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アンチヒーロー A⇒H 【改稿版】  作者: ひげもじゃ


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第8話 負を断つ蒼光

白杖を握る優は感じ取っていた。

――ジャスティスの力の目覚めを。


「眠っていた記憶の扉が

 開かれ始めている……」


優の表情に僅かな迷いが滲む。

過去に再び触れることへの躊躇いはあった。

それでもジャスティスが過去へ近づき始めた以上、

自分も目を逸らしてはいられない。


「僕も再び過去と向き合わなければ

 ならない時が来たのかもしれない…」

♢


青白き一撃は確実にバスティオンを

捉えている。


不屈の魂《アンブレイカブル・ソウル》

でも吸収しきれてはいなかっただろう。


だが、バスティオンは一歩も後ずさることなく、

執念に満ちた鋭い眼差しを

ジャスティスへ向け続けていた……!


今の彼を立たせているものは

誰かを守るという意志ではない。

ただ己の復讐。それだけだった。


『俺は全てを奪われた……!』

『あの“計画”が全てを壊した!!』

『だから殺す……!』

『俺から全てを奪ったものを……

 一つ残らずこの手で消し去る!!』


その身では今も 不屈の魂が発動し続けている。

ジャスティスはそんなバスティオンを見つめ、

ふと疑問を口にした。


「…なぁ。

 その能力、アンタは今自分の為に

 しか使ってないよな?」


「…何?」


「本当にそんな能力なのかよ?」


バスティオンの眼差しが鋭さを増す。


「何を知ったような口を叩く……!」


「知らねぇさ。

 アンタのこともその能力のこともな」


本来は自分自身の為ではなく、

仲間や人々を守ることでその力を高める。

それこそが不屈の魂

 《アンブレイカブル・ソウル》

の本質であることにジャスティスは感づいていた。


「でも微かにだけどよ……  

 不屈の魂が発動してる時、アンタが

 今まで守ってきた人達が見えてたぜ」


「…………」


「アンタの能力が…泣いてるぜ!」


「ぐっ……! あぁぁぁぁッ!!」


戻れない過去への更なる拒絶を示すように

バスティオンは絞り出すような叫びを上げ、

力任せにジャスティスへ襲い掛かった。


『まずはこの青白い光を使いこなさなきゃな……』


迫るバスティオンを前にジャスティスは

自身の腕へ視線を落とす。


「って、一々青白い光って言うのはなげぇ!

 ここからは…… よし!   

 蒼光《そうこう》でいく!!」


再び右腕へ蒼光を纏い、

ジャスティスはバスティオンを迎え撃つ。

振り下ろされた拳を右腕で弾き返すと続けて左腕にも蒼光が迸った。


「おらぁッ!!」


左右から繰り出される拳がバスティオンへ

次々と叩き込まれていく!

不屈の魂は確かに発動している。

それでも先程までの力はなかった。


『不屈の魂が弱まっている!?    

 俺の意志とは関係なく…!』

『こんなことは一度たりともなかった』

『能力までもが…… 俺を拒絶するのか……?』


目前で戦うジャスティスの姿に

いつしか別の姿が重なっていた。

人々を背に立ち、 傷つきながらも

決して退かなかったヒーロー達。

その先頭にはかつての自分、

”ヒーロー バスティオン”がいた…。


『…………!』


バスティオンの中に耳を背け続けていた

人々の声が蘇る。


『……今さら何を俺に求める!  

 何故、お前達は俺を忘れない!!』


ジャスティスの猛攻を受け、

遂に片膝をついたバスティオン。


「ま、まさかこの俺が…  

 お、俺はバスティオン  

 No.1ヒーローだった男だぞ…!!」


苦悶の表情を浮かべながら

ジャスティスを見上げる。

彼の姿は悪に墜ちた自分を倒そうとする

ヒーローの姿にしか見えなかった。


「お、お前は…  本当にゼロなのか…?  

 ゼロは”計画”の果ての存在……!  

 こ、こんな奴であるはずが……!」  


ー【ゼロ】ー


『バスティオンの本来の標的。

 そして、コイツは”俺の失われた記憶”の

 中にもいる…!』


ジャスティスは蒼光を一時的に解き、

バスティオンへ告げる。


「断言するぜ。

 俺はジャスティスだ!

