日常回
カジノのくだりは適当なので飛ばしても問題ありません。
洞窟から出て2日経った。1日目は終日療養に努めた。大きな傷はなかったが、かなり疲労がたまっていたからだ。たったの数日も経っていないのにベッドの感触が懐かしい。
今日も念のため彼女らには休息を出していた。ちなみにシャルは俺の部屋で引きこもっている。アリィはなんだかんだで上がったレベルなどを詳しく確認するため教会に行っているらしい。
ちなみに、ステータス画面というのは俺のものとこの世界の一般的なものには、差があったらしい。本来は、レベルや簡易的な体力や状態異常しか表示されない。しかし俺のはもっと高性能だった。これも女神の恩恵か? 神に祈りをささげたことなんてないがな。
とにかく、久々というほどでもないが休息をとることにした。と言っても、体力はほぼ万全に回復し、疲労感もない。休む必要はないのだが、逆にアリィから休むように言われてしまった。まあ、自分を気遣ってくれる相手の忠告を無碍にすることもない。
しかし何もしないのも面白くない。俺はシャルに一言言って街に出ることにした。よく考えれば観光の一つもしていなかった。ゴーレムの核を組合に売ったことでそれなりの大金が入った。おかげで自由に買い物ができる。さて、何をしようか。
当てのない散歩などいつ以来だろうか。普段は目的地があって行動するからこういう場合はどうしたものか。と、考えていると声を掛けられた。横を見ると少女が立っていた。
「果物はいかがですか?」
言い方は悪いが、貧民がわずかでも金を得るために幼い子供にも労働をさせるアレだ。実際に接してみると本当に幼い。小学生くらいじゃないか? とにかく俺は、銅貨1枚ということだったのでチップ代わりに銅貨を2枚渡して果物を一つと交換した。見たところ、日本どころか元の世界には存在しないんじゃないか、これ。見た目はリンゴの形をしたナス。一口かじってみると、ミカンのような柑橘系の味がした。割とうまい。果物は栄養価が高いから割と頻繁に食べていた。これも常備食にしておきたいくらいだ。
さて、後は何をしようか。まあ、まだ果物を一つ買っただけなのだが。日本のようにゲーセンでもあれば入っていたが、そんなものはないらしい。あるとは思っていないが。あるいは、賭け事でもやってる場所はあるのではないか。そんなことを考えた。すると、本当にあった。
文字が読めないので、常に”鑑識眼”を使っている。そこでふと、店の看板を読んだら『カジノ』と日本語で出ていた。日本語として表示できる単語がそれだけだったのだろうか。とりあえず中に入る。この世界では未成年とか関係ない。
中は仕切りなどはなかったが、大まかなブースに分かれていた。俺は一つの台に向かう。理由はない。なんとなくだ。台は半円状で、直径にあたる側にディーラーらしき男が立っていて、正面には5つの椅子がある。すべて埋まっていたので立ち見客として見物人たちに混ざる。
しばらく見ているうちにルールを理解してきた。5枚の絵柄のカードを裏返して置く。それを客側から見た左からどんな順で並んでいるか当てるゲームらしい。カードは賭け金の一番多い客から順にカードをめくれるようだ。カードはめくるたびに1.2ずつプラスされ、最後にめくる者は2倍の掛け金が必要となる。これではカードがすべて見えてしまったので、その後はめくられたカードと同じカードが裏返しで再び配られる。これを5回以内で繰り返し、最初に順番を当てたものが取り分を得る。勘と運と掛け金が重要になるゲームだ。
少し経った頃、一人の男が嘆きながら席を立った。どうやら大敗を喫したらしい。空いた席に誰も座らないので俺が座る。
「それでは開始します。それぞれの賭け金をお出しください」
ディーラーの合図で各自が貨幣を出す。この世界では代わりのチップなどはなく、直接現金で払うようだ。基本的なベットは銀貨3枚らしい。俺は少し控えめに1枚にしておいた。全員の支払いが確認されたことで、最初の一人がカードをめくる。銀貨3枚と銅貨5枚を出した男は真ん中のカードをめくる。絵柄は妖精だった。二人目は上乗せせずめくらなかった。
