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アンチヒーロー A⇒H 【改稿版】  作者: ひげもじゃ


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9/19

第9話 "仮面"の奥の少女

私のせいで、両親は死んだ。


両親は私を愛してくれていた。

ただ、仕事で家を空けることが多く、

幼かった私はいつも寂しさを抱えていた。


そんな頃、私は一人の大人と出会った。

優しくて、私の話を聞き、両親がいない時は

いつも側にいてくれた。

気付けば“あの人”は、両親と同じくらい

大切な存在になっていた。


だから私は、あの人と両親にも仲良くなって

ほしくて、何の疑いもなく会う機会を作った。

きっと楽しい時間になる。

ただ、それだけを考えていた。


――そして、あの日。


私の目の前で両親は殺された。

信じていた、あの人の手によって。


全ては最初から仕組まれていた。


両親が所属していた能力者研究機関は

高い潜在能力を持つ私を研究対象として

差し出すよう求めていた。

拒み続けた両親を、機関は実験の材料にした。


信頼した人間に裏切られ、目の前で両親を

奪われた時、私の能力は何処まで高まるのか――

そんなことを確かめる為だけに

お母さんとお父さんは……。


「……皆、いない」


その後のことはよく覚えていない。

私は本性を現したヴィランへ、

感情のままに重力をぶつけ続けた。

両親の亡骸さえ巻き込んで。

気付いた時には私の周りに何も

残っていなかった…。


私は人を殺した。


それ以来、人を信じることも

自分の力を解放することも怖くなった。

その恐怖がいつしか私自身の力に

蓋をしていった。


だから私にとって、

ヒーロースーツはただの装備ではない。


一つの“仮面”だ。


スーツに搭載されたG.C.S.が私の重力を

制御してくれる。


――この姿なら大丈夫。

――私は自分を制御出来る。


そう思える時だけ、

私は普段とは違う自分でいられる。


スーツを纏った私は、“あの日”がなければ

なれていたかもしれない一つの可能性なのだと思う。


私はもう一人の自分に

名前を付けることにした。


不墜華《グレイスフォール》


憎しみに身を任せ、二度とあの日のように

墜ちない為に。


“華”は、花が好きだったお母さんから

もらった。

もう側にいなくても、名前の中で

私と一緒にいてほしかったから…。


この名はヒーローとしての私の名前であり、

私自身へ課した誓いでもある。

♢


ジャスティスは、今までの戦い方だけでは

足りないと感じていた。


正体の知れない敵、失われた過去、

そして目覚め始めた新たな力。


この先どれほど強大な敵が現れようとも、

ヒーローとして戦い抜く為に今の自分には

必要なものがある。


「…………よし!」


久しぶりの休日、ジャスティスは

重大な決意を胸に街へ繰り出した。


♢


あの戦いから数日が経った。


突然の雷撃と共に姿を消したバスティオンを

ジャスティスはすぐに追った。

私も周囲を探したけれど手掛かりはなく、

その後の捜索はヒーロー協会へ

引き継がれている。


……それにしても。


『ジャスティス……凄かったな』


最後までバスティオンを倒すことではなく、

救おうとした姿が今も頭から離れない。

私に雷撃が放たれた時もジャスティスは

迷わず助けてくれた。


あの時は突然で気にする余裕もなかったけど、

思い返せば、あれほど誰かと距離が近くなったのは久しぶりだった。

それなのに不思議と嫌じゃなくて……。


『……な、何なんだろう。この気持ち』


答えが出ないまま、私は人混みを歩いていた。


普段ならわざわざ街へ出ようとは思わない。

それでも今日は好きな作品に登場するキャラクターの限定グッズが発売される日だった。


『買ったら、すぐ帰ろう……』


出来るだけ人と目を合わせないよう俯いて

歩いていると、小さな女の子が横を駆け抜けた。


「お母さん! 早く!」


追いついた母親が笑いながら、その手を取る。


楽しそうに歩いていく親子を気付けば

目で追っていた。

その姿が人混みに消れると、今度は同年代の

女の子達が、楽しそうに話しながら横を

通り過ぎていく。


『……いいな』


思わず浮かんだ言葉に少し戸惑い、

私は再び目的の店へ向かった。


♢


ようやく辿り着いた売り場の棚には

ほとんど商品が残っていなかった。


『……嘘。もうないの……?』


諦めきれずに探していると、

奥に一つだけ残っているのを見つける。


『……あった!』


声が出そうになって慌てて口元を押さえ、

周囲を気にしながらそっと手に取った。


『よかった……ラスイチ』


会計を済ませて店を出たところで、

周囲が妙に騒がしいことに気付く。


「ジャスティスじゃない?」


「え、どこ!?

