↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンチヒーロー A⇒H 【改稿版】  作者: ひげもじゃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/19

第14話 黒き炎は静かに嗤う(わらう)

夜も更けた頃、街外れにある廃施設を

二人の若者が訪れていた。

入口には色褪せた『立入禁止』の文字が

掲げられている。


「……マジで入るの?」


「ここまで来たんだ。行こうぜ」


何かが出るという噂を確かめようと二人は

スマホのライトを頼りに静まり返った通路を

進んでいく。

しばらく進んだところで不意に奥から

物音が響き、思わず足を止めた。


「……何かいる?」


恐る恐るライトを向けた先に巨大な人影が

浮かび上がる。

言葉を失っている間にも人影はゆっくりと

動き、やがてライトがその姿を僅かに

照らし出した。

そこにいたのは二人を遥かに上回るほどの

巨体を持つ男だった。


「な、なんだよこいつ! に、逃げろ!!」


二人はすぐさま踵を返し、背後を振り返ることもなく来た道を駆け戻っていった。

突然逃げ出した二人を気に留める様子もなく、バスティオンは何事もなかったかのように施設の奥へと歩き始めた……。


♢


「天城、

 一緒にヒーロー協会まで来てくれないか?」


朝から訪ねてきたジャスティスにそう誘われ、

僕は少し驚いた。


「随分と急だね。何かあったの?」


「俺も詳しくは聞いてないんだ。

 長官が俺達を呼んでるらしい」


「長官?」


そう聞き返すとジャスティスの声がいつもより

少しだけ弾んだ。


「ああ! 

 俺をヒーロー協会に誘ってくれた人なんだ」


「ふふっ。なんだか嬉しそうだね」


「ん?」


「長官と会えるのが楽しみなのかな?」


「まぁな! 会うの久しぶりだからよ!」


少しの間を置いてジャスティスが照れくさそう

に笑った。


♢


ここはヒーロー協会本部――長官室。

一人の男が大きな執務机に向かい、

書類に目を通していた。


扉を叩く音が響き、男は書類からゆっくりと顔を

上げた。 その顔には髭を蓄え、頬には古い傷が

刻まれている。短く整えられたダークグレーの髪

がその険しい顔立ちによく馴染んでいた。


「失礼します」


扉が開き、協会職員が部屋へ入ってきた。

それに応じるように執務机の向こうで

大きな身体がゆっくりと立ち上がる。

長官用の制服に包まれた肩は広く、

真壁《まかべ》 宗一郎《そういちろう》

の巨躯は二メートルを優に超えていた。


「報告します。ジャスティスを含む

 ご指定の四名が到着しました」


ジャスティスの名が出た瞬間、

真壁の眉がぴくりと跳ねた。

続いて頬が引きつり、口元までぴくぴくと

震え始める。 今にも緩みそうになる口角を

無理やり押さえ込み、眉間にこれでもかと

皺を寄せた。


「…………そうか」


(……また始まった)


真壁は一度咳払いするとどうにかいつもの表情を

取り戻した。


「分かった。私が直接迎えに行こう」


♢


ヒーロー協会本部のエントランスへ足を

踏み入れたところでジャスティスが見覚え

のある姿に気づいた。


「グレイスフォール?」


声をかけられ、グレイスフォールが振り返る。


「ジャスティス……それと天城も一緒なのね」


「ああ。お前も呼ばれたのか?」


「そうよ。理由までは聞いてないけどね」


ジャスティスは何気なくグレイスフォールを

眺めているうちにふと口を開いた。


「そういや最近、お前と会うこと増えたよな」


「……それなりには

 会ってるかもしれないわね」


「なんか嬉しいな。

 俺、お前ともっと会いたいって

 思ってたからよ」


「…………え?」


グレイスフォール――というより

結衣はその場で固まった。


『え……!? もっと会いたいって……  

 それ、どういう意味!?』


「? どうかしたか?」


「な、なんでもないわ!」


どうにか平静を装ったもののグレイスフォールの

声はわずかに上ずっていた。


「……俺、何か変なこと言ったか?」


「今のは分からなくてもいいんじゃないかな」


不意に隣から優がひょこっと顔を出した。


「なんでだよ?」


「分からないままの方がジャスティス  

 らしいからね」


「全然答えになってないだろ」


「ふふっ。そうかもね」


「天城、お前また俺で楽しんでるだろ?」


そんな三人のやり取りをよそにヴァリアントは

少し離れた場所からジャスティスを

じっと見据えていた。


どうやら三人ともまだ私の存在には

気づいていないようだ。

ならば――


『私はヒーロー総合ランキング第2位――  

 その名は《VALIANT《ヴァリアント》》』


ドンッ!!


