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アンチヒーロー A⇒H 【改稿版】  作者: ひげもじゃ


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2/19

第2話 僕達はまだ答えを知らない

『世界で一番、

 ヒーローであろうとしている人だ』


その言葉だけが頭から離れなかった……。

「か、か、か、怪獣出現!?」


新人職員の絶叫がヒーロー協会本部に

響き渡った。


モニターに映し出されているのは

高層ビルをも上回る巨大な怪獣だった。


「あー、

 お前まだここに勤めて数ヶ月だっけ?」


「は、はい!」


「割とあるから早く慣れろよ~」


「慣れろって……怪獣ですよ!? 

 こんなの特撮かアニメでしか見たこと

 ないですよ!」


「正確には、怪獣になる能力を持った

 ヴィランだけどな~」


「それで納得出来るほど慣れてません!」


いくらなんでも、このベテラン職員が

経験豊富過ぎるだけだろう。


そう思って周囲を見渡したが、

怪獣を前にしても誰一人騒がず、

いつも通り仕事を続けている。


「……今の時期、

 退職代行ってすぐ使えるかな……」


そんな新人職員を余所に

職員達は怪獣への対応を始めた。


「本部から応援を送っていたら被害が広がる。

 周辺にいるヒーローは?」


「索敵システムで確認します!」


周辺一帯のヒーロー反応がモニターへ

映し出される。


「……ちょうど近くに一人います」


「誰だ?」


その瞬間、怪獣にも動じなかった職員達が

一斉にざわめいた。


「“こういう時には”

 一番頼りになるヒーローが……!」


「ま、まさか……」


「……ジャスティスです!」


ベテラン職員が苦笑いを浮かべる。


「あぁ~……終わったな」


「怪獣がですか? ジャスティスって

 ものすごく強いんですよね!」


「いや――」


ベテラン職員はモニターに映る街を見つめた。


「街が」


「…………え?」


♢


怪獣は咆哮を上げ、

その巨体で街を壊しながら進み続けていた。


その時、上空から一つの影が急降下する。


ドンッ!!


怪獣の歩みが止まった。


降り立った男の右足が

巨大な身体を正面から受け止めている。


青と白を基調としたスーツに

風になびくマント。


現・世界最強のヒーロー、ジャスティス!


「ウゴッ……!?」


『世界で一番、

 ヒーローであろうとしている人だ』


先日出会った青年――天城優の言葉が

今も頭を巡っていた。


“ヒーロー”とは何なのか。


自分は何故、“ヒーロー”になったのか。


考えても、まだ答えは出ない。


「ウゴッ!? ウゴゴッ……!?」


考え過ぎて、

無意識に苛立っていたのかもしれない。

怪獣を止めていた右足にも力が入る。


「……さっきからウゴ、ウゴうるせぇ!!」


「ウゴン……?」


次の瞬間、怪獣の巨体が上空へ

蹴り上げられた。


「に、逃げろぉぉ!!」


避難中の市民達が一斉に空を見上げる。


高層ビルにも匹敵する巨体が

今度は重力に引かれて落ちてきた。


ズドォン!!


