準備
夜。二人が帰ってきたところでくだんの話をした。護衛任務に加わるかどうかの話だ。
「ってなわけで、どうだ。出発は明後日だそうだから、受けるなら明日中に買いそろえる物がある」
「そうですねえ。シャルちゃんはどうですか?」
「私は、コロについていく」
アリィがシャルに問いかける。ちなみにこの二人はあの時から次第に打ち解けあい、今ではかなり仲良くなっている。
「アリィ、お前はどうする」
「私は、いいですよ。レベルがとんでもなく上がったから魔物なんてへっちゃらです」
今のは俺についてきたことでレベルが大変なことになったことへの皮肉だろう。例のごとく無視だが。
「そうか、なら決まりだ。二人には日用品と保存食を買ってきてもらいたい。俺はその他の準備をする」
「わかりました」
「んー」
「それと、食料は多少値が張ってでも質のいいものを買え。食事の支給はあるらしいが、碌なものではないらしい」
「そうなんですか?」
昼間話した時に軽く聞いたが、食事は石のように硬いパンと塩が効きすぎた干し肉だそうだ。水は魔法士がいれば魔法で出せるが、味付け用の調味料には限度がある。シチューなどで薄めるにしても荒野を渡りきる前に調味料はなくなるだろう。ゴルド達には申し訳ないと、別に思わないが自分の食事は自分で何とかする。伊達に金ランク依頼をこなしていない。資金はかなりある。主食、おかず、調味料は三種の神器だ。
「とりあえず今日中に必要なものを調べておけ。明日は忙しいだろうからな」
「わかりました」
「んー、わかー」
なんだろうな。シャルがニートの返事のようになっている気がする。ああ、そういえば。
「アリィ、忘れていたがパーティについてはどうする?」
「え、どういうことですか?」
「お前の提示した条件から一カ月が過ぎた。パーティを解消するかどうかだ」
「ええ! しませんよ、そんなの!」
「そうか。まあ、俺はどっちでもいいが」
「どっちでもいいんですか……」
どっちでもいいわけではないが、どうでもはいい。ここまで来たのだから、返答は向こうに任せてもいいだろう。ということで、パーティは存続することになった。
「じゃあ今日は早く寝ろ」
「はぁい。おやすみなさい」
「おやすみ」
さて、俺は明日のリストを作るか。
翌日。出発の前日とあって忙しかった。二人とは別行動で、俺は武具屋に来ていた。例のドワーフの店だ。扉を開けて中へ入る。店主が俺だとわかると不愛想な声で話しかけてきた。
「あんたか。何か入用か?」
金貨一括払いが相当なインパクトだったのか、俺の顔を覚えていたらしい。とりあえず尋ねてみる。
「ある程度質のいい剣はないか。短剣を二本だ」
「剣か。ちょっと待ってろ」
カウンターから出てきたドワーフは、剣が無造作に入っている樽をよじ登る。その上の棚に掛けられた剣を取るつもりらしい。持ってきたのは、二対のダガーのような剣だった。ただ、柄の部分にそれぞれ赤と青の宝石がはまっている。
「こいつは魔石付きの上等な代物だ。火と水の恩恵がある。魔法士じゃなくても魔法が使える便利なもんさ。ただ、魔力は消費するがな」
手に取ってみてみる。必要ないとは思ったが、シャルの為の護身武器として買う予定だった。剣に関しては目利きではないが、この一対はそれなりに上質だと思った。
「ならこれをもらおう。ほかにめぼしい物はないようだしな。それともう一本、短剣をくれ。扱いやすさ重視の物だ」
次のはアリィに買うつもりだ。いくら魔法士とはいえ杖しか持ってないのではどうかと思う。せめて近接戦闘武器ぐらいは持っていてほしい。何かの映画で見たが、近距離戦は銃よりもナイフの方が強いとか。
「ならこれだ。鉄より質が良くて軽い。初心者でも扱える」
渡されたのはさっきのダガーよりも一回り小さい剣だった。確かに軽い。まあこれでいいだろう。
「後はそうだな、馬具は売ってるか?」
