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12・魔王城

 先日泊まった高級宿の寝床より遥かに柔らかく温かなベッドで幸せな安眠の時を過ごす。だがそんな幸福な時間は突如そして破られることとなった。


「さっさと起きんか馬鹿者!」

「ひゃい!」


 私はその大声に飛び起きる。

 驚いたのと寝ぼけていたので変な返事になってしまった。

 寝ぼけ眼で声の主を見ると、いかにも体育会系の大男が腕を組んで仁王立ちしていた。 

 大男の後ろには開け放たれたドアが……。

 あれれ、確か鍵を掛けて寝たはずだけど、何で部屋に入ってこれたのかな? 合鍵で開けられた? いやいやここ王城だよ、そんな不用心なことがあるはずないじゃん。


「いつまで寝ぼけているつもりだ、さっさと身支度を整えろ。三分以内だ、急げ!」

「は、はいいいいっ」


 状況を整理する前に大声で怒鳴られて、言われた通りに身支度を整える私。

 たまたまこの部屋に泊まっていただけなので、持っていくものはほぼない。革鎧に着替えマジックバックを忘れずに持っていくだけだ。

 ちなみに着替えてる間、大男にずっと監視されていた。女子の着替え中をだよ? そもそも女の一人部屋に鍵を開けて入ってくる神経もわからない。 

 私が準備を完了させて大男の前に行くと、彼は表情一つ変えずに回れ右で後ろを向いた。


「よし、ではついて来い」

「は、はい」


 とても何処へとは聞けない空気なので、黙って後ろをついて行った。

 もしかしてシオンが明日迎えに来ますって言ったの、シオン本人が迎えにってことじゃなかったのかな。だとしてもこんな無神経で怖そうな人を迎えに寄こさなくてもいいと思うんだ。ねぇ、そう思うでしょ?


 <>


 気が付けば馬車に揺られて数時間、シオンやアンジェラちゃん、エカテリーナ王女達からの連絡どころか伝言さえない。

 むむむ、これは何か嫌な予感がするよ。

 シオンやアンジェラちゃんが私にこんな仕打ちをすることはないだろう。私は絶対、別の件に巻き込まれているに違いない。


 馬車に乗っているのは私だけではない。私の他にも狭い馬車には人が押し込まれるようにすし詰めにされていた。はっきり言って気持ちのいいものではないし、身体を動かせないでの体調が悪くなりそうだ。

 そしてこのような馬車はこの一台だけではなかった。

 王都を出た時は十数台だった馬車は途中で何十台も合流して、今や百台近い台数の規模の集団になっている。

 馬車だけかと思ったら今度は歩行者の団体さんも、どんどん合流していった。

 その歩行者の皆さんだが妙に悪そうな顔つきの人が多い。まさかとは思うが凶悪犯の方々ではないよね? 馬車は歩行者に合わせ結構速度を落としていたので、ペースがかなり落ちたが仕方ないだろう。

 それにしてもこんな大人数で一体何処へ行くつもりなんだろう?


「嬢ちゃん、何をやらかしてここにいるんだい?」

「はい?」


 私の向かいに座っていた、笑ってはいるが明らかに怪しい風貌の中年男性に声をかけられた。

 う~む、やらかしたと言うならやっぱり近衛騎士団と王宮魔導士の件かなぁ。

 あの人達貴族の血筋だったし近衛騎士団長と王宮魔導士長はかなり立場のある人だったから、いくらエカテリーナ王女が私の後ろにいても、国を追放するのは容易い事だったのかもしれない。しかし王様と謁見しなくてよくなった代わりがこれか……絶対に割に合わないよね。


「ここの馬車に乗せられている奴らはな、しくじって捕まった小悪党か、疎まれたり騙されたりして連れて来られた奴ばっかりなのさ。嬢ちゃんは後者っぽいな」

「あはは、そうみたいですね……はぁ」


 悪いことはしていない。

 王城での出来事、あれは訓練だったし、当の近衛騎士団長と王宮魔導士長がそう明言してたしね。

 ただあの人達の場合、王国での立場を使えば容易に白を黒にすることが可能だろう。今の私の場合のように。


「あの、あの人たちもそうなんですか?」


 私は馬車に乗せてもらえない、見た目が怖い歩行者達を指差した。


「あ~、ありゃ犯罪奴隷の奴らだな。あいつらにゃ感謝しねぇといけないぜ。何しろ俺らの壁になってくれる奴らだからな」

「か、壁ですか?」


 壁って……人壁?

