第一王子の初恋
だいたい王宮視点になります。
「具合が悪いそうね、レオン」
王宮の東翼――第一王子の住まいに、母である前王妃が訪ねて来た。普段は首都にあるギルド本部に居座り、ふんぞり返っているのだが、週に一度は息子の様子を見に来ている。
やはり母、離婚したとはいえ可愛い息子はいつでも心配なのだ。
第一王子レオンはこのところ元気がなく、食欲も落ちていた。
「具体的にどこの具合が悪いのかしら? 侍医は心の病とか言っていたけれど」
「母上……僕は……ミコ様のことを考えると、何もできなくなるのです」
「うわぁ、そういうこと? ミコ……って、あの代理?」
「はい、大神殿の代理聖女様です」
「まさかあなた、胸キュンしちゃったの?」
「僕はミコ様の柔らかくて小さな手とつややかな黒髪が好きなんです。ずっと撫でていたいな~と。そうすれば僕は幸せになれるんだと思います」
「だったら髪の毛だけもらって毎日愛でればいいのではないの? 手はどうにもならないけれど」
「そういう問題ではありません!」
ショタ系少年に見えるレオンはもう二十歳だった。それなりに公務もこなしている。
シックスパックを誇る美丈夫な王、勇者として活躍していた戦う王妃という輝かしい二人の間で生まれ育てられたのに、なぜか繊細で憂いのある青年になってしまった。
「ハァ……二十歳にもなって……遅く来た初恋はやっかいだわ」
「何かおっしゃいましたか、母上」
「ただの愚痴よ」
あの破天荒な父親に可愛い息子をまかせていいんだろうか――と、前王妃は思い悩むのであった。
「大神殿に行きたいけれど、理由がないのです」
「仕方ない、わたくしが解決してあげるわ、それまで具合が悪いのは我慢することね。大丈夫、この病気は死んだりしないから。温かいカマイメロン入りワインでも飲んでなさい」
「……母上、しばらく王宮にいられませんか?」
「ごめんなさい、あまり居座りたくないのよ。もう王妃ではないのだし」
「僕は……寂しいです」
(豪胆な父の陰で気弱になってしまった息子。ちょっと……マザコンになっちゃったかしら? まいったわ、父と母が破茶滅茶過ぎたかも?)
「だいたい、どうして母上は父上と別れたんですか?」
「それは……あれよ、わたくしの大切な靴を変な形に変えたからよ。それだけではないわ、あのバカは、わたくしのお気に入りを何でも奇妙な物に作り替えてしまうのよ! 精神年齢が幼過ぎるのよ、我慢ならないわ!」
「それは……そういう力の継承者だから……」
「いい、レオン。あなたはあんな風になってはいけないわ。力を正しく使う王になりなさい」
「はい……」
❖ ❖ ❖
「おお、わが愛しのテオリアではないか。久しいな、会いに来てくれたのか?」
右手の小指を立てながら、破天荒な王が第一王子レオンの寝室にやって来た。左手で自慢の髭を撫でながら。
「気持ち悪いから、その仕草を止めてくれるかしら?」
「これは王である私と近衛の共通合図だ。止められるわけがない」
「はぁ~。わたくしはレオンのお見舞いに来ただけよ、すぐに消えるし、陛下に用事はないわ」
「つれないのだな」
「それよりも、よくもわたくしの大切な靴を台無しにしてくれたわね!」
「いや、ソ、ソレは、ハリネズミになると可愛いし、テオリアに似合うかなと……」
バキィッ!!!
元勇者で前王妃である神聖国最恐の女性テオリアが、王であるミカエル・アンドシス・バシレウスを殴り飛ばした。
「ぐあはっ、相変わらずだな、テオリア。もっと優しくできないのか?」
「わたくしの足を血まみれにする気なの!? アンタのインペリアル魔法を封印してあげるわ!」
「こ、言葉遣い! 私が王である限り、そ、そんなことはできないぞ!」
「王権をレオンに移行させればいいのよ」
「なっ……! インペリアル魔法は渡さない、絶対渡さないぞ!!」
「わたくしに考えがあるわ。覚悟しておくことね、ミカエル」
「母上、父上、ここでは止めてください」
❖ ❖ ❖
クッシュン!
クッシュクッシュン!!
「「どうしましたかぁ、ミコ様? さっきからくしゃみばかり」」
朝のミーティングが終わり、聖女塔へ向かう外廊下にて。
最近では大神殿内をミコが移動するたびに、神官や聖騎士たちがわらわらと様子を伺うようになった。さらにそれを牽制する副神官長と聖騎士副団長の姿も。
聖騎士団のあいだには、聖女塔護衛の割り当てに口出しする者まで現れた。
大神殿神官長ゼノフォン・アルギロスは、さっさと政略結婚を(神殿関係者で)まとめなければならないと思案する今日この頃であった。
「何だか最近鼻がむずむずするの、花粉症かな?」
「花粉症ですかぁ? 確かに、神聖国ではこの時期になるとみんなくしゃみをしますですぅ」
「世界が変わっても花粉症があるのね。何か効く薬はあるのかしら?」
「サンブケとメンテを煮出したティザンですねぇ。厨房にお願いして持って来ますですぅ」
「ありがとう、お願いするわ。たくさん用意してもらえると助かる」
「持って来ましたぁ!」
ごくごく、ごっくん。
「はぁ~、何だかスッキリするわ、この飲み物。龍□散みたい。美味しい。喉も潤うから、参拝者とお話しても声が枯れなそうだし」
その日から聖女塔には、サンブケとメンテを煮出したティザンが常備されることになった。
※イラストはカマイメロン(カモミール)ワインの(あくまでも)イメージイラストです。Firefly_Gemini AIで作成しました。古代ギリシャ・ローマ時代からの薬用酒らしいです。
※次回はミコ視点に戻ります。
※ミコの婚約者候補(政略結婚ぽい)が勝手に決められてしまいます。
※それを邪魔する大者が現れます
※次回で【第二章】は終わりです。




