荒野(七人ではない)
街を出てから数時間が経過した。すでに建物などは見当たらない。荒野に近づいたせいか、木や草も見かけなくなってきた。明確な荒野の領域というのはないだろうし、荒野に入ってすぐ魔物に襲われるとも思わないが、最低限警戒しておこう。一応、護衛任務だしな。
しかし荒野とはどういう場所なのだろうか。都会という荒波は経験したが、無人の荒野など映像でしか見たことない。真っ先に思い浮かぶ言葉が西部劇やウエスタンなのだから、もしかしたらウエスタンハットやギザギザの拍車がついたブーツを身に付けている奴がいるかもしれない。カメラがあったら記念撮影したいくらいだ。まあいるとは思っていないが。
カメラで思い出したが、俺は携帯を持っていない。代わりに無線を持っている。アマチュア2級だ。この世界では役に立たないため持ってきていない。この世界で開局したら、電波はすべて俺の物になるというのに機材がない。魔法は科学の発展を鈍らせる。良くも悪くもだ。
とにかく荒野に入る前に準備は整えておくべきだろう。ちなみに撲殺丸は改良した革ベルトで腰の後ろに付けてある。他にも、俺には必要ないとは思うがポーションの入ったポーチもつけている。そして念のため使い捨ての暗器も隠している。魔物被害が増えている今はないとは思うが、夜盗対策だ。撲殺丸だけでもいいが、護衛任務は守らなければ意味がない。そういうわけでいくつかもの武器を所持している。
「聞け! 商隊はこれから荒野に入る! 護衛は周囲の魔物に気を配ってくれ!」
先頭の方からガルベの指示が飛ぶ。ちなみにこの商隊は、ガルベが率いるものらしい。苗字からとって、オリバー商隊というのだそうだ。
ガルベの指示で前後から武装を整える音が聞こえ、警戒する気が飛んできた。アリィとシャルも豹何とかというパーティとの会話を切り上げ戻ってきた。
周りを見渡せば、いつの間にか草がなくなり砂の地面が広がっている。そしてサボテンだ。緑ではなく赤い色をしている。しかも、動いている。なんだあれ。ムンクの叫びかよ。グネグネすんな。
「おもしろいですねー。でもあれ、実は魔物らしいですよ?」
俺が見ていたものをアリィも見て言った。さっきの会話で荒野がどのようなところか聞いてきたらしい。あのサボテンの魔物は近づいて刺激しない限り無害らしい。ただ、刺激したら最後、見境なく針を飛ばしてくるのだそうだ。”物理障壁”があるから興味本位で触ってみたくなった。いや、触らないが。
と、サボテンに目を奪われている隙に気配があった。だが周囲に変化はない。
「おい、気をつけろ。敵だ。戦闘準備を」
俺が短くそう告げる。荒野に入ってから1時間未満。魔物被害の多さもうなずけるな。
「えっ、どこですか?」
「さあな。姿が見えない。地面にでも隠れてるんだろう」
「じゃあ早く伝えないと!」
「慌てるな。こんな気配ダダ漏れの敵に後れを取るようじゃこいつらはだめだ。護衛としての力量を先に観察する」
本当は進路方向11時ということはわかっているが、気配を隠すつもりもない雑魚相手にどれだけ戦えるかが気にかかる。護衛として引き受けた以上死人は出さないが、自分のミスでけがをする護衛はただのお荷物だ。商隊と一緒に守られていた方がまだマシだ。
「みんな気をつけて! 敵の気配を察知した! 戦闘準備!」
前方から声がする。この声は、ハルトか。ハルトが叫んだ直後、地面が盛り上がった。まるで水面に浮かび上がったような錯覚をさせたそれは、蛇とエイを組み合わせたような魔物だった。5メートルはある。レベルは、40程度か。さて、こいつらはどう対処するか。見物と行こうじゃないか。
「アグヌス! 僕の指示に合わせて! 弓を放て!」
「誰が貴様の指示に従うか。俺のパーティは俺が指示を出す。魔法士、一斉攻撃!」
アウト。
前方のリーダー二人の会話でチーム単位の連携が取れないことが分かった。予想通りというか、アグヌスはやはり他人の指示に従うようなタイプではない。常に自分が頂点にいたいような輩だ。ハルトの方は、アグヌスの性格を見抜けなかった。リーダーとしての素質はあるが、誰もが言うことを聞くと思っている感じだ。
最初に遠距離攻撃を選んだ点だけは戦い慣れしていると思わせるが、その後は「指示に従って」「ふざけるな」の繰り返しで、辛くも勝ったという次第だ。
「アグヌス! 僕の指示をちゃんと聞いてくれ! 勝てればいいってことじゃないんだ!」
「黙れ! 俺に命令するな! パーティの指示はリーダーが出す!」
結局相容れず、わざわざゴルドが後ろの警戒を外れてなだめていた。察するに、この2チームはレメドリアで雇われたのだろう。互いの戦い方を全く把握していない。特にアグヌスはチーム同士の戦いを一切好まないようだ。そんなんでよく護衛を引き受けたな。金払いが良かったのか。
とにかく奴らのパーティはいいとして、当の本人たち。問題児のアグヌスとどうしても言うことを聞かせたいハルトの二人が面倒だな。ゴルドという仲介役がいなかったらさらに悪化していただろう。
旅は道連れとはよく言ったものだが、地獄への道連れだけは勘弁してくれよ。俺が直接、片道切符を渡すはめになるのは避けたいからな。まあ単一パーティでの戦いなら、レベル40程度の敵は倒せることが分かった。ゴルド以外に頼りにされない俺たちは、あいつらで対処できない敵が来たらせいぜい働こう。
前方の雰囲気は邪険なまま、再び商隊は進むのであった。




