再会
あれから一月が経過した。というのは、アリィがパーティを組む際に提示した条件の一つである住居の提供のことだ。この世界では31日という概念がなく、12月まであるもののすべて30日までだった。つまり、きっかり30日が経過したのである。
当たり前だが、この世界にはだいぶ慣れてきた。依頼も普通にこなせるようになった。別に普通じゃないこなし方もしてないわけではないが、この世界の世間一般に言う普通ではあった。
とにかく、これでアリィとの契約の一つは終わりとなったのだ。いや、よく考えれば魔法の指南とかされた覚えがねえ。あれは教わったというよりアドバイスをもらったという感じだ。サギだよ、サギ。それは言い過ぎか。しかし考えようによっては二つの契約が終わったことになる。
パーティの解消も考えたが、アリィはいいとしてシャルは人間に対して未だ多少の忌避感を抱いている。俺が脱退してシャルをアリィに押し付けるのは悪魔といえども気が引ける。そんなわけで、パーティ存続を伝えようかと思ったのだがあいにく今日は休息日にしてある。普段から依頼ばかりしているわけではない。アリィは今日、シャルと出かけると言っていた。俺も暇になってるな。
普通の学校なら休みに歓喜し、友達と遊んだりするのだろうがそこは俺。この世界にダチ公はいないし有り余る娯楽もない。外に出てみるもさすがに観光気分でいるには長く居過ぎた。本当にどうしたものか。
魔物と戦うことはあってもそれは害獣駆除のようなもので、元の世界のような抗争をしているわけではない。僅か一カ月で平和ボケしてきたな。そう考えていると声を掛けられた。
「オウダ殿! オウダ殿ではないか!」
あ? 誰だ。いかにも前衛タイプなプレートアーマーを身に付けた男がこちらへ駆けてくる。ああ、思い出した。異世界に来て初めて接した人だ。名前は確か、ゴールド?
「あんたは、ゴールド」
「いや、ゴルドだ。久しぶりだな、オウダ殿。あれ以来どうしていた?」
「どうもなにも。普通さ。それより、あんたの方はどうしたんだ?」
「少しばかり用事があってな、この街に戻った。またすぐに旅立つ予定だ」
どうやらこの男は、移動の中継地点としてここを通っただけのようだ。そう考えていると、向こうから話が来た。
「オウダ殿、少し相談があるのだが聞いてくれないか?」
「相談だ?」
「ああ。奢るから話だけでも聞いてくれ」
「いいぜ、それぐらいなら」
どうせ暇していたところだ。話し相手ぐらいは引き受けてやろう。
場所を移動して広場に来た。屋台や露天商が並ぶ街の中央通りだ。そこの机といすが並んだ飲食スペースに座り込む。俺が先に座っていると、ゴルドが酒とつまみをもってきた。今日はにぎわっている。この世界にも土日のような感覚があるらしく、今日は土曜日にあたる日らしい。俺も昼間からの酒飲みの一人となりつつ話を聞く。
「で、相談とは?」
「それなのだがな。実は次の依頼で俺のパーティは南の荒野を南下する予定になっているんだ」
「南、か。たしか魔王がいる側だったな」
「そうだ。しかし、魔王が侵攻しているといってもまだ被害を受けていない地域だ」
そういえばこの世界の地図をまだ見たことがない。勇者として、教会や国が役に立たないと判断した以上、魔王討伐は後回しにしていた。それからはずっとこの街で活動していたため、頭から地図という言葉が抜け落ちていた。
「ゴルドよ、地図を見せてくれ」
「わかった」
そういうとゴルドは懐から地図を取り出した。それを広げてこちら側に見せる。
「ここが今いる街、レメドリア。そして目的地はここ、テイスドミニク王国のギズという街だ」
この世界の地図がどれほど正確かは知らないが、大雑把にはつかめた。レメドリアがあるオーシェンドリエ国は、大陸北側の中央より少し左にある国だった。テイスドミニク王国・ギズはこの街から南下して荒野を越えた先にあるらしい。
「まあ地図は頭に入れた。それで、この荒野を渡りたいんだろ。それと俺に話って、何が関係するんだ」
「それがだな、魔王復活の影響か荒野での魔物の被害が増えているんだ。で、俺たちは輸送商隊の護衛をすることになった」
「なるほどな。すでに被害のある国もあるんだ。魔族は実質、すでに動いているとみていいってことか」
最初に教会に行ったときにそんな話を聞いた。ところが。
「オウダ殿。これは噂程度でしかなく、知られたら刑罰物の話なんだが教会は秘密を抱えてるらしい」
「あ? どういうことだ」
身を乗り出して聞き入る。
「先遣隊が何度も送られては壊滅している話は知っているだろうか?」
「まあな。教会に行ったときに聞いた」
「それでだ。そうなると国にとっては体裁が悪いだろう?」
「確かに。人員だけ失くして何の見返りもないんだからな」
「それで各国は、特に五箇国連合は教会を通してある話を広めたらしい」
「ほう。その話とは?」
「それが、先遣隊が戻ってきたことにして、今のところ魔王復活の兆しは薄いということにしたらしい」
「なんだと?」
どういうことだ。女神から直接魔王討伐を言い渡された俺がいるのに、魔王が復活していないだと? 教会に口止めはしたが、相手はただの司祭だ。階級などは知らないが、あの分だと上層部には勇者の件は伝わっていると思った方がいい。俺の性格も踏まえてだ。とすると、教会と国はどう動く? 魔王討伐の要である俺が任務放棄したことでまだ見ぬ奴らは何を画策する? 考えても答えは出ない。
「さすがに国の考えは把握できないな。情報が少なすぎる。噂の信ぴょう性もわからん。だが、俺が召喚されたことは女神が決めたことだ。魔王が復活していないとは考えにくい」
「俺もそう思った。オウダ殿がなぜ勇者であることを明かさないのかは聞かないが、それでも国の動きが変だとは思う」
結局はどういうことなのか。やはり答えは出ない。ならば頭を切り替えよう。
「まあ、その話は近い将来の話だろう。今はあんたの話が先だ」
「ああ、そうだったな。魔物に関係するからつい話がそれちまった。それで話なんだが、さっきも言った通り荒野での魔物の被害が増えてる。それで荒野を渡るにあたって、オウダ殿の力を借りたい」
「なるほど。戦力が必要ってことか」
「そういうことだ」
噂と魔物被害の関連性は不鮮明だが、事実として魔物が暴れている。なら、少しでも戦力を整えたいと考えるのは当然だろう。
「まあ、俺は構わないが」
「本当か!」
「ただ、俺もパーティを組んじまったしな。一応、意見は聞いとかねえと」
「オウダ殿もパーティを組んだのか。それは強そうだ」
皮肉でも何でもなく、ゴルドは尊敬したように言った。
「俺たちは明後日の朝、出発する。それまでに考えておいてくれ。今はこの中央通りのアゲンって宿に泊まってるから、出発までに報告に来てくれ」
「いいぜ。ルーチンワークは嫌いだからな。多分いい返事ができると思うぜ」
「それは良かった」
そうして今日のところは別れた。帰ったらさっそくパーティ会議だ。




