↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンチヒーロー A⇒H 【改稿版】  作者: ひげもじゃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/18

第4話 いつか届く声

“ヒーロー ジャスティス”


私は彼に関するSNSの投稿を

スマホで一つずつ追っていた。


『ヴィランよりジャスティスの方が

 被害もたらしてるんじゃね? 

 もはや災害だろ』


『こいつって助けに来てんの? 

 街壊しに来てんの?』


『こんな奴がヒーローを

 名乗ってるんじゃねぇよ!』


否定的な言葉と共に同じハッシュタグが

並んでいた。


#ジャスティスくるな


世間は彼に“来るな”と言う。


けれど私は――彼に会ってみたかった。


“あの日”以来、自分から誰かに会いたいと

思ったことはない。

人と関わることも出来る限り避けてきた。


それでも強過ぎる“力”に振り回されている

彼だけはどうしても他人とは思えなかった。


だから私は勇気を出して一歩を

踏み出すことにした。


私と同じ“ヒーロー”である

彼に会う為に……。



複合施設から大量の黒煙が立ち昇っていた。


上層階からは炎が噴き出し、爆発によって

建物の一部が大きく損傷している。

周辺には避難者が溢れ、家族を呼ぶ声と負傷者を

運ぶ救急隊員達の声が飛び交っていた。

そして今も内部には多くの人々が

取り残されている。


避難者や野次馬から少し離れた場所に

一人の少女が立っていた。


長い黒髪で目元を隠し、少し大きめのパーカーの

フードを被っている。少女は俯いたまま、

落ち着かなげに指先を弄っていた。


「ど、どうしよう……。

 早く皆を助けなきゃいけないのに

 ジャスティスが来るって考えたら

 動けない……!」


少女は更に俯く。


「わ、私から会いに行くのと、

 会わなきゃならない状況で会うのは

 全然違う……!」


彼女の名前は柊結衣。


ジャスティスと同じくヒーロー協会に

所属しているが極度の人見知りだった。


「で、でも、今はそんなこと言ってる

 場合じゃない……! 

 スーツさえ着れば、私は“変われる”……!」


結衣がH-LINKを操作しようとした

その時――


ズドン!!


「ひっ……!」


身体を跳ねさせた結衣は反射的に

物陰へ逃げ込んだ。


「なんて被害だ! 

 もう一人はまだ来てねぇのか……!

 とにかく急がねぇと!」


現場へ到着したジャスティスは救助に

向かおうとして足を止めた。


「よりによって、来たのが

 ジャスティスかよ……」


「アイツが来ても

 余計に被害を広げるだけだろ……」


周囲に不安が広がる中、ジャスティスは

救助を続ける隊員へ歩み寄った。


「……中の状況は把握出来ているのか?」


「え……!?」


隊員が予期せぬ問いに目を見開く。


「少しでも情報が欲しい。

 全員助けるために……!」


「あ、ああ……。状況は把握出来ている。

 君が協力してくれれば、

 全員を救出出来るかもしれない!」


説明を受けたジャスティスは

すぐに救助を開始した。


これまでのように力任せでは進まない。

周囲への影響を考え、隊員達と連携しながら

把握されていた人々を次々と助け出していく。


最後の一人を隊員へ託し、

ジャスティスは息を吐いた。


「……これで全員か」


その時――


「……ママ……」


「!?」


燃え盛る炎の奥から届いた微かな声を

ジャスティスの驚異的な聴覚が捉えた。


「あと一人いる!」


「ジャスティス! 

 建物はもう崩壊しかけてる! 

