ヤベぇもん拾っちまった
シャーリーを拾ってから再び歩き出す。順番は俺、シャーリー、アリィの順だ。シャーリーは封印が解けたばかりで、体の調子が戻っていない。封印を解除してしまった責任がある以上守ってやらなければ。そういうことでこの順になった。
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺は王田故露栖だ」
「わ、私はアレーナ・ヴァルテスです。あ、家は出たから家名はもういらないんだった……。私のことはアリィと呼んでください。それとそっちの彼はコロさんです」
「……アリィ? コロ?」
「いきなり呼び捨てか。まあいいが」
自分よりも年下に見える少女に呼び捨てにされた経験はない。そもそも呼び捨てで呼ぼうという発想が俺に対してはないらしい。あるのは死に急ぎの馬鹿か決闘の時くらいだ。
「ところで、シャーリーはいくつなんだ」
年齢を尋ねてみる。すると思いもよらぬ返答が返ってきた。
「……75」
「はぁ?」
思わず間の抜けた声を出してしまう。この世界にも整形外科があるのか? そう考えているとアリィが解説してくれる。
「亜人種は人間よりも寿命が長いんです。エルフなんかだと千年以上生きたりしますよ」
ほーん。そんなに生きてどうするんだか。元の世界の常識を持つ身としては意味が解らない。曾孫とか曾々孫とか何十人になるんだろうな。いや、それは人間の考えか。長命なら繁殖はあまり意味がないだろう。
「まあいいや。で、鬼人族ってのはどんな種族なんだ? やっぱり棍棒でも持ってるのか」
「コロさんの想像する鬼人族はよくわかりませんが、魔法より身体能力が優れているそうですよ」
「そうなのか?」
「……ん。みんな、武器を、使ってた」
過去を思い出したのかまた涙ぐんだ。あああ、話を変えなくては。
「シャーリーは何の武器を使うんだ?」
話題逸らしと情報収集を兼ねて聞く。
「……爪と牙。武器は、持ったことがない」
「なんだ、もったいない。武器はある意味知恵の象徴だ。原始的な武器をそのまま使うより、応用力の高い武器を持った方がいいぞ」
「……ん。考えておく」
そこで話が途切れた。歳は70を超えてるとはいえまだまだ子供のようだ。犬の十歳が老人と同じようなものか。と、少し失礼なことを考えていると意外なことに、向こうから話しかけてきた。
「……わたし、の、ことは、シャルでいい」
「あ? ああ、名前ね。少しは心を開いてくれたってことか」
「よろしくお願いしますね、シャルさん!」
警戒を解いてくれたのかと考えていると、再び魔物の気配がした。
「敵だ。警戒態勢、前衛は俺、アリィは支援を。シャルは……、隠れてろ」
「……いい。わたし、も、戦う」
「大丈夫か?」
封印を解いてからまだそんなに経っていない。俺を攻撃した時も傷は浅かった。本当に戦えるのだろうか。
「……大丈夫」
そういうとシャルは独特の構えを取る。中国拳法みたいだ。一応シャルのことを注意しつつ、俺も戦闘態勢にうつる。しばらくすると、2匹目となるクマウサギが出てきた。サイズは先ほどと同じくらい。ウサギの瞬発力とクマの破壊力を持つそこそこの強敵だ。今の俺たちにとっては敵ではないが。
接敵し、すぐにでも戦闘が始まるという瞬間、俺の目が俊足で動く物体を捉えた。人の形をぎりぎり保っているように見えたそれは、一瞬にしてクマウサギの後ろにいた。それは、シャルだった。
クマウサギは胸からたすき掛けのように血を流し、首筋の肉がえぐれていた。ぐるりと白目をむき、前方へ受け身もとらず倒れ動かなくなる。シャルを見ると左手には血が、右手にはクマウサギの一部が握られていた。唖然とする俺とアリィ。
「おい、今のはなんだ」
「シャル……さん?」
状況を見るに、シャルが素手でクマウサギを倒したことになる。俺の目でも姿を捉えるのがやっとだった。ただの身体能力なのか、スキルを使ったのかはわからないが、
「こいつは……、とんでもねぇもん拾っちまったぞ」
今さらながらに自分が何をしたのかを考え、やっかいな気分になった。