 それって……。


「おいそこ、無駄口をたたくな!」

「はひぃ!」

「へいへい」


 私達を見張ってた鎧を着た男性に大声で注意された。

 驚いて返事が噛んじゃったじゃないか。そんな私を見ても馬車の中の人達は笑う人もいない。みんな俯いていたり、無表情でただ前を見ている人ばかりだ。

 喋る元気があるのは私と私に声をかけてきた怪しいおじさんだけだった。もう何なのよ、誰かこの状況を説明してよ!


 何度目かの野営地で私を王城から連れ出した大男が木組みの高台に立ち、私達に向かって大声を張り上げた。


「傾注! 勇者支援部隊所属、強行偵察隊隊長のゴルドマンである。貴様らはこれから私と共に魔王城に向ってもらう。尚、拒否権はない。抵抗しても構わないがお勧めはしない、

首に着いた首輪が締まってもいいのなら構わないがな!」


 えっと、ツッコミ所が満載なんですけど?

 え、何? 魔王城って? 魔王を倒すのは勇者の仕事でしょ? 今の私は有象無象の中の一人で勇者として祭り上げられているわけでもない。

 あと首輪。これって完全に奴隷とかが付けられる拘束具じゃないの! この首輪は馬車に乗る前に強引に付けられたものだ。

 ただ私の場合、肌触りが悪くて凄く気持ち悪かったので、すぐに力ずくで外しちゃったんだよね。

 うん、そう、外れたの。確かに硬くて丈夫な首輪で、外そうとすると締まるような気がしたんだけど、構わず思いっきり首輪を引っ張ったらバキンって音がして外れたんだ。

 もしかして不良品だった? だったらラッキーだね。いやこんな状況をラッキーと言うのはおかしいか。

 なにはともあれ慌てて首輪を付け直す、ただ壊れているので首輪はただ首にかかっているだけだ。見た目に首輪がはまっているように見えればいいよね。

 ちなみに馬車にも乗れず犯罪奴隷の人達も同じような首輪を付けていた。しかも私達馬車組が付けているような首輪より太くて更に頑丈そうな首輪だ。首がうまく回らないので不便そうだ。


 その後の隊長の話と、私と同じ立場の強制されたなんちゃって兵士の人達からも話も聞き纏めてみた。

 まず大元の部隊である勇者支援部隊とは、勇者が向う地域に同行し勇者パーティをその名の通り支援する部隊の事だそうだ。

 成程、いくら勇者パーティでもいきなり敵陣に攻め入ったりはしないよね。

 ちなみに以前、勇者達が山の主を討伐に行った時は、勇者支援部隊が山の主と一緒にいたワイバーンを引き付けていたらしい。

 ワイバーンと言えば私が倒した空飛ぶトカゲを思い出すが、あれってやっぱりワイバーンじゃないよね? 私はいまだにあれは間違いじゃないかって思ってるのだが……もう今更か。

 私が今いる強行偵察隊は勇者支援部隊に所属している一隊だが、この隊は勇者パーティと行動を共にしない、独立した隊なのだそうだ。

 強行偵察隊の役目は、勇者達が向う予定の地域や場所に予め赴き調査偵察を行うことなのだが、実際には現地の魔族の兵士及び魔物等の間引きも行う戦闘隊も兼任している。

 そうなのだ、名前に偵察隊とついているのにこの隊はバリバリに戦っちゃうのだ。隊の名称に偽り有りだよ! 