 これ以上は――」


隊員が言い終えるより早く、

ジャスティスは炎の中へ飛び込んだ。

残された時間は多くない。


「あれは……!」


倒れた棚が炎を遮り、その陰に出来た

僅かな空間で幼い少女がうずくまっていた。


「もう大丈夫だ!」


少女が涙を流しながら顔を上げる。


「……ママは?」


「外で君を待ってるさ!」


確証はない。それでもこの中で

一人耐えていた少女を安心させたかった。


「……怖いか?」


少女が小さく頷く。


「そうだよな。俺もちょっと焦ってる」


「……ヒーローなのに?」


「ヒーローだからこそ、なのかもな」


少女を抱く腕に僅かに力を込める。


「でも、絶対に助け出す!」


ジャスティスは少女に負担をかけない

ぎりぎりの速度で炎の中を駆け抜けた。


「もう少しだ!」


出口の光へ向かい、

二人は無事に施設から脱出した。


「○○!」


一人の女性が人混みを掻き分け、

少女へ駆け寄る。


「ママ!」


「……ほらな。待ってただろ?」


ジャスティスは小さく笑い、

少女を地面へ降ろした。


泣きながら抱き合う親子を見つめていると

老婆を家まで送った時と同じ温かさが

胸に広がっていく。


ジャスティスはそれを確かめるように

そっと胸元へ手を当てた。


「……やっぱり、

 “この感情の先”にあるんだな。

 俺達の進む道は間違ってねぇ」


ミシッ――!!


建物全体から不気味な亀裂音が響いた。

複合施設が大きく傾く。

その先には避難を終えた人々と救助隊員達がいる。

ジャスティスは飛び立とうとして顔を歪めた。


「くそっ! 俺でも間に合わねぇ……!」


巨大な瓦礫が人々へ降り注ぐ。


その時――


――ピタッ。


「……!? 止まった?」


落下していた全ての瓦礫が空中で

静止していた。

まるで落下という現象そのものが

失われたかのように。


「ま、間に合った……!」


人目につかない場所へ移動していた結衣が

複合施設へ向けて両手を伸ばしていた。


「は、範囲はちょっと広いけど……

 やりきってみせる! 

 わ、私だって、ヒーローなんだ!」


結衣がゆっくり両手を動かすと宙に

浮かんだ瓦礫が人々の頭上を離れ、

安全な場所へ移動していく。


「誰かが能力を使ってる……。

 一緒に派遣されたヒーローなのか!?」


ジャスティスが周囲へ視線を走らせる中、

全ての瓦礫を動かし終えた結衣はその場を

離れた。


「ご、ごめんなさい、ジャスティス……。

 私が勇気を出せていれば

 一緒に助けられたのに……」


一度だけジャスティスの方を振り返る。


「つ、次こそはちゃんとあなたと……!」


結衣の身体がふわりと地面から

浮かび上がった。


「……またね」


次の瞬間、その姿は凄まじい速度で

空の彼方へと消えていった。



「……助けてくれたヒーロー、

 どこにもいねぇじゃねぇか」


ジャスティスは辺りを見回しながら頭を掻いた。


「礼くらい言わせろよな……」


休む間もなくH-LINKから

新たな出動要請が届く。


ジャスティスはもう一度だけ周囲を見渡した。


「……まあ、また会えるか」


新たな任務を確認して飛び立とうとした時、

先程助けた親子の姿が目に入った。


「母ちゃんと元気でな!」


少女は母親の腕の中から大きく手を振る。


その姿が遠ざかる中――


パチ、パチ……。


誰かが始めた拍手が周囲へ広がっていった。


「ありがとな、ジャスティス!」

「見直したぞ!」

「また頼むぞ、ヒーロー!」


その声はもう彼には届いていないだろう。


それでも人々は遠ざかっていく

青と白の背中をいつまでも見つめていた。



一夜明け、SNSに一つの投稿が載った。


『昨日、騒ぎの中ではぐれた娘を

 彼は見つけ出してくれました。


 娘は「絶対に助け出す!」と

 言ってくれたと話しています。


 本当にありがとう。私達のヒーロー』


その最後には一つのハッシュタグが

添えられていた。


#ジャスティスありがとう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。