威風堂々と立つその姿はトップヒーローとしての風格に満ちていた。


「…………」


しかし誰も気づかない。

ヴァリアントは無言で《不天《ふてん》》

を抜いた。


シャキィン――!!


磨き上げられた刀身がエントランスの照明を鋭く反射する。


「…………」


ヴァリアントは鬼気迫る表情でジャスティスへと

近づいていく。


「いい度胸だな!? ジャスティス!!」


「な、何だ!? ヴィランか!?」


「違うー!!」


ヴァリアントの怒声がエントランスに

響き渡った。


「ヒーロー総合ランキング第2位! 

 ヴァリアントだ!!」


「あぁ、永遠のNo.2って異名の」


グレイスフォールの何気ない一言に

ヴァリアントの動きが止まった。


「……くっ。そんな自然に言い放つとは…!

 油断した!これが噂に聞く

 《黒重の魔女》……!」


「「「…………」」」


こうして四人は顔を揃えた。


「ガッハッハッハッ!!」


突然響き渡った豪快な笑い声にその場にいた者達の視線が一斉に声のする方へ集まった。

ただ一人ジャスティスだけはその声を聞いた

瞬間に表情を輝かせる。


「!! 真壁のおっさん!」


「久しぶりだな、ジャスティス!!」


巨体を揺らしながら真壁が一直線に歩み寄り、

そのまま両腕でジャスティスを抱き締めた。


「おおっ!」


ジャスティスも負けじと真壁の巨体へ

腕を回す。


「ガッハッハッ!」


「はははっ!」


再会を喜ぶ二人の腕に次第に力が

こもっていく。


「ぬぅぅぅぅぅ……!!」


「ぐぬぬぬぬぬ……!!」


ミシッ――!!


バキバキバキッ!!


「い、いてぇぇぇぇぇ!! 

 おっさん!! マジでいてぇって!!」


「ガッハッハッハッ!! 

 まだまだだな、ジャスティス!!」


「くっそぉ……! 

