第12話 光の届く場所へ
♢
「確保した!」
逃走していたヴィランが駆けつけたヒーロー
に取り押さえられる。
「クソッ……離しやがれ!」
騒ぎが収まり始めた頃、
ジャスティスはいつもの公園へ降り立った。
真っ先に目を向けたのは天城が
よく座っているベンチ。
だが、今日もそこに姿はない。
「……いねぇな」
天城に伝えたいことがあり、
朝から何度かここへ来ていた。
「仕方ねぇ。また後で来るか」
踵を返した瞬間、
意識の端に微かな“何か”が触れた。
「……ん?」
見えたものでも聞こえた音でもない。
公園からそう離れていない場所から
微かなエネルギーを感じる。
初めての感覚だった。
それでも誰のものかだけは何故か分かった。
「…………天城?」
次の瞬間には地面を蹴り、
反応を感じた方向へ飛び出していた。
その途中、向かいから歩いてきた結衣のすぐ側
をジャスティスが凄まじい勢いで通り過ぎる。
「えっ……?」
結衣が振り返った時には既に声の届かない
場所まで遠ざかっていた。
「……何かあったのかな」
歩き出しかけた結衣は昨日ジャスティスから
聞いた名前を思い出す。
「……もしかして、天城さん?」
結衣は人目のない場所へ駆け込み、
H-LINKへ手を伸ばした。
♢
反応を辿って地下通路へ着いたジャスティスは
閉ざされた入口の前で状況を聞いた。
「中に十人以上いる!
揺れのせいで扉も開かないんだ!」
壊すだけなら簡単だ。
だが、向こう側にいる人達まで巻き込んでは
意味がない。
他に手はないかと考えた時、
バスティオンとの戦いが頭を過った。
暴走するコア・ブーストだけを消し去り、
バスティオン自身は傷付けなかった力。
「……《蒼光》なら」
自分の意思で引き出せるかは分からない。
それでも今はこの力に賭けるしかない。
閉ざされた地下の先には天城がいる。
そして天城だけではない。
助けを待つ全員を誰一人傷付けずに
ここから出す。
「絶対に助ける……!」
その想いに応えるように青白い光が
ジャスティスの身体から溢れ始めた。
「……!」
確かな感覚に拳を握る。
「――《蒼光》!!」
光が全身を包んだ瞬間、
地下からの反応が一気に鮮明になった。
一人、また一人とその位置を捉えていく。
「天城……!」
閉じ込められた十数人全員の位置を把握すると
《蒼光》が地中を走り、それぞれの身体を
包み込んだ。
「な、何だ!?」
「身体が光って……!」
全員を守ったことを確かめ、
ジャスティスは上空へ飛び上がる。
「全員まとめて助けてやる!!」
全身を纏う《蒼光》が幾筋にも分かれ、
地下通路を囲むように地面へ突き刺さった。
ズドドドドドッ!!
