其の三十六 課題
家にあったうどんを刻み紫蘇とごまだれで食した後、俺と花は花の家に移動することにした。
昼食中、花の課題の進み具合を母さんに説明すると、花は恥ずかしそうに目を伏せていた。長いまつ毛が愛おしくて、今日はご褒美をしっかりもらおうと心に誓う。
花の仕草や姿のひとつひとつを見る度に、俺の中で花が占める割合が増えていく。もっと色んな角度から、花を見て触れてみたかった。
花の家に入ると、午前中に炊いた線香の匂いがまだ残っていた。
「お邪魔します」
今日は開いたままの仏壇に軽く拝んだ後は、花の部屋へ遠慮なく入って行く。レースのカーテンの先に映る裏庭の景色を、何気ない風を装い眺めた。そこに太一の影がないことに、安堵する。
花のベッドに腰掛ける。触れた布団は、ホットカーペットの様に熱を持っていた。
花がピッとエアコンの電源を入れると、暫くしてぬるい空気が室内を流れ始める。
「うちのエアコン古いから、なかなか涼しくならないんだよね。もうちょっと待ってね」
花は、冷蔵庫で冷やしていたスポーツ飲料水のペットボトルを二本持ってくると、へへ、と少し汗ばんだ顔に笑みを浮かばせた。勉強が先。先程自分に言い聞かせていた言葉は、どこかに飛んでいった。
「なあ花、どうせ汗かくなら、今の内にかくのも手じゃないか」
「はい?」
花の顔に、焦りが浮かぶ。まさか、こんな真っ昼間から俺が誘ってくるとは思っていなかったのだろう。
焦った顔もまた、可愛い。
「もう汗だくだし」
汗で貼り付いた黒いTシャツを脱ぎ捨てると、花の視線が俺の肌に注がれるのが分かった。部活はしていなくとも、多少の筋トレはしている。花が、健康的な高校生男子程度の筋肉がついている俺の身体を好きなことには、ちゃんと気が付いていた。
「花」
伸ばされた手を、花が恥ずかしそうに掴む。汗ばんだその手をぐいっと引っ張ると、花をベッドの上に押し倒した。急ぎ花の上に跨ると、花の唇に柔らかい口づけを落とす。次いで、頬へ、首へと移動し、両手は花のTシャツの裾から中へと侵入させた。熱い位の肌が、ここに花が実在することを教えてくれている。
柔らかい白い肌に唇を這わすと、花が熱い息を漏らすのが聞こえた。目だけを動かし花を見ると、恥ずかしそうな、だけど扇情的な花の目と合う。
「宗ちゃん……好き」
「……知ってる」
俺の返事に、花は女の顔になって嬉しそうに笑う。俺の頭を両手で掴むと、花のむき出しの胸の上で抱き締めたのだった。
◇
あっという間に汗だくになった俺達は、さっとシャワーを浴びてから、扇風機の前で身体の火照りを取った。
「宗ちゃん、今日は元々そのつもりだったでしょ」
少し襟元が開いたゆったりめのTシャツを着た花が、可愛らしく唇を尖らせる。
「まあ、出来たらいいなとは思ってたけど」
嘘だ。やる気満々だった。
「だって着替えだって持ってきてるし!」
「ははっ」
「ほらあ!」
前回、汗だくの服を着直した時に相当な不快感を覚えた為、実はこっそりと鞄にTシャツを忍ばせていたのだ。お陰で今は快適そのものだ。
花の胸の谷間には、俺が付けた痕が残っていた。日焼けした肌にくっきりと残るかが分からなかったので、あえて白い部分につけた。扇風機の風で時折見えるそれを眺めている内にまた少し疼いてしまったが、ここは我慢だ。先にご褒美をもらった分、後半にしっかりと取り返さねばならない。
「じゃあ課題やるか!」
「お願いします、先生!」
俺がつきっきりで教えている所為か、花の課題は順調に終わりに近付いていた。この調子でいけば、今週末には終わるかもしれない。
町の方にある神社では、夏祭りが予定されている。花火は上がらないが、一緒に浴衣を着て祭りに行きたいな、と考えていたところだった。
「神社の夏祭り前に終わらせるぞ」
「うん!」
「一応確認だけどさ、……浴衣持ってるよな?」
俺だけ張り切って浴衣、花は洋服だと何だか悲しい。すると、花は嬉しそうに答えた。
「お母さんの形見の浴衣が沢山あるんだ。だから大丈夫」
「ん、そっか」
そんな花を見ていると、好きだという思いが溢れんばかりに沸き起こる。新しい浴衣を欲しがりもせず、母親の形見だと嬉しそうに語る。
そんな花が、俺は大好きなのだ。