 おっさんも相変わらず元気そうだな!!」


「当然だ!! ガッハッハッハッ!!」


あまりにも豪快な二人の再会に三人は

すっかり呆気に取られていた。

やがて優が可笑しそうに笑った。


「ふふっ。随分と豪快な人とも友達なんだね」


「いや、俺にとって真壁のおっさんは……」


「……さて」


その言葉を遮るように真壁が静かに切り出すと

先ほどまでの陽気な空気がすっと鳴りを潜めた。


「ジャスティス、ヴァリアント、

 グレイスフォール。

 お前達三人に共同任務を与える」


真壁が長官の顔に戻ったことを察し、

三人も真剣な表情で話に耳を傾ける。


「任務はバスティオンの捜索。

 そして奴が目撃された施設内部の探索だ」


「バスティオン!?」


ジャスティスが思わず声を上げ、

グレイスフォールもその名に反応する。


「先日、市民から協会へ目撃情報が入った。

 街外れにある廃施設でバスティオンらしき

 男を見たそうだ」


「間違いないのか?」


「ああ。目撃者の証言と施設周辺の記録を

 照合した限り、本人である可能性は高い」


「……そうか」


雷光と共に消えたバスティオンの生存に

希望が見え、二人の表情にも安堵が滲んだ。


「立入禁止の件は……まぁ今回は見逃そう」


真壁は話を続ける。


「問題はここからだ。目撃情報を受けて

 施設について調べたところ、

 例の《プロメテウス計画》に

 関係していた可能性が浮上した」


「……プロメテウス計画」


その言葉にジャスティスの表情が変わり、

バスティオンから聞いたもう一つの名が

脳裏に蘇る。


――【ゼロ】――


「さらに最近、施設近辺では複数のヴィランが

 度々目撃されている」


「ヴィランも?」


「ああ。偶然で片付けるには重なりすぎている。

 バスティオン、《プロメテウス計画》、

 そして複数のヴィラン。あの施設には何かある

 と見ている」

「だが、あまりにも露骨すぎる。これだけの情報が 

 一か所に集まっている以上こちらを誘い込むため

 の罠である可能性も考えておけ」


「おっさん!! 行くに決まってんだろう!」


バスティオンにもう一度会えるかもしれない。それだけでなく、《プロメテウス計画》と《ゼロ》を追えば、自分の失われた記憶へ繋がる何かを掴めるかもしれない。

そして目の前には自分をヒーローの世界へ導いてくれた真壁がいる。


『何よりもおっさんに俺の成長を

 見せられる……!』

「任せとけよ! 俺にな!」


迷いなく言い切ったジャスティスを

ヴァリアントは黙って見つめていた。

真壁を前に高揚するジャスティスの様子に

ヴァリアントの表情が僅かに険しくなる。

それでも何も言わず静かにその様子を

見ていた。


「一ついいですか?」


優の声に真壁が応じる。


「何だ?」


「この三人で任務に臨むことは分かりました。 

 ですがそれなら何故僕まで協会に?」


真壁は少しの間を置いて答えた。


「天城優君。

 君には俺が個人的に用があってな」


「……僕に?」


♢


「ふざけるな!! どうして俺達が

 こんな扱いを受けなきゃならねぇんだ!!」


怒声が廃施設の奥深くに響き渡った。

薄暗い一室に集められた四人のヴィラン。

そのうち声を荒らげているのは一人だけで

残る三人は誰一人として口を開こうとしない。


「俺達はまだやれる! 次こそ――」


「や、やめとけ……これ以上は」


小柄で小太りな男が低い声で制した。くたびれたジャケットに身を包み、僅かに猫背になったその姿からは先程から落ち着かない様子が滲んでいる。

だが、男の怒りは収まらない。


「うるせぇ! 黙ってられるか! 

 そもそも俺達の処遇を

 なんでこんな女一人に!」


「あら……」


それまで黙っていた女が艶のある唇を

ゆっくりと開いた。


「言いたいことはそれだけ?」


女は腰元まで波打つダークワインレッドの長い髪を揺らし、男へゆっくりと歩み寄る。 深い琥珀色の切れ長な瞳には怒りなど微塵もなく、目元の泣きぼくろと薄く浮かべた微笑みが成熟した顔立ちに妖艶な色香を漂わせていた。

黒を基調に深いワインレッドをあしらった衣装が長身で豊かな曲線を描く身体を艶やかに包んでいる。


「舐めてんじゃねぇぞ!! 俺はまだ――」


女が細い指先を男へ向ける。


「《甘美なる苦痛《エクスタシア》》」


指先に灯った小さな黒炎がゆらりと宙を漂い、

男の胸元へ触れた。


「……黒い炎……?」


微かに燃える黒炎を男は

手で払い落とそうとする。


「熱っ……! な、なんだよこれ……!」


「……ふふっ」


何度払っても消えない炎を前に焦り始める

男を女は愉しげに眺めていた。


「消えねぇ……! 

 お、おい……消えねぇぞ!」


「そう……もっと……」


黒炎は少しずつ男の身体へ広がっていく。

男の声に恐怖が混じるほど、女の瞳は甘く細まり、艶のある唇から漏れる吐息にも熱が帯びていった。


「や、やめろ……! やめてくれ……!」


女の頬が僅かに紅潮する。


「し、死にたくない……!」


その懇願に女の平静が少しずつ崩れていく。

抑えきれない悦びが妖艶な顔を染め、

呼吸も次第に深くなっていった。


「た、助けて……!」


「あぁ……! いい……!」


熱を帯びた吐息を漏らしていた女の唇から

ふっと笑みが消えた。


「……もういいわ」


次の瞬間、黒炎が激しく燃え上がった。

男の姿は黒炎の中へ沈み、やがて跡形もなく消えていく。


その最期を冷めた瞳で見届ける女――


《葬炎の女帝》ラミエラ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。