嵐は去って聖女様は逃亡中
そもそもの始まりは……。
とんでもない事件に巻き込まれてしまいました。
❖ ❖ ❖
【 ピッカ~~!!! 】
うわぁっ、これって、なんというか、あの、なんだっけ。
『セイジョショウカン』?
わたしの周りに光がっ。
❖ ❖ ❖
違いました。わたしの目の前に光が(棒)。
大広間の中心には直径十メートルほどの魔法陣。そこには金髪ロン毛、ピンク色ノースリーブワンピの高身長なお姉さんがいる。
両手を上下して困惑しながら周りを威嚇している。気に食わないことでもあったのかな。
ヨーロッパ系だね、美人さんだね。デルモ系だね。
《上腕二頭筋がすごい》感じはするけれど。
あっ、この人見覚えがある。仕事帰りに某渋谷のスクランブル交差点ですれ違った人だ。ものすごく目立っていたから覚えているわ。もしかしたらわたし、あの交差点でお姉さんと一緒に……?
ざわめきが聞こえる。グレーのフード付きローブ姿の人たちが大興奮している。うわ〜、みんな背が高いんだね、何人いるのかな。
フードをかぶった大人が子供のようにはしゃいでいると、中々迫力があるかも。
「あぁっ、聖女様!」
「いらして下さったんですね!」
「あぁっ、ありがとうございます!」
ハイハイ、目の前の人が聖女様ね。歓喜の歌が聞こえる気がするわ、ハレルヤ。
「くぇrちゅいおp@!」
「あsdfghjkl;:!」
「zxcvbんm、。・¥!」
金髪ロン毛のお姉さんが両手を上下しながらしきりに叫んでいる。何語なんだろう。何だか《声が低くて太く》ない? 欧米系の女性は声が低めだけれど……。
で、わたしは?
「あなたは――?」
隅でポカンとしているわたしに気付いた高齢の神官さん(?)または修道士さん(?)または枢機卿様(?)またはサンタクロースもどき……に尋ねられた。
「さあ?」
わたしの方が聞きたいんですけど。
「どうやらもう一人いらしたようです。二人とも『聖なる力』の鑑定をしましょう。鑑定室へどうぞ」
偉そうな高齢の神官さんと数人の神官さんに導かれて、わたしと金髪ロン毛のお姉さんは鑑定室という謎の部屋に案内された。ローブ姿の人たちがお姉さんを連行するのに手こずっているわ。
そして到着した円形の薄暗い部屋。天井に小さな丸窓があって四隅には縦縞の太い柱、中央のテーブルに丸い水晶みたいな玉がある。わたしたちはここで聖なる力を鑑定されるみたい。
『聖なる力』って何だろう。色々説明不足じゃない?
周りをガン見していたお姉さんだったけれど、興味深そうにハフハフ言いながら丸い玉を見ているわ。あいかわらず両手を上下させて。
(この人、本当に聖女なの?)
『聖女様方、この鑑定球に手をかざしてください』と、高齢の神官さんに言われた。
鑑定は『鑑定球』と呼ばれる丸い玉に両手をかざすんだって。怪しい占いみたいだな。
この世界自体が超怪しげだけど。何というか……現実離れした超ゴシック世界。日本の常識が通じるのかしら。
パァァァァ……。
「おおっ! 何という素晴らしい光!」
お姉さんは意外にも(失礼)本物の聖女さんでした。鑑定球に両手をかざしたとたん、部屋中をまぶしい光で満たしたから。
「やはり聖女様!」
「次の方、どうぞ」
わたしは――LED豆電球ほど光ってチョットだけ聖なる力があることが判明したらしい。
「あなたは……そうですね……聖女見習いですかね」
「聖女見習い?」
エッ、チョットマテヨ!(ミコ心の声)
『聖女見習い』とは?
勝手にわたしの役割を決めないでほしい。わたしは某渋谷の事務員なんだし。そこそこのお給料をもらって電車で三十分の郊外のアパートに住み、そこそこの生活をしていたんです。しかも貯めたお金で温泉旅行を計画していたんです。
しかも来月! 旅館も予約済!
ハァ……温泉旅行がパアではないですか。キャンセル料金払ってくれますか。
おのれ、聖女召喚!
まさか聖女って、一日中聖なる力を使って人々を癒し、ヤバい土地やヤバいモンスターを倒したり浄化したりするの? その見習い?
お給料とか勤務時間とか休日とか有給とか、あとは――そう、『危険手当』。そもそも住居はどうなっているんですかね。ブラックなら目も当てられません。
できればお姉さん聖女のアシスタントかマネージャーにしてもらえませんかね。エクセルを使ったスケジュール管理や総務関係は得意なので。あ、この世界だと手帳や書類で管理ですか。
足りない備品があったらすみやかに連絡してください。えっ、低反発円座クッションは支給されるかですと? いいえ、個人で購入してください。
「では聖女様方、こちらへ」と高齢の神官さん。
「はい、分かりました」
――ところがそこで思わぬ事態が起きたのだった。
金髪ロン毛のお姉さんが大興奮し、大声で『ヒャッハー』と叫びながら鑑定室を飛び出したのだ。お姉さんの《低いだみ声》はまさしく《男の声》、ヘビメタマン!
よく見たらワンピから出たナマ足に《脛毛がびっしり》あるじゃん?
「「「っっっ!!」」」
このとき聖女様逃亡という前代未聞の事件が起きたのである。
誰もが羊羹のように固まった。
おねいさん、男子だったんかい! 女装男子だったんかい!
欧米ヘビメタ系女装男子!?
「「「お、お待ちください、聖女様!」」」
神官さんたちが引き止める間もなく、おねいさんは消えた。何という足の速さ。女装アスリートかな。
「聖騎士団の皆さんに、聖女様の保護をお願いしてください!」
高齢の神官さんがうろたえながら叫んだ。
「神官長様、お呼びでしょうか!」
「騎士団長、聖女様がお逃げになった!」
ガシャガシャという金属音ぽい足音をたて、バケツのようなヘルメットにひざ下丈の生成りチュニック、防弾チョッキ(ラメ入り?)という軍装の大男が現れた。腰には細長い剣が刺さっている。切られたり突かれたりしたら痛そう……というか、死ぬ。
顔が見えないから何とも言えない。
聖騎士団――聞いたことがある。修道士の騎士団でしょ。中世のマルタ騎士団とかテンプル騎士団とかそういう人たち。十字軍に参加した人たち。十字架が見当たらないからキリスト教というわけではなさそうだけど……。
そしてみんないなくなり、鑑定室にぽつんとひとり残されたわたし……。
「はぁ……」
わたしの運命やいかに……。
※監獄行きとか追放とか処刑とか理不尽な運命は受け入れないけれど、そこそこなら受け入れる某渋谷の事務員です(半ばあきらめ)。ミコがいなくなっても家族や会社は回り続けるのです。ただし二人が消えた事件はしばらくマスコミを賑わせ、某雑誌の売り上げが伸びるのであった。




