙とペンを渡す。


 「キミの祖父の母国の食文化が知りたい。知ってる限りでいい。全て書き出してくれ。」


 「は。はい。」


 俺はメイを見た。

 メイも俺を見ていた。


 どちらともなく、右手を上げ・・・パアン!と叩いた。


 “不毛の地” に希望が持てた瞬間であった。






「米、味噌、醤油、みりんに日本酒、おでんに田楽 るんたった~♪」


 《・・・ヒドい鼻歌だw》


 早朝からダンジョンに突入し、1下層のゴブリンリーダーを瞬殺した “野生児” は、他のゴブリンを血祭りに上げながら踊るように歌っていた。


 「メイさん御機嫌だね~」


 「そうですね。歌はヒドいですが。」

 スズネさんも少し嬉しそうだ。


 昨夜、書き出された紙を読んだ俺は、金に糸目は付けないから出来るだけそろえて欲しいと依頼を出した。


 これで東国の重鎮が転生者である可能性が爆上がりしたが、今は『米、味噌、せうゆ、みりん、竹輪。こんにゃく』等々の食材の方が遥かに重要だ。


 自然、俺の足も軽やかになるってもんだw


 「しかし、それほどまでに食文化が似通っているとは、東国の御先祖様も転生者だったのでしょうか?」


 「可能性としては大いにあるね。おかげで僕達は、もう食べられないかもしれないと諦めていた食糧や調味料が手に入るんだし・・・嬉しい誤算だよ。」


 「お役に立てれば光栄です。」


 「なにしてんの~ 次行くよ~♪」

 魔石の収納まで終わらせた “野生児” が急かす。


 俺とスズネは苦笑しながら、足を進めた。





 2階層は賑やかだった。


 あちこちでゴブリンやコボルトの叫び声と剣戟の音が聞こえてくる。


 「みんな張り切ってるね~」


 「前回より魔物の数が多そうね。」


 「ダンジョンは潜る人間の数が増えると、魔物の数も増えると言われています。」


 《 初耳・・・ダンジョンを生き物と考えれば納得も出来るか・・・人間は食糧で魔物は消化液?・・・タチの悪い消化液だなww》


 「でも1階層はほとんど居なかったよ?」


 「それだけ引っ切り無しに討伐されてるからでしょう。魔物部屋の気配も無かったようですし・・・近々、ゴブリンの魔石が値崩れするかもしれませんね。」


 「それはそれでセルア商会長が喜ぶかもね。クズ魔石を使わないで・・・そっか・・・やって見る価値はあるかも・・・」


 「なに?チート?」


 「まーね、農地が元気になる方法を探しててね。」


 「魔石で? P〇農法じゃダメなの?」


 「キミも好きだね~その手の情報持ってるとはw・・・『ビート粉末』事業はサルカス兄様に丸投げしてるからね、アレコレ口出すと怒られるから放っておいたんだよ。父上に手紙書くかな。」


 「P〇農法とはなんでしょう。」

 スズネも興味津々だ。


 「帰ったら教えるよ。まず父上に試験的にやってもらうようにお願いしてみるか。訳も分からず手を出して農地の作物全滅させたなんてシャレにもならないからね。」


 「解りました。」






 

 


次回更新 3月28日予定です・

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