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神隠しの子  作者: ミドリ
31/64

其の三十一 好きの言葉

挿絵(By みてみん)


一部改稿を行ないました。ストーリーに変更はございません。

 花と付き合ったという報告に、大はしゃぎで何度もおめでとうおめでとう、と主に花に向かって言っていた母さんは、その晩は終始嬉しそうだった。


 その日も帰りが遅かった父さんは、後で母さんから聞いたのんだろう。朝になり洗面所で一緒になると、


「お互い未成年だから、節度は守る様にな」


 とだけ言った。口数の少ない父さんらしい、シンプルな言葉だった。まさかもう手を出しましたなんて口が裂けても言えないが、そこはまあ、内緒にしておくべき部分だろう。お互いの為にも。


 花は今日も部活だ。だから、当然俺も学校へ行く。今日も勉強は見てあげないといけないが、昨日の花のあの小鹿の様な足取りを見た後では、連日するのはさすがに気が引ける。


 ということで、今日は大人しくプラトニックでいこうと心に決めた。


 だとすれば、当然の様にその比重は勉強に偏る。


「花、今日はどれかひとつは課題を終わらせような」

「う……が、頑張ります……」


 今日もいい加減にしてくれと言いたくなる程に青い空の下、俺はペダルを力一杯漕ぎ始める。


 早くも熱を帯びてきた風が、身体の横に流れ始めた。そして蝉は相変わらず大量に生息しているらしく、朝も早よから元気に鳴き喚いている。


 昨夜は、もう太一の影は現れなかった。今朝も、これまで一番遭遇率が高かった洗面所で待機してみたりしたけが、空振りだった。


 こちらが会いたいと思うと現れず、予期せぬ時に現れる。


 幽霊や幻というのはそういうものなのかもしれないが、太一と対話をしたい側からしてみれば、随分と勝手な理屈だ。


 そしてそれは、太一そのものだった。


 あいつはいつも俺のことなんて関係なく、常に自分を押し付けてきた。俺のことが大好きだったのは、百歩譲って理解しよう。


 だけど、寝込みを襲うか? 


 俺だって花にそんなことはしなかったし、現在進行形でしていない。二段ベッドの上で花が可愛らしい寝息を立てているのを、ちょっと疼きそうになるあそこを宥めつつ毎晩耐えている。


「花、出来るだけ課題終わらせてさ、明日はのんびりしようか」


 連日の部活に夏休みの宿題にと、いい加減花もうんざりしてきている頃かと思い、花が喜ぶかなと声をかけた。


 すると、思ってもいない答えが返ってくる。


「実は、最近お仏壇の掃除もお供えもしてなかったから、明日はやりたいんだよね……」


 遠慮がちな花の声色に、思わずキュンとしてしまった。もう盆入り直前だというのに、白状な俺はそんなことも思い出さなかった。優しい彼氏失格だ。


「俺も手伝っていい? お墓の方も、掃除したいだろ?」


 花の父ちゃんが海外出張に出ている間は、花が家のことを全て取り仕切らねばならない。あの仏壇に祀られているのは、遠い会ったこともない先祖ではなく、花の大切なばあちゃんと母ちゃんだ。


 仏壇と墓の掃除を何だかんだで忙しい花ひとりにやらせてふんぞり返って眺める程、無神経になりたくなかった。


 ――太一の墓には、行きもしない癖に。


「……ありがと、宗ちゃん」


 花が、ぎゅっと俺の腰を掴んだ。


 俺は唇を噛む。


 花の孤独を、俺は埋めることが出来ているだろうか。太一の様に、独りよがりにはなっていないだろうか。性格は大分違えど、血のつながった双子の兄弟だ。根底の部分で似通っている可能性は十分に考えられる。正直、不安だった。


「……大好き」


 小さく、だがはっきりとした声が俺の耳に飛び込んできた。


 キキーッと不快なブレーキ音を立て、畦道のど真ん中で俺は自転車を急停車させる。その勢いに、花は「ぶっ!」と顔を俺の背中にぶつけた。


「そ、宗ちゃん!? びっくりする……ん」


 花の抗議はスルーして振り返ると、急いで花にちゅっとキスをした。


 花の豆鉄砲を食らった様な顔に、思わず笑う。と、花の顔が真っ赤になった。


「そ、宗ちゃあああん!? ここ、外だから!」


 確かに外だ。周りには田んぼしかない。遠くの方にじじばばがいるのは見えるが、多分この距離は見えないだろう。


「花、俺も花が大好きだよ」


 ちゃんと伝わるといいな、そう思いながら告げた。


「花の言うことはなんだって聞いてあげたいから、遠慮なんてするな。な?」


 花の表情が、焦ったものから嬉しそうなものへと変わっていく。あ、伝わったみたいだ。


「だから、ひとりで抱えるな。な?」


 俺の言葉に、花はこくりと頷いてみせた。


「……うん、ありがと、宗ちゃん」

「どういたしまして」


 花の返事に満足しつつ、今度はゆっくりと花に顔を近付ける。


 耳をつんざく程の大音量の蝉の声に囲まれながら、俺達は再び口づけを交わした。

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