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あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~  作者: 一ノ瀬麻紀
番外編 1(本編を先にお読みください)

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七夕 1 (蒼人視点)

 カレンダーを捲り七の数字を確認すると、もう今年も半分過ぎてしまったのだと実感する。

 梅雨時期のはずなのに、外は雲ひとつない晴天で、お出かけ日和だ。それでも、午前中なのにグングン上がる気温に、外へ出かける気分にはなれずにいた。


「なぁ、ケン○ッキーっていつ食べるもんだと思う?」


 エアコンのきいた涼しい部屋で、最愛の人を膝に乗せたまま、なんとなくテレビをつけたまま他愛もない会話をしていた。

 そんな中、なんの脈絡もなく突然麻琴(まこと)が聞いてきたのは、ケン○ッキーはいつ食べるのか問題。


「クリスマスとか……?」

「クリスマスならさ、ターキーレッグとかの方がテンション上がらないか?」

「じゃあ、誕生日とか?」

「おれ、焼肉とかお寿司が食べたいな」


 麻琴はさり気なく自分の食べたいものを挟み込んでくる。基本的に好き嫌いが少ないから、今の気分は焼肉とかお寿司なのだろう。


「ケン○ッキーは、普段のお昼とか?」

「チキン○ィレサンドセットならわかるけど、チキンだけ買いにいくってあまりないと思わないか?」

「うーん、そう言われてみればそうだなぁ……」


 俺がうーんと考えながら、次の返答への間を開けていると、麻琴がすっくと立ち上がり、くるりと姿勢を変えこちらを見た。


「今日ケン○ッキーにしなぁい?」


 何故か自信満々の態度で、テレビのCMと同じ口調で言う。きっと俺が笑ってくれると思ったのだろう。


「今日ケン○ッキーにしない……?」


 麻琴の期待に反して、俺は麻琴の言葉を繰り返すのみの反応となってしまった。


 麻琴がやりたかったことは、薄々感づいてはいた。数日前から、やけにテレビでCMを見かけていたからだ。クリスマスだけではなく、他のイベント日のパーティーなどにいかがですか?……というやつらしい。


蒼人(あおと)、ノリ悪いなぁ」


 ぷーっとふくれっ面になる麻琴が可愛い。

 麻琴の期待には応えられなかったけど、拗ねる麻琴が見られる俺は役得だ。

 麻琴は笑っても可愛いし、怒っても可愛い。……泣いても可愛い。


 自分の脳内のセリフに、ふと動きが止まる。そして、昨日の夜のことを思い出してだらしなく口元が緩んだ。

 もう無理と何度も懇願する麻琴の声が、泣き顔が、脳内で再生される。

 麻琴は、俺が昼間からこんなことを考えてるとは思っていないだろう。


 麻琴は普段と変わらぬ様子で、目の前でキャンキャンと子犬のように吠えたと思ったら、急に静かになって、あっ……と何かを思い出したようにパッと顔を輝かせた。


「もうすぐ七夕じゃん?」


 麻琴の思考回路はとても分かりやすい。言わんとすることは、言う前から理解出来てしまう。


「七夕のお祝いにケンタッキーでも良いんじゃない?」


 まるで名案を思いついたかのように、キラキラと目を輝かせて言う麻琴が可愛い。

 正直、七夕にお祝いも何も? と思うのだけど、イベントにはしゃぐ麻琴が可愛いから、この際事実などどうでも良かった。


 愛おしくて可愛い麻琴をしばらく眺めていたかったが、そうはいかない理由があった。


 麻琴には内緒だけど、当日にサプライズで七夕祭りに出かける計画を立てている。

 二人で浴衣を着て街中へ繰り出し、花火を見て、その後は温泉宿を予約してある。


 絶対に喜ぶだろうと確信して立てている計画なのだけど、サプライズという性質上、バラすわけにもいかない。どう返事をするのか悩んでいると、目の前の麻琴の様子が怪しくなっていく。


「……七夕ケンタッキー、嫌? ……それとも、他に約束があるの?」


 考えあぐねてすぐ返事を返さなかった俺に、疑問の言葉を投げかけてきた。


「いや、そういうわけじゃないんだけど……。そうだ! 今日にしない? ほら、さっき麻琴もCMの真似してただろ? 普通の日の夕飯で食べるのもたまには良いんじゃないかな」


