迷宮での邂逅
ジャンガリアン・デスワームとの戦闘から1時間が経過した。その間、クマとウサギを足したような生き物や、六股に分かれた首を持つミミズなどと遭遇した。アリィは気持ち悪い生物を見るたびギャーギャー騒いでいたが、むしろそのおかげで魔法を何度も使えたといえる。俺はと言えば前衛で魔法を振るっていた。
「お前もそろそろレベル的にいいころ合いなんじゃないか?」
そう訊ねてみる。実際、今までの道のりは俺がいなければアリィはとっくに死んでいただろう。ゲーム的にいえば、初心者が上級者にレベル上げを手伝ってもらうような状態だ。アリィにステータスを確認させる。
「え!? レベル102!? 100超えてる!」
最後に見たレベルが50より少し上だったのが、急に100を超えたのだ。驚くのも無理はない。それだけ、ここの魔物が強いということだ。
「よかったな、アリィ。これでお前も金ランク依頼を受けられるぞ」
「確かにそうですが……」
あまり納得がいかない返事をする。何が不満なんだ? 強くなれればいいじゃないか。だが、アリィはそういう考えはしないらしい。いやまあ、俺も他人のおかげで強くなるなんて性格上嫌なんだが、命がかかっているこの世界ではレベルが高いに越したことはないだろう。
「まあ、細かいことは気にするな。俺もお前の支援があったからこそここまで楽にできたんだ」
「はあ、そうですか」
微妙な返事をしているアリィだがそれを軽く流す。通路が途切れ、部屋のような空間に来たのだ。ドーム状の空間は縦横30メートルほどだ。天井も同じくらい高い。
「アリィ、一応警戒しておけ。中ボスクラスが出てくるかもしれない」
「ちゅうぼすって何ですか?」
無視してあたりを見回す。光石が通路より強く光っており、部屋の奥まで見通せる。部屋の中心には1メートルほどの石柱が一本立っていた。周囲に問題はないようなので、近づいて確認する。石柱の上面には魔法陣が描かれていた。
「これ、何かわかるか」
「いえ、私にはわかりません」
俺としてはこのままスルーして向こう側の通路へ行ってもいいのだが、何かに使えるんじゃないか? そう考えてアリィに訊ねてみる。
「こいつを使うとしたらどう使う?」
「んー、そうですね……。多分魔力を流すんじゃないですか?」
「なるほど。魔力か」
魔法は手に入れたとはいえいまだ常識と結びつかない。俺としては魔力を通すなんて考えは浮かばないのでアリィに頼って正解だったようだ。事実、魔力を流してみると魔法陣が光りだした。
「コロさん! なにしてるんですか!」
「なにって、魔力を流してるんだよ」
当たり前のように答える。が、多分聞きたいことはそうではないのだろう。それでもかまわず魔力を流す。
「や、やめてください! もし魔物とかが封印されていたらどうするんですか! 大悪魔とか出てくるかもしれませんよ!?」
「その時はその時だ。戦うだけだ」
そっけなく返事をする。俺はどうにもこれが封印だとか罠だとかには思えない。いや、封印である可能性はあるが。なぜなら、魔力を流し続けると足元の地面がせり上がってきたからだ。
「やっぱり何かあるんじゃないですか!」
アリィは叫ぶが俺は特に反応を示さない。いや、示せない。地面から出てきたのは、緑色のまばゆい宝石と、その中で眠るように動かない少女がいたからだ。アリィも少女の姿を認め口を開け固まる。間違いなく何らかの封印が施してある。俺は直感的にそう悟った。
「これは……」
「人間?」
一部分を隠すように巻かれた布以外はほぼ全裸だった。別にその程度のことは気にしないが、問題は少女の頭から生えている角だ。明らかに人間のものではない。どうしたものか。現段階では封印は解かれていないとみていい。ならばこのまま放置して先へ進むか。そう考えていた矢先、宝石に亀裂が走った。瞬く間に全体がひび割れていくと、大きな音を立てて宝石が砕け散った。中から少女が放り出される。正面にいた俺の方へ投げ出されたものだからつい受け止めてしまう。
受け止めたはいいが、どうすればいいかわからない。状況からして封印されていた何かを解き放ってしまったのは確かだ。参った。
「アリィ。どうすればいい」
「……私に聞かれても。コロさんが封印を解いてしまったんだし……」
二人でうんうん唸っていると、少女の瞼がゆっくりと開かれる。長い間使われていなかったことを想起させる目つきで俺の顔を見つめてくる。すると、急に飛び上がり俺たちから距離を取った。明らかに戦闘態勢だ。