 ……【ゼロ】って奴じゃない!

 俺の記憶にもいるらしい

 そいつは一体何なんだ!?」


「…そうなのだろうな。

 貴様は……」


ーーゼロじゃない。

ジャスティスのこれまでの戦いがバスティオンに嫌でもそれを証明していた。

だが、これを認めてしまったら俺は…!


そんな葛藤の中、

バスティオンは記憶を巡らしていた。


バチッーー


雷を迸らせる男との記憶を…。


『ジャスティス…

 アイツが【ゼロ】かもしれないぜ?』

『復讐したいんだろ?

 "計画"の亡霊に』


『…貴様、どこまで…』


雷の男は自身のもつアタッシュケースを開け、

中身をバスティオンに見せる。

黒みを帯びた赤い液体が入った注射器が

数本入っていた。


『コア・ブーストだ。

 …力を与えてやるよ、

 元No.1ヒーロー…!!』

 


 「……フッ」


バスティオンの口から笑いが零れた。


「フッ……ハハ……ハハハハハッ!!」


突然狂ったように笑い始めたバスティオンを

ジャスティスは黙って見つめる。


「“計画”に利用され、まさかまた……  

 滑稽なのは俺の方だったな……」


「“計画”?」


「“プロメテウス計画”」


そう言い終えるとバスティオンは

隠し持っていたコア・ブーストを取り出す。


「…俺は多くの人々を傷つけた。  

 俺を慕ってくれていた人々を。  

 ……もう引き返せない」


『!? あのバスティオンの異常発達した

 肉体はあれが原因なのか?  

 あんなものをもう一度使ったら…!』


「やめろ! もうやり直せないなんて

 決めつけんじゃねぇよ!!」


バスティオンの手がコア・ブーストへ伸びる。

その脳裏に雷の男が最後に残した警告が

蘇っていた。


『2本目のコアを使うなら覚悟しろよ。  

 一時的に更なる力を得るが――  

 確実に死ぬぜ……?』


躊躇なくバスティオンは首元へコア・ブーストを

突き刺した。


「ぐっ……ぐぉぉぉぉぉッ!!」


全身の血管が異様なまでに浮き上がり、

巨躯が激しく脈打つ。

骨格すら歪めるように膨れ上がったその姿は、

もはや人間の形を保つことさえ

拒んでいるかのようだった。


「ゼ、ゼ、ゼ、ゼロ……

 お、お、おれは……

 こ、ころす……!!」


「バスティオン…!」


更なる異常発達を見せたバスティオンから

凄まじい攻撃が放たれる。

だが、その動きはあまりにも単調だった。

回避に徹するジャスティスはその全てを

かわし続ける。


「ゥ……ァ……

 ァァァァァァァッ!!」


悲痛な叫びを上げながらバスティオンは

ひたすら攻撃を繰り返す。

その度に皮膚が裂け、

身体は目に見えて壊れていく。

二本のコア・ブーストが生み出す力に

バスティオン自身が耐えられていない。


このまま長引かせれば、 ジャスティスが

何もしなくてもバスティオンは死ぬ。


『これ以上、皆を悲しませたくねぇ。

 でもどうしたら……』


ーーその時だった。

ジャスティスの意志とは関係なく、

蒼光が身体を駆け巡った。


『……蒼光ならどうにか出来るとでもいうのか?  

 ……もう他に手はねぇ!』


再びジャスティスは蒼光を纏う。

今度は両腕ではなく―― 全身に!


「ぜ……ろ……

 き、きえ……ろォォォォッ!!」


バスティオンの全身から凄まじい力が溢れ始めた。

不屈の魂がこれまで蓄え続けてきた。

全てのエネルギーを一気に解き放とうとしている。


『マズい! あんなもん全部ぶち撒けたら  

 この辺りごと吹き飛ぶ!』


それだけではない。

エネルギー過多でバスティオンも

確実に死ぬだろう。


『どうする!?』


バスティオンの力が更に膨れ上がる。


『このままじゃ――』


ズンッッッ!!!


「ゥ……ガァッ!?」


突如、凄まじい重力が

バスティオンの全身へ圧し掛かった。


「もう!