 サプライズで驚かせて喜ばせたいという気持ちが先行し、今のこのやり取りにちゃんと気を配ることが出来ていないなと、苦笑する。

 その証拠に、目の前の麻琴の口がどんどんへの字になっていく。眉もこれでもかというくらいに、ハの字になっていく。

 ああ、どうして俺は、麻琴の前だとポンコツになるのだろうか。


「蒼人は、おれと七夕過ごすの嫌なんだ? ……そっか、嫌なんだ……」


 どんどんと声は沈み、さっきのキラキラと輝いた瞳は見る影もなく、曇り空のようにどんよりと曇っていた。


「……そ、そうじゃなくて。その日は用事があって……」


 そこまで言って、あ、まずいと口を抑える。けどもう口から出た言葉はもとには戻せない。


「用事? なんで? おれと七夕一緒に過ごすつもりは無かったんだ? 一人で出かけるつもりだったんだね」


 今にも降り出しそうな空から雨粒が落ちるように、麻琴の大きな瞳からは、次々と涙が滑り落ちていた。


「蒼人のばかぁ……っ!」


 そう叫ぶと、うわーんと泣きながら部屋から飛び出してしまった。


 麻琴に馬鹿と言われた衝撃で、俺はフリーズし動きを止め、麻琴を追いかけるその一歩を踏み出せずにいた。





 麻琴のスマートフォンに連絡をいれるものの、当然のように無視され返事なんか来ない。怒っているのだから当然だ。

 このまま帰宅を待つか追いかけるか悩みながら、家の中をウロウロしていると、スマートフォンが鳴った。


『もしもしー?』


 電話の向こうから聞こえてきたのは、卒業式ぶりの太陽の声だった。


『さっき麻琴が泣きながら駅の辺うろついてたから、とりあえずオレんち実家につれてきたんだけど』


 話を聞くと、夏休みは忙しく帰省ができないから、急に昨日帰省することが決まって、ちょうど駅に降り立ったところらしい。そこでなんか泣いてるやつがいると思ったら、麻琴だったということだ。

 幸いに周りに人はおらず、不審者に声をかけられるという事態は免れたらしいが、太陽にさんざん説教をくらってしまった。





「うわーん、蒼人のばかぁっ!」


 太陽の実家へ迎えに行くと、奥の部屋から泣きながら叫ぶ声が聞こえてきた。家を出る前に俺に向かって言い放った言葉と同じセリフだ。

 声のする部屋へ向かうと、目の前には『バーレルを抱え、泣きながらチキンを頬張る麻琴』が、いた。



「麻琴?」


 静かに近づきそっと声をかけると、麻琴は驚いてビクンと身体を震わせ、驚きの表情でこちらを見た。弾みでバーレルも食べかけのチキンも落とし、足元にあったジュースも倒し、そんな惨事になった自分にも驚いて、さらに泣き声は大きくなった。


「うわーん、こぼれたぁぁぁ」


 溢れたものを拾う余裕などなく、ひたすら泣き続ける。


「ああ、こぼれちゃったね。太陽に言ってくるから、待ってて」


 太陽の実家で汚してしまったのだから、早く片付けないと……と、その場を離れようとすると、麻琴の泣き声はもっとボリュームを増す。


「うわーん、蒼人ー! 行かないでぇー!」


 さっきは怒って馬鹿と言ったのに、今度は行かないでと泣きながら呼び止める。


 おそらく、次のヒートが近いのだろう。女性の生理と同じで、オメガもヒートが近くなると、ホルモンバランスが崩れ情緒不安定になることもあるらしい。


「おいおい、どうしたんだよ?」


 麻琴の泣き叫ぶ声を聞いて太陽がやってくると、目の前の惨事を見て、アチャーと頭に手を当てる。

 そして、片付けないとなー。と言いながら俺を見ると、麻琴のフォローしてやれよと目でうったえてから部屋を出て行った。


 部屋にあるソファーへ腰を下ろすと、麻琴を自分の元へと呼び込んだ。

 その声に素直に従い、グスグス泣きながらやってくると、いつものように俺の上に座る。座ったのを確認してから、そっと麻琴を包み込んだ。


「麻琴、ごめん。……実は、サプライズで麻琴との旅行を計画してたんだ」

「サプライズ?」


 俺の言葉が意外だったのか、あんなに泣いていたのにピタリと泣きやんだ。


「そう、サプライズ。だから秘密にしたくて黙ってた。……そしたら、麻琴を不安にさせちゃったな。ちゃんと話をしようって決めたのに、ごめん」


 理由を話し素直に謝る俺に、麻琴は勢い良くくるりと姿勢を変えて、正面から俺に抱きついてきた。


「おれも、ごめん。蒼人に嫌われたかと思ったら、めちゃくちゃ悲しくなっちゃって」


 そう言いながら、また声が震えてくる。


「俺が麻琴を嫌いになるわけ無いだろ? 産まれた時からずっと好きなのに。……七夕は、旅行先でのお祭りに参加して、花火を見て、温泉宿でゆっくりしよう」


 もうこれ以上麻琴を不安にさせないように、俺はしっかりと言葉にして伝えた。


「うんっ! 旅行楽しみだ!」


 真っ赤にした目をこちらへ向けると、ニッコリとおひさまのような笑顔で笑った。



 その後戻ってきた太陽と共に片付けをして、事情も話して、お礼もして、太陽の実家を出た。


 前までなら、せっかく太陽も帰省してるのだから一緒に行くか?なんて誘ったかもしれないけど、今回は仲直りの意味も込めてなので声はかけないでおくことにした。


 昔から太陽には何かと世話になっているけど、今回もまた世話になってしまった。また別の日にお礼をするために連絡をしようと思う。


「七夕が楽しみだなぁ」


 弾けるような笑顔を向ける麻琴の手を、俺はきゅっと握り返した。



(続)

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