光は閉じ込められた人々を避けながら
地下深くまで走り、通路を囲む地盤だけを
切り離していく。
「うおおおおおおっ!!」
ジャスティスが片腕を振り上げる。
地下通路の上を覆っていた巨大な地盤が
丸ごと持ち上がり、空高く浮かび上がった。
「空だ……!」
「外が見えるぞ!!」
開け放たれた地下通路へ陽の光が差し込む。
崩れ落ちる破片は人々を包む《蒼光》が
触れた端から弾き飛ばしていった。
ジャスティスは持ち上げた地盤を誰もいない
場所へ移し、地下通路へ腕を伸ばす。
「今度はお前らだ!」
人々を包んでいた光が輝きを増し、
十数人の身体を地上へ持ち上げていく。
「う、浮いてる!?」
「ジャスティスだ!」
「ジャスティスが助けに来たぞ!!」
何が起きているのか優には見えない。
それでも突然差し込んだ陽射しの温かさと
人々の歓声、自分の身体が浮かび上がる感覚だけ
で分かった。
ジャスティスがまた途方もない助け方をしている。
「……本当に君らしいなぁ」
最後の一人が地上へ降り立つと人々を
守っていた光が幾筋もの弧を描き、
ジャスティスの元へ戻っていった。
「ジャスティス、すげぇぞ!」
「助かった!」
声援を聞くうちに優は少しだけ胸を張る。
「僕の友達、凄いでしょう?」
近くにいた男がすぐに突っ込んだ。
「何でお前が自慢すんだよ!」
その返しがおかしくて優は声を上げて笑った。
♢
「天城! 無事だったか!!」
「おかげさまで――って、
何してるの?」
無事を確かめるなり、
ジャスティスは優を抱え上げた。
「よし! 公園に戻るぞ!!」
「待って、待って」
「急ぐぞ! 話したいことがあるんだ!」
「それ、公園じゃないと話せないの?」
「…………」
今にも飛び立とうとしていた
ジャスティスが止まる。
「……話せるな!」
「うん」
ジャスティスは腕の中の優へ視線を落とした。
「……じゃあ俺、何でお前を抱えてんだ?」
「僕が一番聞きたいよ」
ジャスティスは優をそっと地面へ降ろした。
「それで話って?」
「ああ」
先程までの勢いが少しだけ鳴りを潜める。
「俺、友達なら何でも話すもんだと思ってた」
優は黙って続きを待った。
「だから、お前が何を隠してるのか
気になってた。
今だって聞きたいことは山程ある」
「……うん」
「でも色々考えて分かったんだ。
お前が今は話したくないならそれでいい」
ジャスティスは迷いなく言い切った。
「話したくなった時に聞かせてくれ。
それまで俺は待つ!」
「……それはいつまで?」
「お前が話したくなるまでだ!」
「僕がずっと話さなかったら?」
「ずっと待つ!」
あまりにも迷いのない答えだった。
「……本当に?」
「当たり前だろ。
俺とお前は友達なんだからな!」
「…………」
優もあれから考え続けていた。
自分が知っている過去を話すこととジャスティスが自分の意思で過去を知ることは同じではない。
だから彼が自ら過去へ辿り着くまで待つと決めた。
そして今、ジャスティスも優が話せるように
なるまで待つと言ってくれた。
二人が選んだ答えはきっと同じだった。
「……ありがとう、ジャスティス」
「おう!」
優は僅かに表情を緩める。
「それにしても……今日は驚いたよ」
「何がだ?」
少し離れた場所から助け出された人々が
ジャスティスの名前を呼んでいる。
目の見えない優にとってジャスティスが
ヒーローとして受け入れられていく姿を知る
機会は多くない。
けれど今日はその声だけで十分だった。
『僕の光だった君は
もう皆の光になりつつあるんだね』
「ふふっ」
「何笑ってんだよ、天城?」
「“資質”――やっぱりあったじゃないか」
「またそれかよ!」
「そのうち分かるよ」
「前もそれ言ってただろ!」
二人の少し上空で様子を見ていた
不墜華は
ほっと息を吐いた。
優は白杖を通して、
上空にいる誰かの存在に気付く。
「……上にいるのは君のヒーロー仲間かな?」
「ん?」
ジャスティスが顔を上げた。
「あっ、グレイスフォール!」
すぐに優へ向き直り、嬉しそうに胸を張る。
「そうだ!
俺、もう二人目の友達が出来たんだぜ!」
「ふふっ、そうなんだ」
「なっ……!」
話を聞いていたグレイスフォールが
慌てて二人の元へ降りてきた。
「い、いつから私と友達になったのよ……!」
「えっ、違うのか?」
「そ、それは……!」
着地するなり始まった二人の言い合いに
優は口を挟まなかった。
会いたかった友達の声が今はすぐ側にある。
楽しそうな二人の声に耳を傾けながら
優は穏やかに笑っていた。
第13話は新ヒーロー登場予定です。




