11・近衛騎士団長と王宮魔導士長
てっきり私は何処かの部屋へ案内されるのかと思っていた。
「よく来たな、勇者を名乗る不届き者よ」
「然り、このような者を勇者などと、全く困ったものじゃ」
あれあれ、これは明らかに歓迎されてませんね。
私が今いる場所はどう見てもゆっくりゆったり過ごすことのできる部屋には見えない……と、言うよりここ屋外だよ?
広く開けた空間には色々な身体を鍛える器具が並べられ、中央には四角く囲まれた簡易闘技場らしきものまである。まるで訓練場みたいな所だ……いや、ここ訓練場でしょ?
説明を求めようと侍女さんを探したが、既にここには居なかった。OH……。
私の目の前には聖騎士キースより立派な鎧を装備した偉そうな大男と、賢者クリスより派手で豪華なローブを纏った細身の男が私を見下していた。
訓練場には同じ型の鎧を装備した騎士達がざっと百人以上はいて、等間隔に整列していた。そして訓練場の全体を取り囲むようにローブ姿の魔法使いが五十人程いて、まるでここから逃がさないようにしているように見える。
「儂の名はザナーク。誇り高きサイデルアス王国の近衛騎士団長である!」
「私はメイナード。王宮魔導士達を纏めておる王宮魔導士長じゃ」
聞いてもいないのに勝手に名乗り出した二人。
ふむふむ、近衛騎士団長に王宮魔導士長っと……ちょっと、待てぇええええ!
何で国のお偉いさんが私の目の前にいるわけ? 道理で偉そうな態度だよ、だって実際偉いんだもん!
「これは失礼しました! 私は……」
「嘘の名など名乗る必要はない! ましてや勇者の名などはな、恥を知れ恥を」
「その通りじゃ、勇者エーコは前魔王を討伐した際に亡くなったのだ! 全くやっと最近になって偽物が出なくなったと思ったら、またこれじゃ」
成程、自称勇者を名乗る奴らがいたわけね。私は勇者だと立候補したわけじゃないんだけどね。ここは誤解を解く必要があるな。
「あの、誤解をしているようなのでお話しておきますが、私は勇者ではありません。何故なら私は魔法を一切使えませんから、勇者なら魔法を使えるはずですよね?」
私がそう言うと二人は顔を見合わせ大笑いしだした。
はて、笑う要素が何処にあったのだろうか?
「なんじゃ、本人が一番わかっておるではないか、王女殿下と勇者シオンの早とちりというわけか」
「確かに黒髪に黒い瞳で、我らが知るあの勇者に特徴はよく似ておるがな。しかしいかんせんお前には、あの禍々しい雰囲気が無いわ」
お偉い方二人が納得してくれたようで何よりだ。
しかし勇者エーコの顔を覚えてないとか、この二人はエカテリーナ王女が言ったエーコが嫌って、そして嫌われていた人達の筆頭なんだろうね。
さて誤解も解けたことだし、私はそろそろお暇させていただこう……。
「待て、何処へ行くつもりだ?」
「ええっと、私が勇者ではないことがわかってくれたようなので、部屋に戻ろうかと思いまして……」
部屋といっても何処の部屋へ戻ればいいのかは、私を案内してくれた王女の侍女がいないのでわからないが、一先ずここから逃げ出したいのだ。
「ふん、せっかくここに来たのだ。訓練に参加するがいい。聞けばマウントドラゴンを倒したとか。それが本当ならその力を披露してもらおうかと思ってな。クックックッ」
「勇者シオンがそう嘯いていたそうじゃな。恨むなら勇者シオンを恨むがいい」
えええっ、何を言っちゃってるのよシオンは。何、今の私のピンチはシオンのせいってこと?
「何、訓練と言っておろう、そんなに怯える必要はないぞ」
「一対一で我が近衛騎士団達と戦っていくだけだ。無論勝ち抜きの連戦でな、勇者シオンが言ってた通りなら造作もなかろう?」
あわわわわわっ、無理無理無理ぃ! 私を殺す気? 近衛騎士団長はいい顔でニヤリと笑う。
あれは完全に私を虐めて喜んでいる顔だよ! 私が勝てっこないってわかってて楽しんでいるんだ。
「剣士同士の模擬戦は我々王宮魔導士達にも勉強になるしの、私らのことは気にせず戦いを披露してくれればよい。ああ、決して我々はお前が逃げ出さないように見張っているわけではないぞ」
これまたいい顔でにんまりと笑う王宮魔導士長。それって逃がさないよって言ってるよね! いい年したおじさん達がいじめっ子のような真似して楽しいの? 楽しいんだね、くそぅ。
「ううう、なんでこんなことになるのよぉ?」
情けない顔で愚痴る私に木剣が手渡さられそれを受け取る。
「最初の相手は俺だ。だが残念ながら最後の相手でもある。何故なら俺一人で十分だからな、偽勇者のお嬢さん」
訓練場の中央にある一段盛り上げった闘技場に上がった騎士が剣を私に向けそう叫ぶ。一応は真剣ではなく木剣ではあるが、当たればただですむはずはない。
私も木剣を持ち闘技場の中へ背を押され足を踏み入れた。ああもう、こういう背中の押され方は嫌だなぁ。
「お手柔らかにお願……」
「ハァアアアアアア!」
私の挨拶を待つことなく剣を振りかざし突撃してくる騎士。おーい、騎士は礼儀を重んじるとかじゃないの?
