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神隠しの子  作者: ミドリ
32/64

其の三十二 仏壇掃除と墓参り

挿絵(By みてみん)


一部改稿を行ないました。ストーリーに変更はございません。

 その後は、心に決めた通り、課題を片付けることに専念した。大分目処がついてきたところで外を見ると、もう真っ暗になっている。


 雑念がなかったからだろうか、現れたが俺が気付かなかっただけだろうか。


 結局その日、太一の姿を見かけることはなかった。



 翌朝、今日は仏壇と墓掃除をすると母さんに告げると、なら一緒に太一の墓掃除をするから行く前に声を掛けて、と言われた。


「分かった、じゃあ後で」

「綺麗にするのよ、手抜きはなしだからね!」


 花の母ちゃんは母さんの親友だった。太一の墓参りの時に併せて小まめに掃除をしていたらしいが、ここのところの連日の暑さの所為で行けてなかったらしい。


 太一の墓は先日の七回忌の時に綺麗にした筈だったから、母さんはただ単に花の母ちゃんと話したいだけなのかもしれなかった。俺と花がやっと付き合った、なんて報告をするのかもしれない。


 俺と花は花の家に着くと、窓を全開にして風通しをする。位牌や写真立てを綺麗に拭き、仏壇の中も外も丁寧に清めた。


 花の母ちゃんには好物だったかりんとうを、ばあちゃんには抹茶味の水羊羹を供える。線香の何とも言えない香りが、先日の寺での七回忌を思い起こさせた。


 時計を見れば、そろそろ十時近い。午前中のまだ比較的涼しい内に墓掃除は終わらせたかったので、母さんにメッセージを送り、寺で集合と伝えた。


 母さんは、近所の花農家に寄って仏花になる花を影山家の分まで買ってくるそうだ。俺達は先に行って、山根家の分の水汲みを頼まれた。


 花と並んで寺へ向かいながら、山の向こうの入道雲を見上げる。


「俺、ちっとも太一の墓参りに行ってなかったなあ」


 自ら進んで行こうなんて、思ったこともなかった。だって、あそこに太一は眠ってはいない。中身が空っぽの墓を参ってもな、というのが正直なところだったのだ。


「私もなんだよね。……いっちゃんはあんまり来てほしくないのかなあ、なんて思って」


 花が、感情が読めない表情を浮かべてそう言う。


 きっと今までは、誰ひとりとして花が太一に対しそういう感情を(いだ)いていることに気付いていなかった。気付いて然るべき俺が太一に成りすましてしまったから、言い出せなかったんだろう。


 花は、感情をぐっと抑え込んでしまうかことがままある。そうやって、太一の死も、俺の奇行も、母ちゃんやばあちゃんの死も全部全部呑み込んできたのだろう。


「花、これからはさ、俺に何でも相談しろよ」


 よく日に焼けた花の顔を、じっと見つめた。花の可愛い目が、俺を見つめ返す。相変わらず何を思っているんだか分からない表情だったが、これは目下仏壇掃除と墓参りという家族の死に向き合う作業にあることが、花をそうさせているのかもしれない。


「ん……ありがと、宗ちゃん」


 花が可愛らしい声で囁くように言ったので、そっと花の手を握った。指を絡ませると、遅ればせながら花の指にも力が籠もる。


 俺は、今まで全てから逃げてきた。だから、こういう時に気の利いた言い方が分からない。周りが聞いたらぶっきらぼうと取られる発言をしてしまうのは、俺の中の「太一はこうだった」という強迫観念に近いものが未だに俺の中に存在しているからかもしれなかった。


「俺さ、これからはちゃんと聞くし、花のことを大事にしていくから」

「宗ちゃん……」


 花がまた真っ赤になる。繋いだ指の間に、あっという間に汗がにじみ出てきた。


「宗ちゃんて、そんなにストレートだったっけ……」


 ようやく花の顔に笑みが浮かんだので、俺は嬉しくなって笑い返す。


「花が迷わない様に、はっきり言ってるんだよ」

「私が迷わない様に?」


 花が細い首を傾げると、またキスをしたい衝動に駆られた。だが、さすがにいつ母さんが追いついてくるか分からないので、その欲求を無理矢理捻じ伏せる。


「俺が七年もフラフラしてたから、花も不安だったんだろうと思って」


 花が小さく息を呑む。勿体ないからその息もほしいな、なんて思う俺は完全に花にいかれてるんだろう。


「……宗ちゃん、ありがと」


 ああ、やっぱり我慢出来やしない。


 辺りを急ぎ見回し人影ひとつないことを確認すると、やっぱり花にキスをする。は、と息を吐く花の唇をついばむ様に()んで、さすがに照れくさくなって前に向き直った。


 寺のある方面には、緑の濃い山が広がる。寺の手前にある小山の中腹にある公園で、太一は消えた。


 あそこは、太一の墓場だ。太一の遺体は、きっとまだあそこにある。


 ――あそこに行けば、昨日は会うことが出来なかった太一の残滓に会えるのではないか。


 ふと、思った。

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