代理聖女ミコ危機一髪
わりと動じない性格のミコでした。ある意味大物です。偉い人と結婚してもたぶん大丈夫だと思います。
「本日もよろしくお願いします、聖女ミコ様」
「かしこまりました」
今日も聖女塔で参拝者を癒す。
聖女塔へのお布施は最低限度額が決められている。最高限度額はない。
さすが、ガメつい神殿ですね。
貧乏人は来るなということでしょうかね、格差社会ですかね、国民健康保険はあるんですかね、税金はどのように振り分けられているんですかね。
神聖国のやり方に口出しする気はありませんが。
国は、栄えるときは栄え、滅びるときは滅びるのです。
「聖女様、先週から胃の周りが辛く、ドキドキして眠れないんですよ~」
『それは内科ですね』とも言えず、参拝者のお腹に手を当てる。なるほど、お腹に動悸があるわ。
こんな風に手を当てると『聖なる力』が発動し、相手の具合が良くなるらしいのだ。いわゆる『手当て療法』ですかね。
わたしはヒーリング療法士。
真・聖女様ミカおねいさんではないから、少し気持ちよくなる程度だと思うけど。
「最近慣れない物を食していませんか?」
「う〜ん、そういえば、先週から外国土産のワインビネガーを毎日飲んでます。体にいいと彼氏に言われたから」
「水かお湯で薄めてますか?」
「少しだけ」
「少量のビネガーを十倍くらいに薄めるといいと思います。胃に負担がかかりすぎますから」
この国に管理栄養士はいるんだろうか……その前に、わたしが勝手に栄養指導みたいなことをしてもいいんだろうか……この世界の人間はわたしがいた世界とは異なる存在なのだから、わたしの知る常識は当てはまらないかもしれない。
――責任を取ることができないのなら、勝手なことをするのはやめよう。
【 奥義:保身+責任逃れ 】
助言はほどほどにしておこう。
❖ ❖ ❖
「次の参拝者、どうぞ」と、後ろに控えている巫女さんが告げる。
わたしは一段上に据えられた、キングチェアみたいな豪華な椅子、名付けて『聖女座』で参拝者を待つ。
な~んかすっごく偉そうだよね、わたし。
その辺によくいる目立たない事務員だったのにね。
1DKアパートに住んでいた、どうでもいい存在だったのにね。
わたしがいなくなったら家族は悲しむんだろうけど、それでも会社は回るし、社会も回る。
豪華な椅子に座っている得体の知れない小娘に頭を下げるって、どんな気持ちなんだろう。
目つきの鋭い、四十代くらいのガタイのいい男性がやって来た。
アスリートですか?
「あんたが聖女か?」
「代理聖女です」
「ということは、偽物なわけか?」
「いいえ、本物の聖女です」
「あんた、本当は治癒なんてできないんじゃないのか?」
「そんなことはありません。皆様を(それなりに)治癒しています」
目つきが怖いオジサンだわ。
ときどきいるのよね、ヤバそうな参拝者。そのために護衛の聖騎士さんが扉を守っているのだけれど……。
「ミコ様に向かって失礼ですよ!」
背後に控えている巫女さんたちが騒ぎ出した。
「真実を言っただけだ」
何だかネット小説みたいな流れになってない?
わたしが偽物と告発されて処刑されるの、この国に死刑制度があるのか知らないけれど。
これはヤバい状況だわ。
いくら何でも死ぬのは勘弁して。
冷静に対処しよう。表情を保つことは得意なのよ。
オヤジギャグが飛んできても動じない自信はある。
職場の上司がわたしを笑わせようとしていたけれど、結局諦めたし。ざまぁ。
「本日はどういたしました?」
「あんたが本物かどうか見に来た」
「はい?」
理解に苦しむわ~。
聖騎士さんに指先を切ってもらおうか?
そのとき参拝者の手がすばやく動いたかと思うと、胸ポケットからナイフを取り出してわたしに飛びかかった。わたしは咄嗟に両腕を前で交差し、胸を守った。
(ナイスブロック!)
ズザッッ!!
「「キャーッ、ミコ様!」」
えっ?
ダラ~~~と赤黒い血が白い聖女服に飛び散った。
えっ、えっ、わたしの血!?
腕が痛いよ!
「「ミコ様!」」
聖女塔内が騒然となった。
「この男を捕らえろ!」と叫び、聖騎士が参拝者を拘束した。
「ミコ様に何をしたんだ!」
「偽物を堂々と使う神殿なぞ、滅びるがいい!」
「うるさい、コイツを連れて行け!」
二人の聖騎士が参拝者を連行した。
黒髪短髪のマッチョイケメン 、聖騎士副団長様が飛んで来た。
「ミコ様、お怪我は!?」
わたしはというと……切られた両腕から血が出ているではないか!
「ああっ、申し訳ありません、ミコ様。助けるのが遅れてしまいました……」
今にも泣きそうな副団長様。
「いいえ、これくらいは自分で治せるので大丈夫ですので」
「ハァ……冷静なのですね」
なんちゃってドクターをはじめて数カ月。切り傷擦り傷カブレ火傷を見慣れたわたしは動じない。
そうです、これくらいの切り傷ならスッとなでればそれなりに塞がるのです。聖女特権ですね。
致命傷に関しては分からないですよ?
ネット小説なら、さしずめわたしは『氷の(代理)聖女』とか言われるんでしょうかね。
「しばらく休憩にしましょう。あの者は地下牢に入れますので、もう安全です」
「はい……」
地下牢があるのか。
「本日は聖女様の癒しを中止します!」
ふぅ〜、命拾いした。
「二度とミコ様をあんな目に遭わせないようにします、聖騎士の位置を考え直します!」
その後わたしは聖騎士副団長イアソン様にお姫様抱っこされ、宿舎の部屋に連れられたのであった。
「「だからミコ様、あれほど男どもに気を付けろと……!」」
双子巫女ちゃんに何度もたしなめられた。
(あの状況では無理ですけど)
❖ ❖ ❖
「あの者は『アポカリプス教団』の一員でした」
そう言ったのは、花束とお菓子を持ってお見舞いにやって来た、副神官長アンドレアス様だった。
「『アポカリプス教団』とは?」
「教団の神しか認めない集団です。多神教を認める神殿に嫌がらせをしてくるのです。神殿側も気を付けてはいるのですが、見分けが付かず……迷惑な連中です」
なるほど、宗教対立ですか。巻き込まれたらやっかいだわ。
「ミコ様、聖騎士がいたにもかかわらずあんな事態になるとは……イアソンは使えない奴です。わたしが傍らに控えてさえいれば、こんなことには……」
切り傷は塞がったけれど、赤く腫れているわたしの腕に軟膏を塗りながら、副神官長様が言った。
いや、あなたは大神殿、もとい神殿組織の神官ナンバーツーですよ、それは物理的に無理でしょう。
※次回は真・聖女様の後見先を巡る三者視点になります。




