第45話 シルフィアの思い
シルフィアは、ファルークに口付けされた後、逃げるように飛び出した。
先程の出来事を思い出すと顔に血が上るのを感じる。顔に手を当てその場にしゃがんだと思ったら、アワアワと妄想をかき消すように手を振った。
(……ど、どう、どうしましょう……陛下と、キス、してしまいました)
しかも、嫌では無かった。
むしろ……
「どうしたら」
頭を抱え考え込んでいたら、目の前に影が落ちた。それでも、顔を上げるのを戸惑っていると声が降ってきた。
「シア?どうした?」
優しく頭を撫でる手を捕まえ握る。
「アル兄様……」
「その……」
話すべきか悩んだけど、このまま1人で悩んでても答えなど出ない事は分かっている。
それに、心配している兄様がこのまま諦める訳がない事は理解していた。家族の中で特にアル兄様は、極度の過保護なのだから。
だから、仕方なく事情を話す事にした。
思っていた反応と違い、激高する事なく話を聞いてくれる。
「シアは陛下が嫌いなのか?」
お兄様に、そう聞かれ考える。
陛下が嫌い?
(いいえ、いいえ、嫌いでは……)
「い、いえ!嫌いでは……ただ自分の気持ちが……」
分からなくて……と、続く。
再び沈黙した私に
「会って話してみたらどうだ?逃げていたら何も解決しないぞ」
「……ですが……」
どうしても、尻込みしてしまう。
陛下の気持ちを聞くのが怖い。
私の気持ちが、今どこにあるのかも分からない。フェル様に棄てられて、あの御方に対する気持ちは無くなったように思う。
けれど……
簡単に、棄てられたから陛下に乗り換える…なんて、陛下に対し失礼にあたる気がしますし。
……いや、陛下は、そんな風に思わないだろう…、シアにかなりぞっこんなのだから……
気付いてないのは、当人だけなのだろうな、と思うアルベルトだった。
「会って、話してみろ。案外、簡単に解決するかもしれん」
「お前が決めたんなら、俺は、もちろん父上やローザ姫達だって、どんな事でも協力は惜しまないぞ」
シルフィアは頷き、微笑みながら相談に乗ってくれた兄に感謝を伝えた。
「分かりましたわ、お兄様」
「よし!それでこそ、我が妹だ」
「じゃ、行くぞ」
急に歩き出した、兄様についていけず、呆然としてしまう。
「何してる、シア、陛下の部屋に行くぞ!」
「え?、今から、ですの?」
ボーッと突っ立っていると、兄様がツカツカと歩み寄り腕を掴んで再び歩き出した。
「当然だ、善は急げと言うだろう?」
「で、ですが、もう遅い時間ですわ、迷惑では……兄様!」
アルベルトがシルフィアを連れて、ファルーク国王陛下の部屋に向かった。