「アリィ、戦闘体制に移行しつつ警戒だけしろ。俺が合図するまで攻撃はするな!」
「はい!」
こちらを警戒するようににらみつける目から、交渉が可能か考える。それでも声を掛けなければ得られる情報はない。
「なあ、あんた。何者だ。俺たちに敵対する意思はない。できることなら穏便にいこう」
そう呼びかけるもこちらを睨みつけたままだ。
「あんた、名前は?」
アプローチを変えてみる。すると謎の少女はゆっくりと口を開いた。
「わたし、は、シャーリー・ハープ=クローヴィ」
長い名前だ。貴族か何かか? だが、貴族がここで封印されているというのもおかしな話だ。
「あんたはどうしてここで封印されていた?」
「……」
名前は聞けたものの、後はだんまりだった。俺はアリィに指示を出す。
「そこから動くな。自分が危険にさらされるまで手出しはするなよ」
「コロさん!?」
そういうと撲殺丸を地面に突き刺し、少女の方へ歩いていく。今の王田は丸腰だ。戦えなくはないが、素手とスキルだけになる。それでも十分強いが。
「なあ、あんた。俺に敵対の意思はないんだ。せめて会話に応じてくれ。どうして封印なんかされていたんだ」
「……」
まただんまりか。そう思ったとき。
「わたし、は、鬼人族。魔王との戦いで、人間と亜人の連合に、加わった。でも、魔王を倒してから、わたしたちも、魔族とみなされた。鬼人族は、全滅した。わたしは、みんなに逃がされたけど、捕まった。殺されはしなかったけど、封印された」
少女の口から語られる言葉とアリィの注釈によると、前回かその前かは知らないが魔王との戦いがあったそうだ。そのとき少女の種族である鬼人族も戦いに加わった。しかし連合側の勝利の後、いくつかの亜人は鬼人族も含めて魔族として扱われたそうだ。もともと人間と亜人は良好な関係とは言い難かったらしい。それで一族皆殺しにあったが、自分は人間側の消耗も激しかったため殺害ではなく封印という形で地下に封じられたらしい。なんとも人間らしい理不尽さだ。
亜人という種族に対して、人間はそれらを見下す節があったということか。元の世界でも宇宙人や人魚がいたら解剖されていたかもしれないのと同じことか。
少女は語る。
「わたし、は、何年眠っていたの? わたし、の、居場所はどこ?」
そう言って涙を流していた。きっと俺には想像もできないほど悲惨な出来事だったんだろう。同情をするわけじゃない。ただ、このまま見捨てるのも後味が悪い。自分とは無関係だが、不良が雨に打たれる捨て犬を拾うとギャップがあるらしい。自分とは無関係だが。
俺は少女に歩み寄った。少女――シャーリーは再び警戒するような姿勢を取る。それでも俺は近づく。アリィが何か言っているが耳に入らない。シャーリーの目の前まで来た。俺を敵と認識したシャーリーは爪を立てて攻撃する。胸に痛みが走り血が流れるが、それに構わずシャーリーを抱きしめた。驚いたように動きを止めるシャーリー。
「お前の事情はある程度分かった。つらかったんだろうな。だが、ここにはお前を害する奴はいない。もう、大丈夫だ」
そう声をかけてやる。状況を把握したシャーリーは俺の手から逃れようと暴れる。しかしそれでも抱きしめることをやめない。しばらくすると抵抗する力が弱まってきた。代わりに少しずつ嗚咽が聞こえてくる。何かを失うことの痛みは俺も分かっている。だからこそ、この少女に必要なのは力でも何でもない。ただ、声をかけてやることだけ。苦しみを少しでも分かち合うことだけだ。
しばらくはそのままでいたが、シャーリーが落ち着くと抱きしめるのをやめた。その間アリィは蚊帳の外だった。まさか王田がこんな行動をするとは思わなかったからだ。相手が少女だったからか、はたまた何か理由があってのことなのかはわからないが、王田は戦うことをしなかった。そのことがアリィには以外でならない。
ようやくまともに会話ができるようになったころ、俺たちとシャーリーは今の状況を伝えあった。シャーリーが封印されたのはなんと100年も前のことだったらしいのだ。どうやら前々回の魔王討伐の際に封印されたらしい。話を聞いたアリィは、なんて悲しいことなんだと鼻水を垂らして泣いていた。汚ぇ。
とにかく、シャーリーをここに置いていくわけにもいかない。こうして出会ったのも何かの縁だろう。今後は一緒に行動することにした。
なんだか主人公のキャラがぶれてきた……。完全にその場その場でストーリー作るとこうなるのかorz。しばらくしたらまとめでも作ってみようと思います。




