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出発

 翌日。出立にはちょうど良い晴れの日だ。旅立ちというほど大げさなことでもないが、これからしばらくこの街に来られないと思うと感慨を覚えないでもないが、よく考えたら別にどうでもよかった。


 荷物を整えた俺たちは、街の外へ向かう。初めてこの街に来た時と同じ南門だ。改めて街を見回すと、本当に時代錯誤だなと思った。現代の日本人がよく適応できたものだ。


 数分ほど歩くと南門が見えた。城壁にぽっかり空いた穴から人や馬車が出入りしている。俺たちもその中に加わり街を出た。舗装されていない道のわきに、荷車で作業をしている男たちがいた。そこにはゴルドの姿もあった。あれが護衛対象の輸送商隊か。ゴルドのパーティの一人がこちらに気づくと手を振ってきた。


「おーい、こっちだー」


 その声でゴルドも気づいたらしく、こちらを振り向く。


「おお、オウダ殿! 調子はどうだ」

「ぼちぼちだな」


 軽い挨拶を交わした後、俺のパーティの二人を残して商隊のリーダーに会いに行く。ゴルドが仲介を頼んだわけだから、俺たちのこともゴルドに任せておけばいいか。ゴルドは荷車の一つの中をのぞき込むと、中にいる人に声をかけた。そうして中から出てきたのは、2メートル近くはあろうかという男だった。幌に頭をぶつけそうになりながら降りてくる。


「よう、俺はガルベだ。あんたがゴルドの誘った腕利きか? そうは見えないがな。まあ戦力は多い方がいい。少しは期待してるぜ」


 体格からそのまま連想させるような口調だった。商売は足元を見られないためにこういう奴が多いのかもしれない。


「俺は王田だ。荒野の魔物がどの程度かは知らねえが、あんたの期待通りにゃならねえぜ」


 少し傲慢に聞こえるだろうが、ゴルドほどのパーティを護衛につけるくらいだ。少しの期待程度だったらあとで予想をはるかに裏切られるだろう。そういう意味で返してやった。相手がどう受け取ったかは別としてだが。


「ああそうか。なら期待なんぞしない。せいぜい足を引っ張るなよ」


 そう言ってまた積み荷の確認に戻っていった。


「オウダ殿、さっきのはどういう意味だ?」

「俺を雇ったんだ。期待以上の成果にはなるだろうってことさ」

「そういうことか。さすがだな、オウダ殿は」


 皮肉も何もない実直な言葉だった。最初に会った時の衝撃はそこまで大きかったのか。


「ああ、そうだ。実は俺たち以外にも雇われたパーティがいるんだ。そいつらとも顔を合わせておこうか」

「かまわん。ただ、指揮系統を一つにするなよ。会ったばかりの連中で連携ができるとは思えない。敵と遭遇した時はパーティ単位で動くことになる。忘れるな」

「確かにそうか。わかった。あくまで顔合わせにとどめよう」


 荷車から離れ、今度は集団の方へ向かう。商隊のリーダーガベルが武器を持っていなかったのに対し、向こうの集団は明らかに戦闘に特化した集団だとわかる。遠目に見ると、剣や槍はともかく拳につけるような武器を持っている者もいた。あれは、いわゆるファイターってやつか。この世界にも格闘技があるのだろうか。少し気になった。


「おーい。ハルト、アグヌス、サーシ。ちょっといいか」


 俺が観察をしていると、ゴルドが三人の名を呼んだ。特定の三人ということはリーダーだろうか。


「紹介しよう。彼はオウダ殿だ。このパーティの中ではおそらく一番強い。心強い味方だ」


 おい、余計なことを言うな。冒険者は性質上、いや性格上血の気が荒い奴が多いと学んだ。自分より強いと言われていい気分になるやつなんていないだろう。


「そうか、それは確かに心強い。僕はハルトだ。銀翼というパーティのリーダーをしている。よろしく」


 予想と違う反応が返ってきた。こいつは冒険者という職にあって、冷静でいられる奴なのか? 笑顔が似合うさわやかイケメンって感じだ。


「お前みたいなやつが一番強いだと? フン、笑わせる」


 ああ、そうだ。こういう反応だ。血の気が荒い、冒険者という職にしかありつけなかったというようないかにも野蛮な男だ。ハルトとは見た目も対照的で細身ながら背が高く、しかし筋肉はしっかりついている。こいつがアグヌスらしい。


「ゴルドの紹介っていうから期待してたけど、あんまり強そうには見えないね。私はサーシ。ストロングパンサーってチームのリーダー。一応、よろしく」


 こいつは女だった。こいつのパーティは女だけで構成されているらしい。この世界では割と珍しいパーティ構成のようだ。着飾って茶でも飲んでた方が似合いそうだがな。


 一通りの自己紹介が終わったが、見た目通り一癖も二癖もありそうな輩だった。ハルトは友好的に感じるが、ほかの二人はそうでもないらしい。まあ、揉め事さえ起らなければどうでもいいがな。俺だって人は殺したくない。


 それから10分ほどしてようやく出発準備が整った。その間護衛対象の再確認や警戒網の作成などをして役割を分担していた。結果まったく信頼のない配置、被害の少ない中央に配置された。前はハルトとアグヌス、後ろはゴルドとサーシが担当する。ゴルドとしては俺を先頭にしたかったようだがほかのリーダーに却下されていた。ちなみに総指揮隊長はゴルドだ。戦闘に際しては各パーティでという話だが、その他の細かな調整などは必要だからだ。


 自分のパーティに戻ると、アリィはサーシのパーティの仲間と楽しげに話していた。いつの間に打ち解けたんだ。シャルはアリィの背中にしがみついている。まるで迷子にならないようにしている子供だな。人間嫌いは治っていないが、見知った人と離れたくないという感じだ。借りてきた猫ともいう。


 それからすぐに出発した。しばらくは街道に沿って歩くため、荒野までは各自自由に歩いていてもいいことになった。


 俺は特に話したいと思わなかったので、荷馬車の一部を拝借し座っていた。ジャバウォックも隣で寝ている。ペット連れというと嫌な顔をされたが、内心お前たちより強いから安心しろと思った。


 さて、これからどうなる事やら。しばらくは景色でも見て楽しむとしよう。

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