第3話 守るべきもの
青と白のシルエットが空を切り裂くように
駆け抜ける。
ヴィランと対峙したジャスティスは圧倒的な力を迷いなく振るい、その巨体を建物へ叩きつけた。
「よし! ヴィランを倒した!」
ジャスティスは満足げに笑う。
「これで俺の役目は終わりだな!」
戦いは終わった。
その背後には決して小さくない被害を受けた市街地と呆然と立ち尽くす人々が残されている。
だが――彼は振り返らなかった。
これはジャスティスが天城優と出会う前の出来事。
♢
日中の公園で天城優はいつものベンチに
腰掛けていた。
穏やかな時間が流れる中、
近くを歩いていた青年が突然足を止める。
「ひっ……! ジャスティス!?」
その声に周囲の人々も一斉に振り返った。
「でも……なんか、いつもと違わねぇ?」
「負を撒き散らしてるというか……」
「…………」
「ジャスティス?
今日は“何か”を纏っているね」
優の口元に僅かな悪戯っぽい笑みが浮かぶ。
「……天城。
お前、見えてねぇくせに分かるのかよ」
「見えていないからこそ分かることも
あるからね。というより、
今日は君が露骨過ぎるかな」
「…………」
「とりあえず、隣に座る?」
「……うん。座る」
「少し怖いな……素直過ぎて」
優がベンチを軽く叩くと、ジャスティスは
肩を落としたまま隣へ腰を下ろした。
「それで、何があったんだい?」
「……SNSで俺が世間から
どう思われてるのか改めて調べてみたんだ」
「あ……。無理するな。後は言わな――」
「想像以上に嫌われてた!! 俺!」
ジャスティスは前屈みになり、
大きな身体を小刻みに震わせた。
「まあまあ……」
優は自分より遥かに大きな背中を
細い腕で慰めるように撫でる。
「……天城、お前って本当に良いやつ――」
「そろそろ真面目に話そうか?」
「…………」
ジャスティスはゆっくり身体を起こした。
「……出来る限り普段通りにする」
「実際に自分の評判を見て、
君は落ち込んだだけなのかい?」
「いや。正直、腹が立った。俺のことを何も知
らねぇ奴らに何であんなことを言われなきゃ
ならないんだってな」
そこで一度、言葉を止める。
「でも、これを受け入れなきゃ、
お前と探す“ヒーロー”には
辿り着けないとも思った」
優は黙って耳を傾けていた。
「この前、お前と別れた後、
買い物袋を抱えたばあさんを家まで送った。
俺なら指一本でも持てるような荷物を
運んだだけだ」
ジャスティスは自分の胸元へ手を当てる。
「それでもよ、別れ際に
“ありがとね”って言われたら……
胸の奥が少し温かくなったんだ」
「うん」
「多分、この感情の先に俺達の探す
“ヒーロー”がある。そんな気がしたんだ」
「そうかもしれないね」
優は少し嬉しそうに笑った。
「少なくとも、その時の君はおばあさんが
“何を必要としているのか”
をちゃんと見ていたんだと思うよ」
「必要としているもの……」
「じゃあ、今までヴィランと戦っていた
君には人々が本当に必要としているものが
見えていたかな?」
ジャスティスは目を伏せた。
「……俺はヴィランを倒せば、
それで皆を守ったことになると思ってた。
でも違ったんだな」
壊してきた街とそこに立ち尽くしていた
人々が脳裏をよぎる。
「その人達にはそれぞれの生活があって、
思い出がある。俺は助けたつもりで
守るべきものまで壊してたんだ……」
優はその言葉を受け止め、静かに口を開いた。
「自分の行いを受け止めた君が
次にするべきことは自分の力に
“責任”を持つことなのかもしれないね」
「責任?」
「君の力は大勢を守れる。
でも同時にその人達から
何かを奪うことも出来てしまう」
優は真っ直ぐジャスティスへ顔を向ける。
「だから、どう使うのかまで考える。
それが君の持つ力への
“責任”なんじゃないかな」
ジャスティスは自分の拳を見つめた。
強ければ強いほど多くの人を救える。
ずっと、そう信じていた。
「強いって面倒だな。
……でもまあ、
これだけの力を持ってるんだ」
そう呟きながら立ち上がり、
拳を固く握り締めた。
「だったら、その責任ごと背負ってみるさ!
俺は必ず真のヒーローになってみせる!
もちろん、お前と一緒にな」
ジャスティスが優へ拳を突き出す。
「……なんでだろうね」
優も同じように拳を突き出した。
「見えなくても、
君のしたいことが何となく分かった」
二人の拳が軽く触れ合い、
ジャスティスはにっと笑った。
その時、左手首に装着された
H-LINKが
短い警告音を鳴らす。
ヒーロー協会に所属するヒーローへ
支給される多機能腕時計型端末だ。
ジャスティスが触れると空中に
半透明のディスプレイが展開された。
『緊急事態発生。○○の複合施設で爆発。
建物内部に多数の市民が取り残されている
模様』
『現場にはもう一名、ヒーローを派遣済み。
合流後、共同で救助活動にあたれ』
「もう一人? 相手の情報がねぇな……。
いや、今は現場へ向かわねぇと!」
ジャスティスが飛び立とうとした瞬間、
周囲の人々が一斉に身構えた。
「……俺は成長してんだ!」
足元や周囲へ衝撃を与えないよう、
ゆっくりと舞い上がる。
「天城! 行ってくる!」
優が頷くとジャスティスは現場へ向かって
一気に加速した。
「――!? あっぶねぇぇぇ!!」
直後、上空から大声が響く。
「飛行機にぶつかりかけたぁぁぁ!!」
「…………」
優は空を見上げるように顔を上げた。
「……慎重にな、ジャスティス」
第4話に続きます。