更にこの強行偵察隊だが、タチが悪いことに犯罪者等を臨時兵士として抱え本隊の盾にしている点だ。

 つまり私達がそう。でもまぁ馬車組はまだいい。

 歩行者……徒歩で従軍している犯罪奴隷の臨時兵士は私達馬車組の更に前、最先端で戦わないといけない。ほぼ死ねっと言ってるようなものじゃん! 

 でも一応、恩賞もある。生き残れば犯罪奴隷から解放され一般市民に戻れるのだ。確率は著しく低いけどね……。

 対して私達馬車組は生き残る事ができれば犯した罪は免除、働きによっては賞金も貰えるとか。

 あ、あれ? 私、何か罪を犯したの? 

 まぁ冤罪の心当たりはあるけどね。やっぱりあの時、近衛騎士団や王宮魔導士に黙ってやられたらよかったのかな……いや、それは無いな、うん無い。

 だって私は何も悪くないもの。


 <>


 意外だ。

 何がって? 魔王城ですよ。

 だって何の抵抗もなく魔王城まで来れたんですよ、おかしいでしょ?

 これって絶対罠のパターンだ、間違いない。


 確かに前魔王が勇者エーコに倒され、今の魔王を名乗っているのが前魔王の配下の一人で、幹部では唯一の生き残りだった奴だったと聞いている。確か以前シオンがそんなことを言っていたはずだ。

 勇者エーコにほぼ壊滅された魔王軍の立て直しが成ってないまま、そいつが魔王を名乗ったために勇者を向える体制もできていなかったのかな? もしそうなら馬鹿だよねそいつは、人間側にも多大な損害が出ていたんだから、もっと密かに事を起こせばいいのにね。

 でもまぁ、それなら魔王城に戦力を集中させるのもわかるし、対応もしやすいだろう。


 ちなみに魔族の住む魔族領は人の住む領地から見て魔王城の奥の地域にある。

 これは魔王城が手前にあるのではなくて、人間が魔族領に進行して魔王城までの地域を人族の領地にしたためにそうなっただけだ。無論それは前勇者であるエーコ達がやったことらしい。


 さて目の前にはそびえ立つ魔王の城。

 いくら魔王城手前までこれると言っても勇者パーティがいきなり攻め入ることはない。

 そこで我ら強行偵察隊の出番という訳である。

 まずは慎重に偵察を行う。そして敵が出てきた場合、捨てても惜しくない戦力で小競り合いを交えて様子を見るってとこかな。


 そして隊長のゴルドマンが剣を片手に号令を掛ける。


「突撃ぃいいいい!」


 何ぃいいいい?!

 おいおい、偵察もなしにいきなりですか!

 隊の名の頭に強行と付くけど一応は偵察隊なんでしょ? 意味わかんないよ!

 強行偵察隊本体の人は百人そこそこくらいだが、私達臨時兵士を合わせると千人近い規模になる。

 ちょっとした大隊くらいの兵力とは言え、所詮は烏合の衆だ。首輪で逃げたり裏切ったりはできないようにはなってはいるけど……。


 隊長ゴルドマンは先頭に立って……ないよねやっぱり。

 隊列の奥で号令をかけていた。隊長ゴルドマンは元々大声ではあるけれど、魔法で音声を増大させてるようで、私の所まではかなりかなり距離が離れているのに、うるさいくらいに声が響いてくる。

 私の首輪は壊れているので何をしようと首が締まることはない。なので何とか隙を見つけて隊から逃げ出そうと画策していたが、周りに人が多すぎて人ごみに飲まれるように、もみくちゃにされ自由に動くことができない。

 全く呆れたことに隊列も何もあったものではない、こんな所を敵に襲われたら全滅しちゃうかもしれないな。幸いなことに城門までは敵もおらず杞憂に終わったが、でも逃げ出すタイミングを完全に失ってしまったよ。


 魔王城を守る城門はあっさりとこじ開けられ、城の中へ粗末な武器を手にした犯罪奴隷の臨時兵士達を先頭にしてなだれ込む。

 何年か前に勇者エーコ達がこの魔王城に攻め入った時は、恐らく無数の魔王軍の兵が待ち構えていて、激しい戦闘があったに違いない。今の魔王城はその時の傷跡が残ったままで寂れた感が否めない。