 ……さっきから何してんの、あの人?」


『ジャスティス!?』


人だかりの向こうに見覚えのある姿を見つけ、

少しだけ気持ちが弾んだ。


『何してるんだろう……』


背伸びして覗くと、ジャスティスは玩具店の前で

子供向けのヒーロー玩具を手にしていた。


「…………」


真剣な顔でボタンを押す。


『必殺! ○○○○!!』


玩具から派手な音声が鳴り響く。

ジャスティスは暫く黙って聞いた後、

これまでヒーローとして学んだことを

書き留めてきた“ヒーロー記録”を取り出した。


何かを書き込むと、もう一度ボタンを押す。


『必殺! ○○○○!!』


「…………なるほど」


真剣な表情のまま、

また手帳へペンを走らせていく。


『……な、何してるの!?』


「……よし、次だ」


『つ、次!?』


何をしているのか分からないまま後を追うと、

ジャスティスが次に入ったのは書店だった。


私は近くの本棚へ隠れ、長い前髪の隙間から

そっと様子を窺う。

ジャスティスが移動する度に隣の棚へ移り、

またひょこっと顔を覗かせた。


『……これなら気付かれないよね』


近くの客や店員が

そんな私をちらちらと見ている。


『『『……怪しい』』』


その視線に気付かないまま追い続ける私の前で、

ジャスティスは漫画を数ページ読むと

手帳に何かを書き、別の一冊を手に取った。


『また書くの!?』


それを何冊も繰り返す。

その集中ぶりは、バスティオンと

戦っていた時と大して変わらない。


『彼は一体、何と戦ってるの……?』


数冊を調べ終え、ようやく手帳を閉じた。


「……よし。知識は集まった」


『知識!?』


「次は実践だ!」


『何を実践する気なの!?』


迷いなく書店を出ていくジャスティスを

私は慌てて追いかけた。


暫く歩いて人通りの少ない場所へ着くと、

ジャスティスは周囲に誰もいないことを確認し、

大きく脚を開いて構えた。


「まずは力を溜めて……一気に放つ」


『何を!?』


手帳を確認しては構えを変え、

一つずつ動きを試していく。


「これは違うな……もっとこう……」


本人は至って真剣で、その姿だけを見れば、

本当に新たな戦い方を研究しているよう

だった。


『……いや、何の研究なの!?』


「よし……次は振り向きながらだな」


『振り向きながら!?』


ジャスティスが身体を反転させ、

勢いよく腕を突き出す。


その先にいたのは、物陰から半分だけ

顔を覗かせていた私だった。


「…………」


『…………』


二人の目が合った。


『……あ』


腕を突き出したままのジャスティスと、

隠れることさえ忘れた私が揃って固まる。


暫くして、

ジャスティスがゆっくりと腕を下ろした。


「……お前」


『バレた!?』


私の方へ歩いてくると、長い前髪の向こうに

ある顔を確かめるようにじっと覗き込んできた。


『ち、近い……!』


「お前……グレイスフォールって

 ヒーローに似てるって言われないか?」


「えっ!?」


『やっぱりバレた!?』


咄嗟に何も答えられず固まる私を

ジャスティスはもう一度じっと見る。


「…………」


『ど、どうしよう……』


暫く考え込んだ後、ジャスティスは

自分で首を横へ振った。


「いや、違うな」


『何で!?』


「グレイスフォールはもっと堂々としてるし、

 こんなにずっと下向いてねぇ」


『同じ人なんだけど……』


何故か本人より自信満々に否定し、

納得したように頷く。


「まあ、でも似てるなら、

 お前も良い奴かもしれねぇな」


「……え?」


「グレイスフォールは良い奴だからよ」


「…………」


正体がバレなかったことに安心したはず

なのに、それ以上にその言葉が嬉しくて、

私はまた俯いた。


「そうだ! グレイスフォールに似てるなら、

 お前もヒーローのこと何か分かるだろ!」


「え……?」


『ど、どういう理屈!?』


「丁度いい。お前もついてきてくれ!

 これから師匠達のところへ行く!」


「し、師匠……?」


戸惑う私を余所に、ジャスティスは

少し屈んで自分の背中を指差した。


「乗れ! 飛んでくぞ!」


「えっ!? ちょ、ちょっと待って!」


断る間もなく促され、私は恐る恐る

ジャスティスの肩へ手を回した。


『わ、私……

 本当は自分で飛べるんだけど……!』


「しっかり掴まってろよ!」


「ま、待って! まだ心の準備が――」


言い終えるより早く、ジャスティスは

地面を蹴り、私を背負ったまま一気に

空へ飛び上がった。


「ひゃあっ!?」


自分の能力で飛ぶ時とはまるで違う感覚に

腕へ力が入り、私はその背中にしがみつく。


『こ、こんなに掴まなくても……!』


私の動揺に気付かないまま、ジャスティスは

街の上空を迷いなく進んでいった。

第10話に続きます。

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