 これで3度目よ?」


聞き覚えのある声にジャスティスが振り返る。

空から再度駆けつけた

不墜華《グレイスフォール》は

超重力でバスティオンの動きを

一時的に止めていた。


「しっかり決めなさいよ!」


ジャスティスはニッと笑った。


「任せろ!!!」


全身を包む蒼光が一気に密度を増す。

次の瞬間――

ジャスティスの姿が消え、

バスティオンの目前へと一気に迫る。


『バスティオン! アンタを救う!!』


――蒼き閃光!!!


バスティオンの目前へ迫ったジャスティスが

両手を突き出す。

その瞬間、全身を覆っていた蒼光が

一気に解き放たれた!


「――――!!」


蒼き閃光がバスティオンの

全身へと炸裂する!!

凄まじい蒼光が視界を埋め尽くし、

バスティオンの巨体を完全に呑み込んだ。


『な……なんだ……!?』


バスティオンに失われていた

理性が戻り始める。


『力が……消えていく……?』

『コアが……俺の中から……!』


解き放たれた蒼光は一片たりとも逸れることなく、バスティオンただ一人へと注ぎ込まれていく。

そしてコア・ブーストが生み出した

巨大なエネルギーは蒼光に呑み込まれ、

跡形もなく消失した!


バスティオンの身体はその巨体にはそぐわない

痩せた姿へと戻っていた。


「あ、あの青白き光が……

 俺の中のコアを中和したとでも言うのか!?

 まさか、そんなことが……」


戦意は完全に削がれ、

同時にバスティオンを支配していた憎悪も

少しずつ薄れていくのを感じていた。


一撃を撃ち終えたジャスティスは

大きく息を吐き、バスティオンへ呼びかける。


「バスティオン!」


「…どういうつもりだ。

 何故、俺を助けるようなことをした?」


バスティオンは背を向けたまま

ジャスティスへ問いかけた。


「…最近な、初めて友達が出来たんだ。

 そいつとの出会いが嫌われ者だった

 俺に変わるキッカケをくれた。


 だからな、今の俺はたった一つの出会いが

 一人の人間を変えることが出来るって

 本気で信じてる!」


ジャスティスはバスティオンの背中へ

声を張り上げる。


「だからよ! バスティオン!!

 アンタや皆の中にまだ残ってる”ヒーロー”を

 アンタ自身が終わらせんじゃねぇよ!!」


バスティオンの口元が微かに緩む。


「……道半ばのヒーローが生意気言いやがって。

 俺は元No.1だぜ?」


少し離れた場所から二人のやり取りを

見ていたグレイスフォールは思わず

感嘆の声を漏らした。


「バスティオンを倒すどころか救っちゃった……。  

 ジャ、ジャスティスってこんなに凄いんだ……」


戦いが終わり気が緩んだのか、

グレイスフォールではなく結衣が

顔を覗かせていた。


バチッッ!!


「……おいおい。  

 こんな平和的に終われるわけないじゃん?」


察することさえ許されないまま、

凄まじい雷撃がグレイスフォール

目掛けて放たれる!


『な、なんだ!? 雷?

 俺はあれを感じ取れてる!?』


戸惑いながらもジャスティスは瞬時に

蒼光を纏うと、 グレイスフォールを

抱きかかえ雷撃の軌道から一気に離脱した。


「え……? えー!?」


「無事か!?」


「ぶ、無事だよ!  ちょ、ちょっと近っ……」


「集中しろ! 敵だ!」


「わ、分かってるわよ!」


グレイスフォールは慌てて離れると

すぐに周囲を警戒する。

だが、何処にも襲撃者の姿はない。


バチッ――!!


再び雷鳴が響く。


「バスティオン!!」


ジャスティスが振り返った時には

激しい雷光がバスティオンを包み込んでいた。


「復讐ごっこは充分楽しめたろ?」


姿の見えない男の声だけが響く。


「……本物のゼロは生きてる。  

 お前の役目を果たせよ?  

 元No.1ヒーロー」


「待ちやがれ!!」


ジャスティスが駆け出す。

――雷光が弾けた次の瞬間、

バスティオンの姿は消えていた。


『……目覚めてきてるな』

『……まだだ。まだお前は  

 こんなもんじゃねぇ』

『だから早く熟せよ……ジャスティス。  

 俺が我慢出来なくなる前にな……!』

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