 魔王城の第一階層ではゴブリンとか犬型や鳥型等の魔物と何度か戦闘があった。これらの敵は配置された魔王軍の兵ではなく、ただ徘徊しているだけの敵のようだ。

 第一階層の奥には上に続く階段があった。私達を監視していた本隊所属の兵士が「通常なら階層主が居るはずなのだが……」と呟いていた。

 ふむ、そうなんだ。そうだよね。

 気が付くと最後尾にいたはずの隊長がいつの間にか私達に追いついていた。

 第二階層に上がる階段を見て何の躊躇もなく皆に登るように命令をする。いやもっと考えて慎重になった方がよくない? 仮にも敵の本拠地だよここは。

 あっ、私が怖がってると思った? 残念、何故か魔王城に入ってから妙に懐かしい感じがするんだよね……はっ! いや、気のせいだ、きっと気のせい!


 第二階層に上がり敵は多少強くなってきたものの、相変わらず配置された魔王軍の兵ではなく、ただ徘徊しているだけの敵ばかりで、大した消耗もなく第三層へ上がる階段にたどり着いた。

 そこにも階層の主はおらず「どうぞ第三階層へ」と手招きされているような気味悪さがあった。

 そんことも気にせず本隊の人達が、「もう少し手ごたえのある敵でもいいのにな」とか「弱すぎる魔王軍とはこんなものなのか」などと笑いながら会話をしていた。

 おいおい、それってフラグですよ? 頭大丈夫ですかあんた達……失礼、あまりにの馬鹿さ加減に思わず言葉が悪くなってしまったよ。

 しかも強行偵察隊の隊長ゴルドマンが彼等の話に乗っかり「我々で魔王を倒してしまうか」などと、どや顔で豪語してたのだから笑えない。

 そんな碌に戦闘もしない本隊とは裏腹に、私達首輪を付けられた臨時兵士は緊張を解いてはいない。そりゃそうでしょ、こっちは真っ先に敵に襲われる立場なんだから。


 第三階層に上がり奥へ奥へと進む。暫く経った後にそれは起こった。

 偵察に出ていた斥候が帰ってこない時点で引き返していれば、まだ何とかなったのかもしれない。

 第一階層や第二階層にあった宝箱にそこそこの品が入っていたために、それに目がくらみ進軍を続けていたみたいだ。しかも階層が上がると中身も豪華になるとか、明らかに罠でしょ? しかし自分達が偵察隊だと忘れてるよね、いや最初から自覚もないみたいだったな、この人達。

 ともかく階層の半分くらいに来た時だ、前方から鎧を纏った豚さん……もといオークの魔王軍兵の一団が襲い掛かってきた。

 間髪入れず隊の後方からも大声と金属音、それに爆発音が鳴り響いてきた。恐らく隊が通り過ぎるのを隠れて待ってて、隊の先端が戦闘を始めたのに合わせて攻撃を仕掛けたのだろう。

 完全に挟み撃ちされたな、地の利はあちらにあるからねぇ。何度も言うがここは敵の本拠地なんだからさ。

 左右の細い通路からもゴブリンやスケルトン等が奇襲を仕掛けてきた。こちらは前後左右から攻められ指揮系統も混乱している。

 私? 私は構わず敵をなぎ倒しながら前進して奥に向って進むよ。この先にたしかアノ部屋があった気がするんだよね。

 しかし少し前までただの町娘で現仮冒険者でしかない私が倒せる豚……じゃなくてオークくらいで本隊の兵士の人達まで何を手こずっているのかな? 

