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あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~  作者: 一ノ瀬麻紀
番外編 1(本編を先にお読みください)

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七夕 2 (蒼人視点)

 太陽まで巻き込んでの、麻琴(まこと)のバーレル騒動から一週間が過ぎた。今日は七夕当日だ。

 結論から言うと、俺達は七夕に計画していた旅行をキャンセルしなければならなくなった。


 あの日の麻琴が情緒不安定だったのは、やはりヒートが近かったからで、旅行目前にして予定をキャンセルせざるを得なくなってしまった。

 ヒートだから仕方がないのだが、あれだけ楽しみにしていた麻琴は、かなりしょんぼりしてしまって、なだめるのに苦労した。俺が原因なら、やりきれない麻琴の感情の受け皿になってあげられるのに。


 それでも今回は自分に原因があるからと、俺に当たってしまうとかはなく、ただひたすらメソメソしてしまったのが少し可愛そう……なんだけど、やっぱりそんな麻琴も可愛くて、こっそり動画を撮っていたのは本人には内緒だ。


 そして、部屋に籠もって五日ほどが過ぎた。


 ヒートが始まったばかりの頃は、ひたすら俺を求めて少しでも離れると大騒ぎだった。

 それも少し落ち着いた今日は、少し離れていても大丈夫そうだったので、散らかりっぱなしになっている部屋の片付けなどをしている余裕も出来た。

 とは言っても、寝ているうちに静かに部屋を出てきた。昨日も散々愛し合ったから、疲れ切ってぐっすりと眠っている。


 片付けをぱぱっと済ませ、ヒート中でも食べられるような軽めの朝食を作り、部屋に戻ろうとした……が、俺の足がピタリと止まる。

 起こさないようにとそっとドアを開けたその先の光景に、俺は一瞬にして心が高鳴った。


 目の前には、俺のシャツを着て、嬉しそうに匂いを堪能している麻琴がいた。


 少しの間でも離れる時は不安にならないように、俺の服などにフェロモンをたっぷり纏わせて置いておくようにしている。

 まさに今、そのシャツが有効活用されている瞬間だった。


 俗に言う『彼シャツ』というやつだ。少し大きめのダボッとしたシャツを上に着て、色白で華奢な足を小さく畳んだまま、くんくんと幸せそうに匂いを堪能していた。



 俺は急いで朝食を足元に置くと、スマートフォンを取り出し、サクッと録画ボタンを押す。


 麻琴と一緒に住むようになってから、特に『番』になってからは、可愛い麻琴の動画や写真をたくさん残してきた。

 幼馴染みだから、小さな頃から写真や動画はいっぱい持っている。けど、今だからこそ、番になったからこそ得られるものも多い。

 ……何、とは言わないが、本当に可愛い動画を多く残している。麻琴には内緒な動画も、数多く所蔵している。俺の宝物だ。


 少し頬を紅潮させながら俺のシャツを握りしめる姿を見ると、俺もたまらない気分になってくる。……昨日の夜だって散々麻琴を愛したのに。



 暫く麻琴の様子をこっそり録画しながら堪能していたら、こちらに気付いた麻琴と目が合った。


蒼人(あおと)……? そんなところで何してるの?」


 動画を撮っているのが見つかってしまい、なにか言われるかなと思ったけど、そんな様子は見られず、まだ少しポヤポヤとしたまま、フニャッとした笑顔で手招きをし、俺を呼んだ。


「早く、来て?」


 ベッドの上をポンポンっと叩くと、両手をパッと広げて、もう一度ふにゃりと笑った。


 足元へ残された朝食の存在などすっかり頭から消えて、俺は誘われるがままに、彼シャツを着た最愛の人の元へと急いで駆け寄った。



「麻琴、あーん」


 俺の膝の上で、まだポヤポヤしたままの麻琴の口に、一口大にちぎったトーストを運ぶ。

 すっかり忘れ去られていた朝食は、部屋から出られない俺が温め直すことは出来ず、冷めたまま食べることになった。


 あのあと、食事も取らず麻琴と共に過ごし、気付けばもう昼食の時間となっていた。

 温め直してくるからと部屋を出ようと試みたものの、俺のズボンを掴んだまま離さない。

 ヒートの終わりもだいぶ近付いたから、頭もしっかりとしてきているはずだが、まだほわんとしたままの麻琴は、ニコニコしたまま俺を見ていた。


「蒼人、あーん」


 雛鳥のように口を大きく開けて催促をするから口に運んでやると、嬉しそうに咀嚼をする。それを何度か繰り返し、昼食の時間を終えた。


 その日の麻琴は結局、完全にはっきりすることなく、夜までポヤポヤしたままで過ごした。


 ◇


 七夕からさらに一週間が過ぎ、俺と麻琴はリベンジで温泉旅行へ来ていた。

 七夕は過ぎてしまったから、短冊に願い事を書くというイベントをすることは叶わなかったけど、温泉旅行は行こうと改めて計画し直していた。


「蒼人ー! 凄いよこの部屋! 露天風呂が付いてる!」


 キャッキャとはしゃぐ麻琴は、純粋に『部屋に露天風呂がついているなんて凄い』と感動しているのだろうから、俺の心の内なんて知らないだろう。

 大浴場なんて行ってみろ。知らない奴らに麻琴の素肌を見せることになるんだぞ? そんなふざけた話はあるものか。たとえ神様が許しても、俺が絶対に許さない。


 それに、個室の露天風呂なら、邪魔が入ることはない。


 俺の邪な考えなど知る由もない麻琴は、お風呂が凄いだの、窓からの景色が綺麗だの、テンションが高いままあちこちへと移動していた。

 その様子も、もちろんスマートフォンでしっかりと録画済みだ。


 地元食材をふんだんに使った夕飯(もちろん部屋出しをお願いした)を堪能したあとは、少し夜風にあたりながら外を散歩した。

 空に浮かぶ満月が幻想的で、告白前なら「月が綺麗ですね」なんて言葉を口にしていたかもしれない。……と言ったところで、麻琴に通じる気はしないけど。


 適度に食後の時間を過ごしたあとは、部屋へ戻って露天風呂だ。


 このあとは、俺の目論見通りというか、願望通りというか、露天風呂からの朝までコース。

 せっかく旅行へ来たのに朝は全く動けず、チェックアウトギリギリまで延長してもらって、やっと動けるようになった頃には、もう帰宅の途へつかなければいけない時間になっていた。



「うわーん、蒼人のばかぁっ!」


 バーレル騒動の時と同じ叫びを俺に向かって投げつけてきた麻琴は、その後もしばらくこの日の話を持ち出しては、ぶつぶつと文句を言うのだった。


 そんな麻琴も可愛いなんて本人の前でうっかり口にしたら、火に油を注ぐようなものなので、俺の心の中に留めておくことにした。




(終)

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