全権委任
夕食の時間、そのまま歩きながらテーブルへとついた。
当然、上座に座るのは子爵だ。
「本日は、このような夕食まで用意してくださいまして、誠にありがとうございます」
大河内が子爵へと告げる。
従者は、大河内専属の従者という立場であるため、座ることなく、大河内のすぐ横で立っている。
何かあれば、大河内を助けるためだ。
「かようなことは、久しぶりなので。特に、はるか地球の裏側から来られた客人は初めてのこと。どうぞ、ゆっくりとなされるが良い」
爵位の差は、そのまま身分の差となる。
ここでは大河内の方が下に位置し、子爵は当然上となる。
なお、ジェームズは無爵なのだが、この会食の席では、子爵の斜め右前の席が用意されていた。
大河内はジェームズの向かい側であり、従者は子爵と反対に立っている。
「ところで……」
スープがやってくると、まず子爵が大河内へと尋ねる。
「なんでしょうか」
それぞれの前へと、スープが配膳される。
「大日本帝国は、今や東洋の大国となりつつあります。無論、それ以外になりうる国がないということも影響しているでしょうが」
今日はコーンポタージュのようだ。
「ええ、今や旭光は燦々と輝きを増しています」
食べるよりも前に、大河内は子爵へと答える。
まずは、子爵が食べてから、大河内も食べるという算段のようだ。
ジェームズも黙って話を聞いている。
「しかし、明けない夜がないように、来ることがない夜はないのです。光り輝く星も、いつの日か消え失せる。そうではないですか」
「その通りだと思います。ですが、輝きは誰も忘れることはないでしょう。一時が集まりたくさんの時になるように、その輝きも集まれば夜も昼となります。ならば、その輝きは失われることはないでしょう。それ自身の輝きによって、輝くのですから」
果たしてどうなるのか、それはここにいる誰もわからない。
少なからず知っているのは、このままでは家はなくなるということだけだ。
「そのような返しをする方には、初めて出会いました。この世界は、まだまだ知らないことだらけのようだ」
子爵が一口、ようやくスープを飲んだ。
「誠に。それは私も同じことなのです。ですので、グッディ卿には力を貸していただきたい」
「この屋敷を手に入れるために、ですかな」
子爵の言葉に、スープを飲もうとしていたジェームズの手が止まる。
「いえ、グッディ卿の失敗のことです」
「失敗?」
「そうです、この屋敷を手放さなければならないほどの失敗は、これ以上ない反面教師となるでしょう。そのような失敗こそ、私たちには必要なのです」
私たち、という言葉は、手野財閥だけを指しているのではない。
ここでは、子爵も含めた仲間で共有しているということが大切だ。
「『私たち』ですか、なかなか面白い」
「面白い?」
ジェームズは驚いているようだ。
「グッディ卿、貴方がそれを言うのを聞くのは久しぶりな気がします」
「そうかな、私としては常に初めての気持ちでいるのだがね」
スープを続けて飲み、そして底まで飲み干す。
「ジェームズ、一つ頼まれてくれないか」
「グッディ卿、何なりと」
「この屋敷の売買についての一切を、君に任せる。大河内卿は、これまで買おうと言ってきた者の中で、一番面白い人物だ。購入計画がまとまったら、私に報告を」
「承りました、グッディ卿。翌々日には、まとめてご報告にあがると思います」
「それでよい、さあ、お二方。冷めない間に食べていってくだされ」
そして、夕食会は再び始まった。