 この人達も王都の近衛騎士団や王宮魔導士達と同じく、権力を翳して訓練を碌にしてこなかった人達なのだろうか? 偵察隊なのに魔王城に攻め込もうとしている人達だし、何より私達のような臨時兵士を盾にするような人達だしねぇ。


 殺伐した混戦の中、私の進む通路にだけ道ができる。私の後ろについていこうと人が群がってきた。

 あ~、以前魔物に襲われた村から、村人達を連れて逃げた時を思い出すなぁ。ただあの時と違い後ろにいる人達は私と何の関係もない人達だけど。

 恐らくもう強行偵察隊は半壊してるだろうから、この邪魔な首輪を付けている必要もないな。

 私は壊れていた首輪を外し、すぐ目の前の魔王軍の兵士に投げつけた。


「ギャフッ!」


 丁度、女性を襲おうとしていたオークの魔王軍兵に私の投げた首輪が当たり、その衝撃でオーク兵はすっ飛ばされていった。思ったより弱いなぁ魔王軍の兵は。私に倒されるくらいじゃ駄目だろうに。


「た、助かったぜ、あんがとな……お、お、お前はぁあああああ!」

「あれ、受付嬢さん?」


 何でこんな所に? 魔王城ですよここは。

 首輪の太さから考えて私と同じように馬車で連れてこられたのだろう。馬車は沢山あったので気付かなかったよ。


「ミランダだ、ミランダ! お前のせいで私は……ぎゃああああああ!」


 スケルトンとゴブリンに襲われて悲鳴を上げる受付嬢だったミランダ。もう仕方ないなぁ。

 私はスケルトンを蹴り倒しゴブリンの首を短剣で飛ばした。


「お、おう、助かったぜ……うぉあああああああ!」


 今度は頭に角が生えた大きな鬼がミランダを襲ってきた。

 もぅうるさいなぁ。


 鬼は大きかったので、切りやすそうな位置にあった胴を一薙ぎして真っ二つにする。


「大きな鬼だね、ホブゴブリンって言うやつかな?」

「阿保ぉ、こりゃオーガだ! ホブゴブリンなんてかわいいもんじゃねぇよ!」

「ホブゴブリンってかわいいの?」

「かわいくねぇよ!」


 どっちなの?

 その後もうるさく喚き散らすミランダを庇いつつ通路を進む。


「お、おい、行き止まりだぞ、どうすんだ?!」

「どうって、こう……」


 行き止まりの壁の足元の近くに手をやり、引っ掛かりを探す。


「おっ、あったあった」


 カチッという音と共に天井が開き階段が降りてくる。


「おおっ隠し階段か!」

「あっ、上がっては駄目です!」


 階段を駆け上がろうとしたミランダの腕を掴んで止めた。


「へへっ悪いな嬢ちゃん達、先行くぜ」

「悪く思うな、早い者勝ちだ!」

「逃げ道だ、どけどけ!」


 あれ、先頭の人、確か馬車で私に話しかけた人だ。

 私の後ろを付いて来た人達が私の制止も聞かずに階段を我先に駆け上がって行った。


「お、おい、何してるんだ。私達も早く登らないとやられちま……うぉわわわわわ!」


 既に年頃の女性が上げる悲鳴ではなくなっているミランダ。階段が現れた後でも容赦なく敵は襲ってくる。

 私が何故階段を上がらないかと言うと……。


「あれを見てください」

「ああん? ん、うぉおおおおおおっ!」


 さっきから叫びっぱなしのミランダ。うるさいったらありゃしない。でもまぁ叫びたくなるのもわかるかな。

 何故ならボトボトと元、人だった肉片が階段上にある空間から落ちてきているのだから。


「あれって擬態されてますけど魔物の口なんですよ」

「な、何だって、じゃああそこに入って行った奴らは?」

「見ての通りですね」


 ミランダは顔を青くして両手で身体を抱き込むようにしてへたり込んだ。


「な、何であんなのを……お前私達を殺すつもりだったのか?」

「違いますよ。第一私が止めたのに、あの人達が勝手に上がって行ったんじゃないですか!」


 全く心外ですよ。プンプン!


