誰でもできる魔法習得
天気、快晴。風、微風。王田、撲殺。
トマトを潰したような音とともに、トマトの色をした液体が飛んでいく。イビルスネークと呼ばれる魔物が文字通り粉砕されたのだ。頭のなくなった巨大な蛇の首から下がぴくぴくと痙攣している。
王田は今、市外の森で魔法習得に励んでいた。とはいってもこれがまだ一匹目だ。
「オウダ様! 魔法を使われる前に倒してはだめですよ!」
魔法の師匠としてお供していたアレーナから叱咤が飛んでくる。王田は巨蛇と邂逅し戦闘になった瞬間に脳天を叩き潰したのだ。
「あ? なんでだ。魔法の習得には魔法を持った敵と戦えばいいんだろう?」
「確かにそうですけど、魔法には魔法の経験値があるんです! 魔法で戦わないと意味がないんです!」
魔法には、魔法専用の経験値がある。普通に戦ってもその経験値は上がらないが、魔法が絡む戦いになることで上がっていく。
「つまり俺は、できるだけ相手に魔法を使わせてから倒せばいいってわけか」
「まあ、そうなります」
ようはそういうことらしい。王田は改めてスキルを思い出す。そういえば”全属性魔法耐性(激)”があったことに。
「なあ、この全属性魔法耐性があればただ攻撃を受けるだけでいいんじゃねえの?」
「それはそうですが、魔法が直撃すればただではすみませんよ?」
「耐久には自信がある。それと、激ってやつだからある程度は大丈夫じゃねえか?」
「ああ……そうですか。全魔法耐性の激ですか……。私ですら大なのに……」
どこか落ち込んだふうだったアレーナだが王田は無視する。
ここからは、王田はひたすら魔法を浴び続けた。敵と遭遇しては挑発し魔法を発動させる。それをスキルで完全に無効化した。魔法には魔法単体と物理的な攻撃を合わせたものがあるが、”全属性魔法耐性(激)”は両方の攻撃を無効化する。例え炎の塊がぶつかろうと、氷の飛礫が降ってきても障壁によって守られる。どのようにしてスキルが作動しているのかはわからないが、とにかく魔法に関する攻撃はすべてが無効化される。微妙に熱かったり冷たかったりとその程度だ。
”火魔法を獲得しました”
”水魔法を獲得しました”
”土魔法を獲得しました”
”風魔法を獲得しました”
”雷魔法を獲得しました”
”光魔法を獲得しました”
”闇魔法を獲得しました”
日が暮れるまで魔法を受け続けた結果がこれだ。この世界の魔法の概念は特定の魔法を生まれつき持っているわけではない。修練次第ですべての魔法を身に付けることができるのだ。
「魔法の属性ってのはこれ以外にはねぇのか」
「はい。もうそれで全部です……」
アレーナは何年も修行をしてやっと獲得した魔法を王田は1日とかからず習得してしまった。人生は苦悩で満ちていると謎の悟りを開いたアレーナだった。
「で、魔法の発動はどうやんだ?」
「魔法の発動は杖を媒介として自らの魔力を通します。それを形として現したものが魔法として出てくるのです」
王田は思った。俺は指揮者じゃねえんだから杖を振るってる時間はねえ、と。女神により不壊の加護を受けた撲殺丸なら杖の代わりになるかもしれない。その結果は後でわかることになるのだが、今はアレーナの説明を聞く。
「そして魔法の発動ですが、ステータス画面の魔法欄にマジックツリーというのがあります。そこで魔法ポイントを消費してマジックツリーの下から魔法を習得していくんです」
言われた通りステータス画面を確認してみると以前はなかった魔法に関する情報が追加されており、開くと確かに六角形の形のアイコンがツリーのように繋がっていた。このツリーは火魔法のようだ。試しに一番下の六角形に触れてみる。するとポイント消費を確認する画面が出てきた。迷わず『はい』を選択すると、ぱかっとひっくり返るアクションとともに火のマークに切り替わった。
「これでいいのか?」
「はい。火属性の最下級魔法は”ファイア”です。今は杖がないので使えませんが……」
王田は試すように撲殺丸を適当な木に向けた。
「あの、オウダ様? 杖がないと魔法は……」
「”ファイア”」
すると木の根元から爆発するように炎が吹きあがった。木が一瞬にして炭になり、倒れた。王田はほーっと感心するように眺める。アレーナは口を半開きにして固まる。
「これが、魔法か。ヤベぇな、マジで」
「お、オウダ様……。今の魔法は……、というか、杖は……」
「撲殺丸だって杖みたいなもんだろ。なら使える。そう思っただけだ」
アレーナは二重に驚いていた。最下級魔法”ファイア”があり得ない威力だったこと。杖を使わず魔法を使ったこと。両方とも本来は考えられないことだ。
「オウダ様って、いったいどうなっているんですか……?」
疑問を抱くのも無理はない。なぜならアレーナは、王田が勇者であることを知らないのだから。
夕方。空は紫色に染まり視界が悪くなっている。
「今日はこの辺で帰るか。これ以上暗くなると危険だ」
「あなたがそれを言いますか」
結局あの後も、魔法を取ったりなんだりしていて遅くなった。何度も魔法を食らったからか、ポイントは相当のものでしばらく夢中で魔法で遊んだ。そしてその魔法全ての威力が破格だった。アレーナが止めなければ森が焼き尽くされ、水の中に沈み、風ですべてが吹き飛ばされていただろう。
とりあえず今日は戻ることにした。しかし今ではすっかり暗くなってしまった。アレーナが光属性の”ライト”で周囲を照らす。光量はそれなりにあるが、木々の密集地帯の為遠くまで見渡すことができない。しかもここは森の奥の方だ。王田が魔法を習得するには高いレベルの魔物がいる必要があったためここまで来た。本来はもっと早く帰れるはずだったが、王田が遊んでいたせいで遅くなってしまった。
「どうするんですか、オウダ様! こんなところを光で照らして歩いていたらいい的ですよ!」
「確かに少し面倒だな。今日は身を隠せる場所に移って野宿か」
「ええぇー……」
王田の提案に明らかに嫌そうな顔をするアレーナ。しかし他に選択肢はない。しかたなく森をさまよっていると大きな岩肌が見えた。暗闇の森の中にたたずむそれは巨大な生物のようにも見えた。近くに行ってみる。明りでようやく視認できたそれは、やはり大きな岩だった。周りの木々よりも大きい。その場所だけ不自然に存在する岩を警戒しながら観察するが特に何も起こらない。
「おい、あれ。あそこ。洞窟じゃないか?」
王田が指さした場所は確かに岩が割れ、洞窟のようになっていた。
「あそこで寝よう」
王田はそう言い、ずんずんと先へ行ってしまう。
「ま、待ってください! もし魔物の住処とかだったら……!」
「そんときゃ俺の魔法の餌食にしてやるよ」
「もうっ!」
そんな掛け合いをしながら二人は洞窟に入っていった。