正直、ビビりながらも対応ができたのは、騎士の動きがかなり緩慢だったからだ。
え、手加減されてる? 相手である私が自分より弱そうな小柄な女だったからだろうか? その割には顔は真剣そのものだが……。
「グホッ!」
鎧の覆っていない継ぎ目に木剣を叩き込んだ。てっきり避けられるか防がれるかと思ってたら、もろに入っちゃったよ。
私の攻撃くらいでは大したダメージにならないかと思ったけど、騎士はその場に崩れるように倒れそのまま動かなくなった。
え、当たりどころが悪かった? いやいや、木剣が食い込んだ場所はそんなに重要な部位ではなかったよ?
よく見るとピクピク痙攣をしながら白目をむき口をパクパクさせていた……一応は生きてるみたいだ、だけど大丈夫かなぁ。
はぁ全く油断しすぎだよ。でもそのおかげで助かったんだけど。私と騎士の模擬戦を見学していた他の騎士達が大笑いしていた。
「情けねぇぞ」
「近衛騎士の恥だぜ」
目を覚まさない騎士を引きずって闘技場の外へ運びながら倒れた騎士を馬鹿にしていた。まぁそうなるよね。
「次は俺だ。俺様は女だからって遠慮はしないからな、覚悟しな」
えええっ、なんで君達は素人の女相手にそんな態度をとるのよ? 騎士道はどうしたのよ!
「ゲハッ!」
さっきの騎士と全く同じ結果となり、同じように闘技場の外に運ばれる騎士。そしてそれを見てまた大笑いする他の騎士達。
更に三人目の騎士が闘技場に上がり襲い掛かってくると、それをまた倒す私……この騎士達なんで油断して同じことを繰り返すの? 前の人の試合を見てなかったの?
流石にこれを五回も繰り返すと、一撃で騎士が倒れても誰も笑うものがいなくなった。やっと本気になったらしい。でも真面目にやられたら私が困るんですけど。
「王宮魔導士の回復魔法ではダメージが大きく目を覚ましません。王宮神官達を呼んでまいりますか?」
「馬鹿者! そんなことをしたら枢機卿に弱みを握られるだろうが!」
「然り、倒された者は放っておけ、そのうち目を覚ますじゃろう」
仲間が倒され王宮魔導士の回復魔法では目を覚まさないのを見て、神官を呼ぼうとした騎士が近衛騎士団長と王宮魔導士長に怒られていた。どうやら派閥があって借りを作るのが嫌らしい。
魔法使いも精霊系の魔法で回復を行えるが、神官、僧侶の回復魔法には遠く及ばない。魔導士、魔法使いは基本的に攻撃職だしね。
しかしどうにもおかしい。騎士たちは真剣に私を倒そうと襲ってくるように見えるのに何故か凄く弱いよ、何故なんだろう?
騎士達が弱い……その原因がわかってしまった!
倒した騎士の中で「貴族が平民などに!」と叫んでいた騎士がいたのだ。つまりだ、この騎士達は身分が高いだけで騎士になった人達ではないかと思うのだ。
そう考えれば仮冒険者で、しかも少し前までただの町娘だった私にボコボコに倒されまくられるはずがない。
しかし弱すぎる。えばってるだけでちゃんと訓練しないからだよ。近衛騎士って王様を守る騎士なんでしょ、しっかりしなさいよ。
「ば、化け物め……」
「あ、あり得ん……」
近衛騎士団長と王宮魔導士長が呆然とした顔でこちらを見ていた。しかし化け物って失礼だなぁ。
あ、あれ? 気が付けば立ってる騎士が一人もいないよ、どうやら全員倒してしまったようだ。
「精鋭の近衛騎士百五十人だぞ、一体どういう事だ!」
精鋭? それって言い過ぎだと思うな。真剣に訓練してる人に失礼だよ。
「王宮魔導士隊。この小娘を捉えよ生死は問わん!」
ちょ、何言っちゃってるの王宮魔導士長は、これって訓練じゃなかったの? それに王宮魔導士は手を出さないんじゃなかったっけ?
次の瞬間火の玉や氷の槍、雷を纏った光る矢が雨あられと私に降り注いできた。あれらに当たればとても痛そうなので全力で避ける。
逃げるだけじゃ埒が明かないので魔法を避けながら王宮魔導士達に近付き木剣で倒していく。
やっぱりだ、この王宮魔導士達も騎士同様に強くない。
あっという間に全員倒して、私は身の安全を確保する。
「エ、エリートの王宮魔導士隊五十人が全滅じゃとぉ! あり得ん、あり得んぞぉおおおおお!」
知らないよ。何度も言うけどちゃんと訓練してないのが悪いんでしょ? 私のせいじゃないからね。
この人達、多分貴族の身内の人達ばかりだとは思うけど、私にはエカテリーナ王女の後ろ盾があるから大丈夫だよね?
