遭遇戦
光る石、略して光石に照らされた道を歩くこと30分。これまで魔物との会敵はない。警戒は必要だが、ずっと気を張ったままというのも疲れるので、アレーナと話をしながら進む。
「なあ、ずっと疑問だったんだがなんで俺のこと様付けで呼ぶんだ?」
「え? そ、それは、最初に助けてもらってから、なんとなくです」
どことなく顔を赤らめて言う。なんだ、恥ずかしいなら呼び方を変えればいいだろう。
「パーティなんだし、別にもっと砕けた呼び名でもいいだろ。俺と近しい奴でも悪魔とか呼んでるやつがいたくらいだしな」
「あ、悪魔ですか?」
まあこの世界で悪魔呼ばわりはないだろうがな。何せ本物がいるんだから。忘れていたが俺は勇者だった。魔王及びその配下と戦うために召喚されたんだったな。まあ、本格的な侵略はまだ始まってないみたいだし大丈夫だろ。しかし、のちに王田の戦いを目撃した人たちが悪魔と恐れるのはまた別の話。
「今さらだが様付けで呼ばれるのは、なんつーか、あれだ。あれ。とにかく別の呼び方にしてくれ。下の名前とか」
前の世界では崇め奉られるように『王田様』と呼ばせていたが、純真にそう呼ばれるとむず痒い。
「ええぇ。でも、オウダ様の下の名前って確か『コロス』ですよね。コロスさんとか呼んでたら、私変な人になってしまいますよ」
それもそうか。俺自身も『故露栖』という名前に疑問を持ったことはある。なぜ父はこの名前にしたのか。なぜ母はそれを受け入れたのか。やはり思考は同じ荒くれ者か。俺もそうなんだろうけどな。
「仕方ない。せめてさん付けにしてくれ。あと、発音は『お・う・だ』だ」
「お、王田さん?」
「あー、やっぱりご近所さんの挨拶みてぇになるか。この世界での日本語ってのはどうなってんだ? まあそれはいいか。親しい奴は俺のことを『コロ』とか読んだりするんだが、なんか犬みてぇで微妙なんだよな」
さすがに琴線に触れるような呼び方はされないが、コロくらいなら何とか呼ばれても平気だと自己暗示でだませる程度には慣れている。以前、「やーい、コロ○ケ! ナリとか言ってみろ~!」とか言っていた奴は全治どれくらいだったか。
「コロさん、ですか……。なんかちょっと、いいですね」
「そうか? まあ、呼ばれ慣れてないわけじゃないし、それでいいならそれでいい」
「はい、コロさん!」
どことなく嬉しそうに名前を呼ぶ。そんなに様付けから解放されたのが良かったのか。もっと早く提案してやればよかったか。
「それでしたら、私のこともアリィと呼んでください。親しい方からはそう呼ばれていたので」
またしても顔を赤らめる。俺に呼ばれるのが恥ずかしいなら無理をするなっての。
「まあ、お前がそれでいいならな。わかった、アリィ」
やった、と小さくガッツポーズしているアリィを横目に、場所を忘れて楽しそうだなと考えていると不意に気配を察知した。
「アリィ、敵だ。援護の準備を」
「は、はい!」
その場で構えを取る。しばらくすると、光の薄い暗闇から何かが這い出てきた。10メートルほどまで近づくとその正体がわかった。
「きゃああああー!!」
アリィが悲鳴を上げる。女なら特に苦手な部類だろう。本体はカブトムシの幼虫のようにプニプニツヤツヤ、脚はムカデほどの数があり、ゴキブリのような長い触角がある。そして口から垂れる液体は地面に当たると煙を上げた。酸か。何よりでかい。体長は10メートルほどある。
「き、気持ち悪い―! 無理ですー!」
アリィが喚くがそれどころではない。こいつ、見た目通りなのかは知らんが強い。殺気や攻撃性から考えると、レベル70は軽く超えている。
”スキル『鑑識眼』を獲得しました”
敵を観察していると新たなスキルが手に入った。おそらく敵の攻撃などを観察し続けていると手に入るスキルなのだろう。すぐにそれを発動する。すると、ステータス画面に敵の情報が入った。さながら未来感のあるAR表示だな。画面左側に敵の全体像が回転しながら映し出される。右には情報が出た。名前は、『ジャンガリアン・デスワーム』。なんだこのふざけた名前は。某ハムスターと某オカルト生物を掛け合わせた安直すぎる名前だな。しかし、レベル表示は81とある。さて、どうしたもんか。
まあ、俺がいる限りはアリィの方へはいけないだろう。となるとやることは一つ。
「アリィ! お前のレベルアップのいい機会だ。MPが尽きるまで魔法を撃ちまくれ!」
「ひぃいいい! はっ、はいぃ!」
いまだ蟲のうごめく感覚に気持ち悪がっているが攻撃の姿勢を見せる。それでいい。
「”バーニングソーズ”!」
アリィが魔法を放つ。威力の高い火属性の魔法だ。当たった部分を中心に焼き払う。高い位置から放たれた魔法はデスワームの背中に突き立ち燃え盛る。甲高い鳴き声とともにこちらに向かってくる。やはりレベルが高いだけあって簡単にはいかないか。なら。
「うぉりゃっ!」
デスワームの前足攻撃を躱し撲殺丸を叩きつける。しかし、弾力があり威力が相殺される。チィッ。撲殺丸が効かないとなると、魔法か。アリィが魔法を連発し、足止めをしている間に火属性の魔法をいくつか習得する。よし。
「”バーニングテンペスト”」
火属性の中でも上級魔法を使う。デスワームを中心に炎の暴風雨が吹き荒れる。おい、なんだこれ。使った本人も熱いじゃねぇか。馬鹿か。
蒸し焼き、もとい蟲焼きになっているデスワームはいまだ暴れている。どうやら火属性には耐性があるようだ。どうする。あいつの弱点はなんだ。打撃系、火属性は効かない。残るは……。そうか! 貫通系だ! 風船に針を刺すような攻撃は効くはずだ!
「アリィ! 貫通力の強い魔法を使え! ぶよぶよの部分に攻撃するんだ!」
「ぶよぶよって言わないでくださいぃ!」
そうは言いつつも地面や壁から土系統、氷系統の棘を無数に射出させる。俺もいくつか取得した魔法で貫通力の高い魔法を使う。
予想は当たっていたらしく、背中側の柔らかい部分から紫色の液体をまき散らす。攻撃が効いている証拠だ。俺はとどめと言わんばかりに打撃武器強化のスキルを使う。撲殺丸を構え、体の正面に魔法の氷で作った弾丸を浮かせる。
「うおりゃぃあ!」
掛け声とともに撲殺丸を振りかぶる。カキーンという音とともにものすごい速度で氷の弾丸は突き進み、デスワームの頭から背中に向かって貫通した。頭に響くような断末魔を上げてデスワームは崩れ落ちる。倒れた衝撃で地が揺れ、その後沈黙が訪れた。
「ふう。終わったか。本格的な魔法戦闘は初めてだったが、まあ上出来だな。アリィ、大丈夫か」
振り返ればアリィがへたり込んでいる。近づくと何かぶつぶつとつぶやいている。
「蟲……ぶよぶよ……」
よっぽど虫が嫌いらしい。さすがは元貴族様だな。しかしまあ、これでレベルもある程度は上がっただろう。結果オーライだ。
その後アリィが復活するまで10分ほど時間を要した。