俺の番の時には左から、悪魔、竜、妖精、裏、裏となった。裏はめくられていない。残りは魔法使い、王様のどちらかだ。俺は賭け金を上乗せして右から2番目のカードをめくる。王様だった。つまり。
「悪魔、竜、妖精、王様、魔法使いだ」
そう宣言する。ディーラーが最後のカードをめくる。
「おめでとうございます。あたりでございます」
今回は4枚めくって当たったため、配当は最初の1.8倍の0.6倍。つまり1.08銀貨ということだ。銀貨1枚と銅貨0.8枚。銅貨は1枚が最低値なので四捨五入されるらしい。つまり俺のもうけは銅貨1枚。
まあ、カジノなんてそんなもんだろう。運と勘が重要なゲームは得意じゃない。博打スキルでもあったらもう一度こよう。
さあ、次だ。今度は怪しげな雰囲気を漂わせる店に入ってみた。店内は所せましと商品が並んでいて、そのどれもが何に使うのかわからなかった。ポケーっとしながら見ていると、急に人の声がした。
「お客さん、探し物かい」
いつの間に。俺が気配に気づかなかっただと。ただものじゃない、このばあさん。
「ここは何の店なんだ」
「見ての通りさ。違法ではないが表ではめったに扱わない代物を置いている。ライトサラマンダーの爪なんてのもあるよ」
そういわれても何に使うのかわからん。この店で何か買うとしたら、シャルに選んでやろう。長い間閉じ込められていたシャルにとって物珍しさが興味を引くだろうと考えてだ。
「なら、香水か何かないか」
「香水ね。ちょっとお待ち」
そう言ってばあさんは奥に引っ込んでいった。女性へのプレゼントならこんなものだろう。別に異性として意識しているわけではないが。ばあさんが戻ってくる間にまたぐるっと見てみる。自分以外が鳥に見える薬なんてのが置いてある。マジで用途がわからない。少ししたら、ばあさんがお盆に何か乗せて戻ってきた。
「おすすめはこの3つかね」
出されたのは、信号機のように赤、黄、青の色をした液体だった。
「ほれ、匂いを嗅いでみな」
ひとつづつふたを開けて匂いを嗅いでみる。赤い液体を嗅いでみた。すると急に涙があふれてくる。なんだこれ。
「それは涙辛の劇薬。辛い物を食べると涙が出るのと同じ仕組みで涙を出させる」
なんだそれは。女に渡したら泣き落としに使われるだけだろう。俺は嗜好品の香水を要求したのであって、女の武器を出してくれなんて頼んでない。
次に黄の液体を嗅いでみる。すると酩酊したように足元がおぼつかなくなった。ばあさんが三人に見える。
「それは酔乱の劇薬。酒を飲みまくった後のように脳が混濁する」
だからそれもどう使えと。こんなものつけたら周りに迷惑だ。
最後の青い液体を嗅いでみる。どうせまたろくでもない物だろう。しかし予想とは違った。
「ん? 甘い」
特に体に異常をきたすわけでもなく、ただ鼻の奥を甘い香りが抜けるだけだった。
「それは女熱の劇薬。とはいっても、それだけはただの香水だよ」
なら、選択肢はこれだけだな。
「これを一つもらおう」
「毎度あり。ふふふ」
銅貨8枚を渡してから、不気味な笑いをされた。もしやつかまされたか? いや、自分でも嗅いだし問題はないだろう。二度と行く気のない「またくる」を言い残して店を出る。
後ろではばあさんが手を振っている。扉が閉まるとばあさんは独り言のようにつぶやいた。
「あれは女がつけてこそ効果を発揮する。せいぜい惑わされろ。青二才。ふふふ」
店を出てからは当てもなく歩き、夕方になって宿に戻った。夕餉を取り、シャルに香水を渡す。ちなみにシャルは、俺のベッドがダブルサイズだったので俺の部屋にとまっている。アリィは文句を垂れていたが。お前の想像のようにはならない。
その夜は、香水をつけたシャルが異常に気になり、ふとした瞬間に見せるうなじや吐き出す息の動作にまで目を奪われてしまった。あのババア、これは男に対して使う惚れ薬じゃねえか。パラメーターには出ない精神耐性が高くて助かった。普通の思春期男子だったら襲って返り討ちだ。
店での言葉は前言撤回。文句を言いにいつかあの店に再び行く。
その後はベッドの中で、隣で眠るシャルに対して悶々とした気持ちで夜が更けるのだった。
推敲してないので少し雑だったかもしれません。