「じゃあ、あれは一体?」

「まぁ見ていて下さい」


 私はジャンプすると階段の近くの天井を一突きした。すると大きな呻き声と共に階段の上の穴から大量の血が流れ出てきた。


「よし、死んだな」

「へ、し、死んだって?」

「ミランダさん。そこにいると危ないですよ」


 私がミランダを引き寄せると同時に天井が落ちてくる。

 今、私達が居る一角を除いて、落ちてきた天井に通路にいた敵は成すすべなく圧し潰された。


「なっ……」

「こっちですよ、ミランダさん」


 いつの間にか行き止まりの壁に扉が現れていて、私はその扉のノブに手をかけた。


「お、おい、それも罠なんじゃないのか?」

「これは大丈夫ですよ」

「な、何でそんなことがわかるんだよ、お前まさか本当に……」


 いや、本当に何でだろうね? 何で私はこの先の事を知っているんだろう?

 しかしミランダもさっきの人達も魔王城から逃げ出したいのに上の階層に上がってどうするつもりだったのか? 普通下り階段を探すでしょ。

 まぁあんな状況だったし逃げれる場所なら何処でもよかったんだと思うけど。

 ちなみに今から入る部屋は階層を下らなくても魔王城の外に出られる秘密の場所だ。

 扉を開け中に入るとそこは薄暗い部屋で、中央に魔法陣が描かれていた。


「ここは一体どこなんだ?」

「一言でいうなら転送部屋ですね。魔王城にはこういう部屋が所々にあるんですよ」

「じゃあ、あれを使えば外に出れるのか」

「ええ、運が良ければ……ちょっと待って下さい」


 私は魔法陣を通り過ぎ部屋の奥にある操作版を調べる。魔力は十分満たされている。後は……。


「ミランダさん運がいいですね。魔王城の外どころか王国領との境界にある魔王領の砦まで飛べますよ。そこには魔王軍はいなかったので、そこまでいけば助かりそうですね」

「ほ、本当か!」


 さっきまで顔を青くしていたミランダは私の言葉を聞いて急に元気になり、高揚して赤くなった顔で私にしがみついた。私より背が大きいので丁度彼女の胸の辺りに顔が当たる。むぅ大きいな、クソッ!


「そ、そのお前、悪かったな……色々と」

「お礼と謝罪はここから出れてからにしましょう」

「そ、そうだな。生きて出られねぇと意味ないからな!」


 空元気でも彼女はこうでなくちゃ調子が狂うよ。

 いい加減な性格がこれで少しでも改善するといいけどね、期待は薄いけど。


 ふと、ミランダの首に首輪が付いたままだと気付き何となく手を伸ばす。

 無理やりに取ろうとすると締まるらしいが、主人格である強行偵察隊の人がなくなっていた場合はどうなるんだろう?


「お、おい、何して……ああっ?!」


 何となく外れる気がしたので、ちょっと力を入れたらバキンと音がして呆気なく外れた。あれれ、これも私のと同じで壊れてた? それとも首輪の主人格の人が亡くなって効果がなくなったとか?


「馬鹿な、どうやっても外せなかったし、それに従属の首輪が契約解除の魔法以外で外れるなんて聞いたことねぇぞ。何をしたんだ、破邪の魔法でも使ったか?」

「さぁ、何故か外れましたね」


 魔法なんて使えないってば、私のと同じで不良品だったんじゃないのかな?


 さてと、邪魔そうな首輪も外れたことだし、そろそろ始めるとしますか。


「ミランダさんは魔法陣の中心にいて下さい」

「お、おう」


 ミランダが魔法陣の中心に移動したことを確信して操作盤のスイッチを押して魔法陣を起動させる。

 淡く光っていた魔法陣が眩しく光りだす。


「お、おい、お前も早く!」

「あ~ミランダさん、それはここで操作しないと魔王城の外まで転送できないんですよ。私は他の方法で戻りますので、お元気で」

「なっ!」


 その瞬間転送が完了し、部屋に再び静寂が訪れる。

 あっ、別に脱出を諦めた訳じゃないよ。この転送の魔法陣は魔王城の中なら操作せずとも転送が可能なはずだ。

 取りあえず魔王城の入り口に戻れば何とかなるだろう。馬車か馬だけでも残っていてくれればいいけど。

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