第11話 暗闇の向こうへ
僕が彼に二度目の「はじめまして」をしてから
――気付けば随分と時間が経った。
あれから僕も過去と向き合い、
ようやく一つの答えを選んだ。
それが正しいのかは今も分からない。
だけど――
「……ジャスティスに会いたいな」
今はただ彼に会いたかった。
♢
「しつこいんだよ!!」
追跡を振り切ろうとヴィランが
地面へ片手を叩きつける。
凄まじい衝撃が地中を走り、
周囲の建物や道路を激しく揺らした。
ヴィランはその隙に逃走するが、衝撃は
地下深くまで伝わり、張り巡らされた
設備を次々と揺さぶっていく。
やがてその余波は一つの地下通路へと及んだ。
♢
「駄目だ! こっちも開かない!」
「非常灯まで消えてるぞ……!」
普段から何度も通っている地下通路に
切迫した声が飛び交っていた。
先程の揺れで緊急用の防護扉が閉まり、
停電の影響なのか開閉装置も反応しない。
両端を塞がれ、僕を含めた十数人が
完全な暗闇に閉じ込められていた。
「押すなって! 危ないだろ!」
「押してませんよ!
こっちだって何も見えないんです!」
「言い争ってる場合じゃないだろ!」
暗闇は僕にとっていつものことだ。
だからといって、
何が起きたのかも分からないまま地下に
閉じ込められる怖さまで消えるわけじゃない。
白杖の《転移》を使えば、
僕だけなら今すぐ外へ出られる。
救助を呼びに行くべきだろうか。
迷っているとふとジャスティスが
頭に浮かんだ。
彼ならどうするだろう。
いや、考えるまでもないか。
『君なら絶対に残るよね 』
きっと扉を壊してでも
ここにいる全員を助けようとする。
そう考えると思わず笑みがこぼれた。
『……まったく。君と友達になってから
こういう時に一人で逃げづらくなったよ』
僕には君のようにこの状況を力ずくで
変えることは出来ない。
それでも君なら必ず僕達を見つけてくれると
いう確信だけは揺らがなかった。
だったら君が来るまで僕なりに
この人達の力になろう。
――まずは僕に出来ることをする。
「いつまでここにいりゃいいんだよ……」
ざわめきの中から苛立ちを
隠せない男の声が聞こえた。
「救助が来るまでもう少し待ちましょう」
「簡単に言うなよ!
こんな所に閉じ込められて、
何も見えねぇんだぞ!」
「……分かります」
「何が分かるんだよ」
「僕、目が見えないんです」
「……え?」
男が言葉を失い、周囲も僅かに静まった。
「暗いことには慣れてますけど、
こんな場所に閉じ込められるのは
僕も初めてです。だから普通に怖いですよ」
「…………」
「でも、こういう時は誰かの声が聞こえるだけ
でも安心するんです。
近くに人がいるって分かりますから」
暫くして男が小さく息を吐いた。
「……そういうもんか」
「はい」
「…………」
「…………」
「……何か喋るんじゃなかったのか?」
「僕からですか?」
「お前がそういう雰囲気にしたんだろ!?」
「いや…そちらから何か話してくれるものかと」
「無茶振りにも程があるだろ……」
「すみません。
じゃあ……好きな食べ物とか?」
「この状況で!?」
「嫌いな食べ物の方が
案外盛り上がりますかね?」
「食べ物から離れろよ!」
近くで誰かが吹き出し、
それにつられて笑い声が広がった。
その時、足元を低い振動が走る。
「……え?」
次の瞬間、先程より大きな揺れが通路を襲い、
笑い声が悲鳴へ変わった。
「またかよ!」
「ここ、本当に大丈夫なのか!?」
どこかで何かが崩れる音まで聞こえてくる。
このまま待っているだけでは危ない。
何か手はないかと考え、一つの可能性に
辿り着いた。
この白杖には周囲の能力者を探知する機能が
あり、探索時には微弱なエネルギーを放つ。
探索範囲を限界まで広げれば、
そのエネルギーも普段より遠くまで届くはずだ。
ジャスティスの力が目覚め始めている今なら
感知能力も戻りつつあるかもしれない。
僅かでも戻っていれば、
僕の居場所に気付いてくれる。
「ジャスティス……」
白杖の探索範囲を限界まで広げる。
君ならきっとこの微かな力を見つけてくれる。
「……届け……!!」
引き続き第12話も上げます。