あっ、私が勇者エーコじゃなかったら庇ってくれないかもしれない……ど、どうしよう。ま、まぁなんとかなるだろう。
さて、この訓練場で立っているのは私と近衛騎士団長と王宮魔導士長の三人だけだ。
「じゃ、私はこれで……」
流石にもう私に用はないだろう。訓練場から出ようとした私の前に大男が立ちはだかる。勿論近衛騎士団長だ。まだ何かあるのかな?
「ここまでコケにされてただで帰れると思うな、小娘!」
凄い形相で私を睨み腰に差してある剣を引き抜いた。ちょっと待って、それ真剣じゃん、反則じゃないの?!
「チェストォオオオオオオオオ!」
剣を両手で握り締め、上段から私に向けて振り下ろす。
だが近衛騎士団長も他の騎士達同様に訓練をサボっているのか、気合の割に全然剣速が乗っていない。
余裕をもって避けるとがら空きになった頭部に一撃をお見舞いしてあげた。鎧は着てるけど兜はしてなかったのでかなり手加減してあげる。木剣だけど、そうしないと死んじゃうからね。
「あ、がぁ……」
近衛騎士団長の巨体がゆっくりと後ろに倒れる。やれやれ今度こそ帰れる……ええええっ?!
振り向くと王宮魔導士長が呪文を唱えていた。
さっきの王宮魔導士達の魔法より明らかに強力な魔法だと思う。痛い思いをするのは当然嫌なので、詠唱が終わる前に倒すしかないよ。
「ファイアーストー……グホォア!」
うおっ、危なかった。もう少しで呪文が完成する所だったよ。
しかし、最後のトリガーとなる呪文名だけどファイアーストームとか言いかけてなかった? いやいや駄目でしょ、そんな広範囲魔法使っちゃ。倒れてる近衛騎士達や王宮魔導士達が居るのにさ。
何はともあれ、これで私を止める者はいなくなった訳だ。今のうちに……。
「キャアア! な、何これは、何が起こったの……」
訓練場の出入り口で私をここまで連れてきた王女の侍女が悲鳴を上げていた。ふむ、一見死屍累々の惨状に見える訓練場を見たら悲鳴も上がるか。
「あの、今度こそ部屋に案内してほしいんだけど」
「ひ、ひぃいいいい!」
私が一人木剣を持って立っていたら私が犯人だと思うか。いや客観的に見て私のような小柄な女が騎士や魔導士を倒すとは考えられないか、では何故?
「ま、まさか……ほ、本物の勇者様」
「へ?」
あー、そう解釈しちゃうか。
私がどう言い訳をするか考えていたら、おどおどした様子で「お部屋に案内いたします」と申し出てくれた。
「ですから、酷いことは勘弁してください……私は命令されて仕方なく……」
もう今にも泣きそうな顔でそう言うので「それじゃ仕方なかったよね」と言ってあげた。ただまたこんなことがあったら困るので、一応注意しておくか。
「今後こんなことがないようにね、もし破ったら……」
「ひぃ! すいませんすいませんすいません、もう二度とこのようなことはぁああああ」
立ち止まり泣き崩れてしまった。
えええ~「もし破ったらエカテリーナ王女に注意してもらうからね」と言おうとしだけなのにな、私がどんな酷いことをすると想像したのだろう? 全くもって心外である。
やっと落ち着いた侍女に部屋まで案内させ、ようやく一息することができた。
しかし豪華な部屋である、高価なソファーに腰掛けながら広い部屋を見渡す。
飾られた装飾品の数々は一体幾らくらいするものなのだろう? 絶対に触ったりなしないぞ、絶対にだ。
そうこう、どうでもいい事を考えているとドアがノックされた。出てみると満面の笑顔をしたシオンがそこに立っていた。
「エリーさんやっと会議が終わりましたよ、あれエリーさん疲れてませんか?」
「いえいえ、シオン様こそお疲れ様です」
シオンに言われるまでもなく疲れているよ、精神的にだけど。
「何だか城内が騒がしいみたいだけど、何かあったのかな?」
「さぁ?」
もしかしなくてもさっきの訓練場のことだろうか?
下手に何か文句を言って何かされるのも嫌なので知らないふりをしておこう。あっちだって見栄もあるだろうし、黙ってれば何もしてこないかもしれないし。
それにシオン自身も原因を知らないようだしね。
その後暫くシオンと会話をして彼は自室へ戻って行った。
途中何度も理由を付けて私の部屋に入ろうとしてたみたいだけどそうはいかないよ。こんな夜更けに女性の部屋に入っていくなんて、もしアンジェラちゃんに知られたらふられちゃうかもしれないよ。
英雄色を好むって言うけど、私みたいな平凡な娘のせいであの可愛いアンジェラちゃんに嫌われたらかわいそうだしね。
シオンは「また明日迎えに来ますので」と言い残して名残惜しそうに去って行ったのだけど、彼は他の女の人にも同じようなことしてるのかな?
まぁ勇者なんだから好き勝手できそうだしねぇ。本人の同意がなければ手を出さないのは権力者にしては偉い方なのかなとは思うけど。