怪獣は建物を巻き込み、街へ墜落した。

瓦礫の中でその身体がみるみる縮み、

後には意識を失った一人の人間だけが残る。


その轟音でジャスティスも

ようやく我に返った。

眼下に広がっているのは、

見るも無惨に崩壊した街並み。


「……………………あ」


♢


「やったぜ! さすがジャスティス!」


無邪気に喜ぶ新人職員の隣で

ベテラン職員は頭を抱えた。


「あぁ~、街が……。

 またクレーム対応かよ~」


そこへ大量の書類を抱えた職員が通りかかる。


「あ……ジャスティス担当の“ハカネェ”だ」


「ハカネェ?」


「“破壊お姉さん”の略。

 ジャスティスが出した被害の後始末を

 してるから、誰かが付けた異名だよ」


「……それ、今の時代許されるんですか?」


「そこ。聞こえてますよ……!」


「や、やべぇ……壊される……!」


“ハカネェ”は二人へ冷たい視線を向けた。


「ガラスを何枚割れば気が済むのかと

 思っていたら、街まで同じように

 壊すんですね……」


「……これ、修理費はどうするんです?」


別の職員が恐る恐る尋ねる。


「いつも通り、

 ジャスティスさんのお給料から天引きです」


「でも確か、ジャスティスは

 “ヒーロー保険”に……」


「ええ。加入を拒否されています」


ハカネェは手元の書類を確認する。


「……さらに振り切りましたね」


新人職員がおそるおそる尋ねた。


「ど、どっちにですか?」


「もちろん――“赤い”方にです」


♢


先日と同じ公園のベンチで

ジャスティスは頭を抱えていた。


「やっちまった~!!」


その時、隣のベンチへ微かな光が集まった。

光が儚く消えると同時にジャスティスは

人の気配を感じ取った。

そこに座っていたのは天城優だった。


「何やら、随分と大変だったみたいだね?」


悪戯っぽく笑う優に

ジャスティスは身体を仰け反らせた。


「うぉっ!?」


だが、すぐに顔を険しくする。


「……大変なことになったのは

 お前のせいでもある」


「僕の?」


「お前から言われた言葉が

 ずっと頭から離れねぇんだ!」


「何か変なことを――」


「言っただろ!!」


ジャスティスは優を指差す。


「世界で一番、ヒーローであろうとしている

 人だって! お前、俺の評判を知ってて

 言ったなら相当趣味悪いぞ……!」


「知っているさ。

 でも、気になったんだろ?」


「何?」


「どうして“ヒーロー”として認められていない

 君に、僕だけがそんなことを言ったのか」


優は小さく微笑んだ。


「僕が誰よりも君に

 その資質があることを知っているから」


「資質?」


「ヒーローとしての資質さ。

 君自身がまだ気付いていないから、

 伝えたくなったのかもしれない」


ジャスティスは黙って、

その言葉を受け止めた。


「あ、それとちなみに――」


「?」


「僕も“ヒーロー”が何なのか、

 まだ答えを出せていないんだ」


「な、何!? 導き手みたいな

 雰囲気出しておきながら……!」


優は満面の笑みを浮かべる。


「だからさ、僕と君で一緒に探そうよ」


そして、真っ直ぐジャスティスへ顔を向けた。


「僕達なりの“ヒーロー”をさ」


「…………」


暫くの沈黙の後、

ジャスティスが小さく答えた。


「……一緒に見つけよう」


「よし、決まりだね! 握手でもしとく?」


優が手を差し出す。


ジャスティスは少し困ったように見つめた後、

その手に指を一本だけちょこんと乗せた。


「……俺流の握手ってやつだ」


優は一瞬きょとんとし、

思わず笑みをこぼした。


♢


優と別れた後もジャスティスは今日のやり取りを

思い返しながら街を歩いていた。


前から、一人の老婆が歩いてくる。


大きな買い物袋を両手に下げ、

何度も持ち直しながらゆっくり進んでいた。


「…………」


ジャスティスは少し迷ってから、

老婆の前へ歩み寄る。


「……持ちます」


「え……?」


「それ、重いんじゃねぇか?」


「……いいの?」


「ああ」


袋を全て受け取り、老婆の歩幅に合わせて

家まで歩いた。


「ありがとね」


怪獣を倒したわけでもない。


それなのに――


「……なんだこれ」


胸の奥が少しだけ温かかった。


♢


机に向かったジャスティスは手帳を開き、

一行だけ書き加えた。


『“ヒーロー”って何だろう』


答えはまだない。


けれど今は一緒に答えを探してくれる

相手がいる。

いつか自分達なりの答えに辿り着ける。

そう思いながら、ジャスティスは手帳を閉じた。


♢


――優は白杖越しに伝わる、

ジャスティスの温かな気持ちを感じていた。


「ジャスティスはまた、

 僕達の元に帰ってきてくれたよ」


優は静かに夜空を見上げる。


「“博士”……あなたの思いは

 必ず僕が果たすから……」



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