「馬具だと? そんなもんうちにはねえ。欲しいならこの通りの西へ行くこったな」
馬具は欲しいが馬につけるわけではない。ジャバウォックにつけるのだ。小さくても力は大きいサイズのままだから、荷物運びなんかでも役に立つ。
「そうか。ならこれで全部だ。いくらだ?」
「しめて25金貨だ。……また一括か?」
「その通りだ」
ドンという音がカウンターからした。金貨の入った麻袋を置いた音だ。店主はため息のようなものをつきながら会計する。
「ちょうどだ。毎度。ところで聞きたかったんだが、あんた何者だ?」
「俺か? 俺はただの冒険者だ。この金はそれ相応の報酬ってやつだよ」
「そうか。そうか」
店主は俺の言葉を飲み込むように、そうかそうかと呟いている。
その後はしばらく来ないと別れの挨拶を告げて店を出る。次は馬具だ。
情報どおりに通りを西へ行く。少し歩くと馬と蹄鉄が描かれた吊り看板が見えた。ここか。中へ入る。
「いらっしゃい」
店の主らしき中年の男が声をかけてくる。店内は、壁際に商品の見本が並んでおり、中央には何も置かれていなかった。おそらく見本を選んで店主が持ってくるシステムなのだろう。狼用の装具があるかは知らないが、一応尋ねてみる。
「ちょっと動物用の装具を探しているんだが」
「なんだい。貴族様か? そんなふうには見えないが。犬の首輪か? 鎖か?」
直接馬具と言わないからそう読んだのか、妙に犬を推している。この世界でも犬が一番ペットにされやすいのだろうか。
「まあ、犬っちゃ犬だな」
「どういうこったね」
「実物を連れてきていいか?」
「なんだ、外で待たせてんのか。連れてきな」
いったん外に出る。それから思念で戻ってくるように伝える。30秒ほどでジャバウォックが姿を見せた。かなり速い速度で駆けてくる。道行く人は驚いていた。街の中にいても人間なら5分以上かかる距離を、あっという間にやってくる。さすがは狼王だ。
店に戻り実物、もといジャバウォックを見せる。
「こいつだ」
「ほー。なるほどね。たしかに犬っちゃ犬だな」
馬専門の店だからか、犬か狼かの判別はついていないようだ。
「で、何が必要なんだ?」
「まずは、馬に背負わせるような荷物入れだ。大きさはこいつより少し大きくても問題ない」
「大きさはちょうどの方が犬の負担にもならないが」
「いや、それについては大丈夫だ。それと、馬用の鐙だ。鞍はなくて構わない」
「あんた、変な買い物するな。まあいい。少し待ってな」
そういうと店主は奥へ引っ込んだ。少しして戻ってくると、その手には目的の品物があった。
「こいつは荷物をひっかける装具だ。両側にバランスよく荷物を入れて体の下で固定する。んで、こっちが馬用の鐙だ。基本は鞍とセットなんだが、単体でも使えるように加工してある。為しにつけてみな」
言われた通り荷物入れの方からつけてみる。コツがいるが、何度かやっていると慣れてきた。鐙の方は、本来の大きさの時に使うため、つけ方だけ教わった。
「二つで20金貨と5銀貨だ」
清算はまた一括で払った。今度は大して驚かれなかった。馬具や愛玩用の装具を買うのは貴族とか組織だからだろうか。ここに来るのは金があるやつだけってか。
礼を言って店を出る。ジャバウォックには慣れさせるため、荷物入れをつけたままにさせた。少し居心地が悪そうだが、なんとか慣れてくれ。
この後はどうするか。そういえばまだ同行することを伝えていなかったな。先にゴルドのところへ行こう。そうして同行する旨を伝え、再び買い物に戻った。ゴルドには手を握られて感謝を伝えられた。まるで死地に赴く戦友に対するような感じだった。荒野ってのはそんなに大変なところなのか。気を引き締めなければ。
それから夜は、パーティ内で各々が買ったものを確認したりした。出発は明日だ。今日は早く寝るように二人に